Fate/reminiscence-第三次聖杯戦争黙示録-   作:出張L

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第17話  維新

 桂小五郎。外国人であるのならば兎も角、日本のそれも上流階級に生まれた者であれば、その名前を知らない者は無学の誹りを免れることは出来ないだろう。

 

〝明治維新〟

 

 旧支配者たる将軍を断頭台に送ることも、政権樹立後の大規模粛清も起こさないという人類史に稀に見る画期的革命を成し遂げた英傑。徳川三百年の泰平を打ち崩し、大日本帝国の土台を築き上げた日本史屈指の偉人である。

 大久保利通、西郷隆盛などと共に維新三傑と称される彼の存在なくして、欧米列強に肩を並べるだけの神威を得た大日本帝国は有り得なかったことだろう。その大きすぎる業績は戦国三英傑や源頼朝、義経と比べてもなんら劣るものではない。

 そんな日本の英霊がよもやナチスの駒として現れたことには、流石の静重も『日本人』として衝撃を隠しきることが出来なかった。

 

「誰かと思えばお前、静重か。これは久しいと言うべきなのか? 英霊の座は時間の概念のない摂理の外にある故、よくわからんが」

 

 桂小五郎――――否、ナチスの人造英霊ルクスリアは目を丸くしながら遠坂静重に言った。これに驚いたのは璃正である。

 

「静重殿。桂小五郎と面識があったのですか?」

 

「少しな。鎖国している日本において西洋の魔術師であった遠坂家は、大名すら持ちえない外国へのパイプをもっておったし、欧米列強の詳しい実情をも掴んでおった。彼等はそれが欲しかったのじゃよ。他にも西洋魔術や時計塔についてもな」

 

 とはいえその頃の静重は子供で、まだ遠坂の当主ではなかった。歴史の影で密かに維新に力を貸していたのは、歴代遠坂でも屈指のやり手として知られた二代目である。

 ただ静重も自分の住む屋敷に、英雄の風格をした人物が何人か訪れたのは鮮明に記憶していた。桂小五郎はその中の一人である。

 

「しかし私が最後に遠坂の屋敷に足を運んだ時は、まだへちゃむくれの小僧だったというのに、今は皺だらけの爺になっているとはなぁ。時の流れというものを感じずにはいられないよ」

 

「御身が没してより半世紀以上が経っておるのです。それだけあれば若造が爺になるには十分でしょうよ」

 

「然様か。時の流れといえば人ではなく『国』も随分と様変わりしたものよ。俺達の興した政府が、今はこんなことになっているとは」

 

 目を細めるルクスリアの双眸には、感慨深さと悲哀が複雑に入り混じっていた。

 欧米列強に追いつこうと文明開化と富国強兵を推し進め、遂にはアジアで唯一先進国の仲間入りをした大日本帝国。それが誇らしい一方で、なまじ優れた視野をもっているだけ日本がこれより辿る運命が見えていて悲しいのだろう。

 

「貴方程の御仁がナチスの駒になってまで現世に迷い出てこられたのは、やはりこの国に未練があってのことですか?」

 

「否定はせん。既に死んで過去の存在と成り果てた俺が、今の時代に関わるなど烏滸がましいことであるという自覚はある。だがこの国はな、俺達が現実にのた打ち回りながら必死に掴んだ結晶だ。こうして何かの間違いで浄土から穢土へ戻ってきた以上、この国含めた世界が拙いことになるかもしれんのに見て見ぬ振りというのも無責任だろう?

 だから俺は懐かしい知人相手に、吸血鬼なんぞの駒として刀を向けねばならんというわけさ。笑ってくれ」

 

 自分の運命を皮肉り口端を釣り上げたルクスリア(桂小五郎)が、腰に差している刀を鞘から抜き放つ。

 桂小五郎は神道無念流の免許皆伝を得て、彼の新撰組局長の近藤勇をして「手も足も出ない」と言わしめた剣豪である。得物として刀を持っているのはなんら不思議なことではない。だが、

 

「その妖刀……」

 

 伝承を紐解いただけではなく、実際に会って話したこともあるからこそ断言できる。桂小五郎の愛刀は備前長船清光だ。断じて禍々しい妖刀ではない。

 ならばあの妖刀はなんだというのか。

 秘めている魔力と神秘の総量は英霊の『宝具』としての上位ランクのそれ。神代の英雄達が振るう聖剣魔剣と比べても劣るものではないだろう。そんな代物を何故近代の英霊である桂小五郎が有しているのか。

 

「ああ、これか。ナチスには腕の良い鍛冶師がいてな。そいつが仕上げた。銘を真刀・火韻――――長年使っていた愛刀以上にしっくりくる。大した奴だよ、あの男は」

 

「ルクスリア、今日はいつにも増してお喋りだね。いつもはオレや、他の連中とも距離を置いている君が。そんなに彼とのお喋りが楽しいかい?」

 

「ふっ。すまんな、マスター。懐かしい顔にらしくなく饒舌になり過ぎたようだ」

 

 喋り過ぎだ、とやんわりと釘を刺したベルンフリートにルクスリアは素直に従う。しかし釘を刺したということは、ルクスリアのお喋りが正しい情報という証拠でもある。

 ナチスの戦力がどれほどのものなのかはまだ予想できないが、敵の中に『宝具級の武具を作れる者』がいるというのは重要な情報だ。星の造りし『神造兵器』や逸話が具現化した宝具は別として、英雄の振るう聖剣魔剣にも必ずそれを生み出した製作者がいる。ナチスの手駒の英霊にそういう類の者がいるのかもしれない。

 

「静重と璃正の二人については保留段階だし、オレは一切の邪魔をしないよ。いやロディウスや他の連中と違って、オレは君達を縛るつもりなんて元からありはしないのさ。だってオレみたいな便所の床にこびり付いた糞にも劣る劣等が、君のような英霊を顎で使うなんてあってはならないことだからね。だからルクスリア。惨めなオレとは比較にもならない、輝かしい栄光を背負った英霊としての力を見せてくれ」

 

「了承した。やる気がないのならば下がっていろ。――――邪魔だ」

 

 ルクスリアが動く。人造英霊がどういう仕組みで成り立っているのかは検討もつかないが、サーヴァントと同等の強さをもっているのは確実。

 であればマスターたる静重がとるべき行動は一つだ。即ちサーヴァントにはサーヴァントをもって対処する。

 

「キャスター、仕事だ」

 

 静重は自らの戦争代行者たる騎士王を呼ぶ。

 そして次の瞬間。この場にいたほぼ全ての者達が仰天した。

 

「OKだ」

 

 あろうことかキャスターが実体化したのは、遠坂静重の傍らではなくルクスリアの真上だった。静重とルクスリアが会話している最中に、魔術で自らの気配を薄め移動していたのだろう。サーヴァントを視ることのできる『眼』をもっているベルンフリートすらこの奇襲は想定外だったらしく目を見開いていた。

 その意識の隙間を縫うように、常勝無敗の騎士王を名乗る魔術師の英霊は、欠片の躊躇もなく黄金の刃を振りおろした。

 

「容赦がないな、壬生狼共を思い出す」

 

 完全なる奇襲。それをこの場で一人ルクスリアだけは事前に察知していた。黄金の選定剣を、ルクスリアは現世で新たに得た真刀によって受け止める。

 初撃を仕損じたキャスターはしかし、それでも動揺はしない。奇道が失敗に終わったのであれば、騎士としての正道で戦うまでだとルクスリアに斬りかかる。

 嘗て老騎士エクターによって仕込まれ、幾多もの戦いを通して完成した清廉なる剣技。それをルクスリアは自らの剣術をもって迎撃する。

 

「奴の仕上げた刀に仰天したものだが、やはり音に聞こえた聖剣。素晴らしいな、アーサー王よ」

 

 キャスターと切り結びながら、ルクスリアはキャスターの剣を称賛する。が、自らの剣を称えられたキャスターは苦い顔をした。

 

「……剣が有名過ぎるというのも考え物だな」

 

 キャスターは黄金の剣(カリバーン)を見つめ嘆息する。

 選定の剣たるカリバーンと、勝利の剣たるエクスカリバーは共に『黄金の刀身』をもつ剣として絶大な知名度をもっている。それは時間の概念のない『英霊の座』においても例外ではなく、どんな英霊でもその刀身を見るだけで真名を看破することが可能だ。真名を隠して戦う聖杯戦争において、これは大きな不利と言えるだろう。

 しかしキャスターの真名はアーサー王だ。最強の聖剣を担い、万夫不当の騎士達を統べた騎士王。この世界の騎士達の頂点に君臨する英雄である。この程度の不利、自らの実力で吹き飛ばせずして『アーサー王』と名乗れようはずもない。

 

「にしてもいきなりの奇襲とはな。東洋の武士道と西洋の騎士道は似て非なるものと思っていたが、騎士道の華たる貴方がこういう具合では認識を改める必要がありそうだ」

 

「そうでもないだろう。背の後ろにあるものを守る為に、時に己を殺し穢すことすら厭わぬのが騎士の道。それとも武士という輩は、自分の主君を守るより自分のプライドが大切なのか?」

 

「いいや。武士(俺達)も同じだ」

 

「ならば〝アーサー王〟の言っていた有難い言葉、よく覚えておくといい」

 

「肝に銘じておこう」

 

 黄金の剣に炎が纏わり、それが斬撃と一緒になってルクスリアは襲う。

 キャスターの奇襲を事前に察知したルクスリアもこれは想定外だったらしく、炎が肩を掠めた。

 

「炎の剣とは奇妙な技を使う」

 

「見たところ魔力放出スキルだね。自分の魔力を炎にして、武装に纏わせているんだろう。オレは聖杯戦争のマスターじゃないから、正規マスターと違ってサーヴァントのステータスを読むことはできないけれど、ダーニックならちゃんと『魔力放出』のスキルが表示されていると思うよ。アーサー王は赤い竜の因子をもっているって話しだけど、それに由来する能力かな? あはっ! やっぱり本物の英霊っていうのは凄いなぁ」

 

 何が嬉しいのかベルンフリートはにこにこと笑いながら言った。

 

「だけど――――まぁいいや。ルクスリア、後は好きに戦っていいよ」

 

「マスターはどうする?」

 

「オレはここらで退散して高みの見物と洒落込むよ。元々ここに来たのだって気紛れだしね。Auf(アオフ) Wiedersehen(ヴィーダアゼーエン)。君達が候補者になれる器なら、また逢おうよ。取り敢えず可能性はゼロじゃないからさ」

 

 それだけ言うと死徒ベルンフリートは、最初と同じように体を無数の蝙蝠へ変えると、どこかしらへ飛んで行ってしまった。

 ルクスリアという強敵を前にしているキャスターと静重達には、それを追う余裕はない。例えそれが数千人以上の命を吸った怪物だろうと、黙って見逃すしかなかった。

 

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