東方滅身録   作:低蓮

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 やったよ、やっと戦闘だよ! でも何故こんなに戦闘時の緊迫感が伝わってこないのかなぁ……!

 というわけでお待たせしました、ようやくまともな戦闘シーンです。予想以上に字数が嵩んだため、主人公の名前は次回か次々回になりそうです…何この先見のなさ。
 しかも肝心の戦闘のシーンが点で駄目っていうね……もうあれだ、どうしてこうなった(絶望


 戦闘シーンは諸事情のため、第三者視点で描かれております。なんか回を追うごとに文章がひどくなっていくような気がしますが、どうぞゆっくりご賞味下さい。





 あ、お腹を壊さないようお気をつけて(


闘争

 ついにやってきた満月の夜、俺は東の空に巨大な光の柱が立ち上ったのを見て確信した。

 

 

---奴らが来たんだ、と。

 

 

 俺は視線を光の柱から自分の手元へと落とすと、静かに瞑目した。紫から奴らの話を聞いてからここまで、俺はひたすらに準備を重ねてきた。運命を覆すために、己の余分なものはすべて打ち捨てる覚悟で。

 

 

---まず、痛覚を消した。痛みで行動が鈍るといけないから。

 

 

---次に恐怖心を消した。これも行動が鈍るといけないという判断からだ。

 

 

---慈悲の心を消した。これからやることに、相手への一切の慈悲は必要ないから。

 

 

---悲しむ心を消した。そんなものに囚われている暇はないから。

 

 

---消した。消した。消した消した消したけしたけしたけしたけしたケシタケシタケシタケシタケシタ……

 

 

 能力を使って余分なものを切り捨てていく。能力を行使するたびに俺の中からごっそりと何かが切り取られていく感覚を覚えるが、無視して行使し続ける。たとえ己の「存在」すら無に還してしまおうと、それが必要なことならばそれさえ厭わない。一つずつ確実に、考えつく限りのものを消していく。

 この能力を使ってきて、一つ新しく分かったことがある。それは、この能力で消したものは(、、、、、、、、、、、)能力を解除しても元には戻らないということ(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)。完全に消さなければ、例えば「存在の力」を能力で消える一歩手前まで消した時は、能力を解除すると同時に元の大きさまで戻ることは確認してある。けれども、完全に消してしまった時は何をしようがもとには戻らなかった。

 故に、俺が今まで消してきたものはすべて、どうしようとも帰ってこない。俺は永遠に痛みを感じることもなければ、何かにおびえたりすることもない。つまり、ただ己の目的だけを求める伽羅倶梨仕掛けの人形のような存在に成り果てたわけだ。それをどうにか思う気持ちすら俺の中にはすでにない。あるのはただ、目的を遂げようとする意思のみ。

 

 

 閉じていた目を静かに開けると、先程まで光の柱が立っていたところにはもう何も見えない。けれども場所は把握した、俺は妖力を羽に伝わらせ大きく広げると、そのまま宙へ飛び上がろうとした。

 

 

「---ねぇ、どこへ行くつもり?」

 

 

 突如として響いてきた声に、しかし一切の気の乱れもなく俺は返答する。

 

 

「どこへ行こうと俺の勝手だろ」

 

 

「そうかな。そうかもね。でも、私にだって君がどこへ行くか知る権利があると思わない?」

 

 

「思わないな、何を根拠にそんな馬鹿げた発想に至ったんだ?」

 

 

「友人がこれから死ににいくつもりなのかもしれないのに、黙って送り出すほど私は薄情者じゃないさ」

 

 

 俺はその言葉に、静かに振り向く。案の定というか、そこにいたのはルーミアだった。俺を見る目は真剣そのもので、止めるためならば実力行使も辞さない、というような雰囲気を身にまとっていた。けれども、そこはどうでもいい。俺が振り向いた理由はひとつ、ルーミアの発言を訂正するためだ。

 

 

「何を言ってるのかよくわからないな。俺とお前は友人同士じゃない(、、、、、、、、、、、、、)

 

 

 冷たく言い放つ。最初に出会った時はルーミアの持つ独特の雰囲気に思わず流されかけてしまったが、今はそのようなことはありえない。だからこそ俺は、冷たい声で顔見知りの相手へと(、、、、、、、、、)言葉を投げかけることができる。ルーミアは俺の言葉に一瞬悲しげな顔をしたが、すぐに表情を戻すと毅然とした態度でこちらを見据えてきた。

 

 

「君がどう思おうと、私のほうが君を友人だと認めている。だから、やっぱり黙って見送る訳にはいかないかな」

 

 

「ずいぶん一方的な友情だな」

 

 

「ははは、そうかもね、でも今はいいんだ。君は---」

 

 

 

 

 

 

 

「---君はどこかが狂い始めている。根本的な何かが歪にゆがんでいる。正気の沙汰とは思えないよ、いったい何が君をそこまで狂わせたのかな?」

 

 

 

 

 

 

 その言葉を受け、俺は少しだけ考えてみる。何が俺をここまで駆り立てるのか? ……答えはすぐに出てきた。逡巡する必要もない、俺が今までずっと考え続けていたこと。

 

 

「……運命」

 

 

 ぽそりと告げた言葉に、ルーミアはあまり反応を示さない。それはまるで言葉の続きを待っているかのようで、だからこそ俺は言葉を紡いだ。

 

 

「俺がこうなったのは運命によるもの。俺がこの姿になったのも運命だろうし、お前とこうやって話しているのも運命なんだろう。もしかしたら、俺がこれからすることも定められた運命の内側なのかもしれないな。けれども---」

 

 

 そう、けれども。けれども俺は、運命に抗うと決めた。親父を失い、お袋も殺され、一度は運命には抗いきれないとあきらめた。だからこそ(、、、、、)俺は他者とのつながりを断ち切った(、、、、、、、、、、、、、、、、)。俺の運命とは酷いものだ、常に誰かを巻き込み命を奪ってしまう。それが見知らぬものだったならばまだ負担も軽かっただろう。けれども失うのは決まって親しかった者ばかり。俺と関わると碌なことがない、事実こんな俺を慕ってくれた彼女にも(、、、、)運命は容赦なく牙をむいた。今も脳裏によぎるあの光景、里は火に呑まれ、人々の怨嗟の声が響く。あたかも俺の故郷のや着回しのような光景を前に、俺は動くことができなかった。俺がいなければこうはならなかったと、己を責めた。運命を呪った。

 

 

「---俺は運命に抗うと決めた。たとえ命を失おうが、忌々しい運命から逃れられるのならそれでも構わない」

 

 

 切掛はなんだったか、それはハッキリしない。ルーミアや紫達妖怪のためかもしれないし、人里含め人間たちのためかもしれない。もしくは、この幻想郷そのものが理由だったかもしれない。切掛は些細なものだったとしても、抱いた決意は揺るがない。 それを邪魔する奴はたとえ誰であろうと排除するのみ。俺はルーミアに視線を定めると、静かに構えた。

 

 

「だから、そこを……道を開けろ、ルーミア」

 

 

「やっぱり、止まらないんだね---君も(、、)

 

 

 ルーミアは悲しそうに呟くと、周囲に蠢く闇を展開させる。彼女の能力は「闇を操る程度」。つまり、夜は彼女の独壇場というわけか。

 

 

「絶対に行かせない……今度こそ止めてみせるよ」

 

 

「強情だな。だったら仕方がない……!」

 

 

 俺はルーミアを睨みつけると、羽に貯めておいた妖力を爆発させて一気にルーミアとの距離を詰める。

 

 

「強引にでも通らせてもらうぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満月---それは多くの妖怪に多大な影響を及ぼす物。月の満ち欠けは妖怪の妖力の量に影響を及ぼし、その振れ幅が最大になるのが満月の夜。基本的には満月だからと興奮する妖怪は少ないが、今宵はそうもいかなかった。

 満月の下で争う2つの影。片方が妖力弾を無数にばらまいて攻撃しようとすると、もう片方が黒い障壁のようなものでそれを防ぐ。お返しとばかりに妖力弾を防いだ黒い障壁(よく見ると蠢いている闇そのものだと分かる)が妖力弾をばらまいていた方に襲いかかると、触れる寸前に姿が掻き消え離れたところに再度姿を現す。2つの影の攻防は、周囲に大きな音と破壊を振りまきながらおよそ30分ほども続いている。

 

 

「くそ、随分と攻守に優れた能力だな……!」

すり抜けて(、、、、、)

 

 妖喰い妖怪が苛立ちとともに吐き捨てる。先程から彼女の放つ妖力弾は、全てルーミアの操る闇に防がれており、ならばと接近しようとすれば闇に押し包まれそうになるので攻めあぐねているのだ。

 

 

「君の能力もかなり厄介だとは思うけどね……瞬間移動のようなものまで出来るのかい?」

 

 

「正確には瞬間移動じゃねぇけどな……っと!」

 

 

 死角から襲いかかってくる闇を、妖喰い妖怪は周囲に放っていた濃厚な妖力の結界で感じる取ると、間一髪で身を躱した。それを待っていたかのように、闇が隙間なく妖喰い妖怪を包み込んだ。ルーミアはそのまま容赦なく闇をこぶし大まで小さく縮める。もし中に妖喰い妖怪が入っていれば、間違いなく闇に喰らいつくされているだろう。そう、もし入っていたならば(、、、、、、、、、、)

 

 

「おっかねぇな、止めるって言ってる割には随分と容赦がないようだが?」

 

 

 振り返ると、そこには変わらずといった体で佇む妖喰い妖怪の姿があった。

 先程から続くこの戦闘、30分間続けてお互いにいまだ一発も攻撃を当てられていない(、、、、、、、、、、、、、、)。妖喰い妖怪の攻撃はルーミアの闇に、反対にルーミアの攻撃は妖喰い妖怪の瞬間移動もどきに、防がれ、もしくは躱されていた。一見互角な勝負に見えるが、それとは裏腹にルーミアの表情には焦りの色が浮かんでいた。

 

 

---彼女が操る闇には決定的な弱点がある(、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 

 それは、戦い続けていればそのうち気が付かれてしまうこと。気が付かれないためには早々に勝負を終わらせるしかない、だというのにルーミアは妖喰い妖怪が使う瞬間移動もどきの正体さえ掴めていなかった。だからこその焦り。そしてその焦りは、この戦闘において致命的なものだった。

 

 

「なっ---あぐぁ……?!」

 

 

 もう何度目かわからない妖喰い妖怪の妖力弾の嵐に対して、ルーミアはまたもや周囲に闇を展開して防御行動を取る。今までの焼きまわしのような光景。勿論、結果も今までと同じものだと妖喰い妖怪もルーミアも思っていた。事実、結果も変わらなかったのだろう。

 

 

 ルーミアが今までより一瞬早く(、、、、、、、、、、、、、、)攻撃に移らなければ(、、、、、、、、、)

 

 

 そう、たった一瞬。たった一発の妖力弾によってこの戦闘は終わりを見せることとなった。焦りからか、ルーミアが自分に当たらないと見切った妖力弾を防がず、前方に展開していた闇を妖喰い妖怪に向かって飛ばした。だから気が付かない、気が付けない。見切ったうちのたった一発が、運悪く後ろに立っていた樹の幹を破裂させてしまったことに。

 炸裂音に驚いて振り返ったルーミアは、子供の腕の太さは有ろうかという大きさの破片が、後方に展開していた闇をすり抜けて(、、、、、)飛んでくるのを目撃する。とっさに腕をクロスしてガードをするが、直後腹部にすさまじい熱を感じてうめき声を上げる。貫通こそしなかったが、ルーミアの腹部には幹の巨大な破片が深々と刺さっていた。

 そして、この光景を見て気が付けないほど妖喰い妖怪は愚かではなかった。

 

 

「なるほどな、咄嗟に反応できなかったのか、それとも操る量に限度があるのかは知らねぇが、お陰でお前の防御を崩す方法を思いついたぜ」

 

 

 妖喰い妖怪は羽に妖力を送り込み体を浮かせると、そのままルーミアの周囲を凄まじいスピードで飛び回りながら妖力弾を放っていく。前から、後ろから、様々な方向から飛んでくる妖力弾を、ルーミアは闇を展開し時には飛びのきながら躱していく。防ぎきれなかった妖力弾の下を間一髪でくぐり抜けながら、ルーミアは必死で回避し続ける。しかし、先程から続く戦闘の疲れと腹部の痛みが、ついにルーミアの足を縺れさせた。ここぞとばかりに打ち出された妖力弾がルーミアに殺到する。断続的に続いた炸裂音と舞っていた土埃が収まると、服がぼろぼろに破け息も絶え絶えになった状態で地に伏しているルーミアが姿を表した。

 妖喰い妖怪は地面に降り立つと、腰から伸びる二本の「尾」のうち、一本をルーミアへと向けた。

 

 

「悪いが、また追ってこられても困るんでな。暫く追ってこれないように足を喰わせてもらうぞ」

 

 

「---あああああがぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 伸ばした「尾」の先端がバックリ割れると、そこから覗くは無数の歯。妖喰い妖怪はそれをルーミアの足にかざすと、容赦なく噛み付いた。骨を砕く音とルーミアの叫び声が森にこだまする。右足を喰われ体力の限界を迎えたルーミアは、苦悶の表情を浮かべたまま気絶した。それを暫く無表情で見下ろした後、妖喰い妖怪は顔を上げある方角へと目を向ける。

 

 

「随分時間を食ったが……まぁ、そんなに問題はないな」

 

 

妖喰い妖怪は改めて羽に妖力を流し体を持ち上げると、光の柱が立ち上った方角へと一直線に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 妖喰い妖怪が飛び去ってしばらくしてから、うめき声とともにルーミアは目を覚ました。腹部に走る鈍痛とそれ以上に焼けるような右足の痛みが、ルーミアに先ほどの勝負の結果を自覚させる。

 

 

「また、駄目だったんだね……」

 

 

 呟きとともに眼の奥から悔しさがこみ上げてくる。また、と彼女は言った。それは、彼女が同じようなことを繰り返し経験していたのか、それとも同じ経験を繰り返しているのか(、、、、、、、、、、、、、、)。それは誰にもわからない。ルーミアは涙を流しながら、それでもその瞳には諦めの色は浮かんでいない。

 

 

「絶対に諦めないよ……□□□」

 

 

 能力を使い徐々に体を闇に沈めていきながら、ルーミアは決意を込めた声でつぶやく。その声は夜の闇に吸収され、ルーミアが去った後再び沈黙が訪れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わずかの疲労をものともせずに、俺は数十分前に光が立ち上った場所へと急いでいる。ルーミアとの戦闘はある意味予想の内で、30分ほど時間を食ったが決して無駄ばかりではなかった。巨大な力を持った妖怪との戦い方、彼女はこれを俺に考えさせてくれた。今までのように、完全に能力に頼ってばかりではこの先戦えない。ルーミアと戦った時に咄嗟に考えついた瞬間移動と変わり身のように、戦い方を考える必要がある。

 

 

「---必要があるんだけどな……こうやっていざ考えてみようとすると、何も思いつかねぇわ……」

 

 

 誰にともしれず、独りごちる。正直元来の頭の悪さを嘆きたい気分だが、そうもしていられない。これからさらに幾戦もこなさなければならないため、気持ちを戦闘用に切り替えておかなければならない。

 ふと目をやると、進行方向の空が断続的に赤く光り時折低い振動音が腹に響いてくる。すでに外来妖怪と幻想郷の妖怪たちとの戦闘は始まっているようだが、恐らくまだ俺の計画に支障はないだろう。そう考えると、俺は目的地まで敵に見つからないように、能力で己の存在感を極限まで消して(、、、、、、、、、、、、、、、、)隠形をしながら飛び続ける。

 進むに連れて戦闘音は大きくなり、時折どちらのとも付かない妖怪が側を横切ったりするのだが、全く気が付かない様子で飛び去っていく。それはそうだ、俺のこの隠形を見破れるものなどほとんどいないだろう。得意げになりつつも更に急ぎつつ飛び続けると、ようやく視界がひらけ目的地が見えてきた。霧が立ち込める湖、その畔に酷く浮いた感じの館が鎮座していた。全体的に紅を基調とした配色で、どうしてか窓は少いようにも見える。

 そしてその前方、此方から見たら手前に位置する正門とみられる場所には、一匹の妖怪が立ちすくんでいた。その周辺には無数の妖怪の亡骸が横たわっている。その妖怪に挑んで敗北した者達の亡骸だろうか。

 

 

「まて、誰だかわからんがそこにいるやつ、姿を現せ」

 

 

 俺は特に感慨も浮かべずその近くを通り抜けようとしたが、突如響いた制止の声に驚いて動きを止める。振り返ってみると、じっと此方を見据える先ほどの妖怪の姿があった。目は合わない、つまり此方の姿が見えているわけではないのだろうが、どういう理由からか「居る」という気配を悟られたらしい。

 大人しく隠形をとくと、少し驚いたような表情になった後、再び此方を睨み据えながら言葉を発した。

 

 

「この館に何のようだ。この先には館の主、レミリア・スカーレット様とそのご友人、パチュリー・ノーレッジ様しか居らんぞ」

 

 

「おいおい、そんなことペラペラ喋っていいのか? 俺はまさにその主ってのに用があってきたんだぜ」

 

 

「……? そうか、レミリアお嬢様に用があるというならばまず、この門番の紅美鈴を通してもらおうか」

 

 

「悪いが急いでるんでな、お取次ぎは頼まねぇぞ」

 

 

 言うと同時に、やや不意打ち気味に妖力弾による弾幕を放つ。壁のように迫る弾幕に対して、しかし美鈴と名乗った門番は動じない。静かに構えを取ると、見たこともないような型で拳と脚を振るっていく。斜めから、下から、横から様々な角度で繰り出される攻撃に放った弾幕が当たる度、軌道がそれて弾かれていく。ついに俺の攻撃を、その場から一歩も動かず無傷で防ぎきった美鈴は、先ほどとは打って変わった冷静な戦闘者の眼で俺を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

「急いでいようがいまいが、礼儀作法(マナー)は大切だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美鈴が妖喰い妖怪の攻撃を防ぎきった後、両者の間には再び沈黙が訪れた。美鈴の眼は妖喰い妖怪を「敵」として見定めており、反対に妖喰い妖怪は感情のこもらない眼で美鈴を見つめている。暫くの沈黙のうち、近くで鳴り響いた爆発音を合図にしたかのように、妖喰い妖怪が美鈴に向けて一直線に迫る。突き出した右手の指先からは妖力で形作った剣のようなものが伸びており、その照準はピタリと美鈴の胸元を定めていた。中距離からの爆発的な加速、並の妖怪であれば反応すらできないで命を散らしていたであろうその攻撃を、美鈴は僅かに重心を逸らすだけで躱してみせた。

 

 

 否、躱しただけではない。突き出された腕をそのまま脇に抱き込み、突進のエネルギーを自らも回転することによって方向を変え威力を増幅させたうえで、その全てを妖喰い妖怪を地面に叩きつけることで地面へと散らす。美鈴はすぐさま飛び退くと、用心したように距離を開けながら妖喰い妖怪の様子を窺った。激しい衝撃音ともうもうと舞う土埃が威力の大きさを物語っていたが、一方の妖喰い妖怪も、わずかに怪我を負ってはいるがさしたる外傷は見受けられない。

 

 

 まさに一瞬の攻防を経て、両者は三度対峙した。片や美鈴は先程から変わらず独特の構えをとっており、片や妖喰い妖怪はダメージを感じさせない体で立っている。

 

 

「貴様を叩きつけた時、確かに手応えはあった。なのにどうしてかダメージがない、貴様の能力によるものか?」

 

 

「もしそうだったとして、それを素直にしゃべると思っているなら少し馬鹿にしすぎだな」

 

 

「すまんな、相手が強ければ強いほど気になってしまう質なものでな……!」

 

 

 美鈴は表情を獰猛なそれへと変えると、妖喰い妖怪の元へと一直線に走って行く。妖喰い妖怪はそれを見て、またも弾幕を展開しながらだんだんと後方へと下がっていく。距離の利を活かし、引き撃ちを続けながら体力を消耗させる腹づもりなのだろう。しかし妖喰い妖怪が考えているほど、美鈴の戦闘法は単純ではなかった。

 

 

「ハァァァァァァァ!!」

 

 

 美鈴が走りながら体の横に両手を固定させ、気合をほとばしらせる。すると、向かい合わされた手のひらの間に練り上げられた気の塊が形成されていく。彼女---美鈴の持つ能力は「気を使う程度」。己の内に流れる「気」を自在に操れる美鈴は、一箇所に気を集中させて攻撃の威力を上げることもできれば、逆に相手からの衝撃を緩和させることもできる。また---

 

 

「---星脈弾!」

 

 

 美鈴は気を放出し、離れた相手に攻撃することもできる。

 掛け声とともに、形成していた気の塊を弾幕へ向けて開放する。開放された塊は大きな「弾」となって駆け抜けて行き、触れた先から弾幕を消し去っていった。弾幕には大きな穴ができ、美鈴はそこを駆け抜けながら妖喰い妖怪へと向けてスピードを落とさずに突っ込んだ。

 

 

「デヤァァァァァァ!!」

 

 

「---ッ!」

 

 

 踵落としを放つ美鈴に対し、妖喰い妖怪は両の手をクロスさせてガードする。しかし、美鈴は鍛えぬかれた「武人」。磨かれた技の威力に加えて、的確に集めた気で威力を増した彼女の踵落としは、やすやすと妖喰い妖怪のガードを崩した。轟音を上げ地にたたきつけられる妖喰い妖怪に、美鈴は再度容赦なく攻撃を仕掛ける。

 

 

「---地龍天龍脚!」

 

 

 激しい踏み込みに地が揺れうごき、臥せっていた妖喰い妖怪の体が反動で中へ浮く。そこに美鈴の気を込めた飛び膝蹴りが炸裂した。凄まじい勢いで吹き飛ばされた妖喰い妖怪は、館を囲む塀に突き刺さり轟音とともに一部を崩した。

 

 

「---あ、しまった。門番のくせに侵入経路を広げてどうするの、とか言われてまたパチュリー様に叱られてしまう……!」

 

 

 先ほどの表情は何処へやら、今度は叱られることを怯えて顔を青ざめさせる美鈴。「また夕飯抜きにされてしまうぅ!」と頭を抱え始めた美鈴に、ツッコミを与えるものはその場には---

 

 

「---おい、夕飯の心配をする前にまず目の前のことを心配したらどうだ?」

 

 

 不意に聞こえてきた声に、美鈴の動きがピタリと止まる。声のした方向へ目を向けると、全身がぼろぼろになり大量の血を流しながらも、変わらずの無表情で美鈴を見つめる妖喰い妖怪の姿があった。

 

 

「……貴様、それほどの怪我を負ってなお…… 本当にどういった伽羅倶梨なんだ?」

 

 

「だから誰が教えるかと、さっきも言っただろうが」

 

 

「一つ、これでわかったことがある。少なくとも貴様は、ダメージは負っている。なのにどういうわけか痛みを感じてはいない(、、、、、、、、、、)、違うか?」

 

 

「……さあな」

 

 

「まあいいさ、仮に貴様が痛みを感じようが感じまいが、次の一撃で確実に仕留める」

 

 

 再び気を集中させながら構えを取る美鈴に対し、妖喰い妖怪は感情を伺わせない口ぶりで告げる。

 

 

「そうだな、次の一撃で終わらせよう(、、、、、、、、、、、)

 

 

 無防備に近寄ってくる妖喰い妖怪に美鈴は多少訝しげな表情を作ったが、すぐに獰猛に嗤う。

 

 

「面白い! どちらの奥義が勝るか、勝負と行こうか!」

 

 

 美鈴は腰の位置に拳を溜め、最大限の気を集中させる。一方妖喰い妖怪は無防備としか取れない歩みで美鈴との距離を詰めていく。その距離はどんどん縮まっていき、ついにお互い手を伸ばせば触れ合える距離にまで縮まった時に、美鈴が仕掛けた。

 

 

「貴様が痛みを感じないというならば、五体をバラバラにして二度と動けんようにしてやるまでさ!」

 

 

 叫ぶと同時、体内の気を一気に膨れ上がらせる。

 

 

「破!」

 

 

 ---高められた気が、全て右の拳に収束していく

 

 

「山!」

 

 

 ---腰を捻り溜めを作った後で、拳を抑えるように掴んでいた左手をはなす

 

 

「砲ォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

 

 ---腰のひねりまで加えた恐ろしい威力を秘めた拳が、真直ぐ妖喰い妖怪へと向けて放たれる。

 破山砲、その名の通り山をも崩す威力を秘めた技であり、まともに喰らえばどんな上級妖怪だろうと一溜まりもないだろう。それ程までに技の練度は高く、美鈴の奥義の凄みが伝わってくる。しかし、妖喰い妖怪はその一撃を片腕を体の前に突き出すことで(、、、、、、、、、、、、、、)ガードしようとした。

 

 

「それで止めるつもりか?! やれるものならやってみろおぉぉぉぉ!!」

 

 

 嗤う美鈴の拳が、ついに妖喰い妖怪の突き出された腕と付き合わさる。触れた瞬間、妖喰い妖怪の腕は僅かに後ろへと押し戻され---

 

 

「---は?」

 

 

 それだけだった(、、、、、、、)

 山をも崩す威力も、恐ろしいまでの気も、全て腕を少し押し戻しただけで消えてしまった。

 

 

 ---信じられない。それが、美鈴の今の心境だった。当たれば必殺、まさに奥義として相応しい技だと信じていた。そう、今の今までは。だというのに、今何が起こったというのだろうか。たった数センチ、腕を押し戻す程度の威力しかないとでも言うのだろうか。

 

 

 混乱。絶対の自信が打ち砕かれた焦燥。それは、「武人」としての美鈴を狂わせ。

 

 

「---な、しまっ……?!」

 

 

 妖喰い妖怪に懐へと潜り込りこむことを許してしまった。押し当てられた拳、何の威力もないそれに、しかし美鈴の背筋に凍るような寒気が走った。

 

 

 |一体、この妖怪は自分の奥義を防いだ腕で何をするつもりなのだろうか《、、 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、》?

 

 

 直後、妖喰い妖怪の呟きとともに、美鈴はその答えをその身を持って知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

「無手---異趣返し」

 

 

 

 

 

 

 押し当てられた拳に途方も無いエネルギーが蓄積されると、唐突に山をも崩す(、、、、、)威力で撃ちだされた。それを胴にまともに喰らった美鈴は、声を発するまもなくボロ布のように吹き飛ばされる。まるで先ほどの破山砲をそのまま再現したかのような威力、その攻撃は受けた美鈴は勿論のこと、繰り出した妖喰い妖怪にまで大きなダメージを与えていた。その腕はひしゃげ、指は関節を無視して折れ曲がっている。妖喰い妖怪の表情には未だに痛みの色はないが、通常の者だったら立っていることすらできない大怪我だろう。しかし、妖喰い妖怪はそんな腕を気にした風もなく、吹き飛ばされた美鈴の行方を眼で追っていた。

 

 

 一方の美鈴は、先ほど妖喰い妖怪が突き刺さった場所の近くに轟音を立てて落下した。体はボロボロ、いたるところから出血しており、内臓にも相当なダメージがいっている様子だが、意識だけははっきりした様子で虚空を見つめている。やがて、自らに近づいてくる足音を察知しそちらへと目を向けた。視えたのは妖喰い妖怪、彼女も似たり寄ったりの状況だが、なぜだか怪我を苦にした様子が見られない。そのことに僅かばかりの苦笑を漏らすと、美鈴は妖喰い妖怪へと問いかけた。

 

 

「なんだ、私に……とどめを刺しに……きたのか?」

 

 

「そうだ、と言ったらどうする? まだ抵抗するのか?」

 

 

「は、ははは……まさか。もうそんな気力も……残ってはいないさ。それも運命だと、受け入れるよ」

 

 

「運命……か。理不尽だとは思わないのか?」

 

 

「所詮世の中は、弱肉強食……敗者は言い訳すら……させてもらえないんだよ」

 

 

 息も絶え絶え、と言った風に時折言葉を支えさせながら、それでも美鈴は晴れやかな顔で言葉を紡ぐ。それは、美鈴が最後まで「武人」だったということの証明。強い相手と戦って死ねる、それは「武人」としての最高の死に方だった。

 

 

「未練はあるが……いっても栓のない、ことだ……さあ、やるならやれ……」

 

 

 美鈴は目を瞑ると、妖喰い妖怪に向かってそう告げた。未練、それは言いつけを守れなかったこと。「門を守れ」といった命令を守りきれなかったこと。たったそれだけが、美鈴の未練であった。

 

 

「レミリアお嬢様……パチュリー様……申し訳、ありませんでした」

 

 

 小さく呟くと、来るべき死を迎えるべく静かに待った。しかし、何時まで待っても何も起きないので、怪訝に思いながら目を開ける。すると、此方を凝視していたらしい妖喰い妖怪とばっちり目があった。暫く見つめ合った後、美鈴が怪訝そうに問いかける。

 

 

「どうした……やらないのか……?」

 

 

「別に……お前を殺しに来たわけじゃない。俺はこの館の主に用があるだけだといっただろ。門さえ通れるんだったら、わざわざお前を殺す理由もない」

 

 

 その言葉に、美鈴はあっけにとられた後、思わずといったように笑い出してしまった。先ほどまで殺るか殺られるかの戦いをしていたつもりだったが、どうやら自分は手加減されて生きながらえたらしい。侵略してきた敵を生かしておくとは、なんという甘さだろうか。そう考えた直後に、その甘さに救われた自分を思い出して更に笑いがこみ上げてくる。

 

 

 ---久々に全力を出し切った勝負だった。そしてその上で敗北し、尚生きることを許された。

 

 

 怪訝そうな表情が消え、晴れ晴れとした表情で気の緩みからか気絶した美鈴を見ながら、妖喰い妖怪は静かにつぶやく。

 

 

 

 

 

 

「あと少しだ。あと少しで手が届く……そんな気が、する」

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