第十一話「口は災いの元」
今日も今日とて平和な横須賀鎮守府。
ここの提督、吹村雪樹は今日も執務と闘っていた。
秘書艦の吹雪も共に執務をしている。
「うー・・・・書類多すぎない?」
「仕方ありませんよ。舞鶴鎮守府からの転移届に大規模作戦の現状報告書、デモ団体に対する対応の結果報告書等々・・・・。」
「はぁ、どうしてこうなるのか・・・・。」
「はい司令官、追加分です。」
「救いは無いんですか!」
「救いは無いです。」
そう言ってほほ笑む吹雪に吹村はガックリとなる。
因みに渡された書類は広辞苑一冊分だ。
「はぁ・・・ん?何だこれ?」
吹村は吹雪から渡された書類の束の上に置いてあった紙を手に取った。
差出人は藤峰鏡子だ。
「あいつか・・・・何々?」
吹村が読んでいくと驚きの内容が書かれていた。
今回の大規模作戦で発見された「葛城」「リットリオ」「秋津洲」「ローマ」が吹村の存在を知るとそこへ着任を望み始めた為、許可するかしないかを選択してほしいとのことだ。
「どうしたんですか?」
「吹雪、新たに着任者が増えるぞ、しかも4人もだ。」
「本当ですか!」
「あぁ、早速この書類を大淀に渡してきてくれ。」
「分かりました!」
書類を受け取った吹雪は颯爽と執務室を退出した。
そして一人残った吹村はおとなしく書類を片付け始めた。
吹村が返事を出して数日後の早朝、4人は鎮守府前にいた。
「提督に会えるわねローマ!」
「姉さん、少しは落ち着いて・・・・。」
「き、緊張するかも・・・・。」
「フフフ・・・・あったらどう料理してやろうかしら・・・・。」
門前にいるリットリオは吹村に会えることを喜び、ローマが落ち着かせようとする。
秋津洲は少し緊張しているようだ。
一方葛城は何か不穏なことをブツブツと言っている。
そこに大淀がやってくる。
「皆さまお待たせしました。大淀です。これから皆さんを提督の所に案内しますのでついてきてください。」
大淀が言うと大本営から来た四人は手ぶらのまま大淀の後についていく。
「あの、大淀さん。本館にはいかないんですか?」
不審に思ったローマが尋ねると大淀は平然と言った。
「はい、現在提督は車両用演習場で戦車を動かしています。」
大淀の言葉に三人は驚愕した。
「せ、戦車!?そんなものがここにあるの!?」
「はい、ローマさん。提督が整備していつでも使えるようにしています。」
「あの・・・・提督はどんなひとなの?」
秋津洲が聞くと大淀は顎に手を当てながら答えた。
「うーん・・・・皆さん、自衛隊についての教育は受けてますよね?」
「はい、基本的なことは。」
ローマが答えると大淀はハッキリといった。
「では簡単に経歴を言いますが、本当ですよ?実は・・・・・。」
キッパリ吹村の経歴を言う大淀に三人は開いた口がふさがらなかった。
こんな経歴を持った人間はそうそういないからだ。
「す、すごいかも・・・・。」
「やっぱり提督はすごいお方なのですね!」
「えぇ・・・・それ故か分かりませんが自由な部分もありまして・・・・。」
そんなことを話しているうちに5人は車両演習場に着いた。
「ここが車両演習場です。」
車両演習場はとても広い砂地だった。そしてそこを迷彩色に塗られた74式戦車が猛スピードで走っている。
「は、速すぎるわよー!!」
「いけいけぇ!!」
車体から顔を出しているのは叢雲と深雪だった。
74式戦車は最大出力で走っているためかなり速い。
そのため叢雲は怖くて叫び深雪は楽しそうにしている。
そして5人の目の前に来ると急停車した。
「ははははは!!最高だぜ!!」
「も、もうお断りよこんなの・・・・。」
笑いながら飛び降りる深雪とぐったりした様子でずり落ちる叢雲の後から吹村が車内から顔を出した。
「悪いね叢雲。あっ大淀。その4人が新しく来た奴らか?」
「はい提督。リットリオ、ローマ、秋津洲、葛城の4名です。」
吹村は戦車から飛び降りて4人に敬礼をした。
「陸上自衛隊第37普通科連隊小銃小隊長兼日本国海軍横須賀鎮守府最高司令官の吹村雪樹一等陸尉だ。」
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦2番艦、リットリオです。よろしくお願いしますね。」
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦4番艦、ローマです。よろしく。」
「水上機母艦、秋津洲よ!」
「フフフフフフ・・・・。」
順に自己紹介していく中で葛城だけが様子がおかしい。
それを即座に理解した吹村は逃げの構えを取った。
「か、葛城?」
「司令官、この葛城さんはうちにいた葛城さんだと思う。」
「だろうなぁ・・・・。」
吹村は即座に後悔していた。
この葛城、実は吹村がプレイしていた「艦これ」内で彼が手に入れた艦娘本人なのだ。
その本人に向かって手に入れた当初こう言い放った。
『雲龍や天城より小さいな。』
当然このことは葛城本人に届いており本人は相当ブチギレていた。
となると起こることは一つだ。
「あなた・・・・・言い残すことはあるかしらっ?!!」
「うおぉぉぉぉ!!!!機銃は卑怯だろぉぉぉぉ!!!!!」
吹村への復讐だ。
葛城は自分の装備である機銃で吹村への銃撃を開始した。
吹村はそれを何とか躱しつつ全速力で逃げ去った。
「あっちゃーこりゃ相当収まらないな。」
深雪はガシガシと頭を掻いた後に3人に向き直った。
「とりあえずリットリオさん、ローマさん、秋津洲も久し振り!」
「久し振りね深雪ちゃん。」
「提督は変わっていないわね。」
「むしろ変わってたら驚きかも・・・・。」
車両演習場では深雪と3人が親しく会話する様子を不思議そうに眺める大淀の横で青い顔をした叢雲が倒れ上官を攻撃する葛城と般若のような形相の部下から逃げる吹村という何ともシュールな光景が出来上がっていた。
むしろこれがこの鎮守府の恒例となっていくのかもしれない。
その後、4人は執務室に案内され、吹村本人から指示を受けていた。
「さて、俺がハチの巣になることも無く穏便に事は済んだわけだが・・・・。」
「「「「(穏便?)」」」」
吹雪、リットリオ、ローマ、秋津洲が疑問符を浮かべるが気づかず話を続ける。
「リットリオとローマは演習、秋津洲、葛城は哨戒任務と演習に専念してもらう。現在、この鎮守府は戦力不足だ。これからも戦力増強のために建造などを多く行うために資材も不足してくるだろう。そのため君たちが戦線に出るのはだいぶ後になる。そのことも考えておいてくれ。以上だ、あとは吹雪に案内を任せてあるから彼女に案内してもらってくれ。」
「「「了解しました!」」」
「・・・・・。」
敬礼をする3人とは別に葛城は腕を組んだままご機嫌斜めだ。
「はぁ・・・吹雪、間宮のところに行ったときにアイスを奢ってやってくれ。はい、券。」
「わ、分かりました司令官・・・・それじゃあ皆さん、私についてきてくださいね。」
吹雪は苦笑いしながら券を受け取って4人を連れ出した。
全員が出ていったことを確認した吹村は椅子に深く座り込み建造報告書を確認した。
「建造結果は伊8、伊168、鳳翔、古鷹、加古の5人。結構人数も増えたな。」
確認した吹村は確認の印を押した後、時計を見る。
時計の針は0900を指していた。
それを確認した吹村は一言呟いた。
「響・・・・・・お前が本当に葛城たちの様に来るのなら・・・・オレの事憎むかもしれないな・・・・。」
過去に沈めてしまった艦娘への言葉を。
遠い海の深海では数多の深海棲艦がいた。
その中でも異彩を放っているのは白い髪に青い瞳の少女の深海棲艦だった。
その深海棲艦は海面に出た後、空を見上げた。
「・・・・・・・・・。」
そして海面に映る自分の顔を見た後、動き始めた。
彼女がどこを目指しているのかは誰にも分からない。
クリスマス編は来年までお預けになりました(白目)