インフィニット・ストラトス【白と黒の雨模様】 作:レーゲン
「惜しかったね、後少しで勝てたのに…」
「ああ…でもこればっかりは仕方無いさ。」
「そんな顔で言われても、説得力無いよ?」
「…はは、ごめん。」
自室のベットで仰向けになりながら、腕で目を隠す。瞼の裏からでも思い出す、敗北の瞬間。
ただ負けたのではない。ドイツの皆が作ってくれた機体で負けてしまったのだ。ただ負けたと言うよりも数倍、いや数十倍悔しかった。
相川はそんな俺を見て、情けない男のくせに…等とは言わず、俺のそばに来て頭を撫で始めた。
「日下部くんは…きっと強くなれるよ。」
「…ありがとな。明日になれば、きっと何時もの俺だから…」
「うん。」
相川の言葉が嬉しく、少し心が軽くなった。
ルカスさん…ハンナさん…俺、絶対に強くなる。皆に恥をかかせないためにも…。
俺は胸中で小さく決意すると、体の疲労に任せて意識を手放した。
「おやすみ…日下部くん…」
意識を手放す直前に聞こえた相川の声は、とても優しく、暖かいものだった。
☆
「(ヤバイ…凄い恥ずかしい…)」
翌日。俺はSHRが開始される前に教室に入り、一人頭を抱えていた。昨日の悔しさで泣きそうになっていた自分を殴りたい。そんな気持ちでいっぱいだった。
俺が一人悶々としていると、その様子を見た布仏がとてとてと近寄って来た。
「あおいんおはよー。」
「ああ…おはような、布仏。」
「元気ないねー?だいじょーぶ?」
「大丈夫大丈夫…ちょっと自己嫌悪で死にたくなってるだけだから…」
「それ結構大変なことだよね!?」
珍しく布仏がハキハキと突っ込みを入れる。俺はその様子に思わずくすっと笑ってしまった。
「冗談冗談。ありがとな、布仏。」
「むー…」
「ごめんって。今度お菓子作ってくるからさ?」
膨れっ面になる布仏の頭を撫でる。やはり同い年の感じがしないのか、ドイツにいた頃の近所のガキと同じ扱いをしてしまう。
撫でられている布仏は、少し顔を赤らめては笑っていた。
「えへへ~…」
「ほら布仏。髪の毛左右で違ってるぞ。」
「あおいん直してー?」
「はいはい。」
布仏を膝に座らせ、ゴムで結わえてある髪をほどく。手櫛で髪の毛を数回整えてやると、また何時もの髪型に結わえてやった。
「何か日下部くんって…」
「手慣れてるって言うか…」
「と言うか、本音は幸せそうなんだけど、何故か嫉妬できないんだけど…」
「あれよ、日下部くんは…」
「「「「「お母さんっぽいからよ!」」」」」
「お前ら聞こえてっからな。」
ヒソヒソと話しているが丸聞こえなので一応突っ込んでおく。髪を直した布仏は俺の膝の上で鼻唄を歌っている。
どうしてこうなった、とこめかみを押さえている間にオルコットが教室に入ってきた。
オルコットは自分の席に荷物を置くこともせず、俺のもとへとやって来る。
「おはようございます、日下部さん。」
「おう。おはような、オルコット。」
「昨日の試合、わたくしにとってとても有意義な物でしたわ。彼処まで追い込まれたのは、日下部さんが初めてでしてよ?」
「そうか?…でも、負けは負けだ。」
「いいえ、最初からわたくしの戦法や癖を研究されていたらわたくしが負けていましたわ。…正々堂々と戦うあなたの姿に、わたくしは感激しました。」
「俺はオルコットの方が凄いと思うぞ?早くに両親亡くしてから…ずっと頑張ってきたんだ。家を再興して代表候補生にもなって…凄いよ。」
オルコットの生い立ちは、ある程度知っている。ニュースになった鉄道事故、ドイツでもテレビで放送されるオルコット家の再興。それだけでもどれだけ頑張ったか、想像がつく。
「こうして面と向かって評価されるのも悪くは無いですわね。わたくしの事はセシリアで構いませんわ。ところで、あなたのお膝の上の布仏さんは何をしてらっしゃいますの?」
「わかったよ、セシリア。俺も碧で良い。…布仏はだな…」
「えっとねー、あおいんに髪結んでもらったんだー。」
「で、膝の上から離れてくれないわけ。子供じゃないんだから…」
「えへへー、本音はお母さんの子供なのだー」
「お母様…ですか…」
撫でて撫でてと言わんばかりに見てくる布仏に、思わず笑みが溢れる。オルコットは短く呟いた後、俺と布仏を見て何かを考えていた。
「セッシーも撫でて貰ったら?あおいん、すっごく上手だよー?」
「え?決してその様な…ってセッシー!?わたくしのことですの!?」
「いや、突っ込むとこ違うだろ。」
膝の上の布仏を退かすと軽く伸びをする。布仏が膨れっ面になっていたが気にしない。暫くすると山田先生、箒や一夏、織斑先生が入って来てSHRの時間となった。
教壇に立つ山田先生がSHRを進める。
「皆さん、おはようございます。連絡事項の前に…皆さん、昨日の戦闘の結果、見事織斑一夏くんがこの一年一組の代表になりました。あ、一が並んで良い感じですね!」
山田先生から告げられた言葉は、一夏が代表になったと言うことだった。恐らくは、セシリアが辞退したのであろう。俺の目の前の一夏は直ぐ様疑問をぶつけていた。
「ちょっ、先生!?なんで負けた俺がクラス代表になっているんですか?」
「それはわたくしが辞退したからですわ!……まあ、勝負自体はわたくしの勝ちでしたけど。それはこのわたくしを相手にしたからであって、まあ仕方のないことなのですわ。」
油断して負けかけたくせに。
「それに、実際剣を交えて気づきましたの。一夏さんは実戦を重ねる毎に強くなっていく人ですわ。だからこそ、クラス代表となって様々な人と戦ってもらい腕を上げてもらいたいのです。」
「セシリア、良いこと言った!」
周りから持ち上げられ、セシリアは会釈して微笑む。一夏はぽかーんとその様子を見ていた。
「それと…皆様に謝らなければならないことがあります。…先日は自分の立場も考えず、皆様を不快にさせる言動をして申し訳ありませんでした。」
セシリアは頭を深く下げ、先日の発言を謝罪する。最初は皆黙っていたが、次第に拍手の音が鳴り始めた。一つの拍手は二つの拍手を呼び、二つの拍手は四つの拍手を呼ぶ。
そして拍手は、教室を埋め尽くした。
「セシリア!私、セシリアを見直したよ!」
「大丈夫大丈夫!もう気にしてないって!」
「皆さん…ありがとうございますっ…!」
最初にあった亀裂はどこへやら。素直に非を認め頭を下げるセシリアに対して、俺のクラスはまるで気にしていないという風にセシリアをを受け入れた。うんうん、青春だねぇ。
「そういうわけだ。織斑、しっかり励めよ。」
「じゃ、じゃあ碧はどうなるんだよ千冬ね──あだぁっ!?」
出席簿一閃。スパァンと言う音とともに一夏が頭を抱える。 いい加減学習しないと、頭が割れることになると思うんだが。
「織斑先生と呼ばんか、馬鹿者。」
「いってて…わかりました、織斑先生…」
「最初からそう呼べ。で、日下部についてだったな。日下部はお前とは基礎が違う。格闘についての心得もあれば、武器の有効な活用法も心得ている。」
「うぐっ…」
「それに先程オルコットも言ったが、お前は戦いの中で伸びるタイプだ。ならば丁度良いではないか。」
「わかったよ…。こんな頼り無い俺だけど、皆よろしくな?」
一夏がそう挨拶をして代表を受ける事を宣言すると、また大きな拍手が起こる。俺も惜しみ無い拍手を送った。
「さあ、感動的な話しはここまでだ。そろそろSHRも終わる。次の授業の支度をしろ。」
織斑先生の一言で拍手は止み、皆いそいそと支度をするのであった。
☆
ISの実習中に一夏がグラウンドに大穴を空けたり箒とセシリアが睨み合ったりとハプニングが多かったが、基本的に俺には何事もなく一日が終わり、寮へ戻る。夜には一夏の代表就任パーティーがあるらしい。何かにつけて騒ぎたいだけだと思うが…。
それまで予習でもしておくかと参考書を開こうとした所で、扉がコンコンとノックされた。
「日下部は居るか?」
「あ、はい。どうぞ。」
中に入るように促すと、扉が開く。そこにいたのは織斑先生だった。
「日下部。寮にお前宛ての届け物があったそうだ。私の部屋の前に置いてあるから取りに来るように。」
「わかりました。じゃあ今から行きます。」
「そうか、着いて来い。」
俺は参考書を閉じると織斑先生に着いていく。この時期に届け物なんてなんなのだろうかと思うも、その疑問は直ぐに晴れる事となる。
織斑先生の部屋の前に着くと、そこには立派な木箱があった。口にして説明するのであれば、軍が物資を運ぶ際に使われるあの木箱だ。
「あぁ、ドイツからですね。」
「私も直ぐにわかったがな…ルカス中将は何をやっているのだ…」
額を押さえる織斑先生を余所に、俺は木箱を手慣れた様子で開けていく。釘で打ち付けられているが、割りと力付くで開けられるのだ。
箱の中身は、チーズやシュトレン、手紙等が入っている。俺は手紙を開いてみると、思わず笑みが浮かんでしまった。
『碧よ。元気でやっとるか?ワシはお前の料理が食えんで寂しい思いをしとるよ。長期休暇があるときにでも遊びに帰ってこい。ルカス坊に迎えに行かすでな。ルカス坊ん所の隊員も、お前に会えんで寂しがっとるわ。この間なんぞ、碧に会いにIS学園にルカス坊が行ったとわかったら、隊員全員がルカス坊を囲って説教しておったわ。 …無理はするなよ。お前が元気で居てくれれば、ワシはそれで十分じゃてな。たまにはドイツの味を思い出すのも悪くはないと思うたから、色々送るぞい。ではまたの。』
「柳さんからか、日下部。」
「はい。…ドイツの味を送ってくれました。」
様々なチーズを取り出して織斑先生に見せる。心なしか織斑先生の口許も緩んでいたように見えた。
木箱の中を漁っていると、藁の下にガラスの瓶を見付けて首をかしげる。チラッと覗き見ると、ビール瓶が藁の下いっぱいに並んでいた。
「(じいちゃんなに考えてんの!?俺未成年だから!良く肴作るために味の研究でちょびっとは飲んでたけど!)」
冷や汗をだらだらと流しながらどうするか考えていると、織斑先生が俺の肩を叩いた。
「ものは相談なんだがな、日下部。私にもチーズを別けてくれないか?」
「は、はぁ?」
「ドイツのチーズは旨いものが多いからな。タダとは言わんぞ?」
この人、絶対に酒のあてにするつもりだ。昔ルカスさんと一緒に店に来たときも、かなり飲んでたからな…。
「わかりました…。お金は取りませんが、一つ秘密にしてもらいたい事が…」
「ほう、なん………」
俺は藁を退けて織斑先生に見せると、織斑先生がフリーズした。ビール瓶が所狭しと並んでいる。このビールはシュパーテン・ミュンヘナー・ヘルというビールで、苦味が弱めで香りと甘味が仄かにするという、クセのない物となっている。どんな料理や肴にでも飲める、またこれだけでも非常に飲みやすいビールで、愛飲している人も多い。現に俺も好きな部類である。
「一応言っときますが、これはじいちゃんが良かれと思って送ってきました。」
「…どうやって処分するのだ。まさか、飲むわけじゃあ無いだろうな?」
「まさか。先生方にでも配りますよ。」
俺がそう言うと、織斑先生は携帯を素早く取り出して電話をかけた。
「山田くん、私だ。何やら日下部が私達に相談したいことがあるらしくてな。寮長室で待っているぞ。私は良いと言ったのだが、日下部は義理堅い奴でな。ドイツの飲み物をご馳走してくれるそうだ。」
『わかりました!直ぐに行きますね!』
軽快な返事を聞いて電話を切る織斑先生。この人は…!
「俺を出汁にして飲むつもりですね?」
「もう仕事は終わっているからな。」
「……わかりましたよ。じゃあ、中に運ぶんで扉を開けてもらえますか?」
「ああ。」
木箱を持ち、扉を開けるようにお願いするとすんなり開けてもらえた。もらえたのだが…俺は部屋の惨状を見て固まった。一言で言うなら、魔窟。ごみ袋は散乱し、服は脱ぎっぱなし。
「織斑先生、掃除しましょう。こんなんじゃゆっくり飲めません。」
「なぜだ?私はこれで構わ「一夏を呼びましょうか?」わかった、直ぐに掃除をしよう。」
これがモンド・グロッソの覇者、ブリュンヒルデかと思うと頭が痛い。恐らく一夏も同じ気持ちなのだろうか。
俺は木箱の中から6本ほどビール瓶を出して冷蔵庫に入れると、手早く部屋を片付けていった。衣服関連?全部織斑先生にやってもらったさ。
何とか寛げるようになるまで掃除をしてため息を吐く。流しに何もなくて良かった。下手をすれば謎の物体xが出来上がっている事があるからな。
「お疲れさまです、日下部くん。」
「山田先生…お願いですから織斑先生に普段から掃除するように言ってください…」
「あ、あはは…善処しますね?」
何で俺の周りには家事のできない大人が多いんだ。
「さて、そろそろビールも飲み頃だろう。飲むとしようか。」
「はい♪本場ドイツのビールなんて、楽しみです♪」
付き合ってられない…と一人呟くと、手近にあった袋にシュトレンとチーズを入れ、織斑先生と山田先生のチーズを残して立ち上がる。そろそろ一夏の就任パーティーの時間だ。
「じゃあ俺はこれで。チーズはある程度置いていきますので、適当に食べてください。」
それだけ告げると、俺は部屋から逃げるように出ていった。
はぁ……疲れた…
☆
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
《パーン!》《パーン!》《パパァン!》《パーン!》
食堂に鳴り響くクラッカーと共に舞う紙吹雪の中、一夏は何が起きたかと言わんばかりに呆然としていた。そりゃそうだ。当人には知らされてなかったんだからな。
一夏は目を丸くしながら、俺にそっと耳打ちをした。
「碧…これなんなんだ?」
「お前の代表就任パーティーと言う名のクラス親睦会だ。」
「大体わかった、サンキュー。」
俺の説明で大半を理解した一夏は、直ぐに楽しむように料理に手を付けだした。俺は送られて来たチーズをスライスして食べながら、ジンジャーエールを飲む。
「ねぇねぇ!日下部くんは何か一発芸とか出来ないの?」
「んー?幾らかはあるけど…この場で出来るものって言ったら少ないぞ?」
「あおいんの~?」
「「「「ちょっと良いとこ見てみたいー」」」」
「一夏まで乗ってんじゃねえよ…はいはい。」
俺は立ち上がり厨房に向かうと、色々と道具をかき集める。グラスに様々なジュースに、シェーカーだ。……何でシェーカーがあるのかは詮索しない事にしておこう。
オレンジジュースとパイナップルジュースを30ml、レモンジュース20ml、シロップをほんの少しシェーカーに入れる。グラスには氷を入れて冷やしておき、バーテンダーよろしくシェークしていく。時折宙へ投げてはキャッチをし、まるで踊るようにシェーカーを振り続ける。1組の皆は、その様子に目を奪われたのか全員が釘付けになっていた。
暫くして均一に混ざったのを感じると、シェーカーの蓋を開けて冷えたグラスに流し入れる。ノンアルコールカクテル、シンデレラの完成だ。
「こんなもんか…相川、飲んでみるか?」
「え!良いの!?」
「おう。」
俺はグラスを相川に差し出すと飲むように促す。相川は恐る恐る口を着けて少しだけ飲むと、目を見開いた。
「お、美味しい!オレンジの甘味とパイナップルの香りが心地よくてレモンジュースの酸味が舌を刺激する!三つのジュースが一つに纏まってるなんて…」
「秘密はシロップにあるんだ。あれがオレンジの足りない甘味を補って、味をまとめてるんだ。」
「凄いですわね…でも、碧さんはどうしてカクテル作りを?」
「じいちゃんの店で少し出しててさ。」
ぱちぱちと拍手が鳴る中、問い掛けてきたセシリアに答えながらシェーカーを洗いに行く。洗い場に行くと食堂のおばさん達に騒がせてすいませんと謝ると、良いもの見せてもらったから良いよと言ってくれた。ここのおばさん達は心が広いな。
その後もパーティーを楽しんでいたが、新聞部の取材が入ってきたのを機に俺は会場から抜けた。少し喧騒から離れたかったのと、また何かトラブルが起こるかもと危惧したからだ。
結局その後部屋に戻った俺は、夕方からの疲れもあって直ぐに寝てしまった。後日、もっとパーティーを楽しめば良かったと後悔した。集合写真に俺だけ写ってなかった…
どうも、作者です。最近お気に入りが増えてきてワクワクしてきました。
この調子で感想やご意見、ご質問などが増えてくれると嬉しいです。
さて、この小説の千冬さんですが、見ての通り飲兵衛です←
見えないところでばた足とはまさにこの事ですね。
何故でしょう、こんな姉がいたら甘やかしそうで怖いです。
さて、次回はキングクリムゾンで話が飛ぶか、鈴編をやるか…悩みどころですね。早くラウラを出したいです。
それでは次回でお会いしましょう。