短編。赤城さんががっかりするお話(二話構成) 作:なむさんばがらす
しばらく艦これとマイクラとリアルしかしてなかったのでリハビリ投稿(コイツいつもリハビリしてんな)
散々今まで沈黙してて、リハビリがてら短編とか言いつつ二部構成とか恥ずかしくないの。と言われそうですが……生暖かい目で見てくだされば僥倖です。
天城着任――。
この知らせを聞いた時、とうとうこの時がやってきたかと、赤城さんは万感の思いであった。
――やっと、天城姉さんと共に戦える。
「初めまして赤城さん。雲龍型航空母艦二番艦、天城です。よ、よろしくお願いします!」
だが、この天城は……姉ではなかった。
天城と名乗った彼女は、戦闘に支障をきたしそうな和装に、まさに大和撫子といったような柔和な顔立ちを緊張のためにこわばらせていた。
「え、ええ。一航戦、赤城です。よろしくお願い致しますね」
赤城さんも、努めて平静に自己紹介を返そうとした。できているかは彼女には分からなかった。
「同じく一航戦、加賀です。かつて、貴女も一航戦だったと聞いているわ。その名に恥じぬよう、精進なさい」
「はい……実はそのことなんですが……」
……………
彼女の話は、栄光の第一航空戦隊の二人には、にわかには信じがたい物だった。
「ろくに艦載機を運用したことがない?」
「はい。在りし日の記憶でも、私は対空砲ばかり撃っていました。ですから、最強と謳われた一航戦のお二人に艦載機運用をご教授いただけないかと……」
「私は構わないわ。提督はおそらく、型録仕様(カタログスペック)だけですぐに艦載機を飛ばせと言うに決まっているでしょうから。赤城さんはどうしますか?」
「ええ……喜んでお受けいたします」
「では、さっそく弓道場に向かいましょう」
……………
有り体に言って、彼女に弓技の才能はなかった。
まず、一通りの弓の扱いをレクチャーされた後の初めての弓射で、弦に盛大に胸を打ちつけた。これがトラウマとなり、以降は心なしか姿勢も悪くへっぺり腰な弓射になっていた。
加賀は「駄目な子ほどかわいい」といわんばかりに指導に熱が入る。対して赤城さんは、どうしても同じ名前の姉と比べてしまっていた。
「貴女、着物が邪魔ね……一度祥鳳スタイルでやってみてはどうかしら」
「あれは、普通の女の人はやらないと聞きました。それに、素肌に弦が擦れたら痛いなんてものじゃありません!」
「意外に強情なのね」
「……」
天城型航空母艦の一番艦として就役するはずだった姉。本来なら天城型巡洋戦艦として、来るべき艦隊決戦のための戦力の中核を担うはずだったが、結局はそのどちらも果たせずに海中に没した。
――天城が彼女でなく姉であれば!
赤城さんは、彼女の稚拙な弓技を見るたびにこのように思い、その度にそんな自分を深く恥じた。
「……赤城さん?」
「いえ、何でもないわ。続けましょう」
赤城さんはこの日以降、出撃中もどこか上の空で、他の艦娘に注意を受けることが多くなる。
……………
「呆けるな! 赤城!!」
洋上、他に音を反響するものがないせいか、破裂音に似たその音はどこか間延びして聞こえた。
頬を張られたのだ、と赤城さんは数秒後に訪れた痛みによって認識する。
「お前は誇り高い一航戦だろうが!! 戦場においてその腑抜け具合は何だ!!」
「……ぁ」
頬を叩かれたことなどない赤城さんは、一瞬頭の中が真っ白になり二の句が継げなくなる。
「っこのぉ!!」
長門は、黙り込んだままの赤城さんに業腹し、鉄拳を見舞おうとした。
もちろん長門にとって赤城さんは大切な仲間であり、本気ではなく軽い気付け程度のようなものだ。無論、装甲自慢の長門型にとっての『気付け』程度であったが。
「……陸奥のいる貴女に、今の赤城さんを罵る資格はないわ」
しかし、長門の拳は赤城さんには届かなかった。
「加賀、どういうことだ」
加賀は、受け止めた長門の拳をぎりぎりと締め上げる。
赤城さんと付き合いの長い彼女は赤城さんの変調の原因が分かっていた。だから長門を止めた。
「言葉の通りよ。分からないのなら貴女の好きな殴り合いでもしましょうか?」
砲なら私も持っているわ。と飛行甲板の隅に付いている20センチ砲を見せる。
両者が全力で殴り合えば、装甲では長門型に軍配が上がるが、機関出力では正規空母は他の艦艇群を圧倒している。
「……済まない、少し熱くなりすぎていたようだ。許してくれ、二人とも」
ビッグセブンに空母が砲戦を挑む、ということの異常さに長門は毒気を抜かれ、冷静にものを考えることができた。そもそも、加賀が五航戦と提督以外に突っかかること自体稀なのだ。故に、この加賀の抗議には重要な意味があるのだ。と長門は思い至った。
その重要な『何か』は後で陸奥にでも聞けばよい。とも、思った。
「ケンカ終わったー? 作戦(支援砲撃)完了したんだから早く帰らないと大淀に怒られるよー? いそげいそげー!」
先ほどまでの剣呑な雰囲気に嫌気がさしていた時津風がこれ幸いとばかりに航行を再開した。
「こら、陣形を崩すな!……と、言って止まれば世話はないのだが……あれの姉妹艦は大変そうだな?」
「島風に聞かれても分かんないしー。でも大淀に怒られるのはやだなー」
大淀を本気で怒らせると、解体されてしまうという都市伝説がある。青葉新聞がこの噂を本人に聞いた際、「(解体の)意見具申ぐらいはするかもしれませんね」と半ば呆れたような調子で言ったという。
「それもそうか。では、帰投する。艦隊、この長門に続け!」
「一番遅いのは長門さんですけれどね」
「巡航速度なら皆どっこいだろう霧島」
支援艦隊は行きこそ作戦海域に超特急で行かなければならないが、帰りは消費燃料を抑えるためにゆっくりと帰る。主力艦隊も帰りはゆっくりなので、基本先に帰投を果たすことが多い。
「さて、それはどうでしょう? 競争でもしてみます?」
「かけっこー! 負けないよー!」
競争、と聞いた島風が暴走した。
「……陣形がさらにめちゃくちゃになったが……何か申し開きはあるか霧島?」
「…………お、おにさんこちらー。手の鳴る方へー……ですっ!」
霧島が持ち前の高速力を活かして長門の追求から逃れた。
……と同時に、何かのキレる音がした。
「ふ、ふふ、ふふふ……待てぇ霧島ァ!!」
「ひえー!!」
霧島と長門が陣形を壊して最大戦速で飛び出した。
もちろん、すでに深海棲艦の領海を脱していたため、厳密には陣形を維持する必要もなかった。
――最大戦速で帰投した面々は、燃料を著しく消費し、大淀ではなく提督に説教を食らったのは言うまでもないので割愛する。
険悪な空気が掻き消えたのを確認して、加賀が口をひらく。
「赤城さん。貴女の悩みは――」
「……知ったようなことを、言わないでください……っ!!」
返答は、強い拒絶。加賀はいつもと違う赤城さんの剣幕に一瞬たじろいだ。
「赤城さん?」
「っ!? ごめんなさい。少し気が動転してしまいました……庇ってくださってありがとうございます。加賀さん」
しかし、赤城の激情はすぐさま鳴りを潜め、いつもの赤城さんへ戻った。ただ、先ほどの剣幕、『気が動転した』程度でないことは一目瞭然であり、加賀はもうこの話題には踏み込めそうもないことを悟った。
「……何か相談があれば、いつでも頼ってくださいね。同じ一航戦ですから」
加賀の、赤城を慮った言葉だったが、同じ一航戦、というところに酷く寂しそうな表情を浮かべた赤城さんは、そのまま泣きそうに笑って、ありがとう。と言った。
…………
「もう、我慢の限界だわ」
天城の初出撃まであと数日、そろそろ巻物か、大鳳にボウガンを借りるかしなければ間に合わない状況に陥りつつも、天城は頑として和弓の練習を辞めなかった。その練習の只中に、いきなり加賀が声を荒げ、突き放すように言った。
「赤城さん。何がそんなに気にいらないの? 天城が貴女の姉でなかったことがそんなに嫌? 私には相談もしないくせに、一人でいつまでもうじうじと……赤城さん、今の貴女は……ひどく子供じみているようだわ」
「……言葉を、慎みなさい」
赤城さんはうつむき、わなわなと震えながら絞り出すように声を出した。
「もう我慢の限界だ。といったはずよ。今更貴女に――」
――パァン。
加賀の次の言葉は、赤城さんの平手によって止められた。
「私にではなく、天城さんの方に慎みなさいと言ったの。今の貴女の言葉は、彼女の前で聞かせるべきではないし、そうでなくたって彼女に対するひどい侮辱だわ!」
先ほどの震えは、怒りをこらえていたものだったのだ。
だが、その反応が、彼女の心配を踏みにじったその態度が、彼女(・・)の逆鱗に触れた。
――頭に、来ました。
…………
「赤城さんと加賀さんが取っ組み合いの喧嘩!? 一体どういうことですか?」
「それが、天城ちゃんのことで一悶着あったみたいで……」
提督に報告に来た瑞鳳もうまく状況を掴めていないのか、自身がなさそうに報告した。
「あぁ、天城。その名は、彼女にとって特別な意味を持っていましたね……わかりました。今すぐ弓道場に向かいましょう」
事情をある程度理解した提督は、瑞鳳とともに急いで執務室を後にした。
………
元戦艦、故に彼女らの戦いは熾烈を極めた。
「いつでも頼ってくださいと、言ったじゃない! ……私だって、妹を失った身です。貴女を理解できると思っていたのに!」
「っ!! 貴女には……貴女にだけは理解されたくないわ」
戦艦以上の馬力にものを言わせた力技と力技の応酬。
「なぜそこまで頑ななの? そんなに私の事が嫌いなのですか」
「そうは言っていないと何度も言っているでしょう! 加賀さんは私の大切な相棒です」
「なっ!?」
加賀に一瞬の隙、赤城さんは見逃さなかった。
――祖国の為に――
加賀の背後から腰をロックし、後方に仰け反って地面にたたきつけ、ホールドしたまま腰を使って跳ねるようにもう一回転して加賀を地面にたたきつけた後、身体の上下を組み替えてから尻餅をつくかのようにして、太ももに挟んだ加賀の頭部をもう一度地面に叩きつけた。
「原子力空母落とし(ファイナルアトミックバスター)……完成していたのですね……」
「待って翔鶴姉、これそういう話じゃないから。別に航戦SUMOUに対抗して空母プロレスとか始まらないから」
あまりの凄絶さに、他の航空母艦娘は手を出しあぐねていた。
「ごめんなさい加賀さん。でもこの気持ちだけは譲れない。もう少しで……いつもの私に戻るから、信じて待っていてください」
三半規管を無茶苦茶に揺らされて動けなくなった加賀に、赤城さんはそう言った。
そのあと、周りに集まっていた艦娘に「損傷しました、入渠しに行くので道を開けてください」と伝え、その場を去った。
…………
赤城さんが早足で入渠ドックに向かっていると、廊下の反対側、つまり執務室の方角から来た人物と鉢合わせた。
「おや、赤城さん。これから入居ですか?」
「提督……はい、弓道場で少し粗相をしてしまって……」
そう言って、赤城さんは、心配そうに彼女を見る提督に内心を気取られないうちに立ち去ろうとした。
「……一航戦の誇りは、姉を恋しがった程度では失われませんよ?」
「!?」
彼女はぞっとした。
彼女が姉を恋しがることによって感じていた、天城と加賀(・・)に対する罪悪感と自己嫌悪がないまぜになった感覚。提督はそれらを全て見透かしているかのように、赤城さんに語りかけた。
栄光の第一航空戦隊、とは、本来ならばどうであったのか……故に、彼女の姉が着任する。とはどういうことなのか。
旧帝国海軍の経緯を知っている提督ならば、彼女が何に苦しんでいるのか容易に理解できた。
「加賀さんには……黙っていてください」
――私が姉を望むのと、加賀さんが土佐を望むのを、同じと考えている純粋な彼女に、この醜い私の感情を知られるわけには参りませんから。
赤城さんは自嘲を含んで微笑んだ。
「はぁ、わかりました。その強情さ、貴女の相棒にそっくりですよ」
「……当たり前です。同じ、一航戦ですから!」
この時の赤城さんの表情を見た提督がニヤリと笑み、執務室に戻らんと踵を返した。赤城さんの顔には、先ほどと変わらず微笑が浮かんでいたが、先ほどの様な自嘲は消え失せていた。
「てっ、提督~っ!? 何がどうなってるんですかー?」
一人、事情がつかめなかった瑞鳳の、提督を追いかけるパタパタという足跡だけが、鎮守府の廊下に響いていた。
かくいう私も、天城さんと聞いててっきり赤城姉が来ると思っていました。
雲龍型と聞いた時の私のがっかり感を、少しでも感じ取っていただければ幸いです。
答え合わせ編は、八月の投稿になると思います(今はリアルが佳境なので)
では、じわまでごゆるりとお待ちください。