━飛び散っていく彼を、私はただ呆然と見ていた。
いつも通り、六時に携帯のアラームが鳴った。寝惚けながらもアラームを止めた。
携帯は八月九日の六時ちょうどを表示していた。
上を見れば、幼い頃からの賞状が気持ち悪くなるくらいに飾ってある。
少し黙って座っていると、眠気が少し飛んだ。
洗面所で顔を洗うと、母の「いってきます」が聞こえ来て、私も「いってらっしゃい」と返事をする。
リビングに行けば、朝飯がレストランかと思うくらいに綺麗に並べられていた。
朝飯を食べ終ると、そのままゴロゴロして過ごすのが普通なのだが、今日は友達の幸也と買い物に行く予定なのだ。
すると幸也から電話が掛かってきた。確認だそうだ。
いつもはジャージを着ているのだが、今日は特別だ。ワンピースなんて、何時から着ていなかったのだろう。
(変じゃないよな…?)
やはり恥ずかしい。止めようか悩んだが、結局着ていくことにした。
気づけば、もう起きてから一時間が経っていた。待ち合わせの時間は八時半なので、あと三十分ある。少し休めそうだ。
「ふう…」
なんだか、もう疲れてしまった。少し休んでいると、幸也と私が写った写真があった。なんだか恥ずかしい気持ちになった。
気がつくと、時刻は八時十九分になっていた。
(そろそろ行こうかな)
私は戸締りを確認すると、鍵を掛けて家を出た。待ち合わせ場所は昔からある古い公園だ。木が多く、噴水がある公園だ。
それにしても、ワンピースとは露出が多くないか?恥ずかしくて溜まらん。しかし、待ち合わせ場所が近くて助かった。あまり人に見られずに…
「あれ?朱音ちゃんだ!ワンピース着てるなんて珍しいね!」
しまった。面倒な奴に会った。とにかく、この状況から早く抜け出さねば。
「ま、まあな。私だって、ワンピースぐらいなら着るさ。ごめん人と待ち合わせしているんだ。じゃあな」
「あ、ごめんね!待ち合わせしてたんだ!じゃあね!」
よし、逃げられた。しかし、美佳に見られるとは…拙いかな、これは。
なんだかんだ考えていると、幸也の姿が見えた。
「やあ。随分と早いな」
「おはよう!僕も来たばっかりだよ」
コイツは昔から時間は凄く守る。私は破ることも多いけど…
「早速デパートへ行くか」
「そうだね」
ちなみに、一緒に行こうと誘ったのは幸也だ。なにも、父親の誕生日プレゼントを買いたいのだとか。歩くのには遠いので、電車で行くそうだ。
そういえば、駅への抜け道が在るって聞いたことがある。
「そういえば、抜け道があるらしいけど、そっちのほうが早くいけるらしいぞ」
「そっち行ってみようか!朱音、分かる?」
「え?あ、ああ」
実はよく分からない。聞いたことがあるだけで、道の詳しい場所はよく分からない。
私は適当に道を選んで抜けていく。
「あ、あれだ!」
「え!?マジか!?」
一瞬疑ったが、本当に駅の姿が見えていた。
私達は細い道から一気に大通りに出た。そのときだった。
━上から轟音が聞こえたのだった。
私は驚いて上を見上げるが、すでに遅かった。幸也に向かって鉄骨が落ちてきた。そして、彼の頭へ直撃し、血飛沫が起こり、周りからは悲鳴が聞こえる。
(噓だろ…?夢だろ?夢なんだよ…きっと…!)
涙が流れ落ち、血と混ざり合う。
吐き気が襲い、私は膝を付いてしまった。
私に「大丈夫かい!?」と声を掛ける男性が居たが、答えられる筈がなかった。
目の前の彼の姿は、とても見られたものではなくなっていた。
気がつくと、警察や救急車が来ていたが、もう助からないだろう。私の父や母も来ていた。
私は父に抱かれ、その場を去ったのだった。
車の中で私はずっと泣いていた。私が殺したんだ。私が、あんな道から行かなければ。
「…私が殺したんだ…私が…」
「何言っているんだ。朱音は何も悪いことはしていない」
「ゆっくり休みなさい。自分を責めちゃいけないわよ」
父と母が励ますが、私は自分を責め続けた。車の中でも、家に帰っても。
(私が殺したんだ…私が悪いんだ…私が死ねばよかった…)
死ねばよかったとも感じていた。
「朱音、そろそろ寝なさい。体に毒よ」
「…ああ…わかったよ…」
そういって電気を消すが、なかなか寝付けなかった。二時間くらい経った頃でようやく眠りにつけたのだった。
私は早起きしていた。
昨日のことが頭から離れない。
夢の中で、彼が私を責め立ててくる。
━もう嫌だ。
私はなんて馬鹿なんだろう。
なんであの時点で、鉄骨が落ちてくると予測出来なかったのだろう?
私が、未来を予知できたら…
私が
━未来を、予知できたら
私はそれから、未来予知が出来るようになった。
でも、辛い。
人の未来なんて、見たくもない。
自分だけ未来が見えるのが辛くて、
私は引き籠った。
そして私は、
━人と関わるのを辞めた。
「ふう…」
とりあえず、椅子は見つけた。こんな蒸し暑さ、耐えられない。
「眞佐斗、僕は飲み物買って来るけど、何かいるかい?」
「ああ…お茶…」
「了解!いってくるよ」
死ぬ。
本当に死ぬ。
こんな暑い日に出かけるとかふざけてる。
僕はなんで断らなかったんだ…マジで死にそう。
僕、「徳大寺眞佐斗」は死にそうだ。本当に。
イヤホンを外して、携帯を見ると、八月九日を指していた。
なんでデパートなんかに行こうなんて考えたし。
僕が暑さに弱いのは知ってるだろ。しかしなぁ…人の頼みは断れんし。
「お待たせ!いやぁ、暑いねぇ。美佳ちゃんも秀華ちゃんも夏雄も、よく耐えられるねぇ。僕は無理だよ」
「そのわりには余裕そうじゃないか…僕は死にそうだぜ…」
「いや、とりあえず飲みなよ!死ぬ前に!」
そう言って、僕はペットボトルのお茶を渡された。蓋を開け、お茶を流し込む。ああ…生き返る…!
「ふう…生き返ったわぁ…」
「まあ、気温三十五度、湿度七十パーセントだからね。蒸し暑いのはしょうがないよ」
「そんなにあるのか…あれ、そういえば三人は?」
「ああ、あっちで遊んでるよ」
指差す方向を見ると、まるで小学生のように水鉄砲で遊ぶ三人が見えた。
「そっか…お前も暇人だな。彼女とか居ないのか?」
「え?いらないよ、そんなの。親友と遊べれば十分だよ」
コイツは気付いてないのか…自分が相当女子に人気があることを。
背が小さくて、童顔で、抱きつきたくなるような奴だ。そりゃあ、人気になるはずだ。
ただ、変態であることはあまり知られてない。一応、自覚もしているらしい。
「僕はとにかく、彼女とかいう存在に邪魔されたくないんだよ。佐之佑も同じだよ」
佐之佑が言っている姿が安易に想像できる。
「へえ、人それぞれだなぁ」
そう言ったとき、地面に何かが叩きつけられるような音がした。その後に、悲鳴が聞こえた。しかも、かなり大人数の声だ。
「僕、見てくる!将兵は待ってろ!」
「おい、いきなり何言って…」
将兵の声はそこで途絶えた。何が起きたんだ。細い道をいくつも通り抜け、大通りに出る。
すると、人混みができているのが分かった。
「すみません!」
そう言いながら、人混みを避けていく。
人混みを抜けた先には、
━鉄柱に潰されている少年と、泣き喚く少女が居た。