蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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投稿してから見返してフロンティア到着後から大幅に直しました。月の落下対策は次の話で扱うことにしました。今後は気を付けて書きます。

内容は神様が仲間に加わる話です。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


帰還と歌と

武装組織フィーネとして世界に存在を知らしめた次の日の朝、私は朝日が昇ると同時に起床する。

私達が眠る感覚とは深い海の底に沈むイメージだ。セレナもこの空間に沈んで眠るが彼女達は完全に沈むと自動的に私の身体に戻ってしまう。だから海面に浮いているような状態で寝ている。私達のエネルギーの回復には睡眠も有効だがプラスの感情や歌に込められた想いというのも有効でセレナはマリア達の近くで寝る事で回復している。

 

私の寝室は一階にありウェル博士は地下の研究室で倒れるように寝ている。二階には他の五人がそれぞれ個人の部屋があるがセレナの情報によると切歌の部屋で調が眠り、マリアの部屋でセレナが眠るそうだ。教授は夜遅くまで計画の修正をしていたのをセレナは目撃したと言っていた。

 

朝日を湖のほとりで身に浴びる。

 

「それで、姉さんをドッキリで起こす事を手伝ってくれるのですか?くれないのですか?」

 

セレナによく分からない事を言われ現実逃避をしていたが大人モードのセレナに両の二の腕を掴まれて前後に揺さぶられる。

 

「何故そんな事を?」

 

セレナは揺さぶるのを止めてこちらを見つめる。少し暗い表情になりながらも口を開く。

 

「みんなが昨日の事で不安を抱えている事を感じて………それでこのままだとどこかで取り返しのつかない事が起きる気がして………怖いです。世界を救えた時に心から私達が笑えるのか怖いです。」

 

確かに皆どこか暗い表情だった。私も奏達が傷付くのに良い気分にはなれない。セレナはあの時の事を語る。

 

「大和と出会うまでマリア姉さん達は今よりも大きな不安を抱えていて小さなキッカケで壊れそうで………。そんなみんなをただ見ている事しか出来なくて誰か助けてと泣いていました。

姉さんは不安に押し潰されそうな時に歌を歌うんです。故郷の歌を歌う姉さんはずっと救えなかった私の事を後悔して悲しい歌を歌うんです。でもそんな歌を歌う姉さんは嫌で優しい歌はこうだよっていつも重ねて歌っていました。

そんなある日、私達以外の故郷の歌があんなに離れていたのに確かに聞こえました。姉さんも聞こえていたようでその方へと向かった先に大和が水に濡れて打ち上げられていました。そんな人に手を差し伸べられずにはいられない優しいマリア姉さんは声をかけます。大和はどうやら私と意思疎通できるようで私の想いを姉さんに伝えられると喜びました。

でも、姉さんは不安に押し潰されそうな中で冷静では無くてギアまで纏って初めて他人に力を向けたけれど大和に無力化されて私の壊れたペンダントを奪われました。

このままじゃ姉さん達は駄目だと、何より姉さんやみんなには笑っていて欲しくて大和に蘇らせてもらいました。みんなに笑ってもらうにはどうすればいいのですか大和?」

 

不安に押し潰されそうなセレナは私の胸に縋り泣く。

だから不安であんな事をしようと思ったのか。だがベッドに潜り込んで耳元で起きるまで名前を囁くのは方向性がおかしい。皆を笑顔に出来る事といえばあれがあるな。

 

「折角早く起きたからにはあそこに行って買い揃えようか。」

 

ハンカチを出して顔を見ないように手渡し背を向けて待つ。少しするとどうやら落ち着いたようだ。

 

「ありがとう大和、おかげで楽になりました。それでどこへ出掛けるのですか?」

 

「私達が向かうのは市場だ。少し落ち着いた時間に向かうから先に皆の朝食を作ろうか。」

 

セレナと家へ向かう。そしてリビングに入るとキッチンには朝早くから調が味噌汁を作り味見をしていた。

 

「おはよう大和にセレナ。今日の献立は白いご飯にたまごをかけてマムおすすめのキクコーマン醤油を滴らしてお好みの具合に混ぜて食べて。それに豆腐とネギのお味噌汁。お野菜は無かったけど、どうする大和?」

 

野菜も買って来ないとな。教授は肉中心でウェル博士は甘い物か。

 

「しばらくしたらセレナと買って来るから大丈夫だ。」

 

調はジッと見つめてくる。

 

「じー………。」

 

「………。」

 

無言で見つめ返す。そんな目と目で通じ合えていない二人にセレナは提案する。

 

「調ちゃんと行ってきてあげてください大和。その方がもしもの危機に直ぐに駆けつけられますから。留守は任せてください。」

 

セレナがアジトに居れば私と調を一瞬でアジトまで跳ばす事が出来る。更にセレナのギアは防御特化で皆が逃げる時間を稼ぐのも出来るだろう。

 

「いいのか?それなら二人で買い出しに行ってくるが。」

 

セレナは頷きこちらへと近付きすれ違いざまに小さな声で調の事を頼まれた。そして調にも何かを言い廊下に消えた。

 

「それじゃあ朝ご飯を食べて買い物に行こう大和。」

 

二人でイスに座って朝食を食べる。食べている私に美味しいかと聞かれたので美味しいと答えた。それ以降会話の無いまま出掛ける支度をして車に乗り込む。大人モードとなり黒縁眼鏡を掛ける。

 

 

車を走らせる私の隣の調は、しばらく私を見つめていたがようやく口を開く。

 

「あいつ………立花 響は何?」

 

立花 響は何か………。

 

「彼女が融合症例なのは知っているな?」

 

調は静かに頷く。

 

「ツヴァイウィング最後のライブで奏が命をかけて守り抜いた立花はその時ガングニールの欠片を胸に宿した。死にかけていた立花の生きる事を諦めない想いがガングニールを動かしたのか聖遺物と融合し生きながらえた。それからリハビリに耐えて日常に戻れた彼女を待っていたのは地獄だった。」

 

ただ黙って聞く調に私は続ける。

 

「彼女の周りは家族とある少女以外は全て敵だった。だが周りの人間のほとんどがそういう世界の流れに流されていただけで憎しみや恨みだった者は少なかっただろう。それは私が偶然ある少女達に説教の真似事をするまで続いた。」

 

調は閉ざしていた口を開く。

 

「そんな世界をどうして?」

 

「彼女は知っただろう。人は醜い。でも、ちゃんと話し合えば手を繋ぎ心も繋げられると。そう信じて彼女は彼女の世界を守る為に戦っている。自分の行動の結果、家族と友人を不本意に傷付けてしまった。その痛みも辛さも知りながら彼女は戦っていると知って欲しい。」

 

調は俯き黙る。

 

「大丈夫だ。今は敵対しているがフロンティア計画を成し遂げれば敵では無くなる筈だ。もう直ぐ到着するからマイバックを忘れないように持っててくれ。」

 

市場に到着し目当ての野菜も肉も買った。調と一緒に居るとおまけをしてもらったりした。小学生扱いされていた気がするが本人は気付いていないみたいだ。何より人の温かみに触れて嬉しそうにしているから些細な事だろう。

 

『みんな起きてリビングに集まっています。マムが今後の予定を話したいそうですからそろそろ戻って来てください。』

 

セレナの声が聞こえて集合しろという事らしい。駐車場の車に乗り込み後部座席に食材を載せて力を流す。

 

『今から帰る。もう少しかかるから待っていてくれ。』

 

調もシートベルトをした事を確認し発進する。行きよりも今の調は明るい雰囲気で元気が出たのなら良かった。

 

「晩ご飯は何を作るの?」

 

「私の好物のすき焼きだ。ウェル博士用は砂糖を多めにして野菜もしっかり食べてもらう。ところで調は春菊は食べられるか?」

 

調は首を傾げる。どうやら食べた事は無いようだ。

 

「わからない、美味しいの?」

 

あれは独特の風味があるから食べてみないと決められないだろう。はじめは入れずに作ろう。

 

「私は好きだが癖が強いから後で別の鍋で煮るが食べてみるか?」

 

「食べてみる。」

 

そんな事を話しながら家まで向かった。

 

 

朝早くから向かっていたのでまだ昼の前だ。家が見えてくるとその家の扉の前に仁王立ちしながらうつらうつらとしている切歌がいた。車の近付いて来る音に現実へと戻って来たようだ。私達は車から降りて荷物を持ち入り口に向かう。

 

「調に大和、申し開きはあるデスか!私も行きたかったデスよ!」

 

怒りを地団駄を踏む事で表現するがその度に危ない。そんな怒る切歌に調はゆっくりと近付くと切歌のスカートの裾を押さえる。

 

「切ちゃん、前から気になっていたのだけれどスカートであまり激しく動くのはやめよう?時々見えてるから駄目だよ。」

 

途端静かになった切歌は玄関の扉を勢いよく開き絶叫した。

 

「デェス!!…………デス。」

 

取り残された私達は家に入りリビングに向かう。テーブルには切歌以外が揃い各々コーヒーや緑茶や甘酒を飲んでいた。

 

「おかえりなさい調に大和、切歌が叫んでいたけど一体何だったの?」

 

「ただいまマリア。それは立派なレディにする為に必要だったの。まだまだ道は長く険しい、先が見えないけれど私は切ちゃんをどこに出しても恥ずかしく無い女性にしてみせる。」

 

マリアは理解出来ていなかったが悪い事では無いだろうとそうかと頷いていた。セレナは切歌を連れて来ると言って席を立つ。それから席に着き少し経つとセレナに連れられて切歌も席に着く。

 

「それではこれからの事をお話しします。米国を発つ前に米国の管理下にある聖遺物をある程度奪いデータを破壊し研究機関へ打撃を与えました。これにより米国はろくに聖遺物を使えず我々を秘密裏に始末は出来ないでしょう。ですから我々に現状で対抗し得るのは同じシンフォギアを擁する二課だけでしょう。

この前に世界へと発信出来た事は我々がノイズを従える事、武装組織フィーネ、シンフォギアを纏う米国の歌姫の存在といったところですね。」

 

となると日本が中心となって我々を追う事になるだろう。日本政府はシンフォギアなどの聖遺物の研究を深い所まで知られたくは無いだろう。手を組むなら米国だろうな。米国はテロ組織として始末したがるだろうが日本も絡むと月の落下の事実の隠蔽を知られる恐れが出てくる。日本と足並みを揃えたりは出来なさそうだな。

 

「さて、計画は次の段階に進みます。起動したネフィリムはまだまだ小さく他の聖遺物のエネルギーを吸収させて大きくしなければフロンティアの心臓とはなり得ないでしょう。これには大和さんが近くで眠ると聖遺物の力が僅かに回復する事を利用します。米国から奪った聖遺物を複数繋いでもらい少しずつエネルギーを集めてネフィリムに与えてください。順調に行けば数週間程でフロンティアの心臓として申し分ないでしょう。」

 

今日から私は聖遺物に囲まれて眠るらしい。何故だろう、凄く複雑だ。身体は聖遺物で出来ている筈だがそれとは違うのだ。

 

「そして私とともにマリアと大和にはフロンティアへと視察に行ってもらいます。アジトは任せましたよドクター。」

 

甘酒に角砂糖を追加しているドクターはいい笑顔で了解した。角砂糖の量にマリアは顔を引きつらせていた。

 

 

フロンティアへと発つのは今夜となった。操縦はマリアがする事になりそれは凄いなとマリアを褒めると得意げに胸を反らしていた。

 

私は調と切歌とキッチンに立っている。買い物を仲間外れにされたからだろうか。

 

「さあクッキングデスよ!マムもマリアもウキウキわくわくのすき焼きデェス!」

 

「用意するのは日本酒・砂糖・キクコーマン醤油(濃口)とすき焼き用の牛肉と牛脂と好きなお野菜等。牛肉は常温に戻しておくのがポイント。」

 

はじめに鍋はよく熱しそこへ牛脂を投下して全体に脂を引く。その後常温に戻した牛肉を一気に投入して解きながら焼く。焼き色がついたら醤油と砂糖を適当に入れる。味が肉についたら白菜などの煮え難い野菜を入れて砂糖・醤油・酒を入れる。煮えたらその他の具材を入れて煮えれば完成だ。味は砂糖・酒・醤油で調整した。

 

「さて、ウェル博士用は取り敢えず砂糖を大さじ3杯入れようか。」

 

切歌と調に食器を用意してもらいテーブルの上にIH調理器を置いて鍋をセットする。卵も器に積んでテーブルに置き準備は整った。

 

「それではいただきましょうか。もしかするとゆっくりと食事出来るのはしばらくの間無いかも知れませんからね。」

 

すき焼きを食べる皆が笑顔で食事を楽しめたようで良かった。ただ、黙々と春菊を食べる調の隣の切歌にはまだ早かったようだ。

 

それから食事を終えてフロンティア視察の準備をする。そんな時にセレナの声が頭に響く。

 

『ありがとう大和。少し離れかけていたみんなが戻って良かったです。姉さんやマムも大喜びで難しい顔をしなくなりました。これから私たちには振り返る暇は無いのかも知れません。ですが、きっと今の私たちなら大丈夫です。フロンティアに行っている間は私たちがみんなの帰る場所を守りますね!』

 

そうか………信頼とはこんなにも心強いものだったのか。不思議な力が湧いてくる。必ず成功させねばな。

 

『ありがとうセレナ、それでは行ってくる。』

 

エアキャリアへと向かいながら返事をした。

 

 

エアキャリアは既に発進準備が整っており私が乗り込むだけだった。中へと入り操縦室へ向かうとマリアは操縦桿を握っていた。

 

「用意はいい?それじゃあ飛ぶから怪我しないようにね。」

 

ヘリが離陸して浮遊感があるが飛ぶ事も出来る私は特に何も思わなかった。それから朝日が昇る頃に見渡す限り水平線という海のただ中にいた。

東経135.72度、北緯21.37度のポイントにフロンティアは眠っているという。

 

「この海の底にフロンティア《鳥之石楠船神》が眠っています。ですが普通に探査したところで見つける事は不可能です。」

 

鳥之石楠船神とはあの時の神様の名前で私の力の大部分だ。

 

「ですのでこの神獣鏡の力を使って———

 

教授の説明を遮る。

 

「鳥之石楠船神とは本当か?ならば私の力なら見つけられる筈だ。私の力は鳥之石楠船神の力だからな。」

 

力の説明はしたが鳥之石楠船神の名前は出していなかった。教授は驚いているが少し考えてから口を開く。

 

「………でしたら鳥之石楠船神の探査をお願いします。もし何か気付いたら連絡してください。」

 

エアキャリアから飛び出して上空から同質の力を探す。すると海底に力こそ弱いが鳥之石楠船神の力を感じた。

 

「教授、それらしき反応を感じた。これから向かおうと思うがいいか?」

 

「ええ、向かってください。」

 

同質の力という事は繋がりがあるという事だ。鳥之石楠船神の力で繋がりを探ると直ぐに見つかった。海底に沈む船の様な形をしている巨大な反応の中に知っている反応があった。

その繋がりを辿り跳躍すると真っ暗だが初めて目覚めた大きなモニターの部屋に出たみたいだ。

 

「教授、おそらくはフロンティア内部に着いた。」

 

だが、通信が繋がらない。フロンティアには外部を遮断する結界の様な力が働いているのか?

私は沈黙しているモニター近くにある暗いコンソールに触れると地鳴りが起きて部屋が明るくなる。すると教授から通信が入る。

 

「こちらでフロンティアの海面への浮上を確認しました。今どちらですか?」

 

教授はフロンティアが浮上した事に驚いているようで少しだけ早口になっている。

 

「おそらくはフロンティア内部の制御室だろうか?詳しくはわからないが。」

 

するとモニターに鳥之石楠船神の彼女が映る。

 

「お久しぶりです葛城様。どうやら船を起動させたみたいですね。この船は私の所有物であり葛城様の所有物でもあります、今は出来ませんがエネルギーさえあれば重力制御で天翔ける事も可能です。」

 

確かに久し振りだがずっとここに閉じこもって居たのだろうか?教授には少し神様と話があると少しの間だけ静かにしてもらう。

 

「久し振りだな。それにしても干渉出来ないのでは?」

 

彼女はハッとして重要な事を話す。

 

「それは葛城様の中に私が存在している事が関係しています。その証拠としましては私の力を持っている事です。一先ずはこの存在を隠す為に船を包む結界を想像してみて下さい。そうすると海底に沈んでいた時の結界が展開されます。今は出力が足りず知覚されないだけですがエネルギーさえあれば大抵の兵器を無効化する程の強度になります。」

 

確かにフィーネや米国が欲しがるわけだ。空を飛ぶ絶対安全な大地であるフロンティアには未だ様々な機能があるだろう。とにかく教授達をここに呼んでから結界を展開せねば。

 

「教授、フロンティアに着陸してくれ。今からまた先程の結界を展開する。」

 

「わかりました。マリア、フロンティアに着陸してください。」

 

通信機からマリアの声も聞こえて今から着陸するみたいだ。

 

「それと葛城様が念じれば外の様子もモニターや頭に映せます。」

 

念じながらモニターを見ると新しく外の映像が映し出される。エアキャリアがフロンティアの大地に着陸し終えたようだ。船を包む結界をイメージすると何となく感覚で結界が展開された事が伝わって来た。通信機からマリアの声が聞こえる。

 

「着陸したけれどもどこに向かえばいいのかしら大和?」

 

フロンティアの大地に車椅子の教授とマリアが降り立っている。するとモニターに映る神様が教えてくれる。

 

「あの時のゴーレムを想像して下さい。そして、映像の場所にゴーレムを繋ぎ送ると彼女達の下に出現させられます。」

 

人と同じ大きさの無機質なゴーレムを一体造り上げる想像をすると部屋の一部が盛り上がり人型になる。それを映像の先をイメージしながらその場所にゴーレムを繋ぐと彼女達の前にゴーレムが地面から生えてくる。

神様にどうしたらいいのかと聞く前に答える。

 

「簡単な命令なら出来ますので此処へ連れて来いと念じてみて下さい。」

 

ゴーレムとの繋がりへここへと案内しろと念じるとゴーレムは大地をゆっくりと踏みしめながら時々マリア達を確認している。

 

「マリアに教授、そのゴーレムに案内させるからついて来てくれ。」

 

「わかった、そちらへと向かう。」

 

ゴーレムとマリア達はゆっくりと遺跡のような建造物へと向かい広大な地を進む。

 

「さて、それでは数十分程の時間が御座いますので何故私が葛城様の中に存在するのかの説明をさせていただきます。」

 

私はその前に神様にお願いがあった。

 

「やはり葛城様では無く大和と呼んでくれると違和感が無くていい。それに敬語も不要だ。」

 

神様は目を白黒させた後に先程よりも雰囲気が柔らかくそして軽くなる。

 

「そうですね、私としてもこちらの方が楽でいいです。それでは説明します。大和を蘇らせる時に使用したものは大和の魂と数々の聖遺物の欠片、そして私自身です。神とは力の塊ですがその力の源は人々の想いの力です。簡単に言うと神様を信じる心ですね。ですが科学が発達した現代では殆どの人々が神様を昔程信じなくなりました。神々は様々な世界へと散りました。その橋渡しをしていたのが私のような運ぶ神々でした。私は交通の神でもあって他の神よりも力を保てていました。次々に神を送る中で最後のとある神からこの世界に危機が迫っていると教えられました。その神はこの世界を愛していましたが弱っていく中で何も出来なかったそうです。そんな神に頼まれましたが当初それ程乗り気ではありませんでした。それからずっと一人で意味もなく漂っていました。」

 

だったらどうして私を蘇らせたのだろうか。あの時は彼女から声をかけてきたのにそれは一体?

 

「では何故私を蘇らせようと動いたんだ?」

 

神様は首を傾げる。

 

「それが、どうにもよく分からないのです。ただ、大和を見つけた時にそうしたいと衝動に駆られたというのが理由ですね。もちろん神の事情に巻き込む事に申し訳なく思いました。そして私の全てを使用して大和を蘇らせました。私の意識が大和の意識を塗り潰さないようにこの船に乗っている場合に限り意識をもう一つの身体である船に移していたのです。」

 

この身体に二人同居しているが特定状況下以外では会えないのか。ならばこの身体では無くこの船にずっと宿れたのではないか?

 

「この船では駄目なのか?」

 

神様は申し訳無さそうにする。

 

「もう一つの身体といってもこれは私の本体でない以上はエネルギーを供給出来なければ消滅してしまいます。それに一人は寂しかったみたいです。」

 

モニターの神様は力無く笑う。エネルギーが無いならばネフィリムを使えばいいのでは無いか?

 

「もしエネルギーの供給が出来れば存在出来るのだな?ならばネフィリムをこの船の心臓に取り付ければ大丈夫だな。今は世界から追われる身だがそれでも良ければ一緒に来ないか?というよりもこの船を使わせて欲しい。だから一緒に来て下さい。」

 

モニターの神様に向かって深々と頭を下げる。神様は戸惑っていたが言葉の意味を何度も呟くと理解したようだ。

 

「いいんですか………?世界の為などと言い気紛れで蘇らせた私が一緒に居てもいいのですか?」

 

モニターに映る神様の声は震え目は涙で潤んでいる。

 

「あなたに孤独から救われた私は出来るならばあなたを助けたい。一緒に居るくらいでいいのならお安いご用です。だから、こちらこそよろしくお願いします。」

 

今確かに彼女と手を繋げたそんな気がした。そして、扉が開きモニターに涙を流す女性が映った状態の部屋にマリアと教授が到着した。途端に空気が凍り部屋の温度が下がった。

 

「大和、そこに映る女性は誰で何故泣いているのか私には分からない。でも、知っているのでしょう?ならば嘘偽りなく白状しなさい!」

 

教授は無言で成り行きを見守る。神様は泣き止まない。

 

「彼女が私を蘇らせた張本人で命の恩人の鳥之石楠船神だ。そして私達に協力してくれる新たな仲間だ。」

 

マリアは未だ威圧感を放ちながら私に近付いて来るとモニターに話しかける。

 

「もう大丈夫だから泣かないの。それで大和の言った事は本当か?」

 

少し詰まりながらも神様は答える。

 

「間違いないです………。こ、これから大和さん達にお世話になります鳥之石楠船神です………。どうかよろしくお願いします!」

 

「………一先ず落ち着くまで待ちましょうか?」

 

神様が落ち着くまで私達は待つ。その間教授はコンソール等の異端技術を興味津々に見ていた。マリアはモニターの神様に励ましの言葉をかけていた。私はマリアに睨まれたのでその様子を眺めていただけだった。

 

 

落ち着いた神様は手で顔を隠し顔を赤らめていた。

 

「お見苦しい所を見せてしまいました。改めてご挨拶をします、鳥之石楠船神でこの船の主です。大和を蘇らせたのは私です。皆さんよろしくお願いします!」

 

モニターの向こうで頭を下げる神様。

 

「私からもお願いする。彼女は私の恩人でこの世界にたった一人だ。どうか仲間に迎え入れてくれ!」

 

私も頭を下げる。

 

「まるで私達が悪者みたいね。私は彼女が神様でも悪魔でもあんな純真な所を見せられて断れる程非道な人間じゃ無い。それに神様だとしても今更威厳は無い。だから私は歓迎する。」

 

神様を一刀両断するマリアだがさっきの様子から守るべき対象になっているようだ。今もありがとうと笑顔を向けられて緩む顔を背けて隠している。

 

「私は聖遺物の研究を長い間行って来ましたが神話に生きた神と出会う事があるとは思いもよりませんでした。あまりの衝撃に言葉が見つかりませんが協力してくれるのならばこちらとしても大歓迎です。どうか月の落下の災厄から人類を助ける為に力を貸して下さい。」

 

教授にも受け入れられたみたいでよかった。それにしても教授は興味津々が似合うくらい嬉しそうにしている。そうして協力する事が決まった私達は神様へと月の落下を阻止する手立てはないかと尋ねる。モニターの中で目を閉じて唸る神様。

 

「そうですね………。落下の阻止なら物理的に?いや、エネルギーさえあればあれを使って………。」

 

しばらく唸っていたが何か思いついたみたいだ。

 

「月の落下の阻止をする為に必要なのは人々の想いの込められた膨大なエネルギーとそれを集めて束ねて月の遺跡へと照射する力とこの船の機能を使用する為のこの船の動力源の確保ですね。」

 

「最後はネフィリムでクリアしたとして一つ目は全世界を掌握するような………つまり、あの時のライブのような事をするのか。二つ目は立花とセレナと私達がそのような力を持っている。」

 

マリアも理解したようだが少し表情が暗くなっていたのが気になった。

 

「一先ずはその根拠を詳しく聞きたいのでどこか月の遺跡の資料を閲覧出来る場所へと連れて行ってもらえますか?」

 

モニターの神様は少し考えると私を呼ぶ。私はモニターの前まで移動する。

 

「すみません大和、少しだけヴァジュラをお借りしますね。」

 

了承すると身体から光の粒子が溢れて目の前に140cmも無い人型に光の粒子が集まり腰まで艶のある黒髪の薄い青の和装の少女が現れた。

 

「やっぱり足りませんね。ハリボテですが今は問題無いでしょう。それでは教授、資料まで案内します。」

 

教授と少女は並びながら部屋を出て行く。その様子は孫と一緒の優しいお婆ちゃんのようだ。それをただ見送る私は同じく残されたマリアのあの表情が気になり声をかけた。

 

「どうした、何か悩んでいるようだが?取り敢えず少々暗いがフロンティア内部を見て回ろうか。」

 

暗い表情ながらも部屋を出る私について来てくれるマリアは優しい。そして、フロンティア内部から海を目指して歩く。海を見ると私は心が安らぐのだ。

 

暗い通路を進む。マリアは私の少し斜め後ろを歩く。

 

「どうして悩みがあると分かったの?」

 

元気の無い声だ。

 

「マリアは表情にも雰囲気にも出るからな。皆気付いているぞ?」

 

「そうか、駄目だな私は………皆に心配ばかりかけてしまう。本当は頼り甲斐のあるお姉さんで居たいのに。」

 

やはりマリアは優しい。そしてその分だけ自身に厳しい。通路の先から光が射し込む事からそろそろ出口のようだ。

 

外に出ると直ぐそこが海となっていた。

 

「私は海を見ると心が安らぐ。月から落ちて海を漂っている時もどこか心地よかった。」

 

マリアも海を見ているが表情は沈んだままである。

 

「私は海を見ていると飲まれそうで怖い。まるで世界に一人ぼっちにされたみたい。」

 

マリアは一人が怖いから優しくしているところもあるのかもしれない。

 

「でも、海を漂ったおかげでマリアとセレナの歌に助けられた。そして今ではこんなにも仲間に囲まれている。存外怖くないかもしれないぞ?」

 

「そうかもね。」

 

少しだけ表情が和らぎ悩みを語り始める。

 

「私の歌で世界を救えるのかもしれない。けれど、どうしても失敗が頭を過ぎってしまう。私の歌が否定されるのが堪らなく怖い。怖くて逃げ出したくなる。」

 

マリアは自分の歌を見失っているようだ。

 

「私もそんな時期があった。力を振るう事を恐れて逃げてそして今でも後悔している。だから力を振るう事が怖くても逃げないと決めた。」

 

「羨ましい。私にもそんな覚悟が持てるのか………。」

 

ただ目の前に広がる青い海を二人で眺める。マリアに足りないものは自分への自信だ。ならばそれを気付かせるだけだ。

 

「マリアの歌には世界中の人々を魅了する程の力がある。それは私達が知っている。私達はマリアの優しいところも泣き虫なところも頑張り屋なところも全て含めて知っている。だからマリアはただ一つ、マリアの好きな歌の事を想って歌えばいい。皆はそんなマリアが好きなのだから。」

 

マリアは昔を思い出しているようで徐々に表情がいつもの優しいものへと近付いていく。

 

「そう………そうだった。セレナの為に歌を始めた私はいつしか歌う事を好きになっていた。」

 

辛そうな表情になりながらも話を続ける。

 

「セレナが死んでしまってからは悪を憎んだ。そして歌により力を手に入れた私はたとえ悪と罵られようとセレナの生きたこの世界を救うと決めた。」

 

この時のマリアは偽りで塗り固めていたのだろう。幽霊の妹に物凄く心配されていたからな。

 

「そして、大和にセレナを救ってもらいその奇跡に感謝すると同時に心が満たされてしまう。そんな気持ちに気付いてしまった私は信念の炎を見失ってしまった。」

 

セレナを奪った連中も憎んだのだろうが一番憎んだのは自分自身なのだろう。弱い自分を殺して強い自分を歌うマリアは強そうに見えて簡単に折れてしまう偽りだった。

 

「でも今はもう大丈夫だ。この胸には確かにあったのだ。今も燃え上がる信念の炎が確かにあった。ならばもう迷わない。私は好きな歌をただ好きだから歌える。」

 

初めて見る少女のような笑顔のマリア。きっとこれが本来の姿なのだろう。そんなマリアは一緒に歌を歌おうとあの時の歌を教えてくれた。

 

その歌は聞く者も歌う者も幸せに包まれて温かくなれる歌だった。

 

その後、教授と神様があの部屋に戻ってきたようなのでヴァジュラとの繋がりを辿って跳躍する。その時繋いだ手もあったかかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

読みやすくなったとは思うのですが上手く書けない部分が多いのも実感しています。原作から離れればそれだけ難易度が高くなり悪戦苦闘です。それでも三期開始直前までは書いていきたいです。

次回はアジトに戻り月の落下阻止の作戦をいよいよ開始です。
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