インフィニット・ストラトス【白と黒の雨模様】 作:レーゲン
セシリア戦。一夏は苦戦を強いられるも、何とか巻き返して挽回も狙える局面まで試合を運んでいた。
試合中にファースト・シフトをするというとんでもない事をしてのけ、あまつさえ代表候補生にここまで食らい付いているのだ。他の女性が見ても、素直に賞賛せざるを得ないだろう。
一夏は新しくなった刀を振り、オルコットに突き付けて笑顔を浮かべる。
「今までの俺は、姉さんに守られてばかりで…それに気付かないバカ野郎だった。でも、もう姉さんから守られるだけの関係を終わりにする。これからは――俺も、俺の家族を守る。」
「……は?あなた、いったい何を言って…」
セシリアの突っ込みを無視し、一夏は続けるように宣言する。
「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!」
スラスターを吹かし、爆発的な推進力でセシリアに向かう一夏。一方のセシリアは特殊兵装、ブルー・ティアーズの展開も、スターライトMk-Ⅲの照準も間に合っていない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
一夏は雄叫びと共に、雪片弐型を振り抜こうと腕を振るう。
『織斑一夏、シールドエネルギーエンプティ。勝者、セシリア・オルコット。』
「へ?」
無情なアナウンスに、一夏が間の抜けた声をあげる。こうして一夏対セシリア・戦は、呆気なく幕を閉じた。
☆
「一夏、何か言うことはあるか?」
「…スッゴい恥ずかしい。」
オルコットの機体整備が終わるまで、ピットにて反省会をしている。俺は一夏に正座をさせて説教をしていた。
「お前、あのタイミングでファースト・シフトしなかったら確実に負けてたんだぞ?」
「はい…」
「それと、何でシールドエネルギーが無くなったかは知らないが、シールドエネルギーの残量は常に気にかけるようにしておくこと。」
「返す言葉も御座いません…」
「…だけど、オルコットを彼処まで追い詰めたのは凄かった。本当に驚いた。凄いよ、一夏。」
ただ叱るばかりじゃなく、誉めることも忘れない。ただし、付け上がらない程度に、だ。
誉められると思っていなかったのか、一夏は少し照れていた。
「だが、なぜいきなりシールドエネルギーが無くなったのだ?」
「バリア無効化攻撃だ。」
「千冬姉、何か知ってるのか?」
「織斑先生だ、馬鹿者。白式にはバリア無効化攻撃が付いている。相手のバリアを切り裂き、絶対防御を発動させる事でシールドエネルギーを大幅に削る攻撃だ。だがこの攻撃は、自分のシールドエネルギーすら攻撃に回してしまう。だからお前はシールドエネルギー切れになったのだ。」
箒の疑問に織斑先生がモニターに画像を映して解説している。一夏はしっかりと特性を理解するために、モニターに釘付けになっていた。
「武器の特性を考えずに使うからああなるのだ。身をもってわかっただろう。明日から訓練に励め。暇があればISを起動しろ。いいな」
「いや、さっき着いたばっかの機体で戦わされて機体の特性云々って、少し無茶でしょう?」
織斑先生の言い種に流石に無いと思った俺は思ったことを口に出す。織斑先生はうっとした表情をした後、顔を逸らした。
「…だが日下部の言う通り、良くやった。…これからも強くなれよ?お前は私を守れるようになるんだろう?」
「…おう!」
織斑先生に誉められた一夏は、ビックリしたような顔をした後で力強く頷く。織斑先生は気付かれない様に小さく微笑むと、俺を見た。
「日下部、次はお前の番だ。」
「わかりましたよ。気は乗りませんが行ってきます。」
俺はヴァイザー・レーゲンを展開する。最初こそ全方位視界接続に悩まされたものの、今では慣れからか全く気にならなくなっていた。
機体の最終確認をしていると、箒と一夏が近くへとやって来た。
「碧、勝てるか?」
「勝率で言えば30%も無いかもな。」
「お前っ!何を弱気な事を言っておるのだ!」
「いや箒?俺のIS起動時間なんて、アイツの1/4にも満たないんだぞ?寧ろ30%でも多く見積もり過ぎな位だ。」
「…碧なら勝てるさ。俺、信じてるから。」
屈託の無い笑顔で言う一夏に、思わず吹き出してしまう。
「ぷっ…なんだよ、その根拠のない理由は?」
「うーん、俺が思ったから、かな?」
「おーおー、言ってくれるねー?こりゃプレッシャーだわー。」
ヘラヘラと笑い合いながら言葉を交わす。ここ数日で、俺と一夏はとても仲良くなっていた。それこそ、女子から見られたら腐った視線を向けられるくらいに。と言うかこの学園腐った奴多すぎだろ。
「…お前達は随分仲が良いのだな。」
「まあ、ここで唯一の男友達だからな。」
「そういうものなのか?」
「まあな。さーてと、分の悪すぎる勝負に出ますかね。」
そろそろ時間だと言われ、俺はカタパルトデッキに移動する。発進アナウンスが言われるまで、深呼吸をして待機していた。
「…でも、分の悪い賭けは嫌いじゃない。」
『カタパルト、オールグリーン。いつでも良いですよ、日下部くん。』
「はい、山田先生。…行きます!」
小さく呟いた俺はスラスターを吹かせ、カタパルトを勢い良く飛び出した。
☆
セシリアはISの修理を受けている中、先程の試合を思い出してはロッカールームで思考を巡らせていた。
(今の試合………)
何故いきなり一夏のシールドエネルギーが0になったのかは
、セシリアには分かっていない。もしあの一撃が当たっていたら、確実に落とされていたかもしれない。
(織斑、一夏──)
セシリアは一夏の事を思い出す。あの強い意志を宿った瞳を。今まで会った事の無い、男の眼差しを。その眼差しを思い出す度に、セシリアの胸は高鳴った。
(父は、わたくしの母の顔色ばかり伺う人だった……)
名家に婿入りした父は、いつも母には卑屈な態度を取り続けていた。幼い頃からそんな父親を見ていたセシリアは、『情けない男と結婚しない』と心に決めていた。
(だけど…織斑一夏──彼は違った…)
最初から最後まで諦めない、力強い眼差しが忘れられない。セシリアの心は、一夏の奮闘により揺り動かされていた。
(思えばわたくしは…一夏さんが男だから、日本人だからと言う理由だけで毛嫌いして…一夏さんを見ようとしていませんでしたわ…。恥ずかしい…オルコットの恥ですわね…)
セシリアは自分を戒める様に頬を思いきり叩くと、修理を済ませたという報告を受けてカタパルトデッキに向かう。
「さあ、ティアーズ。もう一踏ん張りですわ。」
自らのISに語りかけるようにして展開をすると、カタパルトから飛び出してアリーナの空を舞った。
☆
「よっ…とと、まだ覚束ないな。」
カタパルトを飛び出した俺は一頻り空を舞った後、PICを制御して空中で静止する。飛び続けていれば慣れていくのだが、展開からの飛行は未だに飛行姿勢がブレたりと粗が目立っていた。
「「「「きゃあぁぁぁぁぁぁ!碧くーん!頑張ってー!」」」」
歓声と応援が恥ずかしくてくすぐったい。俺が歓声に微妙な苦笑いを浮かべていると、反対側のカタパルトから蒼い機体が飛び出し、空を優雅に舞った。
「よ、オルコット。」
「ごきげんようですわ、日下部さん。」
軽く会釈するオルコットに目を見開く。態度がかなり軟化していて少しばかり驚いた。
俺が呆けた顔で見ていると、オルコットは小さく笑いながら頭を下げてきた。
「先日は申し訳ありませんでした…。わたくしの傲慢な態度を改め、尚且つ立場を考えて発言していただいたのに…」
「お、おう。まあ気にすんな。」
「ありがとうございます。…一夏さんにも謝らなくては…」
「い、一夏さん!?お、オルコット…お前もしかして…」
「な、なんですの?」
「一夏に…惚れたのか?」
俺の問い掛けにオルコットは真っ赤になりながら目線を逸らした。
「あー…アイツのどこに惚れたんだか。」
「あ、あの強い瞳に…」
「なるほど…なんだかんだ言っても、アイツの目って力強いからな。競争率は高いと思うが、気を付けろよー?」
「他人事ですわね…」
「他人事ですから。」
二人して視線を交わすと互いに笑い出す。試合開始のシグナルが始まると、俺はFalkeを展開してモードAに切り替えてじっと待つ。
「それじゃ、ダンスのご指導でもしてもらおうかな?」
「ええ、では、わたくしとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で存分に踊ってくださいな?」
開始のブザーがなると同時に俺は、オルコットの斜線上から逃げるようにサイドスラスター作動させて横に飛ぶ。先程まで俺が居た場所には、オルコットの持つ銃から放たれた光線が通りすぎていた。
初撃を避けた俺は、Falkeをオルコットに向けて撃ちながら繰り出されるレーザーを見定める。一方オルコットは、俺の銃撃を優雅に避けながら微笑んでいた。流石は代表候補生だ、と、感心してしまう。
「やっぱ…遠距離特化型には敵わないな…って、危なっ!」
「一夏さんより複雑な回避動作ですわね。でしたら…行きなさい!ティアーズ!」
俺がオルコットのレーザーを避けていると、今度はアンロックユニットから4つのパーツが分かれ、俺の周りを取り囲むように動き始めた。不味いと思った俺は更にスピードを上げる。暫く俺の回避動作を観察するかのように飛んでいたブルー・ティアーズは、俺の回避先へ向けて4つのレーザーを撃ち込んできた。焦った俺は、それに飛び込んでしまう。
「ぐあっ!」
一度当り動きが止まった俺は、連続して攻撃を受けてしまう。シールドエネルギーがガッツリ減らされてしまった。
俺は舌打ちをして軽く毒づくと、体勢を立て直してオルコットに向けて突撃をする。
Falkeを手にしたまま爪先にプラズマを纏わせRot Schneideを展開し、撃ちまくる。やられっぱなしは好きではない。
オルコットは華麗に避けては反撃で射とうとするが、その隙を与えない。そして銃弾に気を取られている内に、俺は一気に加速してオルコットの懐へと潜り込み、Rot Schuneideを展開した足で蹴り上げる。
「きゃぁっ!れ、レディに脚を上げるとは!あんまりじゃありませんこと!?」
「手を上げてないだけマシだと思ってくれ!」
「そんなの…ひゃっ!」
軽口を叩きながら空中でカポエイラの連続攻撃。逃げようとしても回避先を読み、尚も追撃する。
「空中でその様な動きが出来るなんておかしくありませんの!?」
そう、オルコットが一番動揺している所がそこだった。空中でのあびせ蹴り、飛び回し蹴り。まるで地に足が着いているかのように動いているのだ。ISを扱っている側からしたら、考えられない動きで攻撃されているから動揺してしまうのだろう。
「くっ…ティアーズ!」
オルコットは何とか俺の猛攻から逃れると、腰の武装を射出する。先程の一夏戦で見た、弾道タイプの武装だ。
俺は一気に下がりGranatapfelを呼び出すと連射を始める。銃身から飛び出した小さな散弾は、弾道の武装を俺に近づけることなく破壊した。
「やりますわね…」
「ドイツの魂、なめてもらっちゃ困るぞ?」
「ふふ、その様ですわね。」
「そして………」
スラスターの出力をマックスにして突撃する。オルコットはティアーズを駆使して俺のシールドエネルギーを削るが、俺の突撃は止まらない。オルコットのスターライトMk-Ⅲが俺を狙い、レーザーを射つ。俺は直ぐ様Leberechtを展開し剣の腹を利用して防ぐと、オルコットに組み付いた。
「な、何て言う無茶をするんですの!あなたは!」
「こうでもしないと、代表候補生相手に戦えないからな!」
バックパックユニットが開き、大量の穴がオルコットを捉える。その状況にオルコットは青ざめる。
「我ぁがドイツの技術力は!世界一ぃぃぃぃ!」
「ひぃぃぃぃぃ!!」
俺の叫びと共に、Stahl von Regenからベアリング弾が発射される。小さな鋼鉄の弾は、目の前のオルコットへと襲い掛かり、シールドエネルギーを削っていった。
ベアリング弾の砲撃が終わると、衝撃でオルコットが落ちていく。地面に激突する寸前に、オルコットは体勢を立て直して何とか浮遊する。ブルー・ティアーズの装甲には傷が入っていた。
「あ、あなたと言う人は…」
「やっぱ落ちないか…」
「わたくしも!全力で行かせてもらいますわ!」
オルコットの気迫が強くなると、俺への攻撃が激しくなる。4つのブルー・ティアーズの動きが速くなり、徐々に俺の動きを上回るようになっていた。
「うおっ!ほっ、はっ、よっと…いだだだだ!くそっ…行けっ!」
最初こそバレルロールや急降下などを使って避けていたが、易にそれも長くは続かず何度も掠り、直撃し、翻弄されてしまう。
体に受ける衝撃に顔をしかめながら、Gespenst Messerを手に取り、プラズマ刃を出してブルー・ティアーズ目掛けて投げる。回転しながら飛ぶGespenst Messerは、ブルー・ティアーズに当たることなく避けられてしまう。
「あら、何処を狙ってるんですの?」
「まあまあ、とくと見てな。」
「なにを…!?」
オルコットがハッとした顔をすると横に飛ぶ。ほっとしたオルコットだが、直ぐにオルコットの顔は驚愕に染まる。Gespenst Messerがオルコットを追いかけるように軌道を変えたのだ。
「こ、これは!?わたくしのブルー・ティアーズの様に…」
「そう、イメージインターフェースを使った第三世代兵装さ。見た目の派手さは無いが、中々便利な物だぜ?簡単だから…こう言うことも出来るのさ。」
Gespenst Messerから逃げるオルコットにFalkeを向ける。追い討ちをかけるようにトリガーを引き、銃弾を撃ち込んだ。
俺の攻撃は確実にシールドエネルギーを削り、オルコットを追い込んでいく。オルコットの動きが止まった所で、俺はStahl von Regenの砲門を開いて狙いをつける。
「これで…最後だぁぁぁ!」
「させませんわ!」
オルコットは俺の攻撃が止んだ瞬間、ブルー・ティアーズを操作し、俺を撃ち抜く。何度も、何度もレーザーの雨に晒され、俺のシールドエネルギーは後少しになっていた。
「ぐっ…!」
「これで…
弾道タイプのブルー・ティアーズが射出され、レーザーの雨に射たれている俺はなす術無く直撃する。俺のシールドエネルギーが一気に削られていき……0を示した。
『日下部碧、シールドエネルギーエンプティ。勝者、セシリア・オルコット。』
試合終了のアナウンスが聴こえる中、拍手や歓声が飛び交う。その中で俺はオルコットに気取られないよう唇を噛み締めるのであった。
どうも、作者です。ここ最近、蒸し暑くて寝不足で仕方ありません。
この間は殆ど寝ないで仕事に行って、地獄を見ました。皆さんは睡眠不足にならないよう、気を付けてくださいね?
さて、今回はセシリアちゃんvs碧くんを書きました。いやー、碧くん、負けちゃいましたね。これをバネに強くなっていく碧くんを、皆さん応援してあげてください。
それでは、次回でお会い致しましょう。