私立グリモワール魔法学園SS【風飛の丘に花は散り 裏→表】 作:テンコ。
「(・・・・・・ここは・・・・・・?)」
強い日の光が肌を焼き、ふんわりとした優しい風が髪を撫でているのを感じる。どこかで感じた事のある懐かしい感触が、僕の覚醒を促す━━━
「おい!オラ、起きろ!」
撤回。僕の覚醒を(強制的に)促したのは聞き覚えのある怒号であった。霞む視界、まだ半分程落ちている瞼を右手で擦り両目を見開くと、そこに居たのは
「アサヒナ!電気ショックだ!」
「やんねーよ。ホラ、もう起きるぜ」
「・・・・・・チッ、なにこんなとこで寝てんだ」
背中まで伸びた黒い髪に、不良の様に着崩した制服、そして女生徒としては珍しいパンツルック姿の朝比奈龍季さんと、つい先程まで一緒だった・・・・・・いや、僕が最初に霧の嵐に巻き込まれる前に一緒にいた・・・・・・「表世界」のメアリーさん達であった。
寝転がっていた体を起こし、辺りを見回す。ゆるい坂道のちょうど真ん中、周りは木に囲まれており、坂道を見下ろすと、そこには・・・・・・壊滅していない、僕が毎日通っている何一つ変わり無いグリモア学園があった。つまり・・・・・・ここは学園の裏山・・・・・・?
「つーか、半日も行方不明ってどういうことだよオラ!テメーが途中で消えたからな・・・・・・アタイがなんかやったんじゃねぇかって疑われてんだよ!」
自身の金髪の髪を逆立てるかのように、メアリーさんが激昂する。どうやら、宍戸さんのラボに行く途中で居なくなってしまった僕が、半日も何処かに消えてしまったのは、ひとえにメアリーさんの普段の行いによる物だと、そう認識されてしまっているらしい。
激怒するメアリーさんの容赦無い罵倒を受ける僕を側で見ていた朝比奈さんが、ふと何かに気付いた様に眉をひそめながら呟いた。
「テメェ、なんて顔してんだ・・・・・・嫌な夢でも見たのかよ」
一瞬、「夢」と言われて「何が?」と思ってしまった。そうだ、僕はそもそもどうして「裏山」に居るのだ?確かさっきはグリモア学園の校門前で・・・・・・
「・・・・・・あんたに会えて、よかった」
ドクン!!と心臓が跳ね上がった。冷たい氷が差し込まれたかの様に背筋が冷え、額には気持ちの悪い脂汗が浮かんだのがわかる。僕は・・・・・・裏世界から、今まさに帰ってきたのだ。・・・・・・生死を賭けた戦いに参加する事も出来ず、何も出来ぬまま、のこのこと「こちらの世界」に帰ってきてしまったのだ。
朝比奈さんからの思いがけない一言で、顔を真っ青にした僕を見たメアリーさんは気付く。
「行方不明・・・・・・まさか、霧の嵐・・・・・・か?テメェ、裏でなんか見てきたってぇのか?」
メアリーさんは、右手を顎に当て困惑するような、それでいて何か面白い玩具を見つけたかの様に口の端を吊り上げる。
「・・・・・・クク、ちょうどいい。それも話してもらおーじゃねーか。」
坂道を下ろうとメアリーさんが歩き出し、呆然と突っ立っている僕とすれ違う。通り過ぎた彼女の横顔に目を向けると、視線を感じたのかメアリーさんもこちらに顔を向けた。
「来い、ドクター・宍戸の研究室だ。今度こそ行くぜ。・・・・・・なんだよその顔。ケンカうってんのかよ?」
目を鋭くし僕の顔を睨むメアリーさん。違う、そうじゃない。ただ・・・・・・思い出してしまっていたのだ。あの時、魔物との戦闘準備の為、「遺言」とも取れるメッセージを僕に託してくれた、「裏世界」の・・・・・・メアリーさんの事を。何も言い返せず、俯く僕の姿を見たメアリーさんは本調子では無いかのように首をかしげた。
「・・・・・・調子狂うぜ・・・・・・」
まるで誰にも聞えない様に呟いたそれは、裏山に吹く優しい風によって、僕の耳に届いてしまっていた。
単語・人物解説
・朝比奈龍季:17歳。授業をサボって喧嘩に明け暮れる学園一の不良。自身が使う魔法は雷系。誰も寄り付けない様に振る舞っているが、それは過去に自身の魔法の暴発により周囲の人間を傷付けてしまった事が原因の為。雷魔法との相性が「良過ぎる」為、些細な事で暴発してしまう。某イベントにより自身の魔法をコントロールする為に特訓する事を誓う。
・メアリー・ウィリアムズ:17歳。魔法使いに覚醒して間もないが、国連軍歩兵師団に所属していた元軍人である。対魔物戦のエキスパートであると共に敵を倒す為には、どんな卑怯な手を使う事も厭わないある種のリアリストである。魔法は魔力で銃を形成し戦う。