Fate/reminiscence-第三次聖杯戦争黙示録-   作:出張L

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第46話  聖地襲撃

 教会前に到着した戎次は一先ず部下達を下がらせると、ライダーだけを伴い門まで近づいてみることにした。

 そして門に手が触れようとした瞬間、戎次の鋭い危険察知能力が警鐘を鳴らす。この門こそが此処と其処を分ける境界線。ここより先に踏み込むことは死を覚悟せねばならぬことだと。

 

「――――結界、だねぇ」

 

「……分かるんか?」

 

「これでもサーヴァントの端くれだよ。魔術にゃ全然詳しくないけどそんくらいはねぇ。戎次も感じたから足を止めたんだろう?」

 

「うむ。ここから先は不味い。嫌な予感で肌のビリビリっちしゅる」

 

 教会の敷地内に敷かれている結界からは、戎次レベルの魔術師ですら近づかねば分からぬほど微弱な気配しか発していない。こう聞くと魔術の素人は『低級の結界』だと思うかもしれないが、実際には真逆だ。

 魔術の基本は秘匿であり、如何に凶悪な罠が犇めいていようと自己主張の激しく、張られていることが丸分かりの結界は二流に過ぎない。恐ろしい結界とは『張られている』ことすら気付かせないものをいう。

 更に恐ろしいものになると『結界の内側にいる』ということすら悟らせないものや、そもそも魔術を一切使わぬ異界というのもあるが、この教会に敷かれているのは幸いそこまでのものではない。陥落(おと)すことは現戦力でも可能だ。

 

(問題はこん結界ば作り上げたんのどちらかだ。マスターかサーヴァントか)

 

 サーヴァントだとすれば恐らくクラスはキャスター。それも現代魔術師にとって一流程度止まりの結界しか張れない中級以下の、だ。それならライダーの手を借りず戎次だけで倒しうる相手である。

 問題はこの結界を敷いたのがマスターだった場合だが、その時はこちらも色々覚悟を決めさせなければならないだろう。自分は死ぬ覚悟くらいとっくに済んでいるが、他の者達はそうではないのだから。

 

「門前で考えても埒の明かんな。答えの出る前に一日のしまえる――――滝沼」

 

「はっ!」

 

 戎次が部下の一人の名を呼ぶと、予め命じてあった通り兵達が教会に大砲を向けた。

 魔術を学ぶ魔術師でありながら、同時に国家に仕える軍人という異色のマスターである戎次。そんな戎次だからこそ近代兵器の威力はよく理解している。魔術師がAランクの大魔術でやっと出来る規模の破壊を、近代兵器であればいとも容易くやってのけてしまうことも。

 そして軍人である戎次は、敵に対して武力行使することを決して躊躇わない。

 

「撃て」

 

 短い号令。砲身が漸く訪れた時に歓喜するが如く、一斉に口から砲弾を吐き出した。

 人類の叡智が生み出した暴虐の牙が、魔術師が築き上げた牙城を食い破っていく。手始めに犠牲となったのは教会を覆っていた外壁だった。ある種の城塞染みた威容を備えていた外壁は、大砲が着弾するや否や単なる瓦礫と化して散らばる。

 次に砲弾が飛ぶのは敵の本丸である教会。教会目掛けて真っ直ぐに飛んでいった砲弾はしかし目標へ着弾することはなかった。

 

「む」

 

 教会へ近づいた砲弾は、まるで不可視の壁にでも当たったかのように次々に爆散していく。試しにもう一度一斉掃射を命じるが、次も同じ結果になった。

 二度やって効果なしなら三度目も同じだろう。やはり聖杯戦争に参戦するマスターだけあって、これまでの生温い相手と同じという訳にはいかないらしい。

 

「なら次だ。滝沼」

 

「了解です」

 

 部下が無線で連絡すると、直ぐに戎次が用意していた次弾はやって来た。

 プロペラ音を響かせながら空を駆ける鋼鉄の隼が一機。戦闘機が狙う目標は言うまでもなく教会だ。

 

「周りが硬ぇなら空から攻めるまでよ」

 

 この帝都にいち早く陣取ったほどのマスターである。敵が大砲やら対戦車ライフルのような重火器類を投入するくらい予想できてもおかしくはないだろう。だが果たして空からの空爆まで想定し、備えているかどうか。

 もし備えていないのならば好機だ。空爆にたまらず教会内から出てきた所を、対戦車ライフルの一斉掃射によって仕留める。それで任務は終わりだ。

 結果は――――失敗。

 敵は中々慎重で用心深い相手だったらしい。空からの空爆は砲弾と同じように見えない壁に弾かれ爆散した。爆発の余波で教会の敷地は随分と荒れたが、結界と教会そのものはまったくの無傷ときている。

 

「やっぱこうなっちまうか」

 

 このクラスの結界を吹っ飛ばすとなれば、やはり地面をごっそり抉り掘るほどの大火力を用いるしかない。しかしそれほどの『火力』を出せば、被害は教会どころか周りの民家にまで及ぶだろう。無辜の民に悪戯に犠牲を強いるような戦術、帝国軍人としては下策だ。そもそも戎次にそんな権限はないし、仮に上官からの命令があったとしても拒否するだろう。

 となれば戎次が運用できる戦力で、この結界を突破できる火力を発揮できるのは消去法で一人だけ。

 

「ライダー、仕事だ」

 

「あいよ」

 

 虎穴に火を投げ込んで虎が出てこなかったのならば、自分自身で虎穴に入るほかない。そうしなければ虎児(首級)を得ることは出来ないのだ。

 部下達は下がらせる。兵士を用いての戦は終わった。ここからは魔術師とサーヴァントとして、聖杯戦争を挑むのみ。である以上、彼等がいても足手まといになるだけだ。ましてこの敷地内は敵の領地(テリトリー)なのだから。下手に同行させて全員が暗示にでもかかると色々と面倒だ。

 

「どれくらいでいっとく?」

 

「大佐からは自重せんねっち命じられとる。緊急時以外で切り札は使うな」

 

「切り札さえ使わなければ、派手にやっていいのかい?」

 

「いい。やっちまえ」

 

「あいあいさー」

 

 ライダーが陽気な性格とは正反対の冷たい笑みを浮かべると、彼女の周囲の空気が凍てつき始めた。

 吐き出す吐息は白く染まり、凍えるような寒さが肌を撫でる。季節は夏真っ盛りだというのに、ここだけ北極の氷の上になってしまったかのようだった。

 だが異常は空気の急激の低下だけには留まらない。ライダーを中心として雪風が吹き荒れると、冷気が空気を固めて全長5mの巨大な氷柱を形成した。

 雪、冷気、氷――――冬という季節が内包する自然現象を具現化し操る、ライダーの保有する特殊スキル。それを使えばこの程度の氷柱を作り出すことくらい容易いことだ。

 氷柱はライダーが頭で思い描いた通り真っ直ぐ教会目掛けて飛んでいく。5mの氷柱が誇る圧倒的質量、内包されているライダーの魔力、更に飛んでいく速度。これら三つの相乗作用は、命中すれば不可視の壁などあっさりと砕いてみせるだろう。……あくまで命中すればの話だが。

 

「随分と激しいノックじゃないの。最近の軍学校っていうのはマナーを教えてくれないのか」

 

 これほどの凶行、教会の住人が座して眺めるだけでいる筈がない。空爆にも動じず沈黙を守った主従が、城を陥落させうる攻撃によってようやく相馬戎次とライダーの前に姿を現した。

 先ず目についたのは奇抜な恰好をした紅の魔術師。それに付き従うのは蒼い甲冑を纏った騎士だ。蒼い騎士は迫りくる氷柱をつまらなそうに一瞥すると掌を翳す。瞬間、騎士の掌より噴出した業火によって氷柱はたちまちのうちに焼き溶かされる。

 

「覚えのあっけんぞ。大佐ちゃり預かった聖杯戦争関係者ん顔写真、しょこに映っちいた面だ」

 

 紅の魔術師――――名を遠坂冥馬。遠坂家の四代目にして、ナチスを除けば最大の難敵と目される男。

 情報では参加するのは彼ではなくその父親だったはずだが、そんなことは戎次にとってどうでもいい。聖杯戦争の初陣を飾る相手として不足ない強者だ。

 

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