私立グリモワール魔法学園SS【風飛の丘に花は散り 裏→表】 作:テンコ。
あれからの事は、あまり覚えていない。宍戸さんのラボを飛び出して、全速力で学生寮の自室まで戻る間に何人かの生徒とすれ違ったとは思うけど・・・・・・正直、挨拶してる余裕さえ無かった。帰宅するなり、制服についた砂埃等の汚れも気にせず、仰向けの状態でベットに倒れこむ。
「なんで・・・・・・」
言えなかったのだろう、メアリーさんに。あの時、確かに言われたじゃないか。「向こうのアタイに伝えておけ」って・・・・・・。
「いや・・・・・・わかってる。わかってる・・・・・・」
涙が目に溜まって行くのがわかる。表面張力でまだ流れはしないが、もはや決壊するのも時間の問題だろう。僕がラボで「それ」を言えなかった原因、それは僕の中で既に答えが出ている。ただ・・・・・・それを口に出してしまうと僕が、今までの僕では無くなってしまう気がした。
「・・・・・・僕が、少し、でも・・・・・・魔法を使えてたら・・・・・・なぁ・・・・・・」
一人ぼっちの部屋に涙声が木霊した。
「・・・・・・さて、どうしましょうか」
宍戸さんのラボから出て、その廊下。朱鷺坂さんが頭を悩ませていた。
「転校生君の様子から察するに、飛ばされた時代は推測出来るけど・・・・・・」
「裏世界」への入り口は現在判明しているだけでも5箇所。しかし、全てのゲートが「同じ」時間帯に飛ぶとは限らない。物凄く過去かもしれないし、もしくはずっと未来かもしれない。かく言う朱鷺坂さんも「とある時間軸の」裏世界からやってきた存在なのだが、この時の僕は知る由も無かった。
「・・・・・・お主、未来から来たと言っておったの。現在この「表世界」と「裏世界」は違う結末を迎えておるというのは、今までの調査から知っておる。だが、具体的な内容までは話しておらんの?」
「具体的・・・・・・というのは?」
「簡単に言えば・・・・・・そうじゃのう。誰がどう死んだか・・・・・・とかの」
同じくラボの外で朱鷺坂さんの隣に立っていた東雲さんは、まるで年下の子供に意地悪をする様に、朱鷺坂さんに問いかける。朱鷺坂さんは東雲さんに自身が「裏世界」から、それも50年も先の未来から来た事を話していたらしい。
「・・・・・・こちらの未来とあちらの未来は変わってきている。わざわざ話す事では無いわ」
「ふん、そう言ってまたはぐらかしおって」
ぷくーと頬を含ませる東雲さん。朱鷺坂さんは眉間に皺を寄せ自身の世界、「50年後の裏世界」の事を思い返す。
「(私の居た世界ではグリモアは第8次侵攻に破れて跡形も無く壊滅している・・・・・・もし転校生君が誰かの死を目撃したのであれば・・・・・・十中八九、第8次侵攻の前後に飛ばされた可能性が高いわね・・・・・・)」
朱鷺坂さんは僕が部屋を飛びだした時の言葉を思い出した。
『僕は・・・・・・・希望になれなかったんです・・・・・・』
「・・・・・・ちょっと立ち直るまで、時間がかかるかもしれないわね・・・・・・」
「む?何がじゃ?」
「・・・・・・いいえ、何でもないわ」
「むっ!?またお主、隠し事か!?ええいっ、さっさと洗いざらい吐いてしまわんか!」
ピョンピョンと朱鷺坂さんの前で飛びはね抗議する東雲さん。朱鷺坂さんはそんな東雲さんを気にする様子無く、僕の居る学生寮の方向を見つめた。
「・・・・・・これはまた、面白そうな事になっているね?」
そんなに広くはない同じ廊下上で小さな声が漏れた。学園内でもトップクラスの実力の持ち主である二人の死角に入り、こっそり聞き耳を立てていた人物がそこに居た。
遊佐鳴子。報道部部長にして、僕と同じ「霧の嵐」に巻き込まれ「裏世界」に飛ばされた経験のある先輩。彼女は学園配布のデバイスを握り締め、物音立てずにその場から離れる。
「未来の僕は、確か卒業して軍属カメラマンになって学園には居なかった・・・・・・そして学園が壊滅した以降にもまだ生き残っていた。その時系列辺りで、ちょっと連絡を取ってみるか・・・・・・繋がれば良いけど」
運が良かったらね、と独り言を呟き彼女は自身の城、報道部部室へ歩みを進めた。
単語・人物解説
・遊佐鳴子:報道部部長。幼い頃に「霧の嵐」に巻き込まれ魔法使いとして覚醒した。「裏世界」へ飛ばされて身寄りが無くなってしまったが奇跡的に出会った「裏世界」の自分に拾われ魔法の修行を行う。その後再び「霧の嵐」によって「表世界」へと戻った彼女は誰よりも早く「裏世界」の存在を認識し調査チームの中心人物となっていく。5つのゲートより「裏世界」の自分と直接コンタクトを取っている希少な人物であり「表世界」の彼女を合わせれば6人の遊佐鳴子が確認されていたが、前回の調査で12年後の鳴子が自殺してしまい現在は5人という事になっている。詳細は過去イベ「パンドラ」をご確認下さい。