短編。赤城さんががっかりするお話(二話構成) 作:なむさんばがらす
でもきっと、自分は殴られても艦これ夏イベを辞めなかったでしょうし、夏イベ中にE3ゲージ破壊が出来なくてイライラして書いた飛び魚艦爆のSS(未投稿)を書くのを辞めなかったと思います。
※本編中にプロレス技の表現が存在します。小生の描写不足を感じた方は、カタカナ名の方で検索してくださると、ハッピーになれると思います。(漢字の方は造語と当て字の独自設定なので)
あとは、物語の都合上泣く泣く友人の希望していた絡みを削除することになってしまったので、平に謝罪をば。
長門は、陸奥と二人そろって非番となった今日、この前の加賀の行動について尋ねた。
「陸奥よ。なぜ加賀はあそこまで頑なだったんだ?」
「一航戦の二人にはそれぞれ姉妹艦がいたのに諸事情で就役できなかったからでしょ?」
諸事情とはワシントン海軍軍縮条約であり、超弩級戦艦や航空母艦の保有数に制限を加える。というものだった。
「それにしても『陸奥のいる貴女に』ねぇ? 随分と的を射ていると思わない?」
条約では、ギリギリアウトだった戦艦陸奥をなんとかセーフにしてもらったというエピソードがある。故に、条約によって姉妹艦を失った加賀には思うところがあったのだろうと陸奥は考えていた。
「ただ、加賀は赤城さんを思うあまり、自分のことを見れていないわね。だから、赤城さんの本当の懊悩に気付かない……こじれなきゃいいけど」
「?」
一人で納得する陸奥に対して、謎がさらに深まる長門。
「……それは赤城さんも同じね、きっと。一応、提督に現状を聞いておくわね。あの人ならもう対策済みだろうけど、何か協力できることがあるかもしれないし」
そんな彼女を尻目に、陸奥は提督室へ内線で連絡する。結果、一航戦の二人が大喧嘩をして、赤城さんが加賀をのした後に第三入渠ドックに向かったとのことであった。
「加賀が赤城さんの行方を聞きに来たら教えてやれ、って」
陸奥が受話器を置き、提督とのやり取りを長門にざっくりと伝え終えたとき、控えめに戸が叩かれた。
「あら、噂をすれば。というやつね」
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時は少しさかのぼり、弓道場。
赤城さんに伸され、目を回していた加賀が目を覚ました。
そして、彼女を看病していた天城と視線がかち合う。
「……私は」
「30分ほど、気を失っていたみたいです」
あれからどれくらい経ったのか、という加賀の疑問を看破し、天城は即座に答えた。
運動神経に見合わず頭の回転は速いという天城の一面に驚きつつ、加賀はのそりと身を起こした。
「ごめんなさいね。私たちの都合で貴女の貴重な時間を無駄にして……」
「いえ、良いんです。元はといえば、私がお二人にご無理を言ったのですから」
――私は、憧れていたんじゃなくて、実は羨ましかったんです、貴女達の事が。
十分な艦載機、十分な搭乗員、十分な訓練期間、十分な燃料弾薬……在りし日の一航戦にはすべてがあった。
対して彼女には、天城型航空母艦には何一つなかった。擬装のために草にまみれ、耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍んだというのに、彼女たちに『一航戦』としての華々しい活躍の場はもはや無かった。
――だから、貴女たちと同じ装備で戦果を上げて、『一航戦』として誇れるようになりたかった。
「私は、愚か者です。ここでなら……十分な物資のあるこの鎮守府でなら、貴女達一航戦よりも『一航戦』足りえるのではないか、と思い上がっていたんですから……きっと赤城さんも、こんな愚か者がお姉さんと同名なんて、許せなかったんでしょうね」
「……弛まぬ努力の原動力となる思いは、思い上がりではないわ。そして、愚かでもない……二度と、私の前でそんな卑屈なことを言わないで頂戴。一航戦の誇りに傷が付くわ」
「はぃ……」
加賀の叱責とも取れる言葉に、天城はうつむいてしまった。
天城の反応を見、加賀は「またやってしまった」と頭を抱える。
彼女は、いつも口下手で誤解されやすいのだ。言葉が足りない。褒めてる時と怒っているときの表情が一緒(厳密には違うのだが、そもそも普段から目つきの鋭い彼女の顔をまじまじと眺められる猛者は少ない)など様々な要因があり、それがわかっている彼女は自分で気を付けようとはしていても、ふとした拍子に相手に悪印象を与えてしまうことがあるのだ。
それが五航戦などの加賀に理解のある艦娘なら問題はないのだが、天城はまだここに来て日が浅い、故に早急に誤解を解く必要があるのだが、赤城さんと喧嘩をした時の弁舌は何処へやら、かける言葉が全く思いつかなかった。
加賀にしてみれば、結構わかりやすく褒めたつもりだったからだ。彼女の心情を一言で表すのなら、
……これ以上、私にどうしろというのですか。
だった。
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「あぁ、加賀起きてたんだ。首大丈夫?」
進退窮まった加賀に、天城とは別の声がかかる。
目を覚ました彼女に気付いた瑞鶴が、翔鶴とともに加賀と天城の元へやってきたのだった。
「五航戦に心配されるほど軟な装甲はしていないわ」
「相変わらず可愛げないわね。せっかく心配してあげてるってのに……」
「五航戦の子なんかと一緒にしないで、それとも何? 可愛げで敵が情けをかけてくれるとでも? 発想が惰弱ね。恥を知りなさい」
これは、まごうことなき叱責だ。本来ならば、心配無用、直ちに鍛錬に戻りなさい、程度で加賀は済まそうと思っていたのに、売り言葉に買い言葉の恐ろしさである。
しかし、瑞鶴にはもはや慣れっこであり、加賀の言葉の真意を汲むことができていた……
「ぐぬぬぬぬ……っ!」
……はずである。
「あの……そのっ……」
加賀に怒られたと思って萎縮してしまった天城は、天城そっちのけで言い争いを始めた加賀と瑞鶴を仲裁しようとして声を出すが、蚊の鳴くようなものしか出なかった。
「あー、天城ちゃん、加賀の言うことなら別に気にしなくていいわよ。加賀流の激励みたいなもんだから……存外に、加賀は貴女のガッツを認めてるみたい」
先ほどの天城と加賀のやり取りをそれとなく聞いていた瑞鶴が、見かねて天城に言った。
「そうなの、ですか?」
天城は、すがるような視線を加賀に向けた。
「まぁ、認めてはいるわ。私は、その……感情表現が乏しくて、伝わり辛いとは思うのだけれど……ごめんなさいね」
視線を向けられた彼女は、照れくさそうに見えなくもない仏頂面で言った。
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「ところで……私が外している間、天城の稽古を見てあげて欲しいの。もう初出撃まで一刻の猶予もないから」
「ふん! やっと私を認める気に……」
「龍驤さん。お願いできるかしら」
「……って龍驤!?」
加賀は、すぐ隣にいた瑞鶴、翔鶴を通り越し、奥の方で巻物式飛行甲板の手入れをしていた龍驤の前までやって来た。
「何や加賀。こう見えてもウチは忙しいねんけど?」
龍驤は手を止め、怪訝そうな瞳を加賀に向けた。
「ちょっと! 何言ってんの!? 龍驤普段弓使ってないじゃない!!」
加賀の要求に真っ先に食って掛かったのは、先ほどスルーされた瑞鶴であった。
「せやで、昔の話や。今はどの程度できるかわからへんよ?」
「……一航戦最巧と名高い鳳翔さんに次ぐ腕前を持っていたのを、よもや忘れたとは言わせないわ。それに、腕が鈍らないように鳳翔さんとたまに稽古をしている貴女を見たと提督が仰っていたのよ」
めんどくさがって瑞鶴の話に乗っかった龍驤を論破し、ぐぬぬと唸る龍驤に「では、よろしくお願い致します」と声をかけ、加賀は去っていった赤城を追った。
話に出た鳳翔だが、彼女は航空母艦娘の中で、在りし日に最も長い間空母として就役していたため、艦載機の練度では世界最強と謳われた赤城、加賀の二人よりも練磨された弓射を行うことができるのは周知の事実であった。
深海棲艦との戦いに艦娘が実戦投入された最初期の戦いにおいても、三笠や、日本に亡命していた英提督保有のドレッドノート、フューリアスらとともに(この頃の鳳翔は最新鋭艦の部類であった)日本海や津軽海峡、瀬戸内海、関門海峡といった日本超近海に巣食っていた深海棲艦(海溝棲鬼、海峡棲姫、内海棲姫、海峡水鬼)を撃ち払い、陸路で欧州まで遠征、英国近海の深海棲艦までも討伐したという記録は、今やハリウッド映画にもなっているほどだ。(映像では鳳翔さんの事は竜飛という名前で作られていた)
「ハァ、仕方あらへん。天城、ちょいそれ貸して見ぃ」
「はい」
言われるがままに天城は持っていた和弓と矢筒を手渡す。
「ウチは鳳翔の弓を見て、それに憧れて今まで独学でやってきた……まぁ、鳳翔に負けるのが嫌で今は巻物使てるけどな。赤城や加賀には負けへんと今でも思てる……まぁ、作法は我流やから弓道警察の妖精には怒られるんやけど」
龍驤はそういいながら、矢筒から矢を取出し、つがえゆっくりと、それでいて力強く弓を引き絞っていく。
小さい体のどこにそんな力があったのかと見まごうほどに張力を限界まで蓄えた弓弦を作り出した彼女は、一息にそれらを解放する。
――風切り音――
弓矢は風を裂き、音を裂いたかと思えば、刹那の瞬きとともに航空隊へと変貌し、的に向かって機銃掃射を行った。
「せや、着艦の事忘れとった。天城、そこの巻物とって」
龍驤は、手入れをしたまま稽古場の奥に立てかけてあった自身の艤装を指さす。
「……は、はい! っきゃあっ!!?」
龍驤の弓技に一瞬呆けていた天城は、急いで巻物を持っていこうとし、盛大に転んだ。
転んだ拍子に巻物を綴じていた帯がほどけ、空中に巻物が開帳される。
「こらあかん! 飛行甲板が駄目に……ってあれ?」
空母の飛行甲板はデリケートであり、乱暴に扱えばすぐに発着艦ができなくなってしまう。今回の様なケースでは間違いなく巻物がしわになろうか、というレベルの
転倒であったのにも関わらず、龍驤の予知した結末とは違った光景が広がっていた。
「艤装が……起動してる?」
起動した艤装が、空中に広がって、航空機を着艦させていた。
「ほほぅ。天っちゃんはこっちの方が向いてそうやね」
「そうなんですか?」
「とりま、今から妖精さんとこ行って、弓やない航空艤装作ってもろうて、んで、初陣には間に合わんやろうから大鳳にボウガン貸してーって頼まな。話通しとくさかい、この巻物で練習しとき」
といって、龍驤は天城から借り受けていた弓矢を使って工廠に連絡機を飛ばした。
「でも……私は和弓を……」
「はき違えんといてや天っちゃん。赤城と加賀はあんたが艦載機をうまく使えるように稽古付けてくれてたんやで。せやから和弓かどうかなんて、それこそ些事でしかない。天っちゃんはどんな方法であれ、艦載機をしっかり飛ばして敵艦をぶっ倒す、そうすれば、あんたを『防空砲台』言う阿呆は居らんようなって、新生『第一航空戦隊』の天城として一目置くようになる」
――これが天っちゃんの目標と違うんか? 違わへんやろ。なぁ!
龍驤の、立て板に水のごとき関西弁による指摘に図星を付かれた天城であったが、彼女はいたって冷静に反駁した。
「確かに、方法にこだわる必要はないのかもしれません。ですから、和弓以外の、私に適した航空艤装があるのならそちらで出撃することも吝かではありません。でも、私が和弓を辞める理由にはなりません」
「ほう、そう来たか。ほんなら、そこまで天っちゃんが和弓にこだわる理由は何か聞いてもええか?」
「私が、一航戦の天城だからです」
「……もう居らん奴を越えるのは難しいで?」
「困難かどうかは、大したことではありませんよ。龍驤さん」
一航戦の天城。
在りし日、その名で呼ばれる艦船が彼女だけではなかったことを、龍驤は知っている。
「……ウチも大概やけど、あんたも随分、頑固拗らせとるなぁ。まぁええわ、ウチは巻物教えるさかい。せいぜい気張りや」
「はいっ!!」
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結論から言って、天城は巻物を使う才能があった。最初の出撃では、専用の艤装は間に合わず大鳳に発艦用の艤装を借りはしたものの、着艦に至っては外した自身の着物の帯を使って着艦させるなどの離れ業をやってのけた。
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加賀は弓道場を出た後、提督に赤城さんの所在を確認しようと執務室を尋ねたが、「赤城さんの所在は分かっているが、君に教える義務はない。提督とは本来、痴話喧嘩の仲直りのために利用されるべきではない」とすげなくあしらわれてしまった。
ただ、提督はこうも言っていた。
「彼女の行方が知りたいのなら、たまには八八艦隊時代の同期に頼るのもアリじゃないか?」
と。
提督の性格は熟知していたため、このアドバイスには素直に従う方が良いことを理解した加賀は、陸奥と長門の部屋を訪ねた。二人に提督から話が行っていたかは加賀にはわからなかったが、二人は突然の訪問を訝しむこともなく加賀の話を聞いた。
「赤城さん? 居場所は知ってるけど……貴女、行ってどうするつもり?」
陸奥が加賀の背後にまわり、扉と加賀に立ちふさがるように立った。
「真意を……悩んでいた本当の理由を聞こうと思います。私の勘違いのせいで怒らせてしまったから……」
「赤城さんは貴女に話したくなかったから喧嘩になったのでしょう? なら、きっと無理ね」
ではどうしろと、と言わんばかりの不機嫌顔になった加賀に、陸奥は話を続けた。
「貴女がここにいる理由……、いえ、ここにいることができた理由って、考えたことある?」
「?」
「提督の言ってた八八艦隊……長門、私、赤城、天城、加賀、土佐、……愛宕と高雄はあまり関係ないわね。この中で、貴女の妹が就役できなかった理由って覚えているわよね」
「……それが何か」
知っているからこそ、加賀はいつかの長門に突っかかったのだ。長門の姉妹艦である彼女ならそのことを知らぬはずもなく、加賀の機嫌を一層損ねた。
「じゃあ、赤城さんのお姉さんが就役できなかった理由は?」
「もちろん知っています……からかっているのならもう行きますよ」
「じゃあもう一つだけ」
――貴女が就役できた理由は?
「……何が言いたいのですか?」
加賀のこめかみに青筋が浮かぶ。そんなことが今の状況にいかほどの関連性があるのか甚だ理解できなかったからだ。赤城さんは天城とのことで機嫌を損ねている、と考えている加賀にとって、陸奥の問いは時間の無駄にしか聞こえなかった。
「逆に、まだ解らないのかしら、案外頭が固いのね貴女……それとも、とってもピュアでウブなだけかしら?」
「……」
加賀の眉間に深い皺が生まれ、さらに彼女の目つきが険悪なそれへと変貌する。
殺気とも取れる視線に、長門が憮然とした表情を見せるが、陸奥は涼しい顔でその視線を受け、言葉を続ける。
「なら教えてあげる。赤城さんにとって、お姉さんの代わりは――
――天城じゃなくて貴女(加賀)だったのよ」
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弓道場を飛び出した後、第三入渠ドックで短い入渠を終えた赤城さんは、鎮守府のはずれにある小高い丘までやって来ていた。払暁と比べ、燃えるように赤い水平線を望んでいた。
「赤城さん、やっと見つけたわ」
「……信じて待っていてくださいと言ったのに。貴女も頑固ですね」
そう言って、赤城さんを追いかけてきた加賀に対して赤城さんは臨戦態勢を取る。もちろん、艦娘本来のそれではなかった。
「言葉で解決できる次元は、とうに過ぎています。……赤城さん。どちらが正しいかは戦いで決めましょう」
加賀は柔道の様な、相手を掴みに行く構えの赤城さんに対し、中国拳法の様な猫足立の独特な構えを取った。
「いいでしょう。かかってきなさい」
――イヤーッ!!
先手を取ったのは加賀、先ほどとった身軽そうな構えが嘘のような、強大な機関出力からくる剛拳を繰り出す。
「……遅い! 止まって見えますよ加賀さん!!」
機関出力でも、速力でも加賀を上回っている赤城さんは、迫りくる鉄拳を回避、加賀の空を切った腕を掴んで懐に潜り込んだ。
「いくら速くても、読まれてしまえば止まっているのと同じです。赤城さん」
赤城さんが、『投げ』のための崩しに入ろうと加賀の襟をつかもうとしたときに、加賀はこう言った。
加賀は赤城さんに懐に潜り込まれていることを利用し、すでに掴まれている袖の部分から赤城さんの手首を掴み、掴んでいる自身の手首をもう片方の腕で赤城さんの肩越しに掴んで締め上げた。
加賀の新技、焼き鳥腕緘み(チキンウイングアームロック)だ。
――グワーッ!!
「……降参してください。貴女も無駄に入渠時間を延ばしたくはないでしょう?」
「何の……これしき……っ!!」
ゴキン、と赤城の肘と肩から身の毛もよだつような音が聞こえ、締め上げていたはずの赤城さんの腕の、関節を極めているが故の独特の抵抗感が消え失せた。
「なっ!? 自分で関節を!」
空母CQC道において、時に身体は頭脳を凌駕する。加賀は、知っていたつもりだったが、失念していたのだった。
それもそのはず、いつもの赤城さんであれば潔い試合運びを好むために、完璧に関節が極まれば即座に負けを認めていたからだった。
それに、普通であれば、関節が外れたところで、加賀の技から逃げられるものではない。関節技とは本来、そういうものだからだ。
しかし赤城さんは、関節が外れた状態で、自身の腕が損傷することを顧みずに全力を出して拘束を緩め、関節の極まりを抜けた。
依然、加賀に掴まれている状態だったために、加賀は再び関節を極めようとしたが、悪手だった。
赤城さんは、関節が外れていなければおよそ曲げることができない角度に、拘束されている腕を曲げ、加賀の背後を取った。
そして掴まれていない方の腕を使って加賀の片腕を、そして自由になったもう片方の関節の外れている腕でまた片腕を拘束、いわゆる羽交い絞めの状態にした。
「……これは、私の技ではないのですが……加賀さん。おやすみなさい」
そのまま、羽交い絞めにしている腕の先を加賀のうなじに充てることでロックし、後方に反り投げて地面に叩きつけ、そのままブリッジの体制でホールドした。
飛龍艦爆固め(ドラゴン・スープレックスホールド)、文字通り二航戦、飛龍の得意技である。
1、2、3……とカウントし、加賀の脱力具合から気絶していることを感じ取った赤城さんは、ゆっくりとホールドを解いた。
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最初は、加賀さんの言っていた通りの、子供じみた逆恨みだった。私もそれをわかっていたし、きっと天城さんも理解していたと思う。
だけどその夜に見た悪夢によって、その感情は大きく変質した。
いや、思い出した、考えないようにしていたことに強制的に目を向けさせられた。
本来の第一航空戦隊……つまり本来の、加賀型巡洋戦艦の末路。
大日本帝国海軍にとって、航空母艦加賀は天城の代わりであった。
在りし日、私も、姉を失った寂しさを埋めるように、彼女と共にいた。
この姿となってからは、特に顕著であったと思う。
きっと加賀さんも、私に土佐の影を見ていたことは想像に難くなかった。艦娘となった私たち第一航空戦隊は、只の共依存でしかなかったのだ。
それでもいいと思った。
それなのに、私はこう思った。思ってしまった。
――姉さんがいてくれればいいのに、と。
悪夢は、理想を如実に再現した。
姉が居て、自分がいるが、加賀さんがいない。姉に行方を尋ねると、海上を示される。
海上には、標的艦となって大破炎上中の加賀さんがいた。
――やめて
と叫ぶも、もう手遅れだった。彼女は……。
轟沈した加賀さんを見、皆は新型兵器の出来に歓声を上げた。私は耐えられなくなって、そこから逃げ、何処をどう逃げたのか、私はいつの間にか洋上にいた。
――何かに追われている。
そう思って振り返ると……
……火の塊となって……沈んでしまえ……っ!!
空母棲姫と成り果てた彼女がそこにいた。
怨嗟の声は、先ほど見た、標的艦としての彼女の最期をそのまま言い表したようだった。
私はとっさに逃げようとしたが、できなかった。
主機が回らなかった舵が効かなかった体が動かなかった。
まるで自身が標的艦になったようだった。
ゆっくりと近づいてきた彼女に、首を絞められ、持ち上げられる。
――深海棲艦とは、戦没者の恨み、無念が具現化したものである。
と、言っていたのは誰だったか。今ならば、それが痛いほどにわかる。
彼女の航空母艦としての活躍を間近で見てきた私には、そうできなかった彼女の無念が彼女よりも理解できた。
私の首の骨が折れたところで悪夢は終わった。
姉を望むということは、加賀さんの存在を否定するということなのだ。
お互いに共依存している中で私が彼女を否定したのなら、彼女は深く傷つくことが想像できた。
故に、加賀さんに私が『姉を望むこと』の裏の意味を知られるわけにはいかないと思った。
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「……んっ」
「起きましたか」
目を覚ました加賀の視界に入ったのは、黄昏から少し過ぎ、マジックアワーも通り越した宵の口の空を背景にした赤城さんの顔だった。
「赤城さん……私は貴女に……」
「もういい。もういいのです」
弓道場でのことを謝ろうとした加賀を、赤城さんは止めた。
悪いのは自分だ。私の悩みなんてものはただのくだらない感傷と、つまらない意地だった、と、今であればこそ、赤城さんにはそう結論付けることができた。
なぜなら、加賀は全てを知ってなお、赤城さんの前に立った。それが加賀の示した答えだったからだ。
――姉を恋しがったところで、一航戦の誇りは失われない。
その通りであった。加賀がここに現れたとき、彼女は、もはや言葉は不要。という言葉を持って赤城さんの懊悩を切って捨てたのだった。
「さぁ、帰りましょう。立てますか?」
赤城さんは、上体を起こした加賀に手を差し伸べて言った。
加賀は手を取ろうとして、気付く。差し伸べた手は、先の戦いで犠牲にした方の腕であったことに。
「ええ……それより赤城さん、貴女腕が外れているのではなかったかしら」
「時間があったので、嵌め直しました。痛いですが、案外何とかなるものです。多分弓も射れますよ」
グルグルと肩を回し、無事をアピールする赤城さんを見て、加賀は呆れてため息をついた。
「整体の心得のない者が勝手に関節をはめるなど言語道断です。さっさと明石さんにでも診せに行きますよ」
そして、赤城の助けを借りずに立ち上がり、赤城さんの手を取って歩き始めた。
「痛たた! あまり引っ張られると……」
「やっぱりうまく嵌っていないではないですか」
――まったく、私がいないとダメですね。
「そうです。私たち一航戦は、どちらが欠けてもいけないのです」
聞こえないように呟いたつもりだったのに、赤城さんにはばっちりと聞こえていたようである。
そのことに少し驚いたが、加賀はその仏頂面に、はにかむような笑みを浮かべた。
「ええ……本当に、そうね」
例え姉妹でなくても、例え歪な共依存だったとしても、この絆は――
――一航戦としての誇りは、色褪せることはないのだから――
別に出撃した訳でもないのに、多大な損傷を負った二人には、提督からのお説教があったのは、言うまでもない。
うちの鎮守府に大鳳と雲龍はいない(血涙)
↑と思ったらこれを書いている間に出た。
地味に艦これ世界に内線電話があるのか悩んだ今日この頃。
あと、天城の一人称は「天城」らしいのですが、それは提督の前限定、という独自解釈をして改変をいたしましたのであしからず。
龍驤……立て板に水……立て板……うっ、頭が。
というか、龍驤は(どこがとは言わないけど)平たいし、旧一航戦だし弓もうまそう、という独自解釈です。
区切り線代わりの点と線は、途中でネタ切れて本編とは関係なくなっています。あしからず。
何分、ブランクが長かったものですから、何かございましたら、感想の方、お願いいたします。
次回は『干物妹、むっちゃん』をお送りします(大嘘)