時の残光   作:月雫しわす

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震えている手を握り返した。

閉じていた瞳を開いて、ぼんやりとした意識の中から、左手に柔らかくも確かにある、ぬくもりを感じた。

金色の瞳がこちらを見ていた。

暖かい金色の瞳…

だがその瞳の主は震えていた

 

恐怖も怯えも、自分には無かった。

だけど、守りたいと思った。

この小さな手を、守り抜きたいと思った。

 

 

痛みから、

苦痛から、

寂しさから

悲しさから。

 

そして、与えてあげたかった。

 

嬉しさや

楽しさや

喜びや

自由を。

 

 

自分とよく似た双子のような存在の君を。

金色の瞳が暖かい…

 

この震える右手を握り返して強く思った。

 

君は僕が守る。どんなになっても

いつかここから抜け出そう。

無限に広がる自由を求めて。

 

 

 

 

 

 

固くて冷たい台のような上に毎日、寝転がされてた。仰向きにずっと同じ姿勢で天井を見る毎日。それが仕事なんだと思っていた。だって"おかあさん"と"おとうさん"が喜ぶから。

パイプや電線が張り巡らされた灰色の天井。周りにはたくさんの"おとなたち"。

白い服を皆着ていて、表情もまるでない。肌の色や髪の色はそれぞれ違いはあるけれど皆、皆同じに見える。

違うのは左胸のポケットにある名札の文字が英語や漢字という違いだけ。その中のうちの一人がこちらに歩み寄って来た。

英語で書かれたその名は「アルバート・アデス」という男だった。

年は30歳後半といったところだろうか。そうしてその男が横に沿うように立つと、今日もまた仕事が始まった。

 

「君の名前は?」

京010(ケイゼロイチゼロ)

毎日最初に聞かれる質問。

「君は何歳?」

「10才」

「君の性別は?」

「おとこ」

同じ質問、同じ答えを毎日、毎日聞いて答え続ける。京010(ケイゼロイチゼロ)は、瞳を天井に向けたまま、ただ、質問に答えていく。

「楽しいと感じる事は最近あったかい?」

「いいえ」

「じゃあ、悲しいと感じる事はあったかい?」

「いいえ」

アルバート・アデスは京010(ケイゼロイチゼロ)が質問に答える度にくすんだ薄い黄色いクリップボードに何かを書き出しているようだった。

質問内容は、特別変わったものではなく、全てが誰でも答えられるような簡単な質問ばかり。おおよそ100個ほどの質問に淡々と答え、作業が終わるとアルバートはペンを胸ポケットにしまい入れて奥のガラス張りの方に右手を挙げて合図を送った。

「今日の最後の仕事だ。さぁ頑張るんだよ」

そう言い終わるとアルバート・アデスは数歩下がって自分と距離をとった。

 

そして激しい激痛と流れる電流に皮膚や身が焼かれるように全身に痛みが駆け巡り喉の奥から自分の叫び声が出る。あまりの激痛に瞳は見開き目尻からは涙という液体が流れた。

 

アルバートはその様子を、ただじっと見つめクリップボードに何かを書き続けていた。

 

これが僕の、仕事。

これが僕の、仕事。

 

自分の叫び声で頭の中がぎゃんぎゃんと耳鳴りをあげてうるさいのに頭ではそんな風に考えていた。

 

これが僕の、仕事。

これが僕の、仕事……。

 

 

 

 

 

 

ふと気がつくと左手に震える暖かいものが触れていた。その触れている先に視線をやると金色の瞳がこちらを見ていた。体を震わせ怯えている。

(あゆむ)…どうしたの?大丈夫?」

瞳に涙を浮かべながらこちらをみる歩という少年は、京010(ケイゼロイチゼロ)と同じ年頃の男の子だった。

言葉をかけると握りしめていた手にいっそう力がこもる。

「今日もまた痛いことされるのかな?早く帰りたい」

「大丈夫だ…。全部終われば帰れるよ。だから頑張ろう」

そんな薄っぺらい言葉をかけた。だけど京010(ケイゼロイチゼロ)は怯えるという感情が分からなかった。けれども、そうして言葉をかける以外にどうしていいか分からない。

だから、思い浮かぶ言葉を口に出すしか自分には出来ないでいた。

今日もまた、皮膚を刻まれ血を流し、泣き叫ぶ事が分かっていながら、そんな言葉を口にした。

 

手を繋いだ先の歩を見る。その歩からは両腕、両足、左胸、左右の耳に大きな機械が食い込み無数の電磁コードの線が垂れ下がっている。

まるで、この世のものでない巨大な機械生物の触手によって補食されているかのような光景だった。

そしてまた、自分も同じ様に無数の機械が体に食い込んでいるだろうと容易に想像が出来た。

 

 

大丈夫。今日の仕事が終われば

おとうさんとおかあさんの所に帰れる。歩はおとうさんとおかあさんが大好きだから、会えばきっと気持ちが楽になるさ

 

そんな事をぼんやり考えながら、京010(ケイゼロイチゼロ)は震える歩の右手を、励ますようにまた、強く握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ある科学者の日記】

 

西暦 2xxx年 7月

 

人類は高度な科学成長をとげ不可能を可能にする事を歴史上何度も成功させて来た。地球の反対にいる人物との会話、空飛ぶ船、電波による通信機能。それは人類、一人一人が当たり前のように手にし、どの国の人びともよりよい生活を求め科学の進化を求め続けて来た。

 

 

そして今、我が国はある不可能を可能にすべく、新たな研究を開始した。

研究名は「時空操作アプリケーション」そう、ついに我々は時を自由に操り 時をも支配する科学を産み出そうと大きな一歩を踏み出したのだ。この研究を成功させれば、我が国は他国の科学力を優に超え、力と圧倒的な国力差が生まれるのだ。

 

これまでに無い世界が広がる。これからの研究にも熱が入りざる終えない。

 

 

 

西暦 2xxx年 12月

 

 

「時空操作アプリケーション」計画の開発は遅々として進まない。やはり時という存在を操る装置など用意に作れる物ではない。空を掴み取ろうとするようにまるで無駄な事を研究に費やし無駄にしているのか…だがしかし、私は諦めない何度も、不可能を可能に変えてきた我々の力はこんなものでは無い。私はこの研究になんらかの成果を出してみせる。

 

 

 

西暦 2xxx年 7月

 

「時空操作アプリケーション」開発から3年が過ぎた。研究を続けて来たがまるで糸口が見つからない、やはりこの研究は無謀な挑戦なのだろうか…研究費用だけが流れる水のように費やされていく…私は諦められない。救いがあるとするならば、我が国の王族が研究費用を援助してくれている事か。

私は「時空操作アプリケーション」をプレゼンテーションした折に、「この研究が成功すれば人は永劫の命さえ手に入れられる」と発表した。

その永劫の命という言葉に投資をしてくれているのだろう。その後ろ楯がなければこの研究は既に打ち切られていただろう。

 

 

 

西暦 2xxx年 10月

 

予期せぬ事態が起きた。我々が計画している「時空操作アプリケーション」が他国に露見したのだ。いったいどこから漏れたのだろうか…機密情報に指定されていたのに。ともかく他国はこの開発を共同開発したいと言ってきている。くそっ!!私達の数年の研究を、共同開発という名目で盗み見る為に違いない。だが露見してしまったからには他国も黙っていないだろう。

我々は時という形の無いものを物体にする事は、まだ成功していないがそれでも、幾つかの成果は着実に上げてきたのだ。今さら共同開発など虫がよすぎる話だ。

 

 

 

西暦 2xxx年 11月

 

他国に情報が露見してから約一ヶ月、我が国は技術大国、日本と呼ばれる国と共同開発をする事になった。無論、その他の国の研究員達も一緒にだが、日本はどうやら我々と同じような研究をしていたようだ。日本の研究内容を我が国にも共有するという条件で共同開発が始まった。他国との情報はやはり日頃凝り固まった思考回路からは見えない、一風変わったものが見えてくる。日本は人間が放つ微細な電子信号をデータに換えそれを形にするという特殊な研究を行っていた。

いよいよ、糸口が見つかった気分だ。

共同開発にはなってしまったが優勢な立ち位置にいるのは我が国だ。この研究が成功に今一歩近づいているのを感じる。

 

 

 

西暦 2xxx年 8月

 

ついに、ついに研究は成功した。

他国との共同研究を開始してからいったいどれ程の年数が経ったか…いや、今はそんな事はどうでもいい…ついに時を形に出来る装置の開発に成功したのだ。「時空操作アプリケーション」から始まったこの研究もやっと形になったのだ。そして出来上がった…!

その装置を「時の心臓」と名付けた。

 

時の心臓は人間から流れる微細の電子を吸収し、増幅させるという事を可能にした超科学の結晶だ。だがしかし、問題はまだ残っている、この形にした時を普通の人間に血液のように流そうとしてもなんの反応も起きない。そう このままではただの無駄足になってしまうのだ。まだまだ研究は続くだろう。だが私は老いた…。

指先が震え、もう研究を続ける事は出来ないだろう。研究員の中には、人間から採取した時を某国が開発したクローンに組み込み新たな命を作り出すというプロジェクトに移行するという声もあるが…永遠の命を求めていた私にとっては、どうでもいい事だ。

この日記にも、終止符を打つときが来たようだ。

今だ世間には公開されていない、この研究は何時になったら日の光を浴びることになるのか…残り少ない余生の中で見守って行くとしよう。

 

               メルディン・アデス

 

 

 

 

 

           一章

 

 

 

 

西暦 2yxx年 7月13日

 

 

蒸し暑くて気だるかった日中の暑さが、18時過ぎても抜けずにむしむしと暑さを感じさせている。

日の沈みもだいぶ遅くなって18時過ぎになってもそこらはまだ明るく、公園にいる子供達もまだ数人残って遊んでいるくらいだ。

7月に入って梅雨も明け始め本格的な暑さの日々がこれから始まる予感がする。

都内のある病院の受付付近に置いてあるテレビでは今、日本では今年に入って記録的な猛暑が連日続いているという事を取り上げていた。

そんなニュースを焦げ茶色の椅子に腰掛けなんとなく(まもる)は聞いていた。

病院の中は空調管理が行き届き、病院の外と違い安定した涼しさを感じさせている。

病院の中は受付が少し混んでいて葵は受付が空くのを見計らっていた。

面会に来ていた人が帰る時間なのか、

「面会者ストラップ」を受付に返す人が多かったのと、何やらお見舞いに持ってくる品について受付の係員と年輩の女性が少し口論になっている。

 

「どうしてお見舞いに花はダメなの??あの子とっても花が好きなの!鉢植えでも無いし、縁起の悪い花でも無いわ?なんでなの答えてちょうだい」

 

「ですから、当病院では感染、アレルギー対策の為ですね他の患者様にも配慮を配り生花はご遠慮させていただいてまして…」

 

などとやり取りをしていた。

見舞品に花はダメなのか…

葵が持ってきた見舞品はそこらで買ったフルーツジュースの缶一本で「花」という選択肢など頭にも無かった。

第一、花を買うほどの金銭的余裕は無い。家も歩けば床板がギシギシと軋む古びたボロアパートで毎月の家賃だって破格の6万円ですら葵には払うのがギリギリだった。

そんな事を考えてると、受付で揉めていた年輩女性がやっと納得したのか、大人しく受付を後にしていることに気が付いた。

葵は、よいせと腰をあげ受付に向かった。

必要事項を記入し受付から面会者ストラップを貰いいつも通りエレベーターに乗る。2階で降り、ナースステーションを通りすぎいつも顔を出す病室の戸を開けた。

 

「よぉ」

そっけない声で葵は声をかけた。

 

「ゲッ!また来たのかよ!葵!!」

 

「また来たとはなんだよ!学校終わって足蹴なく面会に来てやってんだ、ありがたく思え!くそ弟!」

 

「だぁれが弟だよ!!俺の方が先に生まれてたかもしれねぇだろ!俺の方が年上かもしれねぇじゃねえか!」

 

「はんっ!それは おあいにくさま!俺達は双子だからな、どっちが先に腹から出たかなんて、立ち会った医者でも分からねぇんだよ!」

 

そういうと葵はどかっとベッド脇の丸椅子に腰を落とした。

 

「…チッ…んで、なんか上手いもんでも持ってきてくれたのかよ?お・に・い・さ・ま!」

 

(あきら)はわざと悪態をついて口を尖らせた。

んっ、手渡されたフルーツジュースを受け取りそそくさと注ぎ口を空け口に運んだ。ぷはーと美味しそうに飲んだ後、やっと沈んできた夕日の差し込む窓の外に目をやった。

 

「すげぇ、オレンジ色!!」

 

はしゃぐように翠は窓の外をいつまでも見ている。葵はそんな翠の体に目をやった。

同じ日に生まれた双子だというのに

翠の方が少し痩せて鎖骨も少し浮き出ている。自分と同じ様に育っていれば体格にそんな違いは出ずに同じ学校生活も共に送っているだろと思った。

だけど、翠は生まれた時から少し変な体質に生まれてしまった。何故だか定期的に極度の貧血のような症状が出て生活もままならず、病院通いが多かった。

そして、2年前に事件は起きた。

翠が通り魔にナイフのような刃物で刺されたのだ。通り魔の目的は当時やっとの思いで中古品店で手にいれたスマートフォン。

翠は貧血で良く倒れ混んでしまう。

人通りの少ない場所で倒れてしまえば命に関わる、だからなけなしのお金をはたいてやっと手にいれた兄弟共有のスマートフォンだった。

通り魔は翠の左腹部を刺して、型も古いスマートフォンを奪っていった。

犯人はまだ捕まってない。

その場に居合わすことが出来なかった葵はそれ以上詳しい事は分からなかった。

ただ、通り魔に刺されて以来、翠の異常なまでの貧血状態は悪化しそれ以来入院生活が絶対の体になってしまったのだ。

 

事件から翠は一歩も外に出ていない。

翠の隣に置いてある医療装置が無いと翠は衰弱してしまうからだ。

それ故に、夕日を眩しそうに見ている翠がひどく不憫に思えた。

自分が代わってやれたら…いや、少しでも苦しさを分かち合うことが出来るなら、そんな術があるならすぐにでも実行したい、そんな気持ちで葵は目線を下に向けた。

 

「なぁ、そろそろ夏休み…だろ…?中学ってやっぱ宿題すげぇ出るの?」

 

ハッとして顔をあげた。翠はこちらの様子を伺いつつ飄々(ひょうひょう)と聞いてきた。

 

「あ、あぁ。すげぇ出るし、バイトも山積み。俺の場合夏休みっつっても稼ぎ時でしかねぇからさ!」

 

言い終わった後に、しまったと思った。入院費用がばかにならない事を翠だって知っている。それなのに自分からバイトの話を持ち出してしまった。

自分のバカさに嫌気が差した。

 

「ま、まぁ、バイトっつっても朝の新聞配達だしどってことねぇし、体も鍛えられるから女子にモテたい俺的には一朝一夕なんだけどさ」

 

急いで取り繕う。

 

「つか、お前だって一応、夏休みの間の宿題出るんだからな!一応俺と同じ学校に生徒として形は入学してるんだからさっ!」

 

葵は焦って立ち上がりながらそう言った。そんな葵を見て翠は笑った。焦った表情が面白かったのか、体を震わせながら声をあげて笑っていた。

 

「無理言うなよ、俺は葵と違って勉強途中からちゃんとやってないんだぜ?中学の宿題とか無理無理」

 

笑いながらあっけらかんとした翠に葵は内心、安堵しつつ言い返した。

 

「てめ、ずっりぃな!俺だって宿題とかやりたくねぇんだからな!お前だけやらねぇとか、俺が許さねぇ!夏休みの間、俺が勉強見てやるからお前もちゃんと宿題やれよっ!」

 

腕組みをして葵はふんっと鼻息を鳴らした。めんどくさそうに えー…と声を出して嫌がった翠に葵は、甘えんな と言葉を返した。

 

「っと…そろそろ俺帰る。明日テストあるし、一応勉強しとかねぇと」

 

葵は床に置いていた学生鞄を拾い上げて肩にかけた。なんだかんだ勉強はしておかなければ、親の居ない自分達は学歴が無いと、この先苦労するのは目に見えていた。

 

「葵!」

 

病室を後にしようとした葵を翠は呼び止めた。

 

「明日はメロンソーダを頼むわ、ほんとは店に行ってちゃんとしたの飲みてーけど、ペットボトルの奴あるじゃん?あれでいいや」

 

にっと笑う翠に、葵は わーったよ。と言って病室を後にした。

 

 

 

葵はアパートに帰ってきた。少し狭い上り坂を上がった所にある小さなアパート。葵はそこで一人で生活していた。出生後間もなく両親が大きな借金を抱えていて、まだ赤ん坊だった葵と翠は施設へ預けられた。両親は蒸発。

今はどこに居るのかも、生きているのかも分からなかった。小学校を卒業と共に、葵は施設を出てアパートで独り暮らしを始めた。もちろん、施設の支援があってこそのアパート暮らし。

子を捨てる親や赤ちゃんポストに子供を置いていく大人達は年々急増して増え続けている。自分勝手な理由で置いていく大人も居れば、子供の安全の為に自ら養子縁組に出す親もさまざまだ。

今は施設の空きが足りないらしく、まだ14歳の葵でさえ施設を出てアパート暮らしなんてしていかなきゃならないほどに今や、行き場の無い子供がそこらかしこに居る状態だった。

施設の口利きもあり、葵は現在朝刊の新聞配達をしていた。それで生活費全てを賄う事など到底出来ないが、どうにか施設からの金銭的支援によって中学に通いながら生活を送ることが出来ていた。

葵は晩ごはんに食パンをかじり、簡単に済ませた後、小さな背の低い一人用の机に向かった。鞄から無造作に取り出した教科書達を適当にひろげ、いざ勉強に取りかかろうとした時にふと

教科書の下敷きになってしまった郵便物に目が止まった。

 

「あ…翠の入院費と今月の家賃…振り込んでねぇや…」

 

昨日、郵便物を郵便受けから取りだしたわ、いいものの、疲れて机に放り投げて置いたのをすっかり忘れていた。

中学も二年に上がり来年は受験で学校生活も忙しくなってきた。それに15歳を迎えると支援金額も少なくなる。

近年孤児が増えているこのご時世では仕方がない事なのかもしれないが、葵にとっては入院費と生活費のやりくりで精一杯で、支援金が減るとなれば今の生活は当然続けていられない。

ごちゃごちゃと考えていると、いつの間にか時計の針は22時過ぎを回っていた。勉強もろくに進んで居ない事にあわてて気付いた葵は、とりあえず頭を切り替えて明日のテストに向かう為に教科書や問題集を夜遅くまで頭に詰め込む作業に集中した。

 

 

 

 

 

夜、寝静まった病院の一室に向かう足音が聞こえる。その足音は消して大きく響く事は無いが鈍く、一歩一歩がどっしりと構えている。

 

「これが例の患者…か?」

ひどくしゃがれた男の声が、低く響いた。そしてそのあと落ち着いた様子の女性の声が、「はい…」と答えた。

 

病室の空いた戸から、医療装置のモニターの緑色の光が静かに漏れていた。

そしてその光は、戸が閉まると同時に小さく…そして見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

鳳葵(おおとりまもる)っ!!」

 

怒声の大きさに思わず眠りから覚め飛び起きた。そして頭に衝撃がはしる。

 

「痛てっ!?」

 

「お前は、よくも一時限目からグースカと寝ていられるもんだな…!起きろ!!」

 

ふと気が付くと、そこは自分の通っている中学の自分のクラスで、周りを見渡すと視線が自分に集まっていた。

授業が始まったというのに居眠りをしてしまっていた事に気付いた葵は急に恥ずかしくなってあわてて広げたままだった教科書を手に取った。

昨晩、テスト勉強に集中しすぎて就寝時間をとっくに過ぎた頃に眠りについたのが仇になってしまった。

一時限目はそろそろ終わりの鐘がなり、二時限目はいよいよテストだ。

学力はクラスで言えば並みの葵は、忙しい間を縫って今の学力を保つのが精一杯。

せめてテスト1つ1つの赤点を減らし、夏休みはバイトを増やして生活費やらをバンバン稼ぎまくる予定なのだ。葵は一時限目が終わり、トイレ休憩の時間になっても教科書から目を離さなかった。今日はテストを終わらせれば午前で授業は終わり、早めに支度を済ませて下校途中にある古びた駄菓子屋でメロンソーダを安く買い翠の所に顔を出さなければならない。

そんな事を頭でまとめていると、いよいよクラスに教員の一人が入ってきた。そして鐘がなり、配られた答案用紙を一斉に表にめくり上げ自分の名前を書き出す音が教室に響いた。

そんな時に、自分の名前が突然呼ばれ葵は凍りつく。

 

「鳳葵君…!至急病院に向かいなさい!!弟君が、翠君が今…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動かなかった。

瞼も胸も、ピクリとも動かない。

自分とそっくりな双子の弟が、血色が抜け落ちまるでマネキンのように固くなっていた。

 

死んだ…

嘘だろ?

死んだ…?

 

昨日まで一緒に笑ってたのに、

昨日まで夕日を眩しそうに見てたのに

昨日まで…ッ!!

 

息が続かなかった。目の前も真っ白になった。遠くで看護師や医者が何か言っていた。でも聞こえなかった。

まるで聞こえなかった。

 

今日、メロンソーダやる約束だろ?

お前、飲みたいって言ってただろ?

欲しいって言ったのは誰だよ…?

買ってきたのに、古びた駄菓子屋でキンキンに冷えたメロンソーダ。

買ってきたのに。

 

なんで…なんで。

 

 

死んだ。

 

 

 

 

 

翠が…死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焦げ茶色した椅子に葵は座っていた。

かれこれ何時間こうしているだろう。いや、そんなに時間は経っていないのかもしれない。でも果てしない時の中に放り込まれたように、葵は

セミの脱け殻みたいにただぼうっと座っていた。葬儀屋に連絡したり葬式の準備したり、やらなきゃいけない事は山積みのはずなのに体がピクリとも動かない。

翠が死んだ。ただその事で頭がいっぱいになり指先ひとつ動かす事が出来ないでいた。

医者が死亡確認をした後、看護師が葬儀屋に連絡を入れて遺体を迎えに来てもらうようにと言ってきた。

葬儀屋の連絡先がいくつかのっているコピー用紙を渡されたが、あまり目も通さず隣の椅子に放っていた。

温くなってしまったメロンソーダに目をやる。

学校に連絡があってまっすぐ病院に向かったつもりだったのに、いつ店に寄ったのかこんな時なのにしっかりと約束のメロンソーダを買っていた。

瞳から涙がこぼれた。

自分の目からこぼれているのに頬に伝うときは熱くて、ヤケドしそうに感じた。瞬きもせず、ただ大粒の涙が次から次へとあふれでた。

病院の床にポタポタと涙が落ちて視界が滲む。ぎゅっと目をつむり下唇を噛んだ。

 

「翠…あ…きら…っ!!」

 

嗚咽を含むように悲しみが全身からあふれでて葵は泣きじゃくる。

小さい頃から一緒だったのに。

生まれたときから、ずっと一緒だったのに…!!!

泣いても泣いても涙は止まる事を知らずにあふれでてくる。

 

そんな時に突然肩に手を置かれた感覚が飛び込んできた。反射的に振り返り「翠?!」と叫んでいた。

だが、そこにいるのは白衣を着たすらりとした背の高い医者が一人。

妙に綺麗な顔立ちの男性だった。

 

「あなたが、鳳葵(おおとりまもる)さん…ですか?」

 

柔らかな声でゆっくりとその医者は問いかけて来た。はっとしたままの表情のまま葵は頷く。

 

 

「よく、聞いてください。」

 

ゆったりとした口調、やけに丁寧なその口調で、表情からも想像できなかった一言を次に発した。

 

「弟さん…鳳翠さんはこの世界にはもう居ません。ですがもう1つの世界で彼は生きています。」

 

 

そういい放った医者の左胸のポケットにある名札には、西門 永助(にしかど えいすけ)と記され、葵の瞳はその名前を反射させながら「生きている」という言葉に瞼を見開き息をすることが出来ないで居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            つづく






「時の残光」を最後まで読んで下さってありがとうございます。
そして、皆様初めましての方も、こんにちはの方も
どうも!月雫しわすです!
今回のお話は
創作っ子と、友人のお子さんをお借りして
物語は完全創作のお話です。
友人との交換漫画で基礎が生まれて、今は
キャラクター 一人一人が自分の足で立って友人や読んでくださる皆様に愛されるような作品を目指しています。

作者が、ゆったりと投稿していく気持ちで書いているので更新は遅めですが、見ていただけた方達の心に少しでも残ればと思います。
途中で力尽きたら、また復活するまで時間がかかる奴ですがその時は「あぁ、コイツ今死んでるな」と思ってください。

友人のお子さん

鳳葵
鳳翠
志織

その他登場人物は、月雫しわすの創作っ子です。
親バカなのでどの子も愛しいですが、この作品の主役は…あの人です。←
あの人の魅力を最大限引き出して、身がよじれるくらい大好きと言われるように育つまで頑張ります。
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