その見えた点と点を繋ぐ事に難航中です。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
私達は大きなモニターの部屋へと跳躍した。そこには神様の話に熱心に耳を傾けている教授がいたのでそちらに向かうと神様はこちらに気が付いたようだ。少し困ったようなでも嬉しそうな顔だった。
「お戻りですね。教授は本当に聖遺物に強い関心を持っているのですね。中々離してくれませんが誰かとお話しをするのは楽しいものですね。」
こちらへと退避してくる神様とそれを追いこちらにやっと気が付いた教授は咳払いをして誤魔化しいつもの状態に戻る。
「私は大和の中に戻ります。今後の事は教授からお願いします。それではまたしばらく眠ります。」
光の粒子の人型となり解けて私に流れ込む。身体にヴァジュラの感覚と今回から新たに微弱だが神様を感じた。教授はコンソールを操作してモニターに何やら様々なデータを映し出す。
「今回のフロンティア視察で我々が得られた物は非常に大きいです。ですがその道のりは暗闇の中で一条の希望の光を見つけられたに過ぎません。」
コンソールを操作してモニターに月と地球とその間にフロンティアという簡単な図が映し出される。
「これが私達のステージという訳マム?」
地球と思しき球体には幾つものラインが走っていた。
「そうです、詳しい説明はアジトに帰ってからにします。彼女によると障壁は大和さんが居れば自動的に道を開けるそうですからこのままエアキャリアで離脱します。」
私を先頭に部屋を出る。通路は暗いが私の通る箇所は明るくなる。私の後ろでは教授にマリアが夢を話していた。
「私、もう自分を偽るのはやめた。大切な人達や場所を守る為に………何より私は歌が好きだから歌う。」
しばしの沈黙の後教授はいつもよりも声音が優しくなっていた。
「………そうですか。あなた達を巻き込んだ事を少なからず申し訳ないと思っていました。守るべき子供達を戦わせるような大人で恥ずかしいですね。ですがそれでも私の我が儘に付き合ってくれてありがとうマリア。あともう少しだけ私の夢に付き合ってください。」
「もちろん。それにみんながマムの事を好いている。だからそんなマムの夢の手助けをしたい………させて欲しい。」
通路の先から光が見えてそろそろ出口のようだ。外へ出ると太陽が真上から私達を照らす。これだと帰るのはまた夜になるな。エアキャリア到着し窓からフロンティアを眺める。必ず助けるからな。
「それではマリア、また操縦を任せる。」
「ええ、でもオートで進ませる。そろそろ私もマムも眠気がすごくて………寝なくてもいい大和は何かあったら起こしてちょうだい。離陸したらお願い。」
フロンティアから離陸し巨大なフロンティアが小さくなっていく。
「ありがとう、それでは私も眠らせてもらいます。彼女との会話は非常に楽しかったです。それではおやすみなさい。」
教授をベッドに寝かす。マリアは責任感からか操縦室で寝ると言っていたがそれでは駄目だと教授の隣のベッドで寝るように言った。眠気には敵わないようでお礼を述べて教授の隣のベッドで眠った。
連絡は無いがセレナは大丈夫だろうか?一応連絡してみるか。頭の中でセレナに呼びかけるとセレナは驚いていたような気がする。
『今からそちらに向かう。帰りは夜になるだろう。』
『分かりました。こちらは特に何もなくて平穏でした。フロンティア視察は上手く行きましたか?』
上手く行ったというかゴールが見えた。それに仲間も増えた。
『ああ、人類を救う方法も見えた。それに新しい仲間が増えるぞ。私を蘇らせてくれた神様が新たな仲間だ。』
セレナは驚きと喜びからか声にならない声を上げる。
『———ッ!?神様ってあの神様ですか?本当に居たのですね!あれ、でも聖遺物はその神様の武具や力を秘めた物ですから居ない方がおかしい?それに私も幽霊でしたし………まだ知らない事がいっぱいあるのですね!』
セレナ達も神様の大泣き姿を見ればマリアのように驚かなかったのかもしれないな。
『何かあったら連絡してくれ。それではまた後で。』
それから自動操縦で進むヘリの上に立ちステルス状態になり眼鏡を掛けながら海と空を眺めていた。
日が沈み月が空へと昇りもうすぐアジトに着くというところでふと山沿いを走る黒いトレーラーが気になった。
中に戻り少し前に起きたマリアの居る操縦室へ入る。
「気になるトレーラーがアジトの方に近付いている。これは米国の刺客かもしれない。様子を見てくるから待っていてくれ。」
マリアは操縦桿を握りながら少しだけこちらに顔を向ける。
「気を付けて大和。ドクター達に連絡しておく。」
ヘリからトレーラーの近くまで飛び運転席を見ようとするが外から見えにくい。聖遺物の反応を探るが載せていないようだ。
「中は確認出来ないがこのまま通り過ぎるならいいがアジトに向かう道に入った場合撃退する。ドクター達に連絡してくれ。」
あと数分でアジトに向かう為だけの道がある。その道は私達以外は使用しない一本道だ。このような夜に黒いトレーラーで訪問するようなセールスも無いだろう。
「私達は上空で待機する。ヘリが壊されると困るからな。」
ヘリは遠くへと上昇して行く。セレナからの連絡が来た。
『ここがもう見つかってしまったのですか?気に入っていたのですが………残念です。私たちも迎撃の用意は出来ています。無茶はしないように二人を見ています。大和も気を付けて。』
さて、残り50mで曲がるならば少し痛い目をみてもらうが………。
トレーラーは一本道へと進入した。
「トレーラーはアジトに向かっている。ウェル博士の指示に従いアジトを守ってくれ。私はトレーラーを片付ける。』
刺客がこのトレーラーだけだといいのだが。私はモードアイギスとなりトレーラーの上に立ち鎖を幾重にもトレーラーへと巻き付ける。運転席から顔を覗かせた黒いサングラスの男は鎖へと発砲するが全く効果が無い。アームドギア程度でなくては壊せないだろう。
銃声が響く中、走行中のトレーラーを空中へと引き上げる。トレーラーは地面と平行に持ち上がるがタイヤは進もうと足掻いている。
トレーラーの後ろ側の扉が開いてサングラスの男達がトレーラーの上へと登ってくる。その十数名。そして、皆が銃をこちらへと構える。
「お前達の目的は何だ?」
こちらの問いには答えずにリーダー格の男が手で合図をすると一斉に発砲する。装甲の薄そうな箇所を狙い撃ったようだが全て障壁に阻まれて潰れて落ちた。それならと一斉に襲いかかって来るがアイギスの障壁で全方位を守る球体状の障壁を作りただ立っていた。男達は障壁に阻まれてなす術がない。そんな男達を障壁から鎖を出して拘束していく。運転席にいた男達も拘束してトレーラーの上に並べる。
「お前達の目的は何だ?」
再度リーダー格の男に問うが男は何も喋る事なく後ろ手に隠したスイッチを押す。次の瞬間には上空でトレーラーが爆散して男達も炎に飲まれた。
「何も話さずに………一体彼らは何者だったのか。そしてどうしてこんなにも胸が痛むのか………。」
私を殺そうとした者の死でさえ痛いのだな。これからこの痛みに耐えて進まなければいけないのか。もしも、この手で直接誰かを傷付け命を奪えば私は正気でいられるのだろうか?
「彼らにも命を賭してでも守るべきものがあったのだろう。」
ならば、私は守りたいものを守る為に誰かを傷付ける事を迷わない。アジトの様子を知る為にウェル博士に通信を繋ぐ。
「トレーラーのどこかの誰かは自爆した。そちらは大丈夫か?」
「ええ、今のところ誰の襲撃も無いですね。………あまり一人で背追い込まないでくださいね。いつかはこのような事があると覚悟はしていましたしね。辛いのなら戻りますか?」
声に出てしまってウェル博士に心配をかけてしまっている。だがこの程度で沈んでいる場合じゃない。
「いや、アジト周囲を確認してくる。それに先程の爆発で警察や二課にここがバレるのも時間の問題だろう。ウェル博士達はここを放棄する準備を進めてくれ。ネフィリムが育つまで新天地フロンティアで過ごす。そして月の落下の根拠となるデータをあえて残しておいてくれ。」
二課がこのデータを調べてこちらの協力をしてくれればいいのだがな………。
「二課へのプレゼントですね。ラブレターでも添えますか?親愛なる二課装者様へとでもしますかね。」
プレゼントには違い無いだろうが確かにデータだけでは味気は無いな。開けると人類の危機が入っている衝撃のサプライズには驚くだろうが。
「それでは、料理が上達したのか確認したいから料理を食べさせてくれないか?と添えてくれ。私は周囲を見てくる。」
「分かりました。それではアジトの放棄を進めますよ。」
ウェル博士との通信を切りマリアへと通信を入れながら周囲の安全を確認する。
「トレーラーの敵は片付いた。アジトはもう駄目だろう。周囲の安全を確保次第ヘリに燃料を補給してフロンティアへと移ろうと思うのだが教授はもう起きているか?」
教授から通信が入る。
「分かりました。こうなってしまった以上我々は移るしか無いでしょう。それにフロンティアはステルスにより誰にも見つけられないですから丁度良い。早くネフィリムを成長させねばなりません。」
教授との通信を終えるとマリアとの通信に戻る。
「さっきの爆発で誰か………死んだのか?」
マリアの声は震えている。
「………そうだ、目の前で自爆した。」
私も少し震えていたのかもしれない。だからマリアは気付いたのだろうか。
「………私にも背負わせてくれないか?そうすれば少しは軽くなる。」
マリアは本当に背負うのが好きなようだ。これはそうしたいというマリアの本心からの優しさ。
「ありがとう。」
心から言葉が素直に出る。
「どういたしまして。」
通信を切った私は少し軽くなった身体は木々の間を風のように駆けて行く。アジトの周囲には何も見つからなかった。あのトレーラーだけだったようだ。
アジトの玄関に向かうとアガートラームを纏ったセレナが周囲を警戒していた。こちらに直ぐに気付くが私と確認した途端にそれまでの必死な顔はいつもの笑顔に戻った。
「おかえりなさい大和。戻ってきたという事はここはもう安全なのですね?」
「敵はトレーラーだけだったようだ。セレナもここを出る用意をするといい。私は生活に必要な物を纏めておく。」
セレナは何故か不機嫌になる。
「おかえりなさい大和。」
そうだった、先程返して無かったな。この言葉は私の帰る場所という事を実感させてくれる。
「ただいまセレナ。」
そうして二人で家に帰りそれぞれ出発の準備を始めた。
私は倉庫部屋に向かい野菜を買った時の大きくて丈夫なダンボールを三箱持って自室に向かう。
「さてと、これに入る………よな?」
私より大きな金庫の中には高く積まれた現金の山がある筈だ。研究設備で減ったとしてもまだ沢山ある筈。扉を開けると積み上がる現金の山があった。私は黙々とダンボールに敷き詰める作業に没頭した。
結局五箱に増えてしまったダンボールをヘリに積み込む。そしてリビングに向かい食器を箱に詰めているとセレナが扉を開けて入ってきた。
「あまり荷物が無いので大和のお手伝いに来ました。何をしましょうか?」
そういえば最近のセレナは大人モードが多いな。何か理由があるのか?それに何故自宅で黒のスーツ姿なのだろう。
「その姿を気に入っているようだな。だが何故スーツ姿何だ?」
セレナはその言葉に少し口ごもる。
「それは………、この姿の方が調ちゃんと切歌ちゃんに甘えられますから。お昼のもうすぐ帰るという連絡の時も二人のコンビネーションを鍛える為の訓練の後でしたので三人でお風呂に入っていましたから。」
あの二人は互いに個性的だが二人で一つという言葉が当てはまる。お互いがお互いを想っている事がよく伝わってくる。
「それで調ちゃんと切歌ちゃんが私の髪は長いからって二人で洗ってくれたんです。本当に可愛い妹達です。」
マリアが姉で妹として可愛がられているからセレナも姉になりたかったのだろう。姉の愛情を受けるだけは嫌だったのかもしれない。
「だから私は先程の爆発を見てみんなのこの笑顔をこの力で守るんだって強く想いました。次に戦う時には全力で後悔しないように戦います。」
「頼りにしている。だが皆に頼る事を忘れないようにな。」
一人で守れる範囲は思っているよりもずっと狭くて小さいのだから。セレナと食器や調理器具、食材を梱包し終えて一緒にヘリに積み込む。
すると貨物室の隅で頑丈なケージに入れられたネフィリムに銀色の15cm程の棒状の物をしゃがみ込み差し込んで食べさせている切歌とその傍でその様子を見ている調がいた。
「意外デスがこうしてみると可愛いかもデスよ!?致命的な見た目に目を瞑ればデスが………。」
あの銀色の棒は………成る程、聖遺物のエネルギーを棒状にした物か。少し前にウェル博士に渡した聖遺物のエネルギーが溜められた鎖を加工したみたいだな。
「切ちゃん、全てを受け入れてこそだよ。だから目を背けないで。」
私もあのモンスター姿は好きにはなれない。それよりも首に提げられたペンダントが揺れてネフィリムに食べられないか心配だ。
「ペンダントを食べられないようにしまっておけよ切歌に調。もう荷物を運び終えたのか?」
調はゆっくりとしまい、切歌は慌ててしまう。切歌は檻の中へ残りのエサを放り込み立ち上がる。
「もちろんデス!お菓子もたくさん詰め込んであるデス!」
「そんな切ちゃんの衣類と歯ブラシその他諸々は全部私の鞄に詰めてある。だから安心して大和。」
切歌の指差す先には緑とピンクの旅行バックが並んでいた。同じように膨らんでいるが重さは全く違うのだろう。
「調だけに重い鞄を持たせるなよ切歌。調も重たかったら切歌に手伝ってもらえよ?」
切歌は胸を反らしている。
「大丈夫デス!調の事はあたしに任せるデスよ!」
そんな切歌を調はジッと見つめる。
「いつもありがとう切ちゃん。それじゃあ降りる時手伝って。」
見つめ合う二人。そして切歌は調の名前を声に上げ抱き着いている。そんな二人をその場に残して私とセレナは残りの荷物を運び入れた。
皆は荷物を運び終え少し重くなっているヘリへと乗り込む。乗り込んだ事を確認した私はステルス障壁でヘリを覆い上空まで跳躍しフロンティア上空まで一気に跳躍した。フロンティア上空に着くとゆっくりとフロンティアの障壁へとヘリを近付ける。するとその箇所の障壁は消え去り通り抜けてフロンティアの大地へと着陸を完了する。
一番に出てきたのは切歌だった。その切歌に手をひかれて調が出てくる。
「新しいお家デス!………ってお家も何もないデス!?」
「切ちゃん、遠くの遺跡がそうだと思う。大和が知っている筈だから待っていよう?」
わくわくしている二人を待たせるのは悪いな。ここの構造を把握している神様の紹介も済ませようか。
『聞こえているか神様?』
そう頭の中で神様の気配に呼びかけると私の中から光が溢れてヴァジュラを核に神様が現れる。
「成る程、アジトを追われたのですね。それなら居住区画にみなさんを案内すればいいですね?」
新しく住人が増えるとあってか少し張り切っている小さな神様は見ていて微笑ましい。
「それもだが先ずは皆に挨拶しないとな?それじゃあ一緒に降りようか。」
「はい!」
私達は調と切歌の前に降り立つと二人は見た事のない少女に驚く。
「調、天から女の子が降ってきたデスよ!?しかも大和と仲が良さそうデスし!これはどういうことなんデスか!?」
切歌は繋いでいない方の手で神様を指差す。一方の調は神様をジッと見定めるように見つめている。
「私と似ている艶のあるストレートの黒髪に黒い瞳。切ちゃん、きっとあの子は私の親戚とかそんな何かだよ。」
それは無いだろう。このままだとよくわからない方向へと進みそうだと降りて来ていないメンバーを呼び出す。
「新しいメンバーを紹介したいから降りて来てくれ。」
ヘリから残りのメンバーが降りて来る。神様と私は他のメンバーと向かい合う。マリアは神様を見ると微笑んでいた。
「さて、こちらが新しい仲間の鳥之石楠船神こと正真正銘の神様だ。私を蘇らせてくれた命の恩人でもある。だからどうか歓迎して欲しい、お願いだ。」
私は頭を下げると神様も慌ててそれに続く。
「大和さん、それに神様も頭を上げてくださいよ。我々は大和さんが認めた方なら拒んだりしませんよ。信頼する貴方がそこまでする程なら何も問題なんてありません。」
ウェル博士は受け入れてくれた。セレナはマリアから聞いていたようでこちらへと笑顔で頷いている。調は予想が大幅に外れて切歌に助けを求めているが当の切歌は調以上に混乱して大きく手を広げて狼狽えていた。
「デェス!?神様が住んでいるのは天国デス!もしかしてあたしは死んでしまったデスか!?調、あたしのほっぺたを思い切り叩いて欲しいデス!」
混乱している調は右手を大きく振り上げる。
「わかったよ切ちゃん。私、本当は嫌だけど切ちゃんのお願いだもの、いくよ!」
そんなやりとりを見兼ねたマリアが間に入り調の振り上げた手と切歌の広げている手を掴まえて二人と手を繋ぐ。
「何馬鹿なことをしているの?全く………もう少し余裕を持ちなさい。」
マリアを感じてか二人は落ち着く。落ち着いた二人の手を引いて神様に手の届く範囲まで来た。
「この子達と手を繋いでくれないか?そうすればこの子達もあなたをちゃんと受け入れられる筈だから。」
神様は調と切歌と同じくらい小さな手で手を繋ぐ。すると二人は落ち着きお互いに顔を見合わせると手を強く優しく握り返す。
「マリア達と同じで温かい。」
「私達と同じで温かいデス。」
二人は笑顔で神様を見つめる。
「私は月読 調、これからよろしく。」
「あたしは暁 切歌デス!これからよろしくデス!」
神様も笑顔で二人に挨拶をする。
「私は鳥之石楠船神、これからよろしくお願いします!」
どうやら二人に受け入れられたようでよかった。そこで切歌は何かに気付いたようだ。
「とりのいわくすふねのかみは何か違うデス!もっと呼びやすい名前は無いデスか?」
そう言われるとそうだな。何か別の名前があるのだろうか?
「あの………他の名前と言っても
どうやら無いようだ。神様は暗い顔をする。
「それじゃあ新しく名付ければいいじゃない。誰に考えて欲しいの?」
マリアは新しく名付ければいいと言うがいいのか?まあ、問題は無さそうだが。そして隣にいる私を神様が見つめてくるのはそういう事なのか?
「大和がいいです。お願い出来ますか?」
頷く私を少し恨めしそうにマリアが見ていた。さて、名前か………鳥之石楠船神から考えるか。女性らしく人名に使用出来そうな名前になり得る字は楠・天・鳥くらいか。中心に据えるのは神の字がしっくりするだろう。となると名前を作る組み合わせは………。
「………
神様は目を瞑り名前を何度も呟く。そして終わると目をゆっくりと開くと同時に屈託の無い笑顔になる。
「大和、よき名前をありがとうございます。これから私は神楠ですね。とっても嬉しくて何だがふわふわして天にも昇る心地とはこういう事を言うのですね!」
そう言いながら実際に揺れつつ1m程浮くものだから調と切歌が真に受けてそれぞれの足にしがみつく。二人以外は冗談だと理解しているので微笑ましく眺めていた。そして神楠が二人に冗談だと悪戯な笑みで謝ると怖かったらしい。神楠は二人に両の手を占領されながらフロンティアの居住区画を案内する事になったがその間ずっと笑顔だった。
居住区画の設備は近未来的ではあるが使い方は今の物に近かった。大型の船と同じように通路には扉が並んでいる。その扉を開けると船室では無くマンションのようになっていた。部屋の構造は今の物と差はほとんど無く一目で理解できた。利便性を高めると同じような発想になるのかもしれないな。
だが結局、フロンティアに停めたエアキャリア周辺でしばらくの間は生活する事になった。確かに居住区画は新天地とされる程であり機能は充実していた。だがエネルギーが無いとトイレや風呂の他に照明等の生活に必要な設備が使えなかったのだ。エアキャリアには最低限の設備が備えられていたので助かった。早くネフィリムを大きくしないとな。私の寝る場所はフロンティア内部の戦闘訓練施設の広い部屋だ。聖遺物に囲まれ寝袋で寝る事になっている。
居住区画を見終えた私達は先の暗い廊下をあの大きなモニターの部屋へと歩いて向かっている。明かりが灯るのは私と神楠の周囲だけなので先頭を神楠と調と切歌が手を繋いで歩きその背後にマリアとセレナが続く。そして私と博士と教授がその少し後を歩いていた。
「このように和やかな雰囲気で計画が進められるとは貴方と出会うまで思っていませんでした。微笑みなど必要無いと思っていましたから。それもセレナと再び逢えた時に変えられました。」
ウェル博士も深く頷いている。
「そうですね。大和さんに両親に会わせてもらっていなければ今頃僕は何を仕出かしていたのでしょうか。今の僕らは世界に敵対していますがここが凄く気に入っていて居心地がよいですよ。」
教授も微笑みながら頷いている。
「あの子達も思い詰めた顔をしなくなりました。特にマリアはあの頃の優しい顔を見せるようになり本当に感謝しています。あの子達にはこれからも戦いを強いる事になりますが貴方がいればきっと大丈夫です。あの子達をお願いします。」
私は隣の博士と教授をそれぞれ見る。
「そうだな、私もここが気に入っている。私が必ず守ってみせるから安心するといい。」
そんな事を話しているとあのコンサートホールのように広い部屋に到着したようだ。先に入った切歌は驚きの声を上げてデスデス騒いでいる。
「とっても広いデス!ここなら騒いでも誰にも迷惑じゃ無いデス!」
そんな彼女達に続いて部屋に入りモニターの前へと集まる。調と切歌と手を繋いでいた神楠は光となって私に還ってくるとモニターが明るくなり大人の神楠が映る。
「また大きくなったデス!?大和達が羨ましいデス!」
切歌はまたかとモニターに向かってズルいと文句を言っている。
「綺麗。さっきまでは妹みたいだったのに今はお姉さん。」
調は神楠の姿に羨望の眼差しを向けていた。そんな二人をモニターから宥めたり照れたり忙しい神楠の映るモニターの前へと教授が出てくるとこちらと向かい合う。
「皆さん、これからの事を話したいので静かして下さい。」
皆が教授に注目し静かになる。教授は神楠に目配せすると神楠はモニターに月と地球とその間にフロンティアの図を映し出す。
「これはフロンティアが完全に起動し、二課装者の協力を得られたという前提で聞いて下さい。」
調と切歌は何かを言いたそうにするがセレナとマリアに止められる。マリアが手で切歌の口を軽く押さえているのに喋ろうとしないであげてくれ。
「月の遺跡は現在一部の機能が停止しています。再起動させ正しい公転軌道に戻す事が出来れば人類は危機を脱する事が出来るでしょう。ここで問題になるのが再起動の為の膨大なエネルギーとそのエネルギーを月の遺跡へと照射する力が必要になってきます。」
教授はマリアを見るとマリアは確りと頷く。
「膨大なエネルギーは私が集めてみせる。だからみんなは私を信じていて欲しい。」
澄んだ空のような色の瞳に一点の曇りは無くその表情は自信に満ちている。誰も出来ないなどとは思っていない。それは皆がマリアを信じているからだ。
教授は私の方を向く。
「バラルの呪詛が月の一部機能不全で弱まっていますがそれでも強く作用しているでしょう。そこで大和さんがドクターをアイギスの盾から放つ輝きで照らしたという話から全世界中継で人々が画面を観ている時に照らして欲しいのです。」
モニターの神楠が少し補足する。
「私がフロンティアの機能を使用してアイギスの輝きをそのまま伝えますので効果は期待できます。」
そして神楠は目を瞑ると何かを見つけたようだ。モニターにはあの会場で彼女達が使用したS2CA・トライバーストの映像が流れる。
「これは私が大和の記憶を再生しています。それにしても綺麗な輝きですね。」
調とセレナも同意見のようで綺麗と呟いていた。切歌はトンデモと言っていた。マリアはその虹を見つめ何かを考えていた。教授は説明を続ける。
「この立花 響の他者と繋がる特性を利用して世界中から想いの力を地球にある道筋に沿ってフロンティアへと集めてもらいます。この時にセレナのエネルギーベクトル操作の特性と大和さんの繋ぐ力で彼女を補助してください。ある程度の範囲に集まったエネルギーはネフィリムの飢餓衝動の応用で集める事が出来ます。」
この作戦はマリアの歌と立花の力が要となる。
「そして集めたエネルギーで大和さん以外はXDモードとなり八人で更に集まったエネルギーを絶唱により爆発的に高めて欲しいのです。そして大和さんと神楠は繋ぐ力でそのエネルギーをフロンティアへと繋ぎ月の遺跡へと照射して下さい。月の遺跡が再起動して公転軌道が落下コースから元に戻ればフロンティア計画は完遂となります。」
教授が言い終えると納得出来ていない調と切歌は声を荒げて主張する。
「そんな簡単にあいつらと………力を振るう責任を背負っていない奴となんて仲良く出来ない!」
「そうデス!あたしも納得出来ないデス!あたし達を捕まえたら世界が危なかったんデスよ!」
怒る二人。そんな中ウェル博士がモニターの前に出て眼鏡を掛け直す。
「お二人は納得がいかない。ならば、一度決着させましょう、決闘などいかがですか?後腐れなしでフロンティア計画を行う方がいいでしょうしね。」
教授へと判断を仰ぐ博士。教授は装者の精神状態を考慮して結論を出す。
「………仕方ありません。どちらにせよ強引な手では彼女達の力を低下させてフロンティア計画は脆く崩れ去るだけでしょうから。マリアとセレナもそれでいいですか?」
マリアもけりをつけたかったようで不敵な笑みを浮かべている。
「私も勝負をあの会場に置いてきたままで消化不良だった。どちらも正しいのならば白黒ハッキリさせるしかない!」
セレナは静かに頷く。
「………そうですね、私も信じる未来の為に想いをぶつけて伝えてみせます。」
皆の決意が固まり調と切歌は既に猛っている。こっそりガングニールの治癒の力でリラックスさせていく。切歌は次第に落ち着いてきたが調はよっぽど怒っていたのか未だ燻っていた。
「それで決闘の日はフロンティアが完全に起動した日でいいのか?」
教授は頷き肯定する。という事は今のままだと数週間後になるのか。ならば世界に埋まる未発見の聖遺物を回収して早めるか。
「私は聖遺物の回収をする。今ある倍は揃うだろう。それならどのくらい短縮できそうだ?」
モニターの神楠は目を瞑り少し考えてから目を開く。どうやら答えが出たようだ。
「そうですね………それなら一週間程でネフィリムが育つと思われます。」
これでフロンティア起動までの日程は少し早まった。皆の気力は満ちているがもう夜も遅い。
「もう夜も遅いから今後に備えてそろそろ眠らないとな。私は今晩から聖遺物を回収し始める。早く居住区画を使えるようになりたいからな。」
言われて気付いた調と切歌は途端に眠そうにしている。そんな二人をセレナとマリアが支える。
「その通りね、今日はもう寝ましょう。」
神楠に皆でおやすみと挨拶をして来た道を歩いてヘリを目指す。途中で完全に寝てしまった切歌を私は抱きかかえてヘリまで運んだ。切歌をベッドに寝かせてマリア達に行ってくると告げてヘリから出て上空へと跳躍し聖遺物を探すのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ついに二課との全面対決決定です。誰と誰が闘うのかは未定です。
次回は二課の誰かのサイドの予定です。
次回もよろしくお願いします。