貧乏食堂今日も頑張る!! 受験凍結中   作:くずゆ

7 / 8
時間ない中書いたんで後でちょっと推敲するかも

前期終わりました


桃と梅

 

 

 

桃と梅

 

鎮守府脇の埠頭、古びた灯台の根本に腰を下ろす。

暗闇の中で帰るべき場所を教える役割は、

船から艦娘に相手を変え、今も続いている。

 

昼下がりの海は穏やかで、波も食休みを取っているかのようだった。

太陽の日差しがまだ肌寒い季節にはありがたいと思う。

 

手首を動かして竹竿の傾きを変え、

釣り針を手元に寄せる。

餌は冷凍小エビのむき身。欲を言えば魚釣り専用の餌がほしいところだが、イソメは意外と高い

 

そのまま足下に投げ入れ数分、

浮きにはまだ動きがない。

餌がとれていなければいいが

 

 

と、

ツンツン、と 肩をつつかれる。

 

 

魚より先に誰かがひっかっかったようだった。

 

「釣れてるの?」

 

この声は、えっと

 

「あっ、イクさんじゃないですか。こんにちは。

釣れてたら良かったんですけど

まだ始めたばかりなので一匹も…。

まぁそのうち釣れますよ。」

 

「あ、ちょっとビックリしたのね。

イクだと思わなかった?ねぇねぇ?」

 

そう言ってにやにやとした笑顔を作るイクさん。

きれいな青い髪、どういうわけか少しグラデーションがかかっている。

スクール水着の上にダウンジャケットという少々独創的な格好で彼女はそこに立っていた。

 

「まったく、ミツセさん達はいつも食堂で楽しそうでズルいの。

イクも混ぜるのね!!」

 

そう言って今度は怒ったようにすねた顔。

でもすぐに気を取り直したよう笑顔を浮かべる。

その笑顔に胸が苦しくなって

 

「ええ、是非来てください!

ゲームとか家から持ってきた本とかいっぱいありますから!

 

そうしたらきっと…… 

あの、その、 楽しいですから。」

 

ああ、やってしまったかもしれない。

言うべきではなかったかもしれないことを口走っていた

 

不意を突かれたように彼女の唇が小さく開く

少しの沈黙が在って。

 

「なぁんだ、気が付いてたのね。」

 

彼女には全く似合わない、能面のような無表情で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

潜水艦 伊19

 

彼女の第一印象は、明るい子。だった。

漣さんが暗かった頃でさえ、彼女は笑みを浮かべていたし

挨拶もしっかりと返してくれた。

 

正直に言うと、一番最初に仲良くなる人は彼女だと思っていたほどだ。

 

でも、漣さんが笑うようになって、時雨さんが笑うようになって。

彼女が笑っていないことに気が付いた。

彼女の笑顔は、ただ本当に「笑顔」というだけで、

 

ただ、

表情筋の動きにすぎない。

そんな感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イクの笑顔はミツセさんにはどう写ってるの?」

 

抑揚のない声。

その声から感情を読みとることはできない。

感情を抑えている、という感じさえしない

悲しみを怒りも孤独も感じない音。それは何とも言えない気味の悪い響きを伴っていた。

彼女がまた笑顔に戻っているからなおさら。

 

「ええと…。ここにいる人たちみんな、

悲しかったり、辛かったり、怒ってたり

そんな顔をしているように見えました。

 

部外者の自分が触れることが怖いほどの

いろんなことが混ざり合った感情。

 

でも貴女は、あの、よくわからないんです。」

 

小さい波が堤防に当たる音。

薄いうろこ雲がゆっくりと流れていく

 

「私も、自分がなんなのかわかんないのね。」

 

薄桃色の唇からまるで水面に落とすかのように言葉が漏れる。

その目は曇りなく前に広がる水面を眺めている。

 

「最初にこの姿で生まれてきたときは、自分のことをね、

少女だと思ったの。艦だった時の記憶を持っていてとっても強い女の子として生まれて

今度はいっぱい楽しいことができる。

おしゃれや恋や、楽しいこといっぱい。」

 

どこまでも淡々とした声

漣がよくみている動画の機械音声の方が感情があるんじゃないかと思うほど。

彼女がこうなるまでに、いったいどんな思いがあったのだろうか。

 

「この鎮守府にきて最初のころは、寂しかったし悲しかったの、

何にも楽しくないんだもん。テイトクさんも冷たい人でいっぱいいっぱい泣いたの。」

 

「その次は毎日怒ってたの。ほかの鎮守府の子たちがうらやましくて

なんでイクだけこんなにつらい思いをしなくちゃいけないんだって。

テイトクさんを殺しちゃいたいぐらいだったの。」

 

泣いたこと、怒ったこと、そんな言葉がぽつりぽつりと水面に落ちていく

 

「でもね、ある日気が付いたの。イクたちがこの世界に生まれてきた理由は戦うためなんだよねって。

そうしたらいろんなことがわかったの。そしたら悲しみも怒ってた気持ちもよくわかんなくなっちゃったの。」

 

「よく、わかんなくですか……」

 

「そう。あれだけ憎んでいたテイトクさんだって、兵器としての扱いは本当にしっかりしているの。戦いの指揮、退却の命令。

信じる、とか 期待、とかそんなものよりずっと確実に私たちを生存させる方法。

そう思ったら怒りもなくなっちゃったの。」

 

「でもね、それだったらイクたちはロボットとして生まれてくるべきだったと思うの

戦うための機械。でもイクはロボットじゃないの。

ろぼっとだったらこんなに悩まなくてもいいし、こんなにむなしくなることもなかった。

でもいくはろぼっとじゃないの。でもイクはロボットだったほうがよかったの

でもいくはろぼっとじゃないってことはきっといみがあるってことなの。でもね――」

 

壊れたテープのように語っていくイクさん。

その瞳は景色以外の何も映していない。

 

「――それでね。

 

イクはイクになろうと思ったの。

 

知ってる?艦娘は実は同じ艦種の子が何人かいるの、だからねほかの鎮守府にいるイクのことを調べて、潜水艦伊19になれば楽なんじゃないかって。

そうすれば何にも考えずに、悩まずに、空しくならずにイクはイクであり続けられるの

 

『自分のことだから結構楽だったのね!』

 

ほらね。すごいでしょ。」

 

そういって得意げな顔を作るイクさんがしっかりと見れない。

これ以上彼女のそんな顔を見たくなかった。

 

やめてほしい、これ以上聞きたくない。彼女の話を聞いて味方になってあげなきゃいけないのに。

どうすればいいんだよ、救わなきゃいけないのに。

一般人として育ってきた自分とは違いすぎて、

自分で自分を演じる。そんな痛みは想像することすらできないほど遠くて。

今すぐにでも助けてあげたいのに何もできることが思いつかなくて

そしてこんな、彼女たちよりもずっとずっと心が弱い自分が嫌になる。

 

 

「あ、ちょっとつらそうな顔してるの、ごめんね。

もっとイクは明るい子なの。頑張るの。

 

なんて言ったらもっと傷ついちゃうよね、ごめんなの。

主任さんは優しい人なのね。

 

でもね、でもね、イクはもっとつらいことをいいに

主任さんをもっと悩ませちゃうようなことをいいに、きょうはここまできたの。」

 

そこで言葉を切るイクさん。

少し迷うようなその表情が少しだけ ホンモノ のような気がした。

 

「何でしょうか。」

 

「これをいったら絶対に主任さんは悩むの

でも、でも、

ごめんなさい、イクは悪い子なの。だから言うの。」

 

静かな波の音にのせるように、彼女は再び語り始めた。

 

「実はイク、たぶん精神の障害に近いところまでいっちゃってるの。

 

なんていうか物や人の気配が感じられないっていうか、自分で調べたんだけど

離人症、っていうらしいのね。

自分が触ってるところのもの以外は全部幻覚みたいな感じがして、足を一歩踏み出すごとに床をすり抜けてどこまでも落ちちゃうんじゃないかって不安になって、

眠るときなんかも怖くて全然目を閉じることができないの。

本当に、なった人にしかわからないくらい怖いの。」

 

離人症、聞いたことがある。

主な原因は思春期に受ける大きなストレスの病だ。

 

「調べてみたけど直し方もよくわからないし、主任さんが知っているわけでもないと思うの。

でもそれをわかった上で言うの、

主任さんを悩ませ苦しめることをわかっていて言うの。」

 

「たぶん、ほかの子たちよりもどうしようもないほど曲がっちゃっていて

 

医者に行けって言いたくなるような面倒な病気になっていて

 

何度やっていてもうまく笑えないで気味の悪い仮面みたいな笑顔になって」

 

彼女の景色以外何も映していない瞳

その淵から一筋涙が零れ落ちた。

 

「そんなイクを救ってほしいの。

本当は毎日つらいの、悲しいの、イクとして、私として楽しく、心の底から笑いたいの。」

 

ここで「もちろんです。すぐに救って見せます。」と力強く言えたらどんなにいいだろうか

彼女も一番それを喜んでくれるだろう。

 

でも一番最初にできたことといえば、震えた手で彼女を抱きしめることだった

ダウンジャケットのせいもあるかもしれないが、思っていたよりもずいぶんと小さな肩だった。

イクさんのことについて、自分が何をできるかなんて一切わからない。

これから悩むだろう、自分の無力さに苦しむだろう。

でも今は、今、ここで助けを求めてくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

「ありがとうございます。全力を尽くします。

けして投げ出しません。いっぱい調べます。何とかします。

 

だから、だから、どうかおれにあなたを救わせてください!お願いします。」

 

自分でもわかるような情けなく震えた声だった。

かっこ悪い言葉だった。声の調子が強くなったとこのなんて声が裏返っていた。

それでもイクさんは俺の肩に頭を預けて

 

「うん…うん!イクは主任さんにお願いするの。主任さんに救ってもらうの。」

 

静かに泣き続けたのだった。

 

 

 

 

それから少しして、俺はイクさんを膝に抱えて片手で抱きしめて釣りをしている。

 

「うん。いい感じなのね。さっき気が付いたんだけど抱きしめられていると

落ちそうな感じがなくなって少しいい感じなのね。」

 

まずはこれを第一歩として、彼女と話し合いながら少しずつ進んでいこうと思う。

 

「いいですかイクさん、しっかり抱えていますからね。落ちることなんて万に一つもないんですよ。ほら、太陽が肌にあたってあったかいし、少しだけ風も感じるでしょう?

これはイクさんのまわりに空気が広がっているからなんですよ。包まれているんです。

下から波の音がするから下は海で沢山の水をたたえています。真下にはコンクリートです、触ってみてください。しっかり固いでしょう?それに―――――――――――」

 

まずは一歩だ。

 

 

 

 

 

 

 

三週間後、俺はイクさんを抱えて釣りをしていた。

 

何も変わらなかったかというとそうではない。

夜寝る前に思い出しては小躍りしてしまうほど、彼女は笑い、からかうと怒り、すねる。

毎日接していたとしても思った以上に劇的な回復だ。

 

「それでね、もう寝るときの怖さも少なくなってきたの!!

ちゃんとイクは主任さんに救ってもらってるの!!」

 

そういって笑い、こっちの顔をのぞき込んでくるイクさん

いけないな、最近彼女の笑顔を見るだけで涙腺に来る自分がいる。

男として恥ずかしいから隠しますがね。

 

 

ふと、遠くの山に、淡いピンク色を見つけた。 桜か桃か梅か、どれにしても春の花だ。

 

ここにきてひと月と半分が過ぎた。

自分ができたことは少ないがイクさんは笑ってくれるし。

漣や時雨、北上さんやあと一人とは仲良くなれたし、

まだ完全とは言えないが収穫のあった人もいた。

 

これからも頑張らなければ、少しでも彼女たちをいやすために。

とりあえず今日も頑張ろう。

 

 

 

「あと時雨がつけてる首輪、イクもほしいのね!

それと落ちていかないように全身を縛ってつるしてもらえば安心できる気がするのね!

あと寝るのが怖いのは目隠しをして主任さんに触ってもらうのがいいと思うのね!!

ねえちょっと聞いてるの!?罰として今日はイクと一緒に寝るのね!!」

 

あ、

やばい、なんか知らないけど涙出てきた。

 




またマゾヒストが増えちゃったよ…デモイイヨネ!

次の話は少し遡ります
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