私立グリモワール魔法学園SS【風飛の丘に花は散り 裏→表】 作:テンコ。
「ドクター宍戸、転校生を連れてきたぜ」
ここは、学園敷地内にある魔法塔、その中の一室にある魔道兵器開発局だ。メアリーさんに連れて来られたこの部屋には、水色の髪にメガネをかけ、白衣を制服の上に羽織ったどこか眠たげな少女の姿があった。宍戸結希・・・・・・学内だけではなく、世界で有数の頭脳を誇るとも言われる天才少女。入室し部屋のドアをガチャンと閉めると、彼女は無表情でこちらに視線を送った。
「・・・・・・遅いわ」
「・・・・・・すいません」
「・・・・・・いいわ、まず検査からね。あなたの体は常に魔力に溢れている状態だから、「霧」が体内に入り死んでしまう事は無いでしょうけど・・・・・・」
宍戸さんが自身のデスクの引き出しを開け、検査キットを取り出した。先端に粘着性のシップの様な物が取り付けてあり、皮膚に直接貼り付ける事によって体内の魔力の澱み・・・・・・つまり異物が入り込んでいるかどうか検査出来る代物だ。他にも個人の魔力量を測ったりと、それ以外の機能も備えているらしい。宍戸さんが、先端の粘着部を僕の手の甲に貼り付ける。と、そこに
「おー!少年やっと戻ってきおったのかの」
「・・・・・・大変だったわね、転校生君」
小柄な体に銀髪、しかし左の前髪だけ紫色となっている少女、東雲アイラ。そして、黒のロングヘアをなびかせ、同じ学園生にして少し大人っぽく感じる朱鷺坂チトセが宍戸さんのラボへ入室してきた。
「いやー、確かに一瞬だけ「霧の嵐」の気配を感じたんじゃが・・・・・・まさか、少年が巻き込まれているとはのぉ・・・・・・」
両目を閉じ、何かを思い出すかの様に首を傾げる東雲さん。見た目はさらちゃんと同い年に見えるけれど自称真祖の吸血鬼であり、その年齢は312歳と言う事だが・・・・・・今の様子を見ている限り、とても信じられない。僕の目の前で未だに、うーん、うーんと唸っている東雲さんの隣で、今度は朱鷺坂さんが話を始める。
「私もメアリーさんと同じで、この前の調査では転校生君とは別行動をしていたから、鳴子さん達の班で何があったかは知らないの。今日はその話を聞けると思ったのだけど・・・・・・」
朱鷺坂さんは言葉を一度止めて、僕の顔をジッと見つめる。
「・・・・・・随分、顔色が悪いわ。宍戸さん、提案なんだけど今日の所は転校生君のメディカルチェックだけで済ませられないかしら?大分混乱してる様だし、私達が聞きたい事も全部聞きだせるかどうかわからないわ」
「オイ、コラ!何途中で出てきて勝手言ってやがる!?コイツには聞きてぇ事が沢山あるんだ!解放するのは調査の事も、今回の事も全部ゲロってからに決まってるだろ!!」
朱鷺坂さんの提案に真っ向から噛み付くメアリーさん、今にも殴りかかりそうなメアリーさんの様子に僕は背筋に冷や汗をかいた。すると、自分のデスクで検査用キットと接続された液晶ディスプレイを見ていた宍戸さんから
「・・・・・・いいわ、今日の所はメディカルチェックだけで充分よ」
と、そう告げられる。
「はぁ!?なんでだよドクター宍戸!お前が連れて来いって言ったからアタイが・・・・・・!」
「転校生君の体内に霧が入り込んだ様子は無いわ。ただ、魔力の「流れ」が悪い。何か精神に悪い物・・・・・・そうね」
眼鏡のブリッジを指で持ち上げ、僕と目を合わせ告げる。
「・・・・・・誰かの死を、見たとか」
「・・・・・・ッ!?」
「・・・・・・その反応、当たりか、それに近い何かの様ね」
モニター前から、僕に近づき検査用キットを手の甲から取り外す。それを元々入っていたデスクの中にしまい込んだ宍戸さんは、「これで検査は終わりよ」と言わんばかりに何やらパソコンで作業を始めた。
「前回の調査の件であれば、私から話すわ。でも、今回の霧の嵐の件は、転校生君の様子が戻ってからの方が懸命だわ。いつの時代の「裏世界」に飛ばされたかわからないけど、私達が一緒でなければデータは取れない。つまり現時点で転校生君が持ち帰った情報に現状を打破するデータは期待出来ない」
パソコンのキーボードをカタカタカタと叩き、何かを入力してる様子の宍戸さんは、一瞬だけ横目で僕を一瞥し話す。
「何か話せる様になったら、また来なさい」
チッ!と隣でメアリーさんが大きく舌打ちをした。
「FU○K!ったく、誰が死んだかしらねぇが今日一日無駄損だぜ!」
天に歯向かう様に大声を出す彼女の隣で、ズキン、と心が痛んだ。言うべきなのか?今、ここで・・・・・・「裏世界」で・・・・・・僕の前で居なくなってしまった彼女の事を、「裏世界のメアリーさん」の遺言を・・・・・・
「裏、世界で・・・・・・」
拳をギュっと握り、メアリーさんを見つめる。本人はこちらの視線に気付いてないのか、僕が何かを喋ろうとしている事に気付いてない様だ。・・・・・・僕は今、どんな顔をしているのだろうか。凄い、心が締め付けられる━━━そこに、
「・・・・・・何はともあれ転校生君?今日の所はしっかり休むのよ。転校生君は私達、魔法使いにとって希望なんだから、いつも元気でいて貰わなきゃ」
朱鷺坂さんの励ましの一言が間に入る。が、
希望・・・・・・?
何が・・・・・・・希望だって・・・・・・?
それが・・・・・・
何の役に立ったって言うんだ!!!??
ツー・・・・・・と、僕の目から・・・・・・一筋の涙が流れた。
「て、転校生君・・・?」
朱鷺坂さんが、慌てた様子で僕の顔を覗き込む。僕は慌てて右手で流れた涙をぬぐうが、時既に遅く僕達に背を向けていた宍戸さん以外に、この光景は目撃されていた。
「ちょ・・・・・・おい、お主!少年に何をしたのじゃ!!」
「・・・・・・ぷっ、アハハハハハ!!こりゃあ傑作だ!何、女に泣かされてんだテメェは!」
「もう!2人共、変な事言わないの!大丈夫転校生君?!」
3人が何かを話している様だが、僕にはもう聞こえなかった。いや、もうそれ所では無かった。涙が一筋流れた所為か、涙腺が決壊しそうなのだ。もう・・・・・・止められそうにない。
「すいませんっ・・・・・・ちょっと、部屋に戻ります・・・・・・!」
ガタン!と椅子を蹴飛ばし宍戸さんのラボの出入り口に向かう。
「転校生君!」
朱鷺坂さんが大きな声で僕を呼びつけるが、一度動いた足が止まる気配は無い。僕はラボの扉を開けるべくドアに手をかけて言った。
「朱鷺坂さん・・・・・・僕は・・・・・・・希望になれなかったんです・・・・・・」
勢い良くドアを開けて僕はラボを後にし、走り出した。日時は既に夕方、夕暮れの光がいつもより眩しく見えた。
単語・人物解説
・東雲アイラ:自称吸血鬼を語る少女。実際は某人物に「時を止める」魔法を使い成長が進まなくなった。312歳というのはあながち間違っている訳では無さそう。学園内でもトップクラスの実力を持ち、魔物討伐で生徒が遠征に向かう際は学園を守る殿として活躍する程の実力
・朱鷺坂チトセ:主人公より後に転校してきたが、何故か主人公を転校生と呼ぶ(ちなみにグリモア学園では転校生=主人公というイメージであり殆どの学園生から転校生と呼ばれる)生徒会に所属し東雲と同様かつそれ以上の実力を持つとされている。魔法の扱いが上手く、主人公と同行したクエストでは「50人分の魔力」を込めた一撃を繰り出している。
・「希望」:主人公の力である「無尽蔵の魔力」「他人に譲渡出来る力」を指す。東雲曰く「人類史上、未確認の能力」との事。朱鷺坂の推測では「全人類分の魔力量と同量、少なくてその位」らしい。前述の朱鷺坂が「50人分の魔力を込めた一撃」を繰り出せたのは主人公の能力があってこそ。希望とは言われるが、その力の重要性から「敵にとっても希望」と主人公の身柄を狙う組織もいるとの事。