Fate/reminiscence-第三次聖杯戦争黙示録-   作:出張L

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第4話  ハイエナ

 魔導を知らずに表の俗世間に生きる人間は『魔術師』というものに対して、不思議な術を自由自在に扱う『魔法使い』としか認識していないだろう。

 例えば手から炎を出したり。

 例えば箒で空を飛び廻ったり。

 例えば時間を加速させたり。

 或は自分の心象風景を具現化させたり。

 一般人達が思い浮かべるそれらの空想を魔術で実現できるかといえば、はっきりと言うが可能だ。

 その魔術師の素養や属性によっても出来る事と出来ないことはあるが、時計塔で一流と呼ばれる魔術師なら一番最後の例以外は楽にこなすだろうし、最後の例にしても極一部の優れた魔術師ならばやってのけるだろう。時間旅行、平行世界の管理、死者蘇生などという本物の『奇跡』と比べれば、実に容易いことだ。

 だがしかし魔術の原則とは等価交換である。

 幾ら魔術回路という凡俗にはない優れた才能を持っているからといって、何の代償もなくある種、人を超えた超越者の術を扱えるはずがない。人間が魔術を扱うようになるには、苦痛を味わう必要がある。掌から炎を出すという魔術を修得するまでには、肉体を生きたまま焼かれる以上の苦痛を味わい、肉体の魔術回路を開かなければならないのだ。

 苦痛を友とし、死を隣人として――――初めて魔導の叡智は、術者に微笑みかけてくれる。

 こればっかりは才能の大小関係なく、魔術師たらん者は避けては通れぬ通過儀礼だ。

 そして魔術師の最終到達点は全ての原因たる始まりのゼロ――――『根源の渦』への到達である。

 魔術師は『根源』という真理を得る為に魔術を学び、始原を遡る群体。魔術とは『根源』を目指す手段に過ぎず、もしも他に『根源』を目指す画期的な術があれば探求者たちは喜んで自らの魔術を捨て去るだろう。

 魔術師にとって魔術は『使う』ものではなく『刻む』もの。そのため魔術師は魔術の探究以外で魔術を使おうとはしないのだが、止むを得ない事情により魔術を〝使う〟ことを強いられる事もある。

 その一つが魔術師同士の争いだ。魔術師はもしも真理の探究に障害となる敵が現れたのならば、容赦なく研鑽の為に磨いた魔術の奥義を殺人のために振るう。冬木の地で繰り広げられる『聖杯戦争』も、規模が異なるだけで本質は似たようなものだ。

 フランス北西部ブルターニュ。この地でも魔術師同士の争いは行われていた。

 切っ掛けはとある魔術師の一族の滅亡だった。没落の兆しが見えていたその一族は、現当主が不慮の事故で死亡したことで、完全に魔術世界から姿を消すことになったのである。

 そこで問題となったのは一族の遺産である。幾ら没落したとはいえ、過去にはブルターニュでも名を馳せた魔術師の一族。その遺産には貴重で高価な魔術品も多く含まれている。だが死亡した現当主は天涯孤独の身で、後継者たる子も弟子すらも皆無だった。つまり貴重な『遺産』が丸ごと相続人皆無の状態で残されてしまったのである。

 これに殺到したのが同じくブルターニュに住まう魔術師達だった。

 

「自分の家は彼の一族と交流があった。故に彼の研究は我々が引き継ぐ」

 

「私は彼の当主とは個人的親交があり、後事を託されていた。彼の遺産は私が責任をもって管理する」

 

「我が一族の末席にいる男は、彼の一族とは遠縁にあたる。血縁的に彼が遺産を相続するのが当然の流れだ」

 

 集まった者達の言い分は様々であったが、要するに全員が『遺産』目当てに集まった者達である。最初から和解の余地などありはせず、当然の流れとして彼等は争うことになった。しかもよりにもよって殺し合い、という最悪の形で。

 自分以外の敵を全滅させた者が『遺産』を相続する。彼等の定めたルールはこれだけだ。こんな余りにも野蛮極まるルールが通ってしまったのは、時計塔がナチスとの戦争状態にあり、立会人の派遣が出来なかったことも大きいだろう。

 だが結局この野蛮極まる争いは誰一人の死者を出すこともなく終結した。

 言うまでもなく集まった魔術師達がいきなり平和の心に目覚めて、遺産を平等に分配することになった訳ではない。

 介入者が現れたのだ。いざ殺し合いを始めるという段階になって、颯爽と現れ全ての成果を掻っ攫っていった介入者が。しかも介入者は二十歳にも満たぬ二人の姉妹だった。

 

『リリアリンダ、クラヴジックの死骸に群がった野良犬たちが集まっている場所というのはここだったかしら?』

 

『ええ、そうみたいよお姉さま(ルネスティーネ)。以前はブルターニュで一番の使い手とまで噂されたそうだから期待していたのだけれど、集まったのが矜持の欠片もない狗コロばかりじゃ程度が知れるわね』

 

 風に靡くオレンジがかった金髪を華麗に縦ロールにセットされている少女。風に靡く豪奢な金髪を優雅にツーサイドアップにセットされている少女。

 陶器のような肌に淑女の理想ともいうべき美しく可憐な顔立ち。

 一流の職人が高級な素材を用いて端正込めて作ったのが一目分かる優美な青いドレスと赤いドレス。

 本来ドレスは着る者を引き立てるものだが、その『少女』に限ってはその逆。彼女という最高の淑女を頂いたことで、ドレスを引き立てより輝きを増していた。

 そんな麗しの淑女を形にした『少女』であるが、その眼光は儚げな姫ではなく獲物を喰らうハイエナのそれだった。

 違う色のドレスに違う髪型に同じ顔立ち。双子だと一目で分かる二人の少女は、さもそれが当たり前のように二十人の魔術師達を見下ろす。

 

――――フィンランドの名門、エーデルフェルトの双子姉妹。

 

 本来一子相伝を基本とする魔術師の家において『後継者が二人』という事柄こそが、彼の家が〝天秤〟と呼ばれる所以。

 

『けれど如何に程度が低かろうと、そこに〝争い〟があり〝宝〟があるのであれば』

 

『そして此処に〝エーデルフェルト〟がいるのなら』

 

 其の結果も過程も、遍く総てエーデルフェルトが華麗/優雅に掻っ攫う。

 鮮烈に決闘の場に現れた二人の少女は、自分達より倍以上は生きている魔術師達に向かって宣戦布告した。

 これには集まった魔術師達は愚かにも失笑をもって応じた。

 まだ二十も生きていない小娘がなにを偉そうに。二人でこの数を敵に回すなど蛮勇だ。身の程を思い知らせてやる。魔術師達は口々にそう言いながら、手始めに二人の獲物を嬲り殺すために手を組んだ。彼女達が獲物として狩られる兎などではなく優美な狩人(ハイエナ)で、自分達こそが獲物()なのだと戦いを始めるその瞬間まで気付くことなく。

 余りにも分かりきった過程に意味はなく、故に結果のみを語るのであれば、戦いは『少女』の勝ちだった。僅か一分足らずで決着した一方的蹂躙を『戦い』と呼称することは憚れるところではあるが。

 

「温いですわね。最近は無粋な髑髏共(ナチス)を相手することが多かったから感覚が麻痺してしまいましたわ」

 

 姉ルネスティーネ・エーデルフェルトは、クラヴジック邸のソファに腰かけながら窓の外を見下ろす。そこにはつい先程彼女達が蹂躙した二十人の魔術師達が転がっていた。

 ここで驚嘆すべきなのは、二十人の魔術師が誰一人たりとも死んでいないということだろう。中には腕があらぬ方向に捻じ曲がっていたり、顔に謎の斑点ができている者もいるが、命に別状はないし後遺症が残ることもないはずだ。つまりエーデルフェルトの姉妹たちは、殺さぬよう加減した上で彼等を全滅させたのだ。

 尤も殺さぬよう手加減したのは彼女達が甘いからでも、人殺しに恐怖しているわけでも断じてない。ただエーデルフェルトの白磁の手は、盆暗の返り血程度で汚れていいほど安くはないのだ。他の凡人ならいざしれず、エーデルフェルトの手で殺されるには相応の格が必要というのが姉妹の共通認識である。

 

「同感ね。地を這う虫が、空で輝く星に及ばないのは常識だけれど、こうも歯応えがなさ過ぎると拍子抜けだわ」

 

 当主の私室を物色してきたリリアリンダはそう言いつつ、ルネスティーネに私室で見つけ出してきた資料を投げ渡した。

 

「ならばこういう趣向はどうかしら?」

 

「あら、これは……」

 

「七人の魔術師と七人のサーヴァントによる聖杯争奪戦。面白いと思わない?」

 

 それは極東で開催されるという聖杯戦争についての資料だった。クラヴジック家の当主はこれに参加して、枯渇した魔術回路を復活させるつもりだったのだろう。聖杯戦争のルールや歴史について、かなり事細かに記されていた。

 資料に目を通していたルネスティーネは『始まりの御三家』の部分で一旦手をとめる。

 

「〝遠坂〟というのは、あの遠坂かしら? 我が大師シュバインオーグが極東の片田舎で弟子を一人とったと噂には聞いていましたが」

 

「その遠坂みたいよ。極東の田舎者なんかに魔術の薫陶を授けるなんて大師父も遊び心が過ぎると思っていたけれど、まさかあのアインツベルンと組んで『聖杯』を作り上げていたなんてね」

 

「ええ。少しは評価してさしあげなければならないでしょう。無論エーデルフェルトとは比べるまでもありませんが」

 

 傲岸不遜にどこまでも上から目線で、二人は遠坂を評価する。だがそれが傲慢に聞こえないのは、彼女達が自然と放つ高貴な気品と貫禄のせいだろう。彼女達には傲岸不遜に振る舞うことを良しとされるだけの『能力』と『迫力』があった。

 

「ではこんな寂れた場所はさっさと出て、サーヴァントを呼び出す聖遺物を掻っ攫いに行かなければなりませんわね。それとも屋敷になにか手頃なものがあったかしら」

 

 エーデルフェルトの屋敷にある宝物庫には世界各地から収集したコレクションが秘蔵されている。流石に魔術協会やナチスの集めた財と比べれば劣るが、一つの家系の財としては破格のものだ。その中を探せば英霊を呼び出す聖遺物の一つ二つは眠っているだろう。

 だがリリアリンダは悪戯猫のように口端を釣り上げると、

 

「あら。そんな必要はないわよ。聖遺物ならもう掻っ攫ったのだから」

 

 そう言ってリリアリンダは当主の私室から持ってきたであろう黒い箱を開いた。

 箱の中にあったのは白い外套の切れ端。一見するとボロ布のように見えるが、優れた魔術師であるルネスティーネは、一目でそれが教会の祝福を受けた物品であると分かった。内包している神秘の残滓から計算するに千年以上は前のものだろう。

 

「クラヴジックは魔術師として三流だったけれど、呼び出そうとしていた英霊は超一流だったようね。嘗てこの土地を治め、偉大な大帝に仕えた最強の聖騎士(パラディン)……。こと個人の武勇で測るなら、フランスという国でこの英雄の右に出る者はいないわ」

 

 ルネスティーネもその聖遺物がどの英雄に由来するものなのか察した。

 ブルターニュ地方の領主で大帝に仕えた聖騎士といえば、思い当たる名前は一人しかいない。

 

「聖杯戦争で『剣の英霊(セイバー)』は最優のクラスと言われているのでしたわね。素晴らしい(エクセレント)! これで彼の騎士王にも匹敵しうる最強の英霊を手に入れましたわ」

 

 聖騎士ローラン、またの名を狂えるオルランド。

 金剛石の肉体と、素手で怪物を縊り殺す腕力を備えた、ただの一度たりとも敵から傷を受けたことのない最強無敵の英雄。

 円卓の騎士王、北欧最強の竜騎士と並び、その名は最強の剣士として伝説に刻まれている。

 彼を召喚することができれば、彼の騎士王や竜騎士でも出てこない限り負けることはないだろう。

 




 新・新約第三次は一日三話ずつ18時に投稿していきます。丁度九日で最新話分に追い付くはずです。
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