東方滅身録   作:低蓮

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今回は幻想卿に着いたところまでです。いやあ、やっぱり描写は難しいなぁ…

2015年7月22日 内容を一部修正


綴られるのは

 

 

 俺が此の姿になって、そろそろ百年近くがたっただろうか。あれから、俺はひたすらに人に害をなす妖怪を喰って回った。俺のすべてを奪っていったのは運命であり、また人に害をなす妖怪達でもあった。別に全ての妖怪が憎いわけではないが、俺と同じような境遇のものを少しでも減らそうと、見つけ次第喰っていった。

 どうやら妖喰い妖怪と化した俺の身体は、妖怪を食べれば食べるほど強くなるようで、今やちょっとやそっとの怪我なら瞬時に治ってしまい、片手で地形を変えてしまうことなど朝飯前。

 そんなぶっ飛んだ存在になってしまったせいか、最近は俺の気配を感じただけで妖怪たちが逃げてしまい、何もすることがない日が多くなってきた。なので、相対的にと言うか、物思いに耽る日も多くなってきたようだ。思い出すのは、この姿になったきっかけ。そして、本能のまま妖怪を喰らって歩いた日々。そして---

 

 

---ば、化け物……ッ!

 

 

 たまたま救った人間から浴びせられた、言葉。

 この姿になっていつか必ず言われるだろうと覚悟してはいたが、いざ言われてみると心に刺さるものがある。そして、自分がどんな醜悪な存在なのかを思い知らされた。やはり、そうなのだ。どうあがこうが、今の俺の姿は俺が憎んだ妖怪そのもの。そして人間側から見れば、俺に襲う気はなくても関係なく、憎むべき、討つべき存在。

 

 

---く、来るなぁ!

 

 

 あの時、あの人間はどんな恐怖を味わっていたのだろうか。自分を襲う圧倒的恐怖を、一瞬で葬り去ったさらなる恐怖。それが自分の方に目線を向けた時の、その心境は。

 自分はどんな顔をしていただろうか。その人間を怖がらせるような、凶悪な笑みでも浮かべていただろうか。否定は、できない。妖怪の力が強くなるごとに、人間だった頃の感覚が薄れていっている感覚がして。

 

 

「……ははは」

 

 

 そこまで考えて、自嘲気味に笑う。今、俺はなんて考えた? 「あの人間」? それは、自分を人間として置いていない考え方じゃないか。まぁ、すでに人間ではないから、構わないのだろうが。すでに、人としての生よりはるかに長く、この体で暮らしている。つまりは、そういうことなのだろう。

 俺は考えを切り替えて、ゆっくりと探している「幻想郷」という場所へと考えを移した。それは、曰く「妖怪と人間が共存する、楽園」なのだとか。バカバカしいと切り捨てることもできる。しかし、確かに憧れのようなものがないとも言い切れない。

 

 

---もし、そんな所があれば。親父も、里の皆も、死なずにすんだのだろうか……

 

 

 「幻想郷」のことを考えるたびに首をもたげる、ひとつの願望。それは、決して叶うことのない、虚しいもので。「幻想郷」話を聞いた時、まず一番に沸き起こったのが、妬みや憎しみといった、負の感情。どうしてそんなものがあるのか。知っていたら、そこに住んでいたら……ひと通り怨嗟の声を吐き出してから、再度思う。行ってみたいと、見てみたいと。強く、強く強く。

 俺はため息をつくと、何度もしてきたように、頭を軽く振って邪念を振り払う。運命さえねじ曲げられる俺の能力を持ってしても「失われた命の蘇生」は叶わなかった。

 

 

 俺の能力。「すべてを無に帰す能力」は、文字通りすべてのものを無へと帰す能力だ。この能力に気がついた時、初めに思ったことは里の皆を蘇らせること。「皆が死んだという事実」を無に帰せば、また元気な皆に会えるんじゃないかという淡い期待。しかし、それはあっけなく裏切られる。死を回避することはできても、死から蘇るすべは、やはり無いようだ。その時は落胆したが、この「すべてを無に帰す能力」はなかなかに使い勝手がいい。代償が自分の肉体というのが少々苦痛だが、傷自体はすぐに再生してしまうため、ほとんど無限に使えると言っていいだろう。どこからか、チート乙、というフレーズが浮かんできた。どういう意味なのだろうか。

 

 

「……さて、と。さっきからの違和感は、これのせいか」

 

 

 俺は一見なにもないところで止まった。なぜだかは分からないが、さっきから違和感が酷かったんだ。異様な、それでいてとらえどころのない感覚。

 

 

「結界……ってやつなのかな」

 

 

 恐らく、相当規模のでかい結界。「幻想郷」について聞いた話の中に、結界で閉ざされている、といった内容を耳にしたから、多分これで間違いないだろう。着いたからには、善は急げというやつだ。

 

 

「さすがに結界全部を無効化したらまずいよなぁ……よいしょっと」

 

 

 俺は、結界に何とか通れる程度の穴を開けた。この穴も長く放っておくと危険なのだろう。通ったあと、しっかりと閉じておいた。あたりを見回すと、あまり外と変わらない風景が飛び込んでくる。

 

 

「さてと……ここが幻想き「ちょっといいかしら?」ょう……ん?」

 

 

 なんだろうか、声が聞こえたような。俺はもう一度あたりを見回すと、先ほどまでいなかった人影が2つ、此方を睨んでいる。片方は、少し長身の少女といったところか。今の俺からしたら、十分に背が高いと言っていい。金色の髪に、同じく金色の瞳。手には傘を持ち、口元を扇子で覆っている。もう一つの人影は、此方も金髪・金の瞳。身長は隣の少女よりやや低いか。両の手を袖の中に隠しながら、冷ややかに此方を見下ろしている。何よりも特徴的なのが、その身の後ろから扇状に伸びる、九つの尾。つまるところ…

 

 

「…妖怪か」

 

 

「あら、貴方も妖怪でしょう? 人喰い妖怪ならぬ、妖喰い妖怪さん」

 

 

「へぇ、知ってるのか。俺も随分と有名になったようだな」

 

 

「ええ、それはもう。人を襲わず、妖怪だけを襲う妖怪なんて珍しいじゃない?」

 

 

「……まぁ、言われてみりゃそうだわな」

 

 

 確かに、そんな物好きな妖怪は俺だけだろうと、今更ながら苦笑してしまう。軽口を叩き合ってはいたが、未だ二人の視線は鋭いままだ。

 

 

「……あなた、何のようでここに来たのかしら? 確か、結界を貼っていたと記憶しているのだけれど」

「ん? あぁ、結界なら通り抜けてきたぞ。一応直しておいたから、平気だとは思うが」

 

 

 俺の言葉に、長身の少女はぴくりとまゆを動かした。どうやら、結界を通り抜けた、の部分に反応したようだ。

 

 

「……そんな簡単に結界を抜けられてしまっては、自信をなくしてしまうのだけれど」

「はは、気にすんな。俺の能力と相性が悪かっただけだ」

「はぁ、噂通り馬鹿げた能力ね…」

 

 

 

 

 

「あぁ、ところでさぁ」

 

 

 

 

 

 俺が何気なく放った一言。しかしそれは、先ほどまでと纏っている雰囲気が少し違う。さすがに二人も気がついて、少しばかり身を固くしている。

 

 

「お前ら、妖怪なんだろう? …俺が何の妖怪か、知ってるよな?」

 

 

 ニヤリ、と笑う。そう、どうあれ俺は妖喰い妖怪。目の前に妖怪がいるのなら、それはただの捕食対象でしか無い。

 

 

「…ッ! 貴様、紫様に向かってそのような口の聞き方を!」

 

 

「したから、どうするっていうんだ?」

 

 

「知れたことよ!」

 

 

 一言叫ぶと同時、九尾の妖怪が大規模魔法を行使する。詠唱がないことを考えれば、規格外に強いことが分かる。おそらく、魔法の使い手としてはかなりの腕前なのだろう。巨大な魔法陣から火炎の槍が複数発射され、更に俺の足元から蔦が出てきて動きを封じる。なるほど、動きを封じた上で確実に仕留めるのだろう。

 

 

「だけど、甘いんだよなぁ」

 

 

---通常の妖怪相手なら、これで十分だったのだろうが、俺にこんな手は通用しない。

 

 

「な……ッ」

 

 

 迫り来る火炎の槍に向けて僅かに開いた右の手を向ける。たったそれだけの動作で、九尾の妖怪が行使した魔法がすべて消失する。ただし、俺の右腕も道連れとなって消えてしまう。まぁ、すぐに再生するからいいんだけどね。

 

 

「これで終わりか? あっけないな」

 

 

「……貴様ァ!」

 

 

 俺の安い挑発に引っかかって、九尾の妖怪が突っ込んでこようとする。腕はいいようだが、おつむの方は少々弱いようだ。俺は、ただその場に立って迎え撃とうとする。

 

 

「……ッ! 藍、待ちなさい!」

 

 

 長身の紫と呼ばれた少女のほうが、気がついた様子で制止するがもう遅い。藍と呼ばれた九尾の妖怪は、勢いを殺せずに突っ込んでくる。俺はニヤリと笑うと、食べるために少し身をかがめ---

 

 

---ガチン

 

 

 見事に空振った。食べようとした瞬間、目の前におかしな空間の切れ目が生じ、そこに藍が吸い込まれていった。慌てて追いかけようと口を伸ばしたのだが、一歩間に合わずのがしてしまった。

 

 

「……邪魔しやがって。空間でも操れるのか?」

 

 

「まぁ、似たようなものだと考えて頂いて構わないわ」

 

 

「…………」

 

 

「おぅおぅ、開いた口が塞がらないって顔してるぜ。藍とやら」

 

 

 どうやら先程の切れ目のようなものは、出口を自在に設定できるようで、いつの間にか藍は紫の後ろにへたり込んでいた。今度は俺がおちょくっても大した反応は示さなくその目は俺が伸ばしている口の部分に注がれている。口、と言っても顔の方に付いている口ではない。俺には、妖怪を捕食するための器官が腰のあたりに付いている。普段はしっぽのように細いものが二本付いているだけのように見えるが、一度食事の時間になると太さが何倍にもなり、ある程度の大きさの妖怪ならば一口で丸呑みできる。目の前にいる藍や紫も例外ではないだろう。それが二本、自分が先ほどまで居たところに噛み付いていたのだから、驚かないわけがないか。

 

 

「……あなた、名前をなんて言ったかしら?」

 

 

「んん? なんだ、俺が有名ならてっきり知っているのかと思っていたが」

 

 

「「名もなき者」、だったかしら? でも、それは名前ではないわよね。私はあなたの名前が聞きたいといっているの」

 

 

「…残念ながら、今は「名もなき者」で正解だ。本当の名前なんざ、当の昔に捨てちまったさ」

 

 

「……そう、なら名無しの妖怪さん。幻想郷は、全てを受け入れるわ。勿論、貴方も」

 

 

「へぇ? 剰えお前ら二人を食べようとした俺を受け入れるなんて、幻想郷(ここ)も器が広いなぁ?」

 

 

 皮肉を効かせていったつもりだったが、紫の反応は悪い。俺のことをじっと見つめており、どうしたのだろうかと訝しげに眉をひそめると。

 

 

 

 

 

「……あなた、最初から私達を食べるつもりなんてなかったじゃない」

 

 

 

 

 

「……へぇ、根拠は? なんでそう思った」

 

 

「簡単なことよ。貴方、さっき藍の魔法を打ち消したでしょう? あんなことができる

なら、私達に直接能力を使って食べることもできたはず」

 

 

「……もしかしたら、相手に直接能力は使えないのかもよ?」

 

 

「それでも、他にいくらでもやりようはあったでしょう? 貴方がそこまで馬鹿な妖怪だとは思えないし、何よりも、殺気が全く感じられなかったのよ」

 

 

「…………」

 

 

「まだ、納得しないかしら?」

 

 

「…いや、いいさ。確かに、俺には明確に喰ってやろうってつもりはなかったしな」

 

 

 だが、と一呼吸おいて話しだす。

 

 

「今はなくても、これからもないとは言い切れないぜ? お前が迎え入れようとしているのは、こういう存在だ」

 

 

「…取り敢えず、今そういうつもりがないのなら、問題ないわ」

 

 

「そうかい」

 

 

「ええ、そうよ」

 

 

 そう言って、紫は扇子で口元を隠すと優雅に一礼した。

 

 

「幻想郷の賢者の一人にして、この世界の維持管理を担当しております、八雲 紫ですわ。こっちが私の式の八雲 藍。主に私の補佐をやってもらっています。さて、ようこそ幻想郷へ、名無しの妖怪さん。我々は、そして幻想郷は貴方を歓迎しますわ」

 

 

 再度優雅に礼をしながら、その姿を切れ目の中に落としていく。こう何回も見ると、さすがにそれが何なのか少しだけわかってきた。恐らく、あれは別空間につながっている「隙間」なのだろう。さしずめスキマ妖怪といったところか。

 

 

「あぁ、よろしく頼むぜ。世界の管理者さんよ」

 

 

 俺は閉じゆく隙間に向かって一言そう言うと、踵を返して森へと足を向けた。ひとまず、寝床を確保しないといけないな、という考えを浮かべながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Yakumo Yukari and Ran side

 

 

 

「藍……大丈夫かしら?」

 

 

「…………」

 

 

 私が声をかけても、藍は力なく首をふるだけで返事を返さない。それほどまでの恐怖を、あの少女から感じたのだろう。無理もない、直接対峙したわけではない私ですら、うっすらと冷や汗をかいたのだ。それを目の前に感じた藍の恐怖は計り知れないだろう。

 私は藍に声をかけるのを諦めると、先ほどの少女---「名もなき者」と名乗っていた---へと考えを移す。確かに、恐ろしいまでの威圧感と、雰囲気を纏っていたが、どうにも様子がおかしかった。口ではやれ喰ってやるだの何だのと言っていたので、ただの思慮が短絡な妖怪かとも思ったけれど、目を見た瞬間そんな評価は消え去った。その、とてもよく澄んだアクアカラーの瞳の奥には、とても悲しげな色が宿っていた。まるで、本心とは別の言葉を無理矢理発しているのを我慢しているような。苦しさ、辛さを押し殺しているような、そんな色が。

 その時、私は思ったのだ。これほどまでに力を持った妖怪が、なぜそんな瞳をするのか。知りたい、と。もっと良く知ってみたいと。これほどまでに想い焦がれたのは何時ぶりだろうか。だから、私は彼女を歓迎した。少なくとも、人間に害を与える類の妖怪ではないし、幸いよく話し合えば分かってくれる程度の知能も持っている。

 今の幻想卿の現状は、決して芳しいといえるものではないけれども、彼女の存在はいつかきっと何かの起爆剤となり、幻想卿に良い影響を及ぼす、と。そんな気がするのだ。

 

 

「そういえば……」

 

 

 ふと言葉を漏らす。藍は未だに立ち直れていないようだが、今気にするべきことはそこではない。

 私は、今までの彼女の言動を思い返す。そして、一つの疑問にたどり着いた。

 

 

---何故、彼女は己のことを「俺」と呼ぶのか。

 

 

 確かに、中性的な顔立ちで己のことを「僕」と呼ぶ娘に会ったことがないわけではないが、「俺」と呼ぶ娘には流石にあったことがないし、何より彼女の容姿は明らかに女の子だ。それも、十歳くらいの。幼女、と呼べるか呼べないか位の生粋の女の子。なのに、己のことを「俺」と呼ぶからには、何かしら事情があるのだろう。

 

 

「……ふふふ、興味が尽きないわね。彼女は」

 

 

 最近、色々なことに東奔西走していたのだから、これくらいの御褒美があっても罰は当たらないだろう。必ず彼女の秘密を暴いてやろうと、少しうきうきした気持ちで隙間を開いた。手始めに、未だに立ち直れていない藍をどうしたものかと、少しばかり頭を悩ませながら。

 

 

 




 今回も、最後まで見て下さった方、本当にありがとうございました。UAが二桁行くなんて思ってませんでした。え、二桁くらいで喜ぶな? すみません、正直読んでもらえるとすら思っていなかったもので…。今回も、誤字脱字には気をつけておりますが、もしありましたら感想欄でご指摘下さい。小説の感想書いて頂いても……良いんですよ……?(上目遣い
 さて、次回の投稿は8月に入ってからだと思います。もし、次の話が早く読みたい! という物好きな方がいらっしゃいましたら、感想欄に「早く次の話出せ馬鹿」
と送っていただきますと、執筆速度が上がるかもしれないです。
 それでは、遅くても8月にまたお会いしましょう!
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