アイテムショップ「エンデデアヴェルト」。
店内中央に椅子を四つ置き四人が思い出話に花を咲かせて既に数時間が経過していた。
今までのことや、これまでのこと、JUNが探偵事務所を開いていること、Saiが武者修行で世界中を一人で戦い歩いていたこと、Moonがアイテムショップを開きながら発明家を続けていること、那由多がそれを手伝っていること。店の中央にテーブルも置いてタンジアビールを用意して宴会が始まるまで、幸か不幸か客は一人も現れることはなかった。
一応営業終了時間を待って那由多が「closed」の看板をかけに外に出て、戻る頃には話はSaiの依頼の話を切り出していた。
那由多がほんのり赤ら顔をしながら自分で品出しをしたモスジャーキーの束をテーブルに置きながら座り直して、「なになにぃ~?今は何の話ぃ~?」と周りに伺い、そのクエストの報酬が欲しいことや、そのクエストの難易度をSaiはおおまかに話した。
酒に強いのかSaiは顔色一つ変えず、もうジョッキ5杯分のビールを空にしている。
JUNは少しぬるくなったジョッキを少し傾けると、「そういえば…」と言い、音を立てないようにジョッキをテーブルに置く。紳士としての自分の信条なのか、あまり音を立てた行動を好まない。同じく酒に強いのかまるで酔った様子もなくJUNは続けた。
「どんなクエストなんだい、Saiさん?ここに来る途中に聞いたら『みんな揃ってから話します。てへっ♪』と言っていたからそろそろ聞いておきたいのだが…?」
「『てへっ♪』って言った記憶がまるでないのだけれど、そうですね!…でも、その前にまだMoonさんと那由多さんのお返事を聞いていませんでした…。」
Saiは申し訳なさそうにMoonと那由多の表情を交互に伺う。が、二人は(この人何言っているの?)と言わんばかりに不思議そうな顔をしている。
「あ、クエストに挑戦のこと?そんなんSaiさんの申し出を断る私は私じゃない!そうだよなっ!なっ!那由っ!!」
「お~~~うっ☆」
相当に出来上がり始めた二人は、お互いに肩を組みながらジョッキを高々と掲げる。
感極まったSaiが「ありがとう!!」と言いながら大声で泣き出してしまった。
「本当に、本当にみんなと出会えてよかった!!」
涙も拭かずにポロポロと涙を零しながら喜ぶSai。
そんなSaiの頭を優しく撫でながら、店の売り物である「メラルー模様のハンカチ」を一枚取って差し出す那由多。
「で、どんなクエストなのぉ~?みんなでやっちゃえばすぐ終わっちゃうだろうけど♪」
「そだそだ!朝飯前だぜっ!」
「食後のティータイムには是非ルイボスティーが飲みたいところだね。」
そんなやり取りをしていると、Saiがハンカチで涙を拭いて一呼吸おいてから意を決したように堰を切った。
「それじゃあ、お伝えしたいと思います!第一のクエストは…」
「【覇たる日輪に見ゆるは羅刹か黒き咆哮か
メインターゲット
アカムトルム1頭とリオレウス(極限状態)2頭などの狩猟「など」】 ですっ!!」
この時はJUNでさえ口に含んでいたビールを吐き出した。
しばらくポカーンとしていたMoonだったが、下を向いたまま肩が震わせている。
那由多がどうしたのぉ?と肩に手を乗せようとしたとき、Moonは立ち上がり誰に言うでもなく叫び始めた。
「…ぉぃぉぃぉぃぉいおいおいおいおいおいおいおい!!おいっ!!なんだそのクエスト!!ギルドはハンターをハントする仕事も始めたのか!?死ぬだろ、それ!なんであのでっかくて可愛い声出す奴と空の王者組んでんの!?つーか、《など》って、ぜってぇリオレウスの後、ラージャンいんじゃん!黒ティガいんじゃん!砥石も瓶も弾も持つのかよ、それ!物騒な世の中だなぁ、えぇ、おい!!って、あっれー!(極限状態)とか書いてあんのね!!固いね!弾かれちゃうね!あー、あれだよ、思い出した!あのわがままな第三王女もいつかビンタしに行ってやろうとか思ってたけど、この依頼主はもうあれだ、死ぬべきだ!うん、マジで!ぜってぇ奈落か涅槃にでも行くべきだ!!」
暴言を吐き出すだけ吐き出してMoonはゼェゼェ肩で息をした後、ジョッキを大きく傾けた。喉を鳴らしながらビールを流し込んでいるが半分以上は口元から零れて首を伝って胸の谷間に吸い込まれては、着ている服をビショビショに濡らしている。
JUNも「ふむ…。」と言ったまましばらく思考をしては首を横に振りを繰り返している。恐らくは戦闘のイメージトレーニングをしているのだろうが、どうにも勝利を導く公式は見つかっていないようだ。流石の名探偵も、やや困惑している。
那由多はぽへぇ~♪としたまま、Moonの早口は噛まないから凄いなぁ、などと感心しており、おそらく事の重大性が理解出来ていない。
まだ興奮覚め止まぬMoonが責めるような口調でSaiに問い掛ける。
「つか、Saiさん、このクエやったの!?」
「アカムは仕留めたけど、2頭同時の極限リオレウス相手にしていて時間がかかってたら後ろからラージャンとティガレックスが来て…あまりにも危険だったからリタイア…」
「依頼者呼んで来い!!ゼロ距離で竜撃砲を二、三発、いや、二十三発お見舞いしてやる!!!」
「ごめんなさい!!依頼者は【わがままな第三王女】だから…。」
「よーし!戦争だ!あのクソ女!ケツからアベレージヒッター刺し込んでフルバーストだ!毒と痛みと熱で苦しめぇっ!!!泣きながら許しを請わせてやる!!部屋の隅でガタガタ震えながら命乞いをする準備をしとけよ、お姉さん本気だぜ!!」
Moonの興奮が再燃している中、JUNは静かに立ち上がり店内を見回り始めた。
そんな動作に三人の視線は自然とJUNの元へと向かった。
JUNは咳払いを一つしてから、棚に置いてある回復薬を手に取り三人の方へと振り返った。顔には確信めいた色もある。
「Saiさん、Moonさん、那由多君。私達は元ハンターだ。今はハンターではないけれど、その心にはまだ狩猟魂というものがあると思う。」
「ハァハァ…ど、どしたの、ヒーロー?」
「Saiさんが私を頼って事務所に来た時、私は依頼を受けた。つまり、既にこのミッションは始まっているんだ。」
「…師匠…。」
「つまり、何が言いたいかと言うとだね…」
JUNが一呼吸を置いて皆の顔を見回しながら、口を開こうとした瞬間のことだった。
これが物語を大きく左右する一言だった。
聞き覚えのある言葉で、みんなが言い覚えのある言葉。
でも、今JUNが一番聞きたくない言葉でもあった。
「一狩り、いこ~ぜぇ~♪」
那由多が右手を空高く持ち上げ叫ぶと、嬉しそうにみんなの顔を見回しながら続きを待った。
Saiは大きく頷くとその手を勢い良く掲げた。そして、MoonとJUNを見る。
Moonも頭を掻きながら「…しょうがねぇなぁ。Saiさんと那由多の頼みじゃ…」と言い渋々と拳を挙げる。
(今回はミッション失敗ということで…。)と言おうとしていたJUNも何故か深く頷きながら拳を大きく挙げた。完全に機を逸したようだ。
その日は店内に思い思いに雑魚寝をし、そして静かな朝を迎えた。