ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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闇部の長の凱旋

ユウキに襲い掛かっていた骸骨野郎を倒し、ユウキを見たが既に気絶していた。

ともかくここは危ないと考え、ユウキを抱きかかえて黒猫団ギルドホームへと歩き出した。

俺はユウキを見る。

目の下には隈、肌は血の気が無く、心なしか軽くなった気がした。

きっと…………いや確実に俺の所為だよな。

 

「ゴメン、ゴメンな…………ユウキ」

 

外気で冷えた頬を暖かい涙が伝う。

声を抑えて、外に漏らす前に殺して、消し去って。それでも涙は途切れることなく、堪えれば堪えるほど流れ出る量を増していく。

涙が零れても、足を止めはしない。自分の不注意でユウキを傷付けてしまうのは絶対に。

 

 

 

 

ユウキの帰りを待っている黒猫団。と俺とアスナ。

普段ならレベリングを終えて帰ってくるはずの時間を2時間過ぎているにもかかわらず未だ街(安全圏内)にすら来ていない。何かあったのではと心配して、普段以上に重い空気が漂っていた。

そんな中、静寂を打ち破ったのは―――

 

コンコン

 

「ん?誰だ?こんな時間に」

 

「まさかユウキ!?」

 

「ユウキ!!!」

 

飛び出したサチを止めようとしたケイタだが手が届く前にサチは扉を開けた。

しかし、扉の先には誰もいない。

 

「一体なんだっ―――――」

 

たんだと続けようとした刹那

 

ヒュゴォッ

 

突風が吹き込んできた。

 

「きゃっ!?」

 

「うわぁっ!?」

 

「あっちょ、待って!!」

 

突風で巻き上がるスカートを抑えるサチ、それの中を見そうになって目を隠す俺、それをジト目で見つめるアスナ、そしてテーブルから倒れて落ちそうになった花瓶を急いで拾うケイタ。

そんな中で1人、異変に気付いた者がいた。

 

「あれ?」

 

ササマルだ。

 

「なあ、ユウキの部屋って空いてたっけか?」

 

「いや、風で開いたんじゃないのか?」

 

「システム的に風は存在しても、それで扉が開くことはないはずだ」

 

プレイヤーが扉に触れて、システムに認証され、初めて扉が開くのだ。風で開くなんてことはあり得ないはずだ。

俺の言葉を聞いてテツオが顔色を変えた。

 

「ってことは、まさか!!」

 

黒猫団が、俺もアスナもテツオの考え付く結論を理解した。

誰かが扉を開けた。

けれど俺達は誰も動いていない。つまり――――

 

『外部の人物が風に紛れて部屋に侵入した』

 

「サチ、下がれ!!」

 

「う、うん」

 

「キリト、索敵で何か分からないか?」

 

「とりあえず分かっているのはプレイヤーが2人入っているってこと。2人ともオレンジじゃないってことだけだ」

 

「オレンジじゃない?ってことは囮か!?」

 

「そうじゃない。囮にしては動きがおかしい。俺が確認してくる」

 

俺は静かに近寄り、微かに練度のある聞き耳スキルを発動させて中の様子を探ろうとするが、会話は聞こえない。足音すら聞こえない。

扉のノブに手をかけて、突入の準備をする。

それに気づいたテツオとダッカーは武器に手をかける。

しかしドアノブを俺が動かす前に扉が開いた。

とっさにバックジャンプで後退し距離を取った。

ユウキの部屋から出てきた人物の正体、誰なんだ!?

出てきた人物に、黒猫団が驚愕した。

 

「今ユウキは熟睡してんだ。騒がしくするな」

 

「お前、ジン!?」

 

PKKギルドを創設し、黒猫団から脱退し、ありとあらゆる情報網を以てしても一切の情報を得られなかった存在。

元黒猫団主力のジンだった。

 

「だから静かにしてろって」

 

「お、おう。すまん」

 

あれ?俺何で謝ってんだろ。

 

「ジン、なんだよね?」

 

「ん。久しぶりだな、サチ」

 

「う、ん!!久しぶり!!」

 

涙溢れて、笑顔を浮かべてジンに飛びつくサチ。他の黒猫団も、武器をストレージに収めて笑みを浮かべる。皆の目には笑顔と涙。それだけだった。

 

 

 

 

「どうして戻ってきたんだ?」

 

少し落ち着いて、ダッカーがジンに尋ねた。

 

「仲間に、ギルドのやつらに心配されたんだ。後悔してませんか?ってな」

 

「後悔してるのか」

 

「してないわけじゃないが、最善を選ぼうと最悪を選ぼうと後悔するんだ。それなら最善を選んだ方がいい、そうだろう?」

 

「あれが最善?」

 

納得できなかった。PKKをするだけのギルドを創ったことが最善だっていうのか。

あのまま黒猫団と過ごしていた方がよっぽどよかったんじゃないか?

 

「3日前に壊滅させたギルドのリーダーが言ってたよ」

 

『あのPKKギルドの情報の日にな、黒猫団狙ってたんだよ。それなのにそこの主力がPKKとか言い出すじゃねぇか。こんなことならあんときリスクを冒してでも殺っとくべきだったな』

 

「っ!!」

 

「俺達が動いたおかげでPKは減った。無関係な殺人がへった。

 もしあの時に動いてなければ次は黒猫団だった。結果論だったとしてもあれが最善だった」

 

「だけど!!」

 

「ではあれ以外にいい手があったか?あのペースだとアルゴの計測でだが最終的に1日1人のPKが起きてしまうことになっていたんだぞ?」

 

誰も、何も言えなくなった。

結果論とはいえジンの行動は最前だった。非人道的だと言っても最善となっているのだ。過去の事を話しても意味は無い。けどその過去での最善以外の最善の選択を言わなければジンはこれからもPKKを続けるだろう。

しかし、誰も最善を探し当てることはできなかった。

 

「ま、お前らに会えただけで少し楽になった。それじゃ」

 

「お、おい?どこ行くんだよ」

 

「これはあくまで休憩だ。いつまでもここにいる訳にはいけない。アルゴから居場所を聞き出そうとしないことだ。とてもお前らに払える金額じゃないからな」

 

それだけ言ってジンは姿を消した。テーブルには、空になったティーカップと、少量のコルが置いてあった。

アルゴから聞き出すなってことはアルゴはジンの場所をしってるってことか。それだけでもかなりの進展だ。

 

「キリト、ジンの奴変わったな」

 

「ああ」

 

昔のジンはあんなに現実しか見ていない奴じゃなかった。

しかしそれを否定する声が俺達の背後からかけられた。

 

「ジンは変わってなかったよ」

 

「サチ、どこがだ?」

 

「ジンはね、どうすれば早く現実世界に帰れるかをずっと考えていたんだよ?PKKがあったことで攻略組を狙ったPKも減った。それだけでもジンの目的は達成されているんだよ?」

 

「そう、だったか。…………そうだな、すまなかったサチ」

 

きっと俺達にはジンの何も見えていなかったんだ。

きっとジンに助けられたサチだからこそ見える物があったんだ。

社会を知らない、人を本当に助ける難しさを知らない俺達には何も理解なんてできなかったんだ。

 

「…………」

 

どうすればその強さを持てるのか?その優しさは俺に理解できない物だのか?

 

「キリト?」

 

「ちょっと用事ができた」

 

俺はギルドホームを飛び出した。

場所はアルゴの隠れ家がある第1階層、密林エリアの超危険地帯。第1階層では4、5レベル高く、モンスターのリポップ時間が早すぎることで有名だ。モンスターのレベルが高すぎて尚且つ早すぎるリポップ速度で最深部まで行くのは超困難で、俺ですら最深部まで辿り着けないのだ。

ただ、切り抜ける方法が無いわけではない。

そこのモンスターに気付かれなければいい。

音を立てず、姿を見せず、攻撃をしない。これさえ守れれば辿り着けないことはない。

 

「まあ、それは転移結晶を惜しむ普段に限った話だけどな」

 

転移結晶は、街だけにしか転移できないわけじゃない。詳しい場所を言えばそこに転移されるのだ。

今回は緊急事態、転移結晶を惜しむことはしない。

 

「転移、『第1研究所仮眠室前』」

 

 

 

 

転移先のアルゴ御用達の仮眠室の前で周りにモンスターが居ないことを確認したうえでノックする。この仮眠室以外の全ての場所は危険地帯だ。ここにいるだけでも危険だが、アルゴと直接話す方法は、アルゴがホームに来るかこちらから行くしかないのだから。

 

「来ると思ってたゾ。さ、入っタ入っタ」

 

「ああ」

 

部屋に入ってソファに腰掛けるとアルゴが先に口を開いた。

 

「ジンの事、ダロ?」

 

「ああ、いくら払えばいい」

 

「無理っていわれたんダロ?」

 

「それでもだ」

 

ふぅー、と長い溜息を吐いて俺を見る。

やがて諦めたようにして、

 

「分かったッテ」

 

アルゴはメッセージを開いてジンの口封じに払った金額を数え始める。

数え終わると「ヨシ、言うゾ?」と言って、俺は心の準備をする。

 

「んんっ、ジンが口封じに払った金額は3600万コルだヨ。キー坊に払えるノカ?」

 

その金額を聞いて、耳を疑った。

それだけあれば現存する最も高いホームを購入できるほどだった。

 

「マジかよ…………」

 

「まあジンも全部をコルで支払った訳じゃないケド」

 

「どういうことだ」

 

「オイラは結晶やポーションも買い取ってるんダヨ。買い取り価格はコチラってナ」

 

ピコン

 

メッセージが届き、メッセージに目を通す。

 

『治癒結晶1000コル

 回復結晶3000コル

 全快結晶5000コル

 解毒結晶2000コル

 消痺結晶2000コル

 止血結晶2000コル

 全消結晶5000コル

 回廊結晶10000コル

 転移結晶20000コル

 

 Nポーション500コル

 Hポーション1000コル

 Cポーション3000コル

 CHポーション5000コル

 Sドリンク2000コル

 Vドリンク2000コル

 Aドリンク2000コル

 Dドリンク3000コル 』

 

もはや法外と、法律もないこの世界で法外と言うべきではないが、いうなれば「ぼったくり」。

この程度の低い階層では購入できない結晶。手に入れるには攻略組より先に、リスクを冒してトレジャーボックス(宝箱)を開くしかない。

それにしたって安すぎる。この階層ではこの3、4倍の価値はあるはずなのに。

 

「なるほど。回復アイテムを使わないジンが手持ちのアイテムを全部売って金にしたと」

 

「アア。最初はビビったゼ。何せ躊躇いもなく転移結晶を23個全部出してきたからナ。それに続けて手持ちの結晶全部売ってくるんだかラサ。3600万コルの半分はコレだからナ」

 

それほどまでして自分の領域に俺達を近づけさせたくないのかよ、ジン。

 

「ま、昨日までだったらこの半値だったのに、惜しいことしたナ」

 

昨日まで半値?そんな短期間で大金を稼ぐとは…………

アイテムドロップ確率上昇の装備でも使ってるのか?それともここ以上のハイレベル領域で戦ってなのか?

そこに、ジンのことを思い出し、とっさに立ち上がった。

まさか!!

 

「………おい、アルゴ。まさかお前経由で装備を攻略組に売ってんじゃないだろうな」

 

「その情報は10000コルダヨ」

 

「払おう」

 

「お、オウ。そうだヨ。ジンの持ってきた装備を、そのステータスに見合ったギルドに売り出すノサ。攻略組には阿呆みたいな値段で売りつけているけどナ」

 

これで辻褄があった。

ジンは、PKギルドが落とした装備を売って金にしたんだ。

PKギルドなら結晶や装備が豊富なはずだ。

くっ、どうしたってジンの所までは辿り着けないのか…………

 

「けどキー坊にジンに関する情報をあげられない訳でもないんだゾ?」

 

「何?」

 

「ホントなら5000コルくらい取るんだけどナァ。ほら、PKギルドのアジトの場所ダ。多分次に狙うのはこの『パンプキン・パイ』ってギルドだろウ」

 

ぼろ布は様々なギルドの名前が書いてあった。しかし、赤線が引かれているギルドもあった。

きっと、壊滅してしまったギルドだろう。

それでも、この情報があるだけでも遭遇率は格段に上がるものだ。

 

「サンキュー、アルゴ。助かる」

 

「ああ、そりゃドーモ。これからもアルゴをヨロシクってカ?ニャハハハハ」

 

「それじゃあ俺は―――――」

 

「そうだキー坊」

 

不意に呼び止めたアルゴ。

俺はアルゴと視線を合わせる。

 

「忠告だけどナ。自分だけが特別だとか思ったらダメ、ダ・ゾ☆」

 

「?ああ、分かった」

 

俺はその言葉の真意を理解せぬまま黒猫団ホームまで帰った。

しかし、その言葉は俺を後悔させるものとなった。




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