私立グリモワール魔法学園SS【風飛の丘に花は散り 裏→表】 作:テンコ。
「どうやら図星の様だね?」
絶句し青ざめる僕に遊佐先輩が言葉をかけてくる。
「僕も迂闊だったとしか言えないね。君の能力を、僕も「便利なモノ」としか意識してなくて、それ以上思考する事を放棄してしまっていた」
遊佐先輩は窓際から再度、僕に近づいてきた。満月の光が逆光で彼女の姿を漆黒のシルエットに変えた。そうだ、僕は怖かったのだ。僕を僕たらしめていた一つの要因であり、僕の存在価値であった「僕の能力」が・・・・・・実は人一人救う事も出来ない「無能力」であると言われる事を、大事な人達から失望される事を・・・・・・恐れていたのだ。
僕には魔法を使う事が出来ない。入学当初から魔法に関する様々な知識や訓練を重ねてきたが未だに炎の一つも、風の一つも出す事が出来ない。僕が魔物との戦いにおいて生き抜く唯一の方法は・・・・・・誰かの影になって魔力を供給するしか無いのだ。影になると言う事は、僕の変わりに戦う人が、僕の代わりに傷付く人がいる。入学してから様々なクエストに出撃したけど、この前の「裏世界」で僕は気付いてしまった。
魔物の一匹も倒す事の出来ない非力さと、他人に危険を押し付ける惨めさを━━━
様々な思惑を考え俯く事しか出来なかった僕に、眼前にまで迫った遊佐先輩は手を振り上げ・・・・・・
フサッっと、その手を僕の頭の上に置いた。
「え、ゆ、遊佐先輩・・・・・・?」
僕は慌てて、その手をどけようと振り払おうとするが彼女は頑なに手を僕の頭に押し付け続けた。そしてとても優しい・・・・・泣いてる子供を慰めるような声で話始めた。
「・・・・・・辛かったね」
一瞬何を言われたか分からなかったが、一歩遅れてその言葉の意味を理解した僕は顔が沸騰するかのように熱くなり、思わず涙が溢れそうになった。手をはねのける事をやめ棒立ちする僕の髪を先輩は優しく撫で始めた。
「僕も君と一緒にクエストに出た事があるから実感していたけど、君の能力は魔法使いにとっては確かに希望なんだ。言うまでもないけど僕達は魔力が無くなってしまうと行動不能に、それこそ命を危険に晒す様な物だからね。だから僕達の魔力を常に満タンで維持してくれる君の能力はきっとこの先の戦いを光になる・・・・・・それだけで満足してしまっていた。君の想いも考えずにね」
ごめんよ、と髪を撫でながら先輩は呟く。
「でもね?君は自分の事を無力に思ってるかも知れないけど、僕はそう思わないし、戦いで何も出来なくたって皆は君に失望したりしないと思うよ」
「・・・・・・え?」
「いくら無限の魔力があっても、人は一人じゃ戦えないんだ。会長だって、僕だってそうさ。根拠は・・・・・・残念ながら無いけど、確かに言えるのは、重要なのは「君の能力」じゃなくて「君が一緒にいた」って事さ」
その証拠にと、遊佐先輩はピカピカと僕の制服の中で光るデバイスを指差して「見てみるといい」と呟いた。僕はポケットからデバイスを取り出し液晶画面を表示させる。すると「もあっと」の通知が凄い事になっていた。
「お兄さん!大丈夫ですか!?何があったか知りませんが大変な事があったら私が力になりますからね!」
「我がサーヴァントよ!混沌の茨によって心を痛めつけられたと聞いた。治療が必要だ、我が前に召還せよ!」
「先輩、大丈夫っすか?先輩にはいつもお世話になってるんで相談くらい聞くっすよ~?」
「ちょっとあんた・・・・・・なんか学校で辛い事でもあったの?まぁ、私いつも仕事の事で愚痴聞いてもらってるしたまには私にも愚痴言っていいのよ?」
「転校生・・・・・・何か悩み事でもあるのか?私で良ければ力になるぞ?いつでも相談するが良い」
デバイスに・・・・・・グリモア学園で出会った生徒の皆からのメッセージが溢れていた。
「君が泣きながら寮に帰ったってだけでこの騒ぎさ。今更「戦いで役に立たない」ってだけで嫌われると思うかい?」
意地悪そうな・・・・・・いつもの調子で遊佐先輩が楽しげに微笑む。
「君は「裏世界」で何も出来なかった。もしかしたら、誰かが君と別れた後に犠牲になったかもしれない。でもね?君が生きる世界はあくまで「この世界」なんだよ。「裏世界」じゃない。なら、今大事にしないといけないのは・・・・・・この世界の、君の事を心配してくれてる皆の事じゃないかな?」
「・・・・・・それでも、僕は・・・・・・」
あの時、戦場に向かう彼女らを助けたかった。自分も何かの力になりたかった。けど━━━
「・・・・・・何か、あっちの世界で約束、なんてしてこなかったかい?」
「約束・・・・・・あっ」
『あっちのわたしたちに、よろしくね!』
『私には、後悔のないように、と』
『向こうのアタイに伝えておけ』
『おらの分も伝えてくれじゃ』
「・・・・・・してきました」
「そうか、なら君のやるべき事はそれだ」
肩にポンと手をおかれ遊佐先輩は真っ直ぐ僕を見つめる。
「彼女達は君に会う事で希望を見つけたんだ。「裏世界」には無い希望を、ね」
「・・・・・・希望、ですか」
あの時、朱鷺坂さんに投げかけた言葉が頭をよぎる。
「でも僕の力じゃ・・・!」
その途端、肩におかれていた手が離れ僕のおでこをピンッと叩く。
「全く、頭が固いな君は。・・・・・・彼女達は君の能力を知った、その希少性も可能性も。だけど、君は一度でも彼女達に「戦闘に参加してくれ」なんて言ってきたかい?」
「それは・・・・・・」
言われていない、僕は、一度も僕の力を貸せだなんて・・・・・・言われていない。それどころか彼女達は無傷で僕を元の世界に戻そうとしてくれた。
「何度でも言おう。君が必要とされるのは「君」だからだ。もし魔法使いとして別の能力を持っていたとしても変わらない、君が君だから皆が必要だと思うんだ。だから、君が「裏」の彼女達の力になりたいなら・・・・・・果たすべきだ、「約束」を」
「遊佐先輩・・・・・・」
「君は目の前で多くのモノを失くしたかもしれないけど、君の目の前にはまだ失くしていないモノもある。忘れるな、君が生き抜く世界はここだ」
「・・・・・・せ、んぱい・・・・・」
胸が何かで一杯になって・・・・・・気持ちが溢れてくる。
「泣きたければ泣けばいい。別に男の子だからって泣いちゃいけない訳じゃない」
遊佐先輩が再度僕の頭に手をあて撫でてくれる。
「彼女達に想いに、応えてやってくれ・・・・・・」
月の光が報道部室に入り込み僕から流れた涙を照らした。