さて、今回は主人公の出番はあまり無いですね。肉体派巫女さんがレミリアと殴りあう回です。っていうか、そろそろ主人公に名前つけてあげないと呼びにくいなぁ……
---痛みがないというのは、なんとも不思議な感覚だな。
俺は戦いでボロボロになった体を見下ろしながら、素直な感想を抱いた。ボロボロ、と言っても粗方の傷はすでに癒えており、目立つ傷は飛び膝蹴りを受けた腹部と、無理な力を加えられて砕けた右腕のみ。
この2つは、癒え切るのにかなりの時間がかかりそうだな。と、右腕が暫く使えないことに若干気落ちしながら、先ほどの戦闘を思い出してみる。
---美鈴が最後に放った、破山砲という名の凄まじい攻撃。さすがに、あんなものをまともに喰らっていたら五体満足ではいられなかっただろう。俺の回復力がどの程度なのかはいまいち把握しきれていないが、この回復力を持ってしてもあの攻撃を喰らうのは不味い、と本能が告げていた。
あの時、俺がとっさにとった行動は考えてやったものではなかった。それなのに、体が勝手に動いたと、そう表現してもいいくらい滑らかに一連の動作は行われた。美鈴の攻撃が来た時、俺は咄嗟に右手を前に突きだしていた。攻撃しようと思ったわけではないが、冷静に考えてみれば片腕であの攻撃を防げるとは思えない。それでも、何故か回避をしようという考えは浮かばなかった。そして、俺の手のひらに美鈴の突き出された拳が触れた瞬間、俺は能力を作動させた。
そしてその後、半ば放心状態だった美鈴に接近することは、何の苦もなかった。やすやすと懐に潜り込んだ俺は、何の抵抗も受けずに右手を腹部へと押し付けられた。それ自体は蚊も殺せぬほどの、攻撃とすら呼べない代物。けれども、それで問題ない。なぜなら、俺はまだ
能力を解除すると同時、先ほど感じていた凄まじいエネルギーが再び荒れ狂うのがわかった。そして、そのエネルギーが一気に美鈴の方へと流れると同時に、まるで巨大な磁場が発生したかのように、触れ合っていた拳と体が弾かれる。
美鈴の体は後方へ、俺の腕は弾かれた衝撃でズタズタになった。痛みは消してある、だから痛いとは思わなかった。けれども、腕の中に異物が入っているような、とても嫌な感じ、それがずっと続いている。能力で消すことも考えたのだが、感覚すべてを失うのはまずいと思い、結局そのままにした。
そして俺は、改めて館へと視線を向ける。窓がほとんどない、紅で染め上げられた奇妙な館。屋根の中央部には巨大な時計塔があり、それも合わさってとても周囲から浮いている。館の色は、ドクドクと流れ出る血を連想させるようで、少なくともみていて楽しいものではない。すでに門番が不在の門を後にし、俺は館の方へと歩みを進めた。先ほどの門番の口振りから察するに、この奥にはこの館の主が居るらしい。頭を討ち取れば、この騒動にも終止符が打たれるだろう。そうすれば、少しは抗えたことになるかもしれない。俺に関わったものが不幸になるという、その運命に。
「ーーー今夜も月がきれいだな。そうは思わないか、妖怪?」
不意に頭上から注がれる声。見上げると、満月をバックに一つの影が浮かんでいるのが分かる。シルエットは小さい、しかしその身から溢れ出している妖力の大きさは、俺さえ凌ぐほどだ。おそらく、奴がこの館の主で間違いないだろうが、念のため聞いておくに越したことはない。
「お前がこの館の主か?」
「……その様な些末なことを知って、なんになる?」
「お前がこの館の主であるなら、ぶっ殺してこの騒ぎを静める。違うのなら、倒した後主の居場所をはいてもらう」
「……ククク、威勢のいい奴だ。安心しろ、この私がこの館の、紅魔館の主、レミリア・スカーレットで間違いない」
「よかった、だったら話はずっと簡単だな。後はお前を殺すだけなんだから」
「クハ…ハハハ…ハッハッハッハッハ! そうか、殺すか! この私を! こんなきれいな満月の夜に!」
「突然笑い出しやがって、いったい何がおかしい?」
「いやはや、久しぶりにおもしろい冗談を聞かせてもらったよ。私をーーー吸血鬼を、月夜の下で殺そうというのだからな!」
吸血鬼---レミリア・スカーレットと名乗るその影は、心底可笑しいといったふうに笑い続ける。暫くするとようやく笑いを引っ込め、ゆっくりと時計台へと着地する。それにつれ、徐々にその素顔も明らかになってくる。幼子といっても良いくらいの、小さな体。そして、背からのびるはコウモリのような形をした羽。全身から並々なら無い程の妖気を放ちながら、しかしその表情を見るとどこか奇妙な感じもする。
「---お取り込み中失礼しますわ?」
俺が奇妙な感覚に、内心首をひねっているとどこかで聞き覚えのある声が聞こえてくる。振り返ってみてみると、博麗の巫女と紫が連れ立って歩いてくるところだった。レミリアも俺から目を移し、紫たちの方を一瞥する。しかし、すぐにつまらなそうに不機嫌な表情を貼り付けて紫たちを睨みつけた。
「来客が多いな……いかにも胡散臭そうな妖怪一匹に、人間が一人か。見ての通り、私は客人との歓談中だったんだ、よもやつまらない用向きでこの様な無粋な真似をしたわけではあるまい?」
「つまらないかどうかは貴女の捉え方次第、私共には分かりかねることですわ」
「ふん、遠回しな言い方を……単刀直入に聞いてやろう。お前らの要件は何だ?」
「では、単刀直入にお返しいたしますわ---今すぐ抵抗をやめて、投降なさい。外の吸血鬼共はあらかた始末したわ。もう、貴方達に勝ち目はない」
「何を言うかと思えば……投降しろ、だと? たかが下っ端吸血鬼共を始末したからといって、思い上がるなよ妖怪が。満月の下では
レミリアは高らかに言い放つと、凄まじい量の妖力を高密度な弾幕に変換し、周囲にばらまいた。紫は結界で、博麗の巫女は己の身体能力で、それらの弾幕を躱していく。それた弾が地面をえぐるたびに大きな衝撃が生まれ、一発一発がどれほどの威力を秘めているのかがよく分かる。紫ならいざしらず、博麗の巫女が一発でも被弾したら唯ではすまないだろう。更に、時折紫が反撃の妖弾を放つのだが、レミリアは一歩も動いていないというのに、弾ははるか後方にそれていってしまう。
「無駄だ、どうしようとも私に攻撃をあてることはできない。---当然、勝つこともなぁ!」
「……っく、弾幕が濃くて近づけん。紫、一瞬だけでいい、あの弾幕を止めることはできないか?」
「一瞬ならなんとか……でも、何をするつもりかしら?」
「弾幕が当たらないのなら、近くに行って殴り飛ばすのみだ」
「それは……危険ですけど、効果的ではあるわね。それでは、一瞬だけ弾幕を防ぎます、後は任せるわよ?」
「あぁ、任せておけ」
紫と博麗の巫女が何やら相談をしたかと思うと、突如紫の妖力が跳ね上がった。普段俺や誰かを相手にしている時とは比べ物にならないくらいに膨れ上がった妖力は、ものすごい重圧とともに周囲へ溢れ出る。これが紫の本気か、と俺はすこしばかり驚いた。薄々気がついていたが、彼女もやはり大妖怪の一人、ということだろう。紫はその怪しく光る双眸をレミリアに向けると、小さく、しかし重みのある声でつぶやいた。
「深弾幕結界-夢幻泡影-」
「……これは」
レミリアは今の状況にすこしばかり驚いていた。いや、困惑していたというべきか。目の前で妖怪と巫女服が相談を始めたかと思うと、突如として妖怪の方の力が跳ね上がった。更に、妖怪が技名らしきものを一言つぶやくと、レミリアの周囲に圧倒的な物量の弾幕が展開され、さながら結界のように襲いかかってきた。その弾幕はレミリアの能力故に当たることはないのだが、あまりに濃い弾幕のせいでレミリアは二人を見失っていた。しかし---
「---確かにこれだと私は動けないが、奴らはどうやって私を攻撃するつもりだ?」
そう、濃い弾幕はレミリアの行動を阻害する結界として機能すると同時に、
「なに……!?」
レミリアの周囲を覆っていた弾幕に、突如として大きな穴があいた。そこから勢い良く通ってくるのは、巫女服を着た人間、博麗の巫女。当然、もし博麗の巫女が生身だったなら、紫渾身の弾幕結界に触れただけで血煙と化していたであろうが、彼女の周囲には紫の防護結界が貼られている。無論そう多く耐えられるものではなく、弾幕結界を抜けてきた時点ですでにぼろぼろだったのだが、博麗の巫女としては抜ける時の唯一回さえ耐えてくれれば問題なかった。
「ハァァァァァーーーーーーーーー!」
「くッ……!」
巫女が放ってきた渾身の回し蹴りに、僅かに反応の遅れたレミリアは回避を諦めて防御姿勢をとった。小さな体躯に突き刺さる豪脚、いかにレミリアが吸血鬼といえども、鍛えぬかれた巫女の蹴りを防ぎ切るには至らず、勢い余って吹き飛ばされた。レミリアが弾幕結界を突き破って吹っ飛ばされたのを確認した紫は、即座に結界を解除。その直後には、巫女が飛ばされたレミリアに追い打ちをかけるべく一直線にレミリアの方へと向かっていった。
「……ッ! くそ、やってくれるじゃ---」
「ッフ!」
「---?!」
空中で姿勢を立てなおそうとしていたレミリアの腹部に向けて、かかと落としを叩き込んだ巫女。轟音とともにレミリアは地面にたたきつけられたが、まだ巫女の攻撃は終わっていなかった。
「儚!」
掛け声と同時に巫女は地面へと凄まじいスピードで加速し、勢いをそのままにしてレミリアの鳩尾に肘鉄を食い込ませる。大量の血を吐きながらも、意識をかろうじてつなぎ留めたレミリアは、巫女へと死角から腕を振りぬいた。しかし---
「脆!」
巫女はそれを読んでいたかのように、左腕でレミリアの腕を下から弾き、防いだ。それだけに留まらず、弾いた腕を下げた右腕で絡めとり、しっかりと腋に抱え込んだ。そして腋に一気に力を入れる。
「がァァァァァァァァァーーーーーーーーー?!」
バキ、と嫌な音が周囲に響いた。それは、レミリアの腕がへし折られた音。直後に、凄まじい叫び声が周囲にこだまする。レミリアはなんとか巫女から逃れようと暴れるが、巫女はびくともせずにレミリアの折れた腕を抱えたままだ。いや、それだけではない。
「裂!」
再度の掛け声とともに、レミリアは奇妙な浮遊感を覚えた。なんてことはない、ただ単純に足払いをされただけだ。完全に両足が地面から離れてしまったレミリアは、腕を拘束されているために自由な姿勢制御ができずに、そのまま背中から地面にたたきつけられた。勿論ただ叩きつけられただけでなく、巫女のボディープレスも相まって地面が陥没する程の威力のおまけ付きだ。
「波ァァァァァァァァァァァァァァ!!」
そして、恐らく最後の掛け声とともに、巫女の豪腕が振り下ろされる。慌てて防御しようとしたレミリアだが、此処であることに気がついた。巫女はボディープレスしたあとに、馬乗りのような姿勢に移行していた。レミリアの両足は同じく巫女の両足によって完璧に封じられ、右腕は巫女の左手によって押さえつけられて、これもまた封じられていた。唯一自由な左腕は、先ほど折られたばかりで完全に治癒していなく、すぐに動かせる状況ではなかった。では、どうやってこの攻撃を防ぐか? ---答えは
巫女の右腕が唸り、レミリアを地面ごと押しつぶす。これまでで最大級の轟音と砂塵があたりを包み、一瞬その凄惨な現場を隠した。やがて砂塵も薄れてきた頃、巫女がゆっくりと立ち上がり紫の方へと歩き始めた。巫女が殴りつけた地面は数mに渡って陥没しており、その底にはトマトを磨り潰したかのような血だまりが出来上がっていた。恐らくそれは、レミリア
「……終わったか」
「お疲れ様ですわ、ご協力感謝いたします」
「義務を果たしただけだ」
「ふふ……義務ついでに一つよろしくて? 私、力を使いすぎて疲れてしまいましたわ。どうか運んで下さらない?」
「何だ紫、お前らしくもない……ほら、掴まれ」
そんな中、紫と巫女はさっさと退散するべく紅魔館から背を向けた。しかし
「---どこへ行くつもりだ?」
その二人の動きは、そんな一言でピタリと止まる。
巫女が勢いよく後ろを振り返ると、傷一つ無い状態でくつくつと笑っているレミリアの姿がそこにはあった。いや、正確には傷が無いのではなく傷が癒えた状態の、か。その証拠に、レミリアの皮膚は所々泡立っており、若干肉が見えていたところを覆い隠す。普段表情をあまり動かさない巫女が、少しばかり顔をしかめながら吐き捨てるようにつぶやいた。
「確かに手応えは有ったと思ったんだがな、とんでもない化け物め」
「化け物結構。これでも結構膂力はある方なんだがな、お前も人間基準で考えれば余程化け物じみてると思うが」
「お前のような輩を相手にするのに、人間では力不足だろ?」
「ははは、違いない」
お互い軽い雰囲気だが、巫女の表情に余裕はない。一方のレミリアも、表面上は笑顔を装ってはいるが、それは内心を包み隠すための仮面に過ぎなかった。一瞬両者の間に奇妙な沈黙が訪れたが、それは巫女の行動によってすぐさま破られる。先ほどの言葉以上に疲労が溜まっているのか、レミリアの方へ顔すら向けようとしない紫を地面にそっと下ろすと、すぐさまレミリアに向き直り、ぐっと足に力を溜め込んだ。爆音、そうとしか表現ができないような音を発しながら、巫女は再びレミリアに肉薄した。一瞬でレミリアの懐に潜り込むと、移動のエネルギーまで載せた鋭いアッパーを繰り出す。空気すら引き裂いて迫るその豪腕を、レミリアは僅かに体を捻って回避した。しかし、巫女の攻撃はそれでは終わらない。避けられたと見るや、振り上げる腕の軌道を僅かに斜めに逸し、その腕に振り回される形で回転する体に腰のひねりを加え、威力を上げた回し蹴りを放った。それに対してレミリアが腕を振り上げ上に弾くことによって対処すると、軸足を地面から離し、代わりに手を地面につけて軸とし、弾かれた衝撃を余すこと無く載せたつま先がレミリアの喉元に迫った。
一見巫女が一方的にレミリアを責めたてているように見えるのだが、今のところ一つとしてレミリアに直撃したものはない。これは偶然などではなく、レミリアが意識的に行っているからだ。確かに、巫女の攻撃は避けられたり弾かれたりしても、その勢いを利用して更に威力の高い攻撃を繰り返してくる。受け止めればそこで連撃は止まるだろうが、一発とてまともに受ければレミリアですら耐えられないような威力だ。すでに巫女の連撃は風を切り裂き、常人には視認できないほどの速度まで上がっている。しかし、それでもレミリアの表情に焦りの色はなく、逆に巫女の顔には驚愕の色が張り付いてた。巫女とて人間、その体力はいくら鍛えられているとはいえ無限ではない。こうして
「---っく!」
「ッ! 貰った!」
何十撃ちあったかもわからなくなってきた頃、とうとう戦況が動いた。先に崩れたのはやはり巫女、右の正拳突きを鯔され即座に左足の回し蹴りに繋げようとしたが、溜まりに溜まった疲労は軸足となっている右足の関節を折り曲げる。大きく体勢の崩れた巫女に、今まで防戦一方に回っていたレミリアの拳が迫る。すでに回避がかなわない状況下で、それでも近距離の経験を多く積んでいた巫女は咄嗟に最重要分、頭と胴体を守るべく最大限の防御姿勢をとった。
「---ッ!」
けれども、レミリアの細腕から繰り出されるのは、岩をも砕こうかという剛拳。今宵この時に限り、レミリアの身体能力は平常時の数倍にも膨れ上がっていた。唯でさえ吸血鬼という種族は、その名に《鬼》が含まれている通り強靭な肉体と身体能力を持ち合わせ、その弱点の多さゆえに忘れられがちだが、特殊な能力もいくつか持ち合わせている。まさに《怪物》と称するに相応しい相手の攻撃の前に、巫女の防御は容易く突き破られた。大きく後ろに弾き飛ばされた巫女に、しかし
「当たった時の感触……確実に捉えた感じはしなかったな。見たところ、咄嗟に肘と膝で挟んで威力を殺したか。全く、人間にしておくにはまったくもって惜しい人材だよ」
顔に笑みを張り付かせながら、レミリアはゆっくりとその視線を移動させ、
「さて、待たせてしまったようだが……
レミリアはその顔に薄い笑みを浮かべながら、静かに右手を差し出すのだった。
レミリアと博麗の巫女の戦いを終始無言で見守っていた俺は、特に何か考えがあったわけではなかった。博麗の巫女に加勢するような仲ではなかったし、逆もまた然りと言った感じだった。そして、レミリアが博麗の巫女を打倒するのも、そのレミリアが今度は此方に水を向けてくるのも殆ど予想通りだった。故に、俺はこう応えるのが正解なんだろうか。
「さっきも言った通りだ、お前を殺して騒ぎを収める。それ以上でもそれ以下でもない」
「ククク……変わらず威勢の良い奴だ、私の力を目の当たりにしても動じないとはな。それとも、私の力を上回る事ができると思っているのか?」
「できる出来無いじゃない、確実にお前の力を上回る。こう答えればいいか?」
「いいだろう、私はお前のことが気に入った。正面から叩き潰し、私の家来にしてやる!」
レミリアが吠えると同時、俺は宙を蹴り一気に間合いを詰める。繰り出すのは、何の変哲もない唯の蹴り。勿論、これでどうこうできるとは思っていない。当然軽くあしらわれるだろうが、お互いの身体能力の差がどれくらいあるかぐらいなら分かるだろうと踏んだ、小手調べの蹴りだった。
「これくらいの攻撃、避ける必要……も……?」
一瞬だけ俺から目をそらし、どこか虚空へと目を向けたレミリアの得意げな声が、その途中で凍りつく。大きく目を見開き、視線はあらぬ方向に固定されたまま動かない。当然、俺の蹴りを見ているわけもなく、小手調べのつもりで放った蹴りはレミリアの体を悪趣味な館の壁に縫い付けた。
「……なんのつもりだ?」
俺は誰に問いかけるつもりもなく、小さく呟いた。レミリアの自信満々な言動と、先ほどの驚愕に目を見開いた顔が代わる代わる浮かび、更に訳がわからなくなる。一体、レミリアの視線の先には何が有ったというのか。いや、そもそも何故レミリアは避ける必要も無い、といいかけたのだろうか。当たってもそれほどダメージを受けないと判断したわけでは当然無いだろう。敵の能力もわからないのに攻撃を受ける行為は賢明とはいえないし、そもそも戦いの最中の行動を見るに、そういう性格でも無いのだろう。ならば、一体何故か?
疑問点だけがぐるぐると頭のなかを巡り、一向に答えが出てこない。やがて考えを放棄した俺は、本人に直接聞くべく館の壁に突き刺さったレミリアの元へと赴いた。
所は変わって薄暗い部屋の中。一切の物音も、生物の気配さえしないその部屋は、一言で言えば『とても散らかっている部屋』であった。床中にぬいぐるみやら人形やらが散乱し、枕や布団が乱雑に置かれている。ただ一つ、たったそれだけ故に、無視できようもない事柄を上げるとすれば。それら散らばっているもの全てが、
「…………?」
シャラン、とその背の宝石を鳴らしつつ立ち上がった『ソレ』は、その真紅の瞳を閉じてじっと何かに耳を傾けているかのように見える。やがてゆっくりと瞳を開けると、その真紅の瞳がまるで脈動するかのようにより紅へと染まっていく。そして、無音だった部屋に一つの音が響き始める。最初は、ザラザラとした雑音にしか聞こえなかったが、音量を増していくに従ってそれは段々と意味のある音に変わっていく。
「は……あは……あははは……」
「お姉さまたちばっかりお外で遊んで、ずるいよ。新しい『玩具』がそこにあるんでしょ? だったらフランも、その『玩具』で遊びたいな」
少女が拳を握りこむ、たったそれだけの動作で扉は弾けるように吹き飛んだ。周囲の壁にも少なからず被害を与え、元々扉があった場所にはポッカリと穴が開いていた。少女はゆっくりとした足取りでそこから外に出ると、狂気に染まりきった笑顔を天井に向けて、そっと呟いた。
「新しい『玩具』、何処かなぁ?」