Fate/reminiscence-第三次聖杯戦争黙示録-   作:出張L

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第21話  伏兵

 遠坂冥馬は遠坂静重の息子である。静重から一番多くを教わったのは冥馬だし、遠坂冥馬という人格の柱を形成したのは静重だ。

 だから父・静重が令呪を使ったのがどういう意味で、どういう決断のもとで為されたのかなんて手に取るように分かってしまう。

 それだけに今は父に駆け寄ることも出来ない。父は命を使って令呪を使った。ならば遠坂冥馬のするべきことは、命を賭して眼前の脅威を打開することに他ならない。

 それが遠坂家の四代目の義務だ。

 問答の余地も、合図を待つ時間もない。

 冥馬の魔術回路が肉体の『強化』という一つの魔術のためだけに稼働する。素早く刀を抜き放った冥馬は、鋭い踏み込みでルクスリアに迫った。

 どんな軟弱な魔術師でも魔術回路さえ上等であれば、強化魔術を己の肉体にかけることで人間離れした身体能力を獲得することは出来る。けれど幾ら肉体を強化しようと、流石にサーヴァントのスペックに及びはしない。ために強化の魔術をかけての接近戦など、通常の魔術師にとっては自滅行為そのものである。しかし遠坂冥馬という魔術師の出鱈目さは常識の範疇に収まることを良しとはしない。

 なんの魔術効果抜きで常識外の身体能力をもつ冥馬は、更に強化魔術を上乗せしたことで、その身体能力は完全にサーヴァントに並んだ。

 身体能力が並んだとしても、サーヴァントの優位が消えたわけではない。バーサーカーは別として、サーヴァントは技量の方も人間とは隔絶しているのだ。互角ではなく〝圧倒〟しない限り、人間がサーヴァントと近接戦をして勝つ見込みは限りなくゼロ。技量の優位性が身体能力の互角をあっさり踏み潰してしまう。

 

(シッ)――――ッ!!」

 

「やれやれ、驚いたな。あの投石の腕前から相当の腕前と見てはいたが想像以上だ。武士の時代は西郷が背負って消えていったと思っていたが」

 

 そして有り得ない光景がここに生まれた。ルクスリアの一刀で両断されるはずだった冥馬は、刀の軌道を〝視て〟自分の刀で受け止めたのである。

 

「思わぬ所にいるものだ、生き残りというものは」

 

 鍔迫り合う魔術師と英霊。交じり合う二本の刃が、冥馬とルクスリアの間で振動した。

 魔術師とサーヴァント。本来戦いにすらならない両者は、常人には目視すら叶わぬ速度で刀を振るいながら帝都を駆ける。

 第一次聖杯戦争開幕より一世紀と半世紀。このような戦いが勃発することになるなど、聖杯の起動に立ち会った始まりの賢者達も想像しなかったに違いない。

 

「その時代を否定したのは私達だが、今は――――」

 

「話に聞いていただけで、目の当たりにするのは初めてだが、これがサーヴァント……英霊っていうわけかい」

 

 刃の激突による火花を散らさせながら、冥馬は下唇を噛む。

 魔術師としても一流という評価を受けている冥馬だが、武の天稟はもはや一流の枠に収まるほど生易しいものではない。時代が時代であればとっくに『英雄』となっていてもおかしくはなかった――――そう師に太鼓判押されたのは過大評価ではなく純然たる事実だ。才能に関しては人造英霊ルクスリアに劣るものではないだろう。それどころか凌駕しているかもしれない。

 けれど完成された英霊たる桂小五郎と比べて、如何せん遠坂冥馬はまだ未完成だ。これからの修行次第でルクスリアを上回る技量となる可能性を秘めてはいるが、今の段階では冥馬は完成されたルクスリアの剣術には及ばない。なによりも、

 

「――――!」

 

 冥馬の刀の方が激しい打ち合いに限界を迎えようとしていた。

 

(不味いじゃないの。このままじゃ俺より先にこっちが潰れるぞ。くそっ! 高いのに……!)

 

 ルクスリアの振るっているものは、ランクA以上はある最高峰の妖刀だ。対して冥馬の刀は業物ではあるが所詮はただの名刀に過ぎない。

 天下の名刀も宝具と比べればただのナマクラも同然。魔力で刀の硬度をあげてどうにか持ち堪えていたが、それにも限度というものがある。

 

「その刀、どこから持ってきた? 桂小五郎の獲物が妖刀だなんて何処の創作話だよコノヤロウ。それともナチスがしこしこ集めてきた聖遺物の一振りかコンチクショウ」

 

「口が悪いぞ。遠坂は余裕をもって優雅たれ、だろう?」

 

「優雅だよ。優雅な剣筋で戦ってるだろう、だから明治の骨董品は、若い者に道を譲って――――寝ろッ!!」

 

「夜更かしが好きでね。寝るのは夜明けを見てからと決めている」

 

 冥馬の怒声をルクスリアはさらりと受け流す。それは刀の方も同様で、父がやられたことも手伝って激しい猛攻を仕掛ける冥馬に対して、ルクスリアは〝防御〟に重きを置いた剣で捌いていた。そうして激しく打ち合いながら冥馬は違和感に気付く。

 ルクスリアの剣が守りに天秤を傾けている――――それはいい。本来ルクスリアは一人の剣士ではなく国を背負う志士。剣術の方向性が身を護ることに傾くのはおかしいことではないのだから。だがしかし、それにしても少しばかり消極性にかけているような気がしてならないのだ。

 時に武士の刀は口以上に多くを語るもの。刃を交えている冥馬にはそれが分かった。

 

「……あれは、まさか」

 

 そして剣の覚えはないが、八極の合理を己の肉体に練り上げた璃正もそれに気付く。

 璃正の場合、冥馬とは異なりキャスターと戦うルクスリアを見ているだけに、戦わずともルクスリアの剣に覇気がないことが分かった。

 キャスターと戦っていたルクスリアには、こちらを殺そうという明確な殺意があったが、今のルクスリアには見掛けだけのハリボテの殺意しか感じられない。

 別に手を抜いているわけではないが、致命的なまでに敵を倒す意思が欠けていた。

 

「――――ふっ」

 

 冥馬の心中を知ってか知らずか、ルクスリアは挑発するように笑う。

 

(こいつ……いいだろう。そっちがそういう態度なら、お望み通りにしてやろうじゃないの)

 

 ルクスリアの剣に疑問を覚えた冥馬だったが、これで冥馬の腹は決まった。

 幾らルクスリアに積極性がないとはいえ、遠坂冥馬の剣ではルクスリアには勝てない。それならばそれで良い。

 足りないものがあるのなら、他所から持ってくればいいだけのこと。技量の方は一朝一夕には持ってこれないが、幸い『腕力』の方にアテはある。

 腰のガンベルトに銃の代わりに収まっている宝石。そこには冥馬が年単位の時間をかけて込めてきた魔力が宿っている。

 宝石魔術の使い手たる遠坂の魔術師は、宝石の魔力を用いることで通常は相応の準備が必要なAランク魔術すら使いこなすことが出来るのだ。

 

eins(一番)zwei(二番)――――Ich weinte(流涙せよ),Wind wird das Schwert(風の剣)!」

 

 エメラルドに込められた魔力を燃料として、冥馬の構築した魔術式が具象化する。

 火と風の二重属性である冥馬が得意とする風属性の魔術、それが刀を覆い尽くした。

 キャスターのスキルである魔力放出、それを冥馬は宝石の魔力を用いて擬似的に再現する。

 

「はぁ――ぁああああああああああああッ!!」

 

 風を纏う刃が、風の疾さを追い抜いた。

 鍛え上げた武道、刻み込んだ魔導。それらの調和した見事なまでの一撃に、ルクスリアは微笑を零す。

 

〝合格だ。実力と性根、確かに見させて貰った。キャスターの方も上級とはいかないが、かなりの強かさを持っている。捻くれてはいるが、決して外道ではない正純な英霊だ。お前達であれば聖杯戦争を制するのは夢物語ではなく確かな可能性なのだろう。逃げ続けてきたこの首級、くれてやってもいいと思えるほどに〟

 

 だが悲しいかな。魂の髄にまで剣術を叩きこんだルクスリアの肉体は、心に反して自動的に風刃を防ぐために動いていた。

 その時だった。ルクスリアの背に重い衝撃が響く。

 

「功夫が足りませぬな、桂殿」

 

 言峰璃正が極めた八極が一手〝鉄山靠〟。言峰璃正の大砲めいた突進がルクスリアを意識の外から襲い、ルクスリアの守りを爆発的威力で纏めて吹き飛ばした。

 人造英霊といえどルクスリアはサーヴァント。魔術的要素のない物理攻撃は一切通用しないし、ダメージも通らない。だがダメージはなくとも衝撃を伝える事が出来れば、隙を作ることも出来る。

 城門の壊れた砦に、遠坂冥馬という敵兵は容赦なく侵攻した。

 

「覇ァ――――ッ!」

 

 血が弧を描いて噴き出す。風の刃はルクスリアの右腕ごと得物である刀を奪い取っていった。

 

 

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