未知の樹海。
人の手が加えられていない多くの土地を人々はそう呼んだ。
木々が生い茂り、自然石も多い。珍しい植物も目立ち、保護認定を受けている鳥獣もそこでは多くが伸び伸びと生活をしている。また、多くのモンスターが生息しており、中には危険過ぎて並のハンターでは到底太刀打ち出来ない獣竜種や、あまり人に姿を見せることはない黒狼鳥や怪鳥、岩竜なども存在し迷い込んだ多くのハンター達の命を容易く奪い取った。遺跡やその時代時代の遺物や財宝も数多く眠るその地に4人の侵入者。
血肉を渇望するモンスターが彼らを見つけることなどは容易い。未知の樹海を生き抜いたこれらの生き物はただ強く、狡猾で、獰猛なのだ。問題はそんな生き物達よりも強く、狡猾で、獰猛な4人が侵入してきたことである。早速様々な種類の獣たちに取り囲まれた4人はそれぞれに武器を手に取り構えた。
間合いを取って冷静に弾を装填する者、矢を番えその矢に相応しいほどの鋭い眼差しでモンスターを睨む者、銃槍を肩に担ぎサディスティックに微笑む者、何を考えているのか分からないが笑顔のまま軽々と大剣を中段に構える者。
ハットを被った男の「散会」の合図と共に彼らはそれぞれの得意とする間合いを取ると未だこちらを警戒しているモンスターと対峙した。
それから数分後の現在、未知の樹海に轟音が鳴り響く。大木で羽を休めていた鳥達が一斉に空へと舞う。
「ブランクを取り戻すのと武器の調整には丁度いいかもしんねぇな。そっちはどうだ、那由多?」
砲口から煙を上げているガンランス。目の前では既に炭化し、砂のようにサラサラと地面へと還ろうとするイァンクックの亡骸から目を離す。片手でガンランスを器用に扱いシリンダーを回転させると薬莢が軽やかな金属音と共に地に落ち、そこから放たれる鼻をつんざく硝煙臭の匂いを懐かしく思いながら、Moonは背後で大剣を振るう那由多を見やる。
「お~う♪」
那由多の大剣「角神剣ディスティアラート」が木から木へと飄々と飛び回っていたケチャワチャを捉え緩やかな跳躍と共にその大剣を振り下ろす。その鉄塊はケチャワチャの頭部を吸い付くように打ち抜き、鈍い金属音と骨の砕けた、そして地面に突き刺さる大剣と圧倒的な暴力の前に既に事切れたケチャワチャの胴体が地面に叩きつけられた音が順にリズムよく付近に小気味悪い音を立てた。ケチャワチャの命は、生殺与奪にはおよそ縁遠い「お~う♪」と共に呆気なく奪われた。
「んっしょ♪」とケチャワチャの頭部を惨たらしいまでに貫通し地面に突き刺さった切っ先が血まみれの大剣を勢い良く持ち上げたせいで、大剣はそのまま那由多の手から離れ後方へと回転しながらアーチを描き、大剣が手を離れたことに「ほえぇ♪」と那由多が声を上げた時には彼女の背後から襲い掛かっていた不幸なドスジャギィの頭部に突き刺さり、これもまた絶命。
死後もなお痙攣を繰り返すドスジャギィを一瞥した後、那由多はMoonへ横顔で可愛らしくウィンクとピースサインを送った。
この二人は「武器が重いから鎧とかはいらない」という理由で剣士系の防具は装着しない。ガンナーが好むような軽装で様々な任務をこなしてきた。Moonがやったことを真似ることが好きなのか、那由多も「わたしもぉ~♪」と自分の戦闘スタイルを平然と変えて現在に至る。荒唐無稽な彼女達の戦闘スタイルは、最初から守りを捨てている。攻撃は「避ける」ことを前提にしているのか、Moonの口癖は「いつも心にナルにゃんを」だった。
「ナルにゃん」とは、迅竜ナルガクルガのことでありここ数年狩猟され続けたせいかあまり姿を見ることが無くなったMoonの愛すべきライバルである。
那由多もMoon同様そう言うのだが、九割は大剣でキッチリ敵の攻撃をいなしている。避けていない。
「相変わらず、那由多君はエグいね。」
やや大き目な木の枝の上で姿勢を低く取ったままJUNはスコープから目を離し、那由多とその周りの惨状を見下ろして感心するような口調で呟く。そんなJUNは何をしていたかと言うと遠方に位置するところで眠っていた岩竜バサルモスに対して気付かれぬよう通常弾を撃ち込んで起こしては眠るのを待ち、また撃ち込んでは起こすとこの数分繰り返して遊んでいたが、是音阿武祖龍弩の威力は凄まじくバサルモスは起きなくなった。というか眠るように絶命していた。
「ふむ、100点だ。」
ハットを深く被るとニヒルに笑み、軽弩を撫でるJUN。
再び眼下に目をやるとやや離れたところでアオアシラに六頭に囲まれているSaiを確認した。Saiが「覇導弓エルネクレラム」に矢を番え、その矢を放っていく。その一連の動きは一切の無駄がなく、まるで舞でも舞っているかのように鮮やかなものであった。矢を受けたアオアシラはその一撃にて命を絶った。そのまま仰向けに絶命したモノもあれば、立ったまま絶命したモノもある。それぞれの眉間にはそれぞれに一本の矢。
「Saiさんの犯行はいつでも丁寧だね。」
Saiが木の上のJUNを見つけて地団太を踏みながらキッと睨み返した。
「犯行ってなんですかー!!」
「おおっと、聞こえていたようだ。」
そう言いながら、JUNは木の枝から飛び降り物音立てずに着地する。ふわりとコートがJUNの着地から僅かばかり時間を置いてから地面に触れる。
JUNの周りに皆が集まり、「掃討完了かな?」の問いにそれぞれが頷いたのだが、突然、何かを思い出したかのようにSaiがMoonの名を呼び、酷く嬉しそうにMoonの手を強く握りしめた。
「Moonさん、これは凄い発明ですよ!!」
「え・・・?ど、どれ??」
「この【速撃瓶】ですよ!」
そう言いながら、ポーチに入っている水色の液体の詰まった小瓶をごそごそと取り出して見せた。
【速撃瓶】は矢に装着し一定以上の加重を加えると内部の液体化した火薬草と氷結晶を主体とした成分が矢尻の鉄分と化学反応を起こし勢い良く気化しようと圧力が加わる。その大量の水蒸気は瓶に作られた空気弁から噴射され、矢を大幅に加速させることが可能な瓶である。その推進力は圧倒的な攻撃力へと変わり、更に矢は通常よりも遠くまでその威力を維持したまま空を裂くのだ。が、Moon本人は当時【真強撃瓶】を作るため躍起になっており、速撃瓶の存在をほぼ忘れていた。というか「瓶詰めして店内には置いておいた、と思う…」くらいの記憶しか持っていなかった。
Saiのイノセンスな瞳で賞賛されたMoonがそんなこと言えるはずもなく。
「だ、だよね!!Saiさんなら使いこなせると思ってさ…!そのために作ったんだよ!!」
「わーーん!!Moonさんいい人だぁ!!」
何も知らずにMoonに抱き付くSai。
そんなやり取りを見つめながらJUNが思い出したように「あっ」と声を上げ、やや焦りを隠しきれていいないMoonの名を呼んだ。
「そうだ、Moonさん。私もお店から使えそうな物を拝借したのだけれど。」
「ん?ヒーローも?何?どれ持ってきたの?」
抱き付くSaiの頭を撫でながら、MoonはJUNへと視線を送る。
JUNは右手を挙げると、手首に巻きつけたそれを指さした。
「この腕に取り付ける小型の機械。ボタンを押すと針状になったゲネポスの麻痺牙がd」
「それは色々な利権に関わる話になりそうだから、今はやめておこうね、ヒーロー。」
「承知。」
本当に真面目な顔でお願いをすればJUNとて無下にはしないことをMoonはここで学ぶことが出来た。
再び目的地に向かう途中でMoonは自らが発明した、イチノタチウオの中に小タル爆弾やカクサンデメキンを詰め込み、投擲することで周辺に大爆発と起こす「イノチタチウオ」の素晴らしさを必死に伝えたが、残念ながら理解を得ることは出来なかった。
数時間ほど歩いたところでようやく未知の樹海から抜け出すことが出来、懐かしきドンドルマの大門を遥か遠くに捉えた。