東方滅身録   作:低蓮

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 バトル回といったな、あれは嘘だ……!

 どうも、吸血鬼異変まで話を持って行こうとしたら予想外のところで文字数を使ってしまい、やむなく次回に回した能なし作者が通りますよっと。

 次回こそはバトル回になります。もう会話とか少なめに完全バトル回です(たぶん無理です)。

 今回は主人公が色々自分に能力を使用したことと、人里に足を踏み入るきっかけのようなもので終わっています。あと、運命に抗おうと自ら行動起こしました。どうなるんだろうか(
 紅魔勢が幻想郷に転移してくるまでの経緯も少しだけ書いてみたのですが、予想以上にレミリアがアホの子になってしまった。カリスマを何処へ落としてきたのだろうか。次回までには拾ってきてくれると信じています。

 それでは、また次回、8月中にお会いしましょう


歩み方

 俺が幻想郷へ来て、約半年が経過した。ここでの生活は決していいものとはいえないが、別段不便というわけでもなく、特に不自由は感じていなかった。一つだけ残念なことがあるとすれば、食事についてだろうか。ここの妖怪たちは我を失ってしまった奴以外は基本的に人を殺さない。当然、俺もバランスがどうのということで暴れだした妖怪以外は口にできず、基本的には人間が食べるようなものを食べて過ごしていた。実を言うと、今の俺の身体は1日どころか百年だろうとものを食べなくても平気なほど妖力を蓄えてあるのだが、人間の頃に覚えた僅か数十年にも満たない習慣が体にこびりつき、何かを口に入れないと落ち着かなくなってしまっている。

 というわけで俺は、「人里」と呼ばれる人間たちの集まるここへと足を運んできた。

 初めにここへ来た時は、能力で「恐れ」を消していたにも関わらず不安で仕方がなかった。人里には無害な妖怪ならば立ち入ることが許されている、とは聞かされていたが、それと恐れられないことはイコールで繋がらない。仮にも幻想郷で1、2を争うほどの妖力を秘めているらしい俺が、はたして人里に入れてもらえるのか、入れてもらえたとして、どのような目で見られるのか。悶々と考え続けていた俺は、はじめから予想を裏切られることとなった。

 

 

『……人里では面倒事を起こさないように、それさえ守れば自由に出入りしていいぞ』

 

 

 人里の守護者と名乗る半獣人(名前は慧音というらしい)からそう言い渡されて、俺は一瞬あっけにとられた。いくらなんでも、初めて合う相手を一目見ただけで無害と断じ、剰え監視の目すら付けないとはどういうことだろうか。俺としては気苦労がなくて助かることなのだが、いくらなんでも警備としてざる過ぎはしないだろうか。俺がそう問いかけると、慧音は一瞬不思議な目つきをすると、穏やかな口調で答えを返してきた。

 

 

『目を見れば、相手が良い奴か悪い奴かぐらいの見分けはつくさ。お前の目は、とてもいい色をしている。だから、人里で問題を起こすようなことはないだろうし、いざという時人里を守ってくれるだろう、という打算もあるんだ』

 

 

 なるほど、有害な妖怪は人里から締め出しつつ逆に無害な妖怪は人里に引き入れて、他の妖怪に対する抑止力にも使うということか。目を見て判断するというのはなんだかいい加減な気もするが、それで人里の安全が保たれているところを見ると案外平気なのかもしれない。そして、多少面食らいつつも人里の中へ足を踏み入れた俺は、更なる驚きを味わうこととなった。

 

 

 里人たちの視線、それは予想していたような恐れと蔑みが入り交じっているようなものではなくて。まるで幼子を見守るかのような優しげな視線(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)。この容姿故か、会う人会う人が気遣わしげな視線を送ってくる。今でこそ背中の羽は収納しているが、当時は広げられた羽と腰から伸びる二本の「尾」がこれでもかというくらい人外感を醸し出していた。にも関わらず、里人たちのあの視線。やや呆然としながら周囲を見回した俺は、その日三度目の驚きを味わった。何気なく目に止まった酒場、そこでは妖怪と人間が楽しげに酒を酌み交わしていた(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)。本来ならば喰う喰われるの関係性なのに、この人里と呼ばれる場所では人妖お構いなしに皆が暮らしている。「楽園」、ふと以前聞いた幻想郷についての噂を思い出した。なるほど、たしかに楽園だろう。人間と妖怪が共存しているこの場所は。

 

 

 少しばかりもの思いにふけっていた俺は、肩を叩かれて意識をその場へと戻した。振り返ると、そこにいたのは当代の巫女。彼女は幻想郷のバランスを守り博麗大結界を維持する任を持つ、人間の中では最強と謳われる部類の人だ。どれくらい強いかというと、中級妖怪までならば能力を使用せずとも肉体言語で対等に語り合える程には強い。そして、彼女の能力は「殴り合える程度の能力」。彼女と相手の間にいかなる障害があろうとも、その能力はすべての障害を乗り越えて彼女の拳を相手へと届ける。言い換えれば「確実に相手へと拳を届かせることができる能力」。

 一見無敵のように感じるが、この能力が機能するのはあくまで殴りあうところまで。拳自体の威力を上げたりはしないし、当然殴り返されれば怪我をする。ましてや相手は妖怪、生半可な攻撃では傷ひとつ付けられない上に、相手の攻撃はそのどれもが致命傷になりかねないもの。ならば、何故この巫女が最強と謳われているのか。それは彼女の人間離れした身体能力にある。彼女は扱える陰陽術のすべてを肉体の強化にのみ使い、その拳は地を刳り、岩をも砕くほどだ。肉体の強化と言っても当然限界はあるので、巫女の体は常にボロボロ。手や体には未だに癒え切っていない生傷がところどころに見受けられる。

 たった今もそうだ。ちょうど妖怪退治から戻ってきたばかりなのか、その巫女装束は血に濡れ白い部分がほとんど残っていない。それが返り血なのか、あるいは巫女自らの血なのかは見当がつかない。

 

 

「…俺に話しかける前に、まず着替えてきたほうがいいんじゃないか?」

 

 

「残念ながら、他の装束も似たり寄ったりだ」

 

 

「そうかよ……そんな血まみれの格好で外で歩くなんて、ガキの成長に悪いんじゃないか? 慧音が飛んでくるぞ」

 

 

「問題ない……ところで、ここで何をやってるんだ?」

 

 

「見てわからないか? 蕎麦食ってるんだよ」

 

 

 俺はこれみよがしに蕎麦を持ち上げてみせる。ここの蕎麦はうまい、それこそ妖怪を喰らっている時には感じられない、別種の満足感が湧いてくるほどに。と言っても、妖怪を食べるときはこっちの口ではなく、腰から伸びるこの二本の「尾」で食べるため、味なんかはわからないのだが。

 美味そうに蕎麦をすすっていると、やけに視線を感じたので巫女へと視線を送ってみる。そこには興味深げな表情をして此方を観察する巫女の姿があった。

 

 

「……なんだよ。蕎麦食ってるのがそんなに珍しいか? これでもここへはちょくちょく来ているんだが」

 

 

「いや…蕎麦を食べに来ているのはたまに遠くから見かけるから知っていたのだが……」

 

 

 そうやって言葉を濁す巫女の続きが気になって、視線だけで続きを促してみる。

 

 

「本当に表情が動かないものだな、と思ってな。私はお前が感情を発露しているところを見たことがない」

 

 

 それはそうだろう、俺は自身の能力で表情というものを消した。己の内心を不用意に外に表してしまうのは危険なことだし、そもそも他者との関係構築を前提としていない俺にとっては完全に不要なものだからだ。だから俺は、何を当たり前のことを、と言った風に肩をすくめた。

 

 

「そりゃそうだ、俺は自分から能力で表情を消してるんだからな。不都合なんてないだろ?」

 

 

「気持ちの問題だ。自分が作ったものを食べた者が、表情をぴくりとも動かさなかったら不安に思うだろ」

 

 

「そうか、そりゃ悪かったな。今度からは一口食うごとに、美味いって叫んでやるよ」

 

 

「そういう問題じゃないんだがな……」

 

 

 巫女が呆れたように俺を見つめてくるが、何も俺だって本気で言っているわけじゃない。話を流すために強引に結論へと持って行っただけだ。それ以降巫女が俺になにか言ってくることもなく、俺もただ無心で蕎麦をすすっていく。無言でそばを啜り続ける妖怪と、それを同じく無言で見つめる巫女。なんとも奇妙な空気が流れ始め、そろそろ居た堪れなくなってきたタイミングで、ふと馴染みのある気配を感じ取って周囲を見回す。それは巫女も感じたようで、俺と同様に周囲を見回し、二人で同時に ソレ を見つけた。

 

 

「紫か…どうかしたか?」

 

 

「……なんだか大事な話のようだな、俺はここいらでお暇させてもらうか」

 

 

 巫女がソレ---裂け目にそう声をかけると、中から扇子で口元を隠した紫がスッと姿を表した。表情は穏やかそうに見えるが、その目を笑っていない。何か重要な事を伝えに来たのだろう。それを察して俺はその場からさろうとしたのだが、紫に「まちなさい」と声をかけられてその場に止まる。

 

 

「博麗の巫女だけに伝えたいことなら、一人の時に来るわ。貴方にも聞いてほしいことなの、ここに残ってもらえるかしら?」

 

 

「…どうせ断ったって、後で来るつもりなんだろ」

 

 

「さぁ、どうかしらね」

 

 

 クスクスと笑ってはいるが、やはりその眼差しは真剣そのものだ。俺は大人しく席に座り直すと、何時でも良いぞというふうに話が始まるのを待った。隣では巫女も静かに紫が話を切り出すのを待っている。

 

 

「---来る満月の日、西方より強大な妖怪たちが幻想郷へと攻めこんでくるわ。そこで貴女達の力を貸して欲しい」

 

 

「……前にも言っただろ? 俺が幻想郷(ここ)のために力を貸す理由がない」

 

 

「あら、なら貴女は外界で人間を襲う妖怪を殺すとき、なにか人間を救う理由があったのかしら」

 

 

「……俺は元々人間だ」

 

 

「そう、でも今は妖怪よ。人間の味方足り得ない存在」

 

 

「……なら---」

 

 

「---聞いて頂戴。確かに貴女には幻想郷を守る理由なんてないかもしれない。けれども、西方から来た妖怪たちに幻想郷が攻めこまれれば、妖怪たちに大きな損害が出る。人里にも影響が及ぶかもしれない。貴方にここに住む人達を見殺しにすることができるかしら?」

 

 

「…………さぁな」

 

 

「そう……無理に、とは言わないわ」

 

 

 紫は俺から視線を外すと、巫女へと視線を移した。巫女がただ無言で頷くと、紫は少し瞑目してから「ありがとう」とつぶやいた。それから再び俺に視線を戻すと、一言、期待しているわと言い残し隙間の中へと消えていった。

 

 

「それじゃ、私はいってくる」

 

 

「人間のあんたがいって、無事に帰ってこれるとは思わないんだが」

 

 

「……あぁ、そうだな。最悪死ぬかもしれない」

 

 

「ならなんで。妖怪に任せておけばいいんじゃないのか?」

 

 

「一つ、いいことを教えよう」

 

 

 巫女は俺の正面に立つと、真直ぐに俺の目を覗きこんできた。その眼差しはどこまでも真剣で、けれどもある種の温かみのある光を宿していた。

 

 

 

 

 

 

「人を助けたいと思うことに、明確な理由などはいらない。相手が人であろうが妖怪であろうが、助けたいと、力になってやりたいと思えばそれだけで十分なんだ」

 

 

 

 

 

 

 そう言って俺の肩をぽんと叩くと、めったに見せない笑顔を俺に向けて立ち去っていった。俺は巫女の後ろ姿を見つめながら、今しがた言われた言葉を反芻する。助けたいと、力になってやりたいと思えば。俺は果たして人里を、ひいては幻想郷をどう思っているのだろうか。来たばかりの頃はなんとも思っていなかった。しかし、人里へ初めて来た時から少しずつだが考えが変わっていくのを感じていた。

 俺が人間だった頃、無情にも牙を向いてきた理不尽という名の運命。必死に抗おうとして、けれども決して抗いきれなかった運命に俺は抵抗を諦め、ただなすがままの日々を過ごしてきた。けれども、人里で暮らす人間や訪れる妖怪を見ているうちに、ふと思ったことがある。妖怪は人間を襲い「畏れ」を集め、時には喰らい、やがては退治される。人間も同様に、妖怪に襲われ、畏れ、恐怖し、殺される。やがては力を持ったものが妖怪を退治する。襲い、襲われ。殺し、殺され。この関係が人間と妖怪の宿命、ある意味では運命と呼べるものだ。だというのに、この幻想郷()はその運命を変えてみせた。運命という不確定なものに抗ってみせたのだ。なれば、俺にだって抗えぬ道理はない。

 

 

 果たして、俺の運命とはなにか。このまま戦いを無視し、ただ人に害なす妖怪を見つけては殺すことだけが俺に許されたことなのか。それはちがう(、、、、、、)。ならば、紫の申し出を受けて幻想郷の妖怪たちとともに襲撃してくる者たちを撃退することだろうか。いや、それもちがう(、、 、、、、、、)

 

 

 敷かれたレールの上をただその通りに動くだけでは、ただ運命に従っているだけに過ぎない。では、運命に抗うとはどういうことか。俺は、どうすれば運命に抗うことができるのだろうか。悩み、考え、俺はひとつの答えを導き出す。

 

 

「---次の満月は……3日後か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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Remilia Scarlet side

 

 

 

「いよいよ、ね」

 

 

 親友の少しばかり緊張した声を聞きながら、私は閉じていた目をうっすらと開ける。目の前に広がっているのは、複雑で巨大な魔法陣。どういう仕組で、何の法則に則って描かれているのか、知識のない私には検討もつかない。けれども、その効果は知っている。この魔方陣が引き起こすはずの現象を思い浮かべて、柄にもなく気分が高揚する。

 

 

「そうね、ひとまずご苦労。よくやってくれたわ、パチェ」

 

 

「レミィ、いっておくけどね、この魔方陣は構造が複雑だからデリケートなの。流し込む力の量を間違えれば、最悪暴走だってありえるわ」

 

 

「……何がいいたいのかしら」

 

 

「浮かれるのはいいけど、そのせいで館の転移が失敗しても知らないわよ」

 

 

 どうやら、親友---パチュリー・ノーレッジには私の心境のことが駄々漏れだったようだ。慌ててパチェから顔を逸し、揉みほぐす。それからカリスマが溢れていそうな威厳のある表情を創ると、再びパチェへと向き直って告げる。

 

 

「ひとまずご苦労。よくやってくれたわ、パチェ」

 

 

「そこからやり直すのね……」

 

 

 呆れたようにため息を吐かれた。そのことに、すこしばかりむっとしてしまう。なんだか、さっきまで必死に雰囲気を作ろうとしていたのに、台無しになってしまった気分。ええ、そうですとも。柄にもなくなんて言ったけど、私自身浮かれやすいのはよく知ってることだわ、だけどね。

 

 

「何よ、常々カリスマがどうのこうのと、口うるさく言ってくるのは誰だっけ?」

 

 

「貴女の場合、すでにカリスマがどうのというレベルじゃないことに最近気がついたわ。どういう思考回路をしていれば大事な会議に寝巻き姿で現れられるのかしら」

 

 

「…っぐ、あれはその、あれよ」

 

 

「一体どれのことかしら」

 

 

「うー……っは! そう! 直前まで寝ていて、会議に遅れそうになったから急いで向かったのよ! やっぱり当主は時間を守らなくちゃねぇ……!」

 

 

「いや、凄いドヤ顔で力説されても困るのだけれど。大体、夜行性のあなた達のためにわざわざ会議の時刻を深夜にしたのに、どうして直前まで寝ていたの……?」

 

 

「美鈴とお喋りしていたら、いつの間にか寝てたのよ。私は悪く無いわ、つまらない話をした美鈴が悪いのよ」

 

 

「と言うより、あの門番また仕事サボって……今度、きつくお仕置きしてあげなくちゃ」

 

 

 傍から見れば、パチェはただまゆを少しばかり動かしただけで、そこまで怒っていないように見えるが、それは違う。パチェは普段、まゆどころかその表情をめったに動かさない。私といるときはよく笑ったりしているんだけど、それもなんだか作り笑いのような気がする。確証はないんだけどね。とにかく、そのパチェがまゆをぴくりと動かしたということは、相当怒っている証拠。美鈴、かわいそうに。私は心のなかで美鈴に合掌をした。

 

 

 私が静かに門の方向へ手を合わせていると、此方のやっていることを確認したのか、パチェがまた一つ盛大なため息を投下した。

 

 

「ねぇ、レミィ? 私達が転移先に攻めこむ表向きの理由(、、、、、、)はなんだったか、覚えているかしら」

 

 

「……バカにしているのかしら。勿論覚えてるわよ、東方の妖怪どもが腑抜けてるから、一つガツンとかましてやって、目を覚まさせようってことよね!」

 

 

「……正確には違うのだけれど、まぁ、そういう認識でも構わないわ---なら、裏向きの理由(、、、、、、)は?」

 

 

 パチェがそう問いかけてきた時、私の表情が自ずと真剣なそれに変わったのがわかる。そんなもの、わかりきったことじゃないか。すべての行動は、あの娘のため。たった一人、孤独を抱えている最愛の「家族」のために。

 

 

「言うまでもないわ」

 

 

「そう、ちゃんと覚えているのならいいわ……さてと、そろそろ頃合いのようね」

 

 

 パチェが窓の外へと視線を移しながらつぶやく。私も釣られて窓の外を見つめると、そこには綺麗な満月が浮かんでいた。満月、それは私達吸血鬼にとっては最高のコンディションで戦えるということを示している。私は小さく深呼吸をすると、むん、と気合を入れなおす。もうふざけてなどいられない、あの娘の運命を変えるために私が頑張らなくちゃいけないんだ。

 

 

「それじゃ、いくわよパチェ」

 

 

 言葉少なく告げると、満月から与えられた膨大な力を一気に魔法陣へと流しこむ。思うのは、ただあの娘のことばかり。ここ暫くまともに会えてもいない。笑顔なぞ、何時から見れなくなったのか……絶対に、あの娘の運命は私が変える。この「運命を操る程度の能力」と、何より私自身の力で---

 

 

「---ミィ、ちょっとレミィ! レミリア!」

 

 

「……ふぇ? な、何よパチェ」

 

 

「何よじゃないわよ。さっきの私の説明聞いてた?」

 

 

「説明って……この魔方陣が起動すれば館ごと転移するんでしょ? ちゃんと聞いてたわよ」

 

 

「その後よ、後。魔法陣がどうだったか」

 

 

「えぇと、確か魔法陣は構造が複雑だから……あ」

 

 

 魔法陣へと目をやると、今にも爆発しそうな魔力の奔流が渦巻いていた。慌てて力を注ぎ込むのをやめたのだが、依然として魔法陣は溜めすぎた魔力をその内で渦巻かせている。

 

 

「……これ、どうなるの?」

 

 

「わからないわ、ただひとつ、暴走状態に入ったってこと以外は」

 

 

 呆れてものも言えない、という風に肩をすくめられたが、今回ばかりは私が完全に悪かったので何も言い返せない。

 

 

「一応衝撃に備えておいたほうがいいわ、最悪ここらの地形をまるごと削りとっておかしな場所に転移するかもしれないし」

 

 

「え、ちょっと待ってそれは本当にやばい気が---」

 

 

 私がそこまで言いかけたところで、突如魔法陣からすさまじい量の光が漏れた。それはあっという間に私の視界を覆い尽くし、何も見えなくなってしまう。

 

 

「え、ちょっとパチェ。これ大丈夫? 爆発とかしない?!」

 

 

「満月なんだからちょっとやそっとの爆発じゃ死なないでしょ、それに一応成功したみたいよ。良かったわね」

 

 

「一応ってなんだかすごく不安な---」

 

 

 またも私は最後まで言葉を続けることができなかった。次に襲ってきたのはすさまじい揺れ。地震なんて生ぬるいものじゃなくて、空間自体が揺れているような、そんな感覚。

 

 

「ちょ、ま、きゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 私はカリスマなんてかなぐり捨てて必死で叫んだ。何がカリスマだ、何が吸血鬼だ。私だって怖いものは怖いし、気が動転すれば叫んでもしまうんだ。

 

 

---あぁ、もうやだお家帰りたい

 

 

 今いるところがお家なんだよ、というツッコミはついぞ飛んでこず。その日西方のとある地域で、強烈な光と幼い少女の悲鳴をまき散らしながら、ひとつの館がまるまる消滅した。

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