ソードアート・オンライン 幻影の暗殺者   作:双盾

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奇襲するは何者か

プネウマの花採取に成功した、その帰り道。

やはりと言うべきか、当然と言うべきか。雑魚モンスターは現れる。

恐れもせず、飽きもせず。

しかしこの敵、他の階層の敵とは違う特徴があり、液体系の毒素材をドロップするのだ。

スライムでは毒素材はドロップせず、ハチでは毒針しか出ない。

液体系毒素材は、こいつ以外からもドロップするが、それが雑魚と舐めてかかってはいけない毒蜘蛛種<ベノム・スパイダー>でしか出ないのだ。

毒蜘蛛種は、ステータス的には初級だが、恐るべきはリポップ速度と猛毒、そして数の暴力からなる逃げ場の消失。あの聖竜連合も過去に一度、毒蜘蛛種の巣窟で防具を全て破壊されたことが有る程と言えば、その恐怖は伝わるだろう。

その点こちらは、リポップも早くは無いし、ツタに拘束されなければ毒を喰らうことも無い。

良い狩場ではあるが、エリアの景色もあり、ここは狩場と言うよりかはデートスポットである。

ここで素材集めをする輩は、馬に蹴られる覚悟を持って来るべきだな。

そんなこんなでパックンフ〇ワー相手に皆は奮闘する。

 

「てやぁ!!」

 

シリカもまた、これまでの戦闘からパターンを掴んできたのか動きがよくなってきている。

幾重にも連なるツタの殴打を掻い潜り、丸い頭部を縦に切り裂いくその動きは、少女の年齢に相応しくない戦士の動きであった。

しかし………

 

「シリカ、その装備……どうやって取り揃えたんだ?君のレベルでは、難しいと思うが」

 

「あ、はい。これはキリトさんが貸してくれたんです」

 

またお前か。いやまあ発端はキリトだから装備や武器の貸し出しはすべきなんだが、キリトがそういうことをしたと聞くだけで「なんだまたナンパか」などと思ってしまうようになった。

 

「シリカが欲しいなら、あげるけど?」

 

「そそそそそんなとんでもないですぅ!!」

 

シリカの反応はとてもとても面白いのだが、その相手がキリトだと思うと面白くない。

今度からコイツをナンパ野郎と呼んでやることにしよう。

 

 

 

 

 

 

帰路もそろそろ終盤。

肉眼で街を囲む壁が見えるほどには近くなったが、しかしまだ安全なエリアではない。

こんなにも街に近くなったとはいえ、街から一歩でも出ればもう安全ではない。

 

「せいっ!!!」

 

またリポップしたパック〇フラワーのツタをキリトが素早く片手剣ソードスキル<シャープ・ネイル>で切り落とすと、がら空きになった懐にシリカが突撃し、短剣ソードスキル<トライ・ピアース>で止めを刺す。

この往復だけでシリカは3ほどレベルを上げ、そこからシリカの主に通ったであろう階層を予想し、シリカのレベルが如何に低かったかを憶測で、考えた。

とはいえ動きはさほど悪くないので、恐らくパーティーメンバーが悪かったのだろう。いや、ソロかもしれないが。

 

「ふぅ……ここまで来ると一息つけるわね」

 

「ジンー。早く帰ろう?サチが待ってるよ!あとご飯も……」

 

小さな川に、石造りの橋が架かっており、その先には街へと続く門が見えるほどの距離まで近づいてきた。

けれどもキリトの表情はだんだんと曇っていき、先程からは殺気だっている様にも見える。

そして俺も、その理由を知った。

 

「待てアスナ、ユウキ」

 

「え?」

 

「どうかした?」

 

俺は二人を呼び戻す。

 

「すまないシリカ。君に謝らなくちゃいけないことがあるんだ――――隠れてないで出てこいよ」

 

キリトは門の前へと続く道の左右にある、小さな草むらや木陰に向けてそう告げる。

俺以外はまだよく分かっていない様だったが、ユウキはすぐに表情を強張らせ、アスナの手を引いて橋のこちら側に戻ってくる。

すると草むらがカサッ、カサササと葉鳴りを上げ、木陰は人型へと変わっていった。

そして奥から赤色の髪をした槍使いの女が現れる。

 

「へぇ、アタシのハイディングを見破るなんて坊や、随分と索敵能力が高いのね」

 

立ち塞がった相手を、俺は見たことが無い。

だがこのやり口は幾度となく見てきた。

目の前の槍使いを見て、シリカは驚いたように言った。

 

「ロザリアさん!?」

 

面識があるのか。

俺はその事実を最初、意外に思ったが。

ここまでに至るキリトの表情の変化。そこから推測された結論。

 

「生憎と、俺はアンタらにも用があるんだよ。オレンジギルド<タイタンズハンド>」

 

「その様子だと、首尾良くプネウマの花を取れたようだね。おめでとう」

 

「どうしてそれを………」

 

驚くシリカを尻目に、相手――――ロザリアは楽しそうに手を差し出し、告げた。

 

「じゃ、早速花を渡して頂戴」

 

キリト………テメェ、釣りやがったな?

シリカのペットを見殺しにすることも、花を取りに行かせることも、こいつらを釣るためだけの過程でしかなかったっていうのか。

 

「なぁアンタら。これが何だか分かるか?」

 

俺の殺気立つ視線を無視してキリトは懐から結晶を取り出しながら敵に歩み寄っていく。

取り出された結晶は、青い。

転移結晶……?……いや、装飾の形からして回廊結晶か?

 

「結晶?それがどうかしたの?」

 

「これは少し前にアンタらに壊滅させられたギルド<シルバーフラグス>の生き残りが、有り金を全てかけて購入した回廊結晶だ」

 

ああーそんなようなギルドがあったかもねーと白々しく言い放つロザリアに、俺は殺意を向け黙らせる。

できることなら今すぐその首掻っ切ってやりたいが、それでは態々キリトが作った舞台をぶっ壊すことになってしまう。

俺は動き出す一歩手前まで殺気を抑え、しかし視線だけは逸らさず気配察知を怠らない。

 

「アンタらにはこの結晶の転移先、獄中に行ってもらう。……力づくでも」

 

「アンタ馬鹿だねぇ。この人数に勝てるとでも?」

 

木陰、草むら。影に身を潜めていた残りの敵が続々と姿を現していく。

その数はおよそ数十。

これを見た皆は恐怖に戦慄する。

ロザリアを除いた全てのメンバーのカーソルが、橙に輝いていることが、この手口の証明だ。

俺はこんなことになるとは考えてもいなかったので、PKKの皆に連絡は取っておらず、今すぐ連絡を取ろうがやはり間に合わないだろう。

しかし今ここにいるメンバーの総合戦力を考えてみると、この少数でも切り抜けることができる。

 

「シリカ、下がっててくれ。いざとなったら転移結晶で逃げてくれ」

 

キリトは転移結晶を押し付けるようにして手渡すと一人先行する。

それを止めようと飛び出すシリカを抑え、事の行く末を見守る。

ロザリアは勝ち誇ったように笑い、攻撃の指示を出す。

 

「ハッハッハ。余程死にたいらしいねぇ!!アンタらぁ!!やっちまいな!!」

 

それを合図に仲間は続々と武器を持ち、ソードスキルを発動してキリトに斬りかかる。

装備を切り裂き、体中が傷口エフェクトに包まれる。

こんな残虐的な戦況に、シリカは絶叫する。

しかし彼女は気付いた。

ロザリアもまた気付いた。

攻撃隊はいくら攻撃し続けても表情一つ変えず、溜まるだけの疲労感に息切れを起こしている。

 

「無駄だ。お前達がいくら攻撃を続けようとも、俺のHPを削りきることはできない」

 

キリトほどのレベルともなれば、基礎ステータスだけでも十分な防御力だろう。

それに加えて最前線で通用するほどの装備。おまけに戦時回復<バトルヒーリング>まで習得しているときた。

一方の相手はラフコフとは比べものにならないほどの雑魚中の雑魚。装備もそこまで質の高い者では無い上にレベルも低いことだろう。それを数で補っているだけの集まりだ。

それではいくら時間をかけようと、倒すことなんてできない。

 

「キリト、お前はこいつらをどうしたい?殺すか?生かしておくか?」

 

「殺しはしない。<シルバーフラグス>の依頼者も、それを望んでいる」

 

「キ、リト………だと!?」

 

敵の攻撃隊の一人が目を見開き、驚愕と恐怖に後ずさる。

そして、それに気付いた男達がその正体を口に出し始めた。

 

「まさか、黒の剣士!?攻略組が何でこんなところに!?」

 

「やべぇよ。俺達じゃ敵う訳がねぇ………」

 

「たかが数字が増えるだけで無茶な差が付く。それがレベル制MMOの理不尽さなんだ」

 

そう、レベルさえ稼いでしまえばどれだけバトルセンス皆無だろうとも勝てる。

レベル制ゲームはこれが長所であると同時に短所でもある。

無論、勝てない訳ではないのだが、脳筋な相手は勝利から大きく遠ざかる。

 

「に、にげ―――――」

 

「逃がすとでも?」

 

チャキッと、首筋に短剣を当てる。

俊敏ステータスをフルで活用し、隠密スキルも併用した俺の高機動を、そこらの素人が簡単に目視できる訳は無く。背後を取られるロザリアは表情を引き攣らせ、それでも余裕を保とうと引き攣ったままで笑みを浮かべる。

 

「あ、アタシを切ればアンタはオレンジになるわよ?」

 

「ああそうだな。喜べよ。PKKの創設者に殺してもらえるんだからよ」

 

キシシシと口角を上げて殺戮の笑みを浮かべる。

PKKの創設者。この単語を聞いた刹那、敵の顔から一切合財の感情が消えた。

まさかこんな所で影の攻略組と呼ばれたPKKギルドの、その親玉と鉢合わせするなどとは考えもしなかっただろう。

PK殺しを主としたPKKならば、この場で殺すことに躊躇いは無い。

そう悟った瞬間、ロザリアは槍を手放した。

戦意は無い。死への恐怖に体からありとあらゆるものが抜けた状態だ。

親玉が瞬時に戦意を喪失したとなれば、場の雰囲気は俺とキリトに支配されたも同然。

 

「さて、おとなしく牢に入るか、この場で皆殺しか。どちらか選ばせてやろう」

 

この脅しともいえる事実上の一択。

集団は戦意を消滅させ、キリトの開いた回廊結晶の中へと姿を消していく。

そして最後の一人が、回廊の中へと―――――

 

「んなところで終われっかよぉ!!」

 

手の剣を振りかざすとキリト達の法へと駆け上がる。

だが、攻撃をさせる時間など与えない。

加速。180度回転。瞬間移動と錯覚できるほどの移動速度。

背後から追い抜き立ち塞がるなど考えてすらいない状況。

驚き、姿勢を崩した敵を仕留めるのは簡単だ。

 

「余計な抵抗は無駄だ。疾く、失せろ」

 

顎へと肘鉄、宙に舞った鳩尾に膝蹴り。一回転からの蹴り飛ばし。

回廊からそれほど距離が無かったので、非力な俺でも回廊へと蹴りいれることができた。

最後の一人を飲み込むと、回廊は縮小し、やがて消滅した。

この場では、誰一人として死者は出さずにことを終える。

 

「すまなかった。君を囮に使うようなマネを………」

 

「まだ終わってねぇぞ!!キリト!!」

 

木々の隙間から迫る煌めきを弾き落とすと逆にこちらが短剣を討ち放つ。

すると男の物と思われる低い呻き声の後、ドサッという落下音が聞こえた。

 

「ho-ho-……鈍っちゃいねぇようだな」

 

この声、喋り方。

 

「皆!!緊急離脱!!敵はラフコフだ!!」

 

「させるかよォ!!」

 

黒い影が木漏れ日の中から飛び出し、影の中から白刃を現すと俺へとその刃を向ける。

背後からの奇襲を想定した訓練を積んできていた俺は、ひらりと回避し、短剣を放つ。

そんなものがPoh相手に通用するとは思っていない。

一つを切り落とされるが残りの二つは命中すらしないと無視してこちらに接近する。

 

「ジン!!」

 

「お前らはいいから逃げろ!!俺も機を見計らって離脱する!!」

 

「分かった!!絶対に生きて戻ってこい!!」

 

キリトは雨のように降り注ぐ投剣と打ち落としながらシリカの元へと駆け寄ると転移結晶で無事に転移する。

ユウキとアスナは4人を相手にしているので逃げることすらままならない状況にある。

しかし俺もPohを相手にしながら他の相手をすることができる訳でも無い。

 

「クソが!!」

 

「テメェの仲間はピンチみてぇだが?」

 

攻撃を掠ることすら許されない。

ラフコフの武器は全て麻痺毒が塗布されている。掠ればすぐに動けなくなる。それは投剣も同じ。

正直この状況を打開するのは困難を極めている。

だが、仲間の死を見たくない。

損失は大きい。

しかし、俺は今それを決行するしか手は無い。

一度きりの、手段。

 

「躊躇ってんじゃ、ねぇぇぇ!!!」

 

自信を叱咤するように叫ぶと、アイテムストレージから大量のポーションを取り出す。

その全てを自身の身体にぶちまけると、Pohを無視してユウキ達の元へと駆けた。

横から、背後から、投剣の雨が襲いかかる。

俺はキリトほど防御ステータスを上げていない。

だが、それでもこれだけの攻撃を受けて死に至らない。

 

「テメェ!!対策してやがったな!!!」

 

物量。それはプレイヤーの数の暴力を現す言葉。

だが、俺の場合は別の物を大量に消費した言葉となる。

大量のポーション。麻痺毒耐性上昇、毒ダメージ軽減、HPリジェネ………

ありとあらゆる薬品の効果を重ねて発動させる。

薬品だって、馬鹿にならない金額が必要となる。だが、命には代えられない。

 

「ユウキ!!アスナ!!」

 

二人に飛び掛かり、押し倒す。

大量の攻撃の嵐に、HPリジェネも追いつかずに、ジリジリとHPを削っていく。

だが、ここまでだ。

 

「転移、フローリア!!」

 

HPのゲージが紅に染まった瞬間、青い光に俺達は飲み込まれた。

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