インフィニット・ストラトス【白と黒の雨模様】 作:レーゲン
「ありがとうな、碧。お前のお陰で授業に置いてかれないで済むよ。」
「礼は良いから、参考書覚えることから始めような。」
「うぐっ…はい…」
授業終了後の休憩時間を利用して、俺は一夏へ分厚い参考書の内容を噛み砕いて説明していく。ドイツで教えてもらったやり方がこんなに役に立つとは思っていなかった。
事実、一夏はもう十ページ分の内容を頭に修めているのだ。やはり理解力は高い。これなら直ぐにでも覚えてくれるだろう。
「ちょっと宜しくて?」
「「ん?」」
俺達が勉強している中、一人の金髪女子が話し掛けてきた。確か…イギリスの代表候補生のオルコットだったか?
「まぁ!何ですのそのお返事は!?この私が声を掛けた事すら光栄に思っていただきたい程なのですから、それ相応の反応があるのではなくて?」
いや、いきなり話し掛けられればこういう反応にもなるだろ。
「悪いな、俺、君が誰だか知らないし。」
「一夏、お前って一つの事考えると周りが見えなくなるって言われないか?織斑先生が来てから他の人の自己紹介聞いてなかったろ?」
「うっ…」
「一つの事に集中するのも良いけど、もっと多角的に物事を見ろよ?一面だけ見てるようだと、応用問題や引っ掻け問題が解けないぞ?」
「私を無視して話すのはやめてもらえませんこと!?」
急にオルコットが大声を出す。おっとすっかり忘れていた。
「本当にわたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリス代表候補生にして、入試主席のわたくしを?」
「ああ、ごめん。一つ良いかな。」
「なんでしょう?下々の者の要求に応えるのも貴族の務め。質問に答えて差し上げましょう。」
決めポーズをしながら何時でもどうぞと言わんばかりのオルコットに、一夏が問い掛けた。
「代表候補生ってなんだ?」
ずどどどっ!
話を聞いている女子が全員転ける。オルコットは決めポーズのまま固まり、俺も椅子から落ちて床に頭をぶつけた。そうでしたね!代表だの代表候補生だのの単語が出てくるのはもう少し先のページでしたね!
「あたた…一夏…お前なぁ…」
「なあ、碧。代表候補生ってなんだ?」
「お前の頭は知識を蓄えるだけで思考するっていう事はしないのか!読んで字のごとく、国の代表の候補生だ。国の代表はわかるだろ?」
「ああ、俺の姉さん…千冬姉みたいな人たちの事だろ?」
「今は概ねそれでいい。その代表になるための候補の事だ。オルコット、ごめんな。」
「信じられない…信じられませんわ…。極東の島国とは未開の地ですの?一体どういう教育を…」
「多分こいつが特殊なだけだから…」
オルコットが呻くようにしてブツブツと呟いているので、一応フォローしておく。無論、一夏にでは無く日本人に対してだ。一夏へは良いのかって?フォロー出来るとでも?
「はぁ…入試で唯一、教官を倒したこのわたくしが指導を施してあげようと思いましたが…このままではお話になりませんわね。」
「…質問良いか?」
「あら、貴方から質問とは意外ですわね。何でしょう?」
「…そもそもISに乗ること自体初めての奴が多いんだから、勝てなくても不思議じゃないだろ?そんな状態でISに乗せて教官と模擬戦するのか?」
「あら、御存知無くて?本格的なISの適性検査も兼ねての模擬戦でしてよ?」
なるほど、と頷く。だから俺にはその試験が無かったのか、とドイツで行った適性検査を思い出し、一人納得していた。
「サンキュー、合点がいったぜ。」
「あー、その教官だけど、俺も倒したぞ?」
「はぁ!?」
一夏の一言に、オルコットが驚いたような声をあげる。俺も一夏の顔を凝視して見るが、嘘を言っているような顔はしていない。
そんな一夏に、オルコットは突っ掛かる。
「あ、あ、貴方も教官を倒したっていうの!?」
「あー、まあ、でもあれは自滅みたいなもんだけど…」
「お前、それ倒したって言わないだろ…」
一夏へと突っ込みを入れるが、オルコットには聞こえていない。
「私だけと聞きましてよ!?」
「じょ、女子の中ではって事じゃないか?と言うか、少し落ち着いて…」
「これが落ち着いてなんて…」
興奮しているオルコットを宥めようと一夏が奮闘している中、幸か不幸かチャイムが鳴りオルコットの気を削ぐ。
忌々しそうにまた後で来ると吐き捨てると、自分の席へと戻っていった。
一夏と居ると退屈しないな…と一人思いながら、俺は次の授業に向けての教科書を用意するのであった。
☆
前の授業までは山田先生が教壇に立っていたが、今回は織斑先生が教壇に立っている。気合いを入れて受けないといけないなと思っていると、織斑先生が授業内容について話し始めた。
「この時間は実践で使用する各種装備の特性について説明しようと思ったのだが…そう言えばまだ、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めていなかったな。ちょうど良い、今決めることにしよう。」
いきなり授業を中断してクラス代表を決めると言い出した織斑先生に、一人の生徒が質問をした。
「織斑先生、クラス代表ってなんですか?」
「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席等を行ってもらう。クラス長と取って貰っても構わん。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点で大した差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更は無いからそのつもりで。誰か立候補はあるか?推薦でも構わんぞ?」
「はい!織斑くんを推薦します!」
「私もそれがいいと思います!」
「私は日下部くんを推薦します!」
「「ちょっと待ってくれよ!俺はそんなの──」」
「辞退は認めん。他には居ないのか?居ないならこの二人の多数決になるが…」
俺達の辞退宣言を却下する織斑先生をジト目で見つつ、女子達が俺達を推薦した理由を考える。遊び半分、興味本意も良いところだろう。
未熟な俺達が代表となったところで、恥をかくのが落ちであろう。織斑先生も何を考えているんだか…
「納得がいきませんわ!」
何とかして抜け道を探そうと思考を巡らせていると、オルコットの大声に肩をビクッと震わせる。
気づけば、クラス全員がオルコットへと視線を向けていた。
「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥晒しですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
おいおい、屈辱とまで来たか。確かに恥晒しになるのはわかるが…。
「総合的な実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
オルコットの言い様に、隣の一夏の眉が少しだけ険しくなる。確かにこれは言い過ぎだ。
「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で――」
オルコットが発言をした瞬間、クラスの空気が今日一番悪くなるのを感じた。このクラスには日本人が多い。だから、オルコットの発言を良く思わない人がいてもおかしくはない。何せ、祖国を馬鹿にされているのだから。
「イギリスだって、たいしたお国自慢無いだろ。世界一メシマズな国で何年覇者だよ。」
「なっ…イギリスにも、美味しい料理は沢山ありますわ!あなた、わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
黙っていた一夏がついにキレた。このままでは売り言葉に買い言葉になると判断した俺は勢い良く立ち上がり、少しオーバーに両手を広げてみせた。
「おいおい一夏、イギリス料理が不味い?ソイツは偏見だぞ?」
「なっ…碧っ!」
「まあ聞けっての。イギリスの料理が敬遠される理由は、見た目が地味って事が挙げられるんだ。贅沢を尽くす宮廷料理から発展したフレンチや中華、トマトやパプリカをはじめとする色鮮やかな大地の恵みを使うイタリアやスペインの料理と違い、イギリス料理はどれも色合いが地味なんだよ。それはな、厳しい気候だから、ロクな作物が取れないってのもある。現に、俺の祖国であるドイツも地味な料理が多いからな。」
北ヨーロッパに住んでいた事から、この辺りについては詳しい。それをわかっているのか、一夏はおろか、他のクラスメイトも反論すること無く聞いていた。
「そんな厳しい気候だからこそ、限られた食材を余すこと無く使おうと考えたんだ。華を取るよりも実を取る、質実剛健な料理がイギリス料理なんだよ。それと、イギリス料理は庶民の料理から発展したってのも大きいな。」
「え?なんでなの?イギリスやフランスって言ったら、貴族の国でしょ?」
「相川、良い質問だな。それは議会政治が早くから浸透したからだ。イギリスは、マグナ・カルタの時代にとっくに国王が人間宣言をしてたから贅沢な宮廷料理が発達しなかったというわけ。その土地の食べ物で豪華に作っても大して派手にはならないし、もし大陸から高級食材を取り寄せるなんて真似を王様がして、無駄に国民の税金を浪費したら議会が黙っていなかったからな。」
「「「「「「へぇー…」」」」」」
「でも、それじゃあイギリス料理が不味くないって説明にはならないだろ?」
「おう。ここまではほんの触りだ。イギリス料理はほとんど味をつけない状態で出てくるんだ。どれくらい味がないっていえば、下味の塩コショウもしない場合がほとんどだ。非常に繊細に味付けを決めた状態で出され、そのまま口に運べる和食などに慣れてると出てきたものをそのまま食べて、その味のなさに辟易して、イギリスの料理は不味いって思いこんでしまう。イギリスの料理屋にはそれを補うためにケチャップやマスタード、HPソースの瓶がテーブルに置かれてるんだよ。」
「なるほど…今まで俺は間違った事を覚えてたんだな…」
「そういうこと。まあ、付け合わせのチップスが多かったりしてうんざりするってのもあるらしいけどな。旨い料理で言えば、ローストビーフなんかイギリスの伝統料理だからな。そうだろ、オルコット?」
「え、ええ。良く御存知ですわね。」
驚いているオルコットに軽く一礼をする。先ずは一夏を謝らせて、それからオルコットの間違いを正させようと、今度は一夏側のフォローに回る。
「イギリスへのフォローは終わった。次はお前の番だ。お前が文化が後進的って言ったこの日本だが、お前が使っているISの発明者の出身地は?第一回モンド・グロッソで優勝した国は?」
「あ…ぅ…」
「これの何処が後進的な文化の国なんだ?」
「あ、あなた!さっきからどっちの味方ですの!?」
「オルコット、お前はイギリスの代表候補生なんだろ?…お前の発言一つで、祖国が危なくなるって事は考えなかったのか?」
オルコットの問い掛けに答えず、オルコットへと問い掛ける。会話の態度としては最低なことをしたが、オルコットへ危機感を知ってもらいたかった。
だがオルコットは、顔を赤くして俺達を指差す。
「(っ…この様な方々に言わせたままでは、オルコットの名に傷がっ…)っー!!あなた方に決闘を申し込みますわ!」
「おう、いいぜ。やってやるよ。」
「一夏!」
黙っていた一夏が相手の決闘宣言に乗ってしまう。暫く考え、何も考え付かなかった俺は小さく溜め息を溢した。
「では決まりだな。日時は一週間後の放課後。第三アリーナにて行う。この勝敗でクラス代表を決めるからな。オルコット、織斑、日下部の三名は各自準備しておくように。」
無情にも織斑先生が決闘の日程を決め、この話しは終わった。そしてどうやら、一夏にも専用機が渡されるらしい。
ヤル気満々な一夏に俺は頭を抱えつつ、机に突っ伏した。
☆
「何で男二人なのに一夏と相部屋じゃないんだ…」
「あ、あはは…でも、私としては役得かな?」
「男と一緒の部屋なんて気が休まらないだろ?」
IS学園の寮の廊下を、ルームメイトの相川と歩く。
本当にここの寮長はどうかしてると胸中でごちる。男が二人なら同じ部屋に押し込んでおけば良いものを、何故か別々の部屋にさせられたのだ。これじゃあ勉強もろくに見てやれないと言うと、相川はあははと笑っていた。
「日下部くんって、本当に面倒見良いよね。」
「別にそんなんじゃ…」
「端から見てると日下部くん、織斑くんのお母さんみたいだよ?」
「出来れば親父って言ってほしかったんだけど…」
そんな下らない話をしながら食堂へ向かっていると、何やら扉に背中を張り付けて小さく息を吐いている一夏を見掛ける。同室の人と何かあったのかと思い近づくと、一夏も俺に気付いて助かったと言わんばかりにまた息を吐いた。
「どうした一夏。何かしたのか?」
「なにもしてねぇよ!悪いっ!匿ってく…」
『一夏ぁ!覚悟ぉっ!!』
ドガッという鈍い音共に、俺の意識はここで途切れた。俺が
最後に見た光景は、扉を突き破った木刀が一夏の頬を掠め、俺の額にぶちこまれる光景だった。
後から聞いた話だが、犯人の篠ノ之は大変だったらしい。関係ない人を傷付けたと切腹しようとしたみたいだ。一夏と相川が必死に止めたみたいだが…
こうして、俺の一日は幕を閉じた。
どうも、作者のレーゲンです。
漸く一日目が終わりました。これから代表戦となると、私の好きなキャラが出るまでまだまだ掛かりそうです(笑)
相川さんが途中で、日下部くんはお母さんキャラだと言いましたが…この先もお母さんキャラを続けていこうか、悩みどころです。(苦笑)
さて喜多川宏茂様、ゲオザーグ様、Tーレックス様、どろにんげん様、wildjoker様、折上 文目様、Sairi様、kobanao様、こんな小説をお気に入りに入れて下さり、ありがとうございます!
そして、何方かは存じませんがこんな小説に9点も入れてくださってありがとうございます!感謝の思いで一杯です!
これからも気合いを入れて書いていきますので、よろしくお願いします!