インフィニット・ストラトス【白と黒の雨模様】 作:レーゲン
一年一組の教室。俺はIS学園にて顔を青ざめさせている。何せ居心地が悪い。滅茶苦茶悪い。四方八方から好奇な視線を送られているのだ。俺の前の席の男も同じなのだろうと思いながら、小さくため息を吐く。そして少しの深呼吸と共に、俺は目を閉じて意識を集中させると心を落ち着かせた。
「あの二人が男でISを動かした…?」
「そうみたい…」
「二人とも、ちょっと格好いいかも…」
ヒソヒソと小声で女子達が話す中、客寄せパンダになりかねないと考えていると教室の扉が開き、教壇に一人の女性が立った。
「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です。よろしくお願いしますね?」
凡そ教師とは言い難い童顔巨乳の教師、山田先生が自己紹介を行う。誰一人反応しないのは子供では無いからと言う意味だからか。
生徒からの反応が無いために狼狽え始めた山田先生を見て、この十数分の間で何度ついたか解らぬため息をする。
「きょ、今日から皆さんは、このIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後も一緒です。仲良く助け合って、楽しい三年間にしましょうね?」
山田先生、必死の説明にも関わらず皆無反応。これにより山田先生は更に狼狽えたように顔をひきつらせると、出席番号順に自己紹介をしていくように指示した。
スラスラと自己紹介をしていく中、俺の目の前で紹介が止まる。
「お、織斑く~ん。」
「は、はい!」
「出席番号順に自己紹介してもらってて、次はおで織斑くんなんだけど…自己紹介してくれるかな?ダメかな?」
「いや、そんなに謝らなくても…」
山田先生に急かされると織斑と呼ばれた男が立ち、周りから受ける一斉の視線に少し体を強張らせる。無理もないなと胸中で呟くと目を閉じて織斑の自己紹介に集中した。
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします。」
簡素な自己紹介であるが、とても解りやすく好感の持てる自己紹介であった。しかし、皆の何か期待する視線は止まない。その視線に負けてか、織斑は何か一言を言おうとしたのだが……
「い…以上です!」
勢いよく飛び出した言葉がそれだった。皆、一斉に転ける。机に顔をぶつけている人も居れば、椅子から転がり落ちている人も居た。かく言う俺も、少し机からずり落ちそうになっていた。
「あれ!?何かダメでしたか?」
「自己紹介くらいまともに出来んのか馬鹿者。」
「いだっ!」
ごがんっと織斑に思いきり拳骨を落とす一人の女性。それは第一回モンド・グロッソで輝かしい優勝を得た、ブリュンヒルデこと織斑千冬だった。
と言うか待て。これって体罰じゃないのか?
「げぇっ!忠勝!」
「誰が戦国最強の武神だ。」
再度うち下ろされる拳骨。織斑は二度の拳骨を受けて涙目になっていた。
因みに織斑が口走った忠勝とは、徳川家家臣、本田忠勝の事であり、生涯で57度も戦場に赴くも傷一つ負うことがなかったという逸話をもつ武士である。自ら戦場の最前線に出て、その強さを発揮し武名を轟かせていた。これらのことから忠勝のふたつ名は「戦国最強の武神」となった。忠勝が獲物として愛用していたのは「蜻蛉切り」と呼ばれる全長6メートルの巨大槍である。
俺が心の中で余計なことに補足を入れていると、いきなり周りが沸き立った。黄色い歓声やら何やらが思いきり響き渡る中、俺は咄嗟に耳を塞ぐ。歓声の発生源が俺の前の織斑を除く全体だから、その被害は酷いものだ。あと少し遅ければ数日は耳鳴りに悩まされていただろう。
「まったく…毎年毎年集まるのは馬鹿ばかりか?それとも私のところに集まるようになっているのか…まあいい。次だ、さっさと自己紹介をしろ。騒いでる者は静かにしろ。」
鶴の一声とはこの事か。織斑先生が少し注意をすると、辺騒いでいた女子が一斉に黙った。これはこれでやりにくい…。
俺は尻をひっぱたかれない内に立ち上がり、少し考えて口を開いた。
「Ich freue mic……コホン、初めまして。ドイツから来た日下部碧です。三年間、よろしくお願いします。色々と質問があると思いますが、休憩時間にでも来てください。」
初めにドイツ語で挨拶してしまい、慌てて日本語に戻す。いきなりの流暢なドイツ語に、皆唖然としていた。
そんな中、織斑先生が感心したように俺を見て、口許を緩ませた。
「ほう、流石に流暢だな。」
「それはどっちの意味で、ですか?」
「無論、ドイツ語の方だ。柳さんは息災か?」
「あのじいちゃんが病気をするたまに見えます?久しぶりですし、ドイツの味でも作って持っていきましょうか?ビールに最適な、香辛料で味付けをしたソーセージを。焼いた熱々ソーセージを冷たいビールで飲み干したら最高ですよ?」
俺の具体的な説明に織斑先生が解らないように喉を鳴らす。因みにこの時、少々涎も垂れて居たことは内緒だ。山田先生に至っては隠すこともなく涎を垂らしている。
「わ、悪くないな。時間がある時にでも頼むことにしよう。」
「わかりました。」
「では、自己紹介を続けろ。」
「は、はい!岸原理子……」
織斑先生の号令と共に、次の人の自己紹介が始まる。俺は名前を覚えていきながらも、ソーセージの事を考えてSHRの時間を過ごしていった。
☆
SHRが終わり、休憩時間。初めての男子に近寄り難いのか、女子達は俺達から離れるようにしてヒソヒソと話している。
そんな中俺の目の前の席の織斑は、体を此方に向けて話し掛けてきた。
「日下部だっけ?お前が居てくれて嬉しいよ。俺一人だったら、絶対ストレスで死んでる…」
「それはお互い様ってもんだ、織斑。俺もこんな環境に一人放り込まれたらおかしくなるぜ。」
「ははは…本当だな。改めて、俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ。」
「おう、俺は日下部碧。碧って呼んでくれよな。」
お互い改めて自己紹介をし、男同士の熱く硬い握手をする。この学園に来ての初めての友人に、自然と笑顔になっていた。
暫く話していると、少しつり目の女子が話し掛けてきた。
「…少しいいか?」
「ん?一夏、知り合いか?」
「ん、あぁ。で、箒、何か用か?」
「その、ここでは何だ…場所を変えないか?」
変えないか、と聞いてきているが、一夏に気づかれない程度に視線を送ってくる箒と呼ばれた人物。確か、篠ノ之その視線が物語る物は…
(クウキヲ、ヨンデクレルヨナ?)
「一夏、俺のことは良いから行ってこいよ。折角の美人からのお誘いなんだからさ?」
「そ、そうか?何か悪いな。じゃあ箒、屋上で良いか?」
「あぁ、構わないぞ。すまないな、日下部。」
即座に一夏に連れていくように促す。正直、空気の淀み方が半端では無かった。
一夏は俺の言葉に頷くと、篠ノ之を連れて外に出ていく。空気が少し良くなった所で、俺は溜め息を吐いて机に突っ伏した。
「あおいん、大丈夫~?」
「何とか…って、あおいん?」
「そうだよー?碧だからあおいん。」
ぐったりしている俺に、だぼだぼの袖の制服を着た女子が話し掛けてきた。布仏だったっけ?
「ま、いっか。大丈夫だよ。慣れない環境で少し疲れただけだから。」
「疲れた時には甘いものだよ~。はーい。」
間延びしたしゃべり方に癒されていると、ポッキーを突き出してきた。俺はそれを受けとると、ポリポリとかじり始める。甘いチョコは荒んだ心を癒し、俺の体に染み渡っていった。
「んー、美味いな。」
「えへへー、元気になったー。」
「あぁ、ありがとうな。ほい。お返し。」
俺はポッキーを一本手に取ると、チョコの部分を向けて差し出す。すると布仏は自分の手で取らずにそのまま口でかじり始めた。
ポリポリと食べていく姿はどこか小動物を連想させる。そんな布仏に癒されていたが、周りの女子が騒ぎ始めた。
「あーっ!本音なにしてるのよー!?」
「ずるいー!」
「日下部くん!私にもあーんして!」
「ちょ、おい!?待てっての!」
殺到する女子に周りを固められ、逃げ道を封じられる。
健全な男子諸君だとこの光景を羨ましく思うだろうが実際此方の身になってみろ。結構辛いぞ。
仕方無く俺はその場に居た女子全員にあーんをして、この場を修めた。
拝啓、じいちゃん。早くもドイツに帰りたいです。
そんなこんなで休憩時間は、嵐のように過ぎていった。
☆
「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合、刑法によって罰せられ―――」
SHR後、初めての授業。山田先生が懇切丁寧に説明してくれるお陰で、割りとスムーズに頭の中に入っていく。
そんな中、一人頭を抱える男が一人。一夏…お前って奴は…。
そんな一夏を見て、優しさからであろう、山田先生が助け船と言う名の追い討ちをかけた。
「織斑くん、わからないことがあったら先生にどんどん聞いてくださいね?何て言ったって、私は先生ですから。」
ふんすっと気合いを入れて話す山田先生は、どう見ても教師には見えない。同年代が背伸びしているようにしか見えないのだ。後山田先生、気合い入れるのは良いですけど、胸は揺らさないでください。青少年には目の毒です。
「や…山田先生…」
「はい♪なんですか、織斑くん?」
「ほとんどの全部わかりません」
情けなくも予想通りの言葉に額を押さえるが、何らかの事情で必読の参考書を読んでいなかったのだろう。あれは覚えるのが辛い。俺も覚えるのに10日かかった。
「ええっ!?ほ、他に今までのところでわからなかった人はいますか?」
シーンと静まり返る教室。それもそうだ。女性はISが使えるから、または使いたいから、基礎的な知識を頭に入れている人が多い。ましてや、この学園に入るに当たっての入試試験もある。と言うことは、基礎的な知識以上に勉強はしてあると言うことだ。
だが、俺と一夏は男で、尚且つ入試を受けていない。勉強出来てない状態で全てを理解しろと言うのも無理な話だろう。
「織斑、IS学園入学に当たっての参考書を渡しておいた筈だが?」
「あの分厚い本のことですか?」
「そうだ。必読と書いてあっただろう。」
「古い電話帳と間違えて捨てました…」
うん、ごめん一夏、擁護出来ない。
スパァンと出席簿の一閃。凄まじい音と共に一夏が机へと撃沈した。
「馬鹿者が。再発行してやる。一週間で覚えろ。」
「ええっ!?い、一週間で!?無理「可能か不可能かじゃない、覚えろ。」…はい…」
しょぼんとする一夏を見て、同情はしないが哀れに思う。
少しでも楽にしてやろうと、俺は助け船を出した。
「織斑先生。一夏はISに関する知識は殆ど無いに等しいです。加えて学園生活もあるので、一人で一週間で覚えろと言うのは無理があるかと。」
「…ではどうすると言うのだ。織斑が全て覚えるまで、全員の教育のレベルを落とすか?」
威圧するような眼で俺を睨み付ける織斑先生を前に、俺は怖じける事なく言う。
「いえ、その必要はありません。俺が一夏に教えます。」
「あ、碧!?」
「ほう…わかった。織斑の事はお前に任せよう。」
「はい。俺となら、一夏は学園生活をしながら一週間で覚えれます。」
強い意思の元、俺は織斑先生を見詰める。すると、わかったと言う風に椅子が置いてある壁際に行き、その椅子に腰を掛けた。
「一夏も一夏だ。幾らIS学園への入学でバタバタしてたとはいえ、間違えて捨てたらダメだろ?」
「うぅ…わかった。悪いな、碧。」
「困ったときにはお互い様、だろ。授業でわからないところは俺が補足してやるから。それくらいは良いですよね、織斑先生?」
「ああ、構わん。日下部、織斑の隣に座れ。」
織斑先生に促され、俺は一夏の机に二人で座ることにした。
一夏がわからないところを参考書を使って説明し、そのまま授業を進めてもらった。
ここで気付いた事がある。一夏は案外理解力はある方だということと、織斑先生は一週間で覚えろと言ったが、覚えれなくても罰は無い、という事だ。どうやら織斑先生は、弟にとても甘いようであった。
どうも、作者のレーゲンです。
今回は、入学してから初めての授業までを描きました。
原作と違うのは、千冬さんと一夏の掛け合いでしょうか。いや、普通電話帳程の厚さのあるものを一人で一週間で覚えろとか、絶対投げ出しますよ。作者なら泣いて逃げます。勉強嫌いですから←
さて、次回はあのセシリアさんとの一悶着から始まります。今回一夏に助け船を出した碧が、一夏とセシリアの手綱をどう引くか、お楽しみください。
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