蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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深刻な語呂不足を痛感したはるひよるです。

ビーフストロガノフを観ていたら書き上げていました。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


あたしと日常と

———奏サイド———

 

あたしは今、クリスとお揃いのエプロンを着けてキッチンに立っている。それは少しだけ前に遡る。

 

 

朝早くから起こされて機嫌が若干斜めなクリスは乱れたままの髪で目を擦りながらも両親の仏壇に挨拶に行く。あたしも一緒に手を合わせて挨拶をした。何故朝早くからクリスの家に居るのかと聞かれれば泊まったからだ。

 

「おはようさん奏………。まだお日さまも寝てるじゃないかよ。こんな早くにって事は何かあるんだろ?」

 

今は少しずつ溜めたエネルギーを使用して人の状態になっている。大体二時間は出ていられそうだ。

 

「悪りぃなクリス、ただ響の為に何か出来ないか考えたらいい案を閃いた!クリスは響の好きな物は知ってるか?」

 

クリスは寝起きで重い頭を回転させると思い当たったようだ。

 

「好きな物はご飯&ご飯だったか?それがどうこれに繋がるんだ?」

 

あたしは両腕を胸の前で組みクリスを見下ろす。

 

「つまり、響にお弁当を作ろうって事だ!だからクリスも手伝ってくれ。響には咲くような笑顔を見せて欲しいだろ?」

 

クリスは頭を掻くと面倒くさそうにしながらもその顔には笑みが溢れていた。

 

「わかったよ、手伝うから取り敢えずは顔を洗ってくる。その………髪を梳かすのあとで手伝ってくれ………奏。」

 

ついクリスの頭を撫でて髪を乱してしまう。

 

「いくらでも梳いてやるから今はクリスの頭を撫でさせろ!」

 

赤い顔で震えながら耐えるクリス。存外こうされるのが好きらしく途中から表情が緩んでしまっていた。

 

クリスの髪に時間をかけてからキッチンに立った時にはあと一時間と少しだった。

 

 

そして現在、クリスはレタスを千切ってサラダを製作中だ。あたしはご飯をセットして鳥モモを一口サイズに切り酒・醤油・おろし生姜に浸して冷蔵庫で寝かせる。

 

その間にキャベツと中華そばを炒めたりクリスがブロッコリーを茹でたりした。あたしとクリスでだし巻き卵を焼いたり唐揚げを揚げたりおにぎりを握ったりして大きいタッパーに冷ましてから詰めて準備は完了した。

 

「これでみんなを誘ってお昼にするから頑張って誘えよクリス!それじゃあ任せた。」

 

ペンダントへと戻りクリスの首に提げられる。

 

「薄々気付いていたけどそれが一番ハードル高いじゃないか、待てよ奏!?」

 

朝からクリスは大声で吠えるがこの建物の防音は完璧でご近所迷惑にはならない。クリスは番犬のように唸っている。

 

『大丈夫だって、一人目はクリアしておいたからさ。そろそろ来ると思うが………。』

 

インターホンが鳴り玄関が開く音がして足音が聞こえリビングの扉が開く。

 

「奏から呼ばれて来たぞ。何でも雪音から私にお願いがあるらしいではないか。さあ、遠慮なく言うといい!」

 

朝から翼は期待を込めた眼差しでクリスのお願いを待つ。クリスは目を白黒させてしまっている。

 

『ほら、誘ってしまえよクリス。ついでに一緒に登校すればいい。』

 

クリスは折角梳いて整えた髪を掻いて乱す。

 

「急すぎんだよお前ら!少しあたしに時間を与えやがれ!」

 

翼は頷きソファーに腰掛けてクリスを待つ。そんな翼の前のテーブルにクリスは少々乱暴に緑茶の入ったグラスをコースターを敷いて置く。

 

「一応客だからな、もてなしだ。それでも飲んで少し待ってろ。」

 

「ありがとう雪音。だが学校に遅れないように頼む。」

 

翼を見ずに手を振りながら寝室に向かうと制服に着替えて鏡台に座り髪を梳くが中々上手く纏められない。仕方なくあたしは人へと変わりブラシを奪い丁寧に梳く。

 

『まだもうちょっとだけこの状態でいられるからな。このくらいあたしに任せな。』

 

クリスは俯き気味で顔を少し赤らめていた。

 

「この後………あたし誘ってみる。そしてリディアンに着いたら直接あの二人も誘ってみる。」

 

「頑張れよクリス。ペンダントから見守ってるからな」

 

髪を梳かし終えてペンダントに戻る。クリスは意を決して立ち上がりソファーに腰掛け緑茶を口にしていた翼とテーブルを挟んで向かい合う。お互い睨み合うがクリスが先に動く。

 

「お昼に大きな樹の下で待っていろ。絶対に逃げるなよな!」

 

決闘の申し込みのようだったのでクリスの足りない言葉を翼にだけ聞こえるようにあたしが補う。

 

『お昼をご馳走するから待っててくれと言いたいのさ。来てくれるか翼?』

 

翼はまだ素直だった頃のような笑顔になり頷く。

 

「雪音が私の為に料理をしてくれたなどこんなに嬉しい事があろうか!必ず昼には樹の下へ向かう。雪音の料理を楽しみにしている!」

 

翼の嬉しそうな姿にクリスは嬉しさと照れ臭さとで面白い顔になっている。

 

『翼と一緒に行くだろ?さっさと翼と弁当を持って学校に向かって響達を誘ったらどうだ?』

 

喉まで言葉が出そうになるがクリスは自力であと一歩が踏み出せない。翼はクリスの言葉を待つだろう。だがそれだと響達を誘うチャンスを逃すかもしれない。また翼にだけ聞こえるように伝える。

 

『響達も誘いたいからクリスを連れて行ってくれ翼。早めに着いておきたいからな。』

 

軽く頷きクリスの手をひいて出口に向かおうとするがクリスは抵抗する。

 

「ま、まて!待てって!まだお弁当持ってないから離せよ!」

 

クリスは翼の手を解きキッチンの弁当を持って出口に向かう。その背後に翼はついて行く。

 

家を出てクリスと翼は並んで歩く。学校までの道のりの半分になるが二人は無言だった。

 

『二人とも何か話さないのか?それとも無言が心地いいのか?』

 

翼はクリスを家を出てからずっと見つめていた。

 

「そのようだ。戦う事以外の話は今も苦手で何を話したらいいのか分からない。」

 

クリスもそれには同意する。

 

「確かにな。あたしの過去の話なんて聞かせても暗くさせちまうだけで何を話せばいいんだ?」

 

クリスも翼も普通とはかけ離れた生き方をしてきた。突然日常を過ごせと言われて戸惑う事も多いのだろう。

 

 

あたしもノイズに家族を殺され生き残ってしまった。その後、二課に拾ってもらい装者としての力を欲したあたしは地獄のような実験の日々を続けた。そして痛みの末に力を手に入れた。それから翼と装者として関わるようになって次第に仲良くなった………いや、お互いに依存していたのだろう。親から突き放された翼と家族を失ったあたし達は自然とそうなったのだ。

月日は流れて翼とツヴァイウィングを結成してその裏ではシンフォギアによるノイズの殲滅の日々。そんな中あたしは敵討ちだと憎しみに取り憑かれたように戦っていた。

でもある日、助けた自衛官にお礼を言われて気付いた事がある。それから歌はノイズを滅ぼす為だけではなく、みんなを守れるのだと気付き戦ってきた。

 

 

『何気無い事や好きな事を話せばいいんだよ。あたしは思いっきり歌う事が大好きだ!二人は歌が好きか?』

 

頭に響くように大きな声で伝えると二人は突然の大声に驚いていた。

 

「無論だ。あたしは歌が好きで自分の為に皆の為に歌いたい。出来るなら奏ともう一度観客の前で歌ってみたいと思っている。」

 

翼の表情は晴れやかで温かい気持ちが流れ込んでくる。

 

『あたしもそんな夢みたいな事をしてみたいな。ちょっと弦十郎のダンナにお願いしてみるかな!』

 

「あまり叔父様に無茶な事は言わないように奏。そして、雪音は歌が好きか?」

 

俯き加減のクリスは何か言いたくて口を動かすが声が出ていない。

 

「あたしは………。」

 

クリスはその場で立ち止まってしまう。そんなクリスの手をひいて翼は歩き出す。

 

「立花達も誘うのだろう?ならば立ち止まっている暇はないぞ雪音。大丈夫、誰しも悩みを持っている。焦る必要などない。答えに気付いた時に教えてくれると私は嬉しく思う。」

 

繋がれた手の温もりを感じながら二人は立花の教室へと向かうのだった。

 

 

校内には生徒がちらほら歩いている程度でどうやら急ぎ過ぎたようだ。立花の教室には少数の生徒しか居なかったが彼女達に断りを入れてクリスと翼は並んで席に着く。遠巻きに翼は注目されているが特に気にした様子はない翼であった。教室に生徒が入る度に注目されている二人。響が教室に着いた頃には人集りが出来ていた。

 

「あいつら遅いなぁ………。それよりもこの人集り!改めてあんたが人気者だって思い知らされる。いつもこうなのか?」

 

クリスは肘をつきながら横目で見る。

 

「そうだな。だがこの程度で動じていてはライブなど出来ないから慣れたものだ。」

 

椅子に腰掛け背筋を伸ばした姿は本人がよく口にする剣のようで他者を寄せ付けない雰囲気を少なからず放っていた。それから数分後にようやく目的の人物が到着したらしく明るい声が教室に響く。

 

「何この人集り!秋桜祭の話合いって感じでは無さそうだし一体何だろう?見に行こうよ未来!」

 

「ちょ、ちょっと響そんなに引っ張られると危ないよ。もう、少し落ち着いて響!」

 

人集りをかき分けて現れた響と小日向にクリスはようやくの登場なのかと立ち上がる。

 

「遅いぞ!あたし達は見世物のパンダじゃないからな!まあいいか、二人は今日のお昼にご飯を食べずに大きな樹の下で待つ事、絶対だからな!」

 

クリスは人集りを手で避けろとジェスチャーをして通る。続いて翼も席を立つ。

 

「突然で申し訳ないが雪音のお願いを聞いてやって欲しい。ではまた昼に会おう立花に小日向。」

 

教室を後にするクリス達に唖然とする二人とクラスメイト達。予鈴が鳴る中それぞれの教室に二人は向かった。

 

 

そしていよいよ昼となる。席を立つクリスに編入初日から気にかけてくれている三人のクラスメイトがお弁当を手に近寄って来る。

 

「雪音さん、お昼一緒に食べない?」

 

毎度断られているのに誘ってくれるいい子達だ。素直に好意を受け入れられないクリスはいつも逃げてしまうが内心では仲良くしたいのだ。

 

「ごめん、用事があるんだ………。」

 

俯き加減に断りを入れて出口へと向かう。翼達が待つであろう樹の下へとゆっくりと向かうが表情は曇っていた。

 

『もっと素直にな、クリス?』

 

「わかってるそんな事は。わかってる………。」

 

今日の翼達とのお昼を食べる事がいい切っ掛けになればいいのだが。樹の下が見える所まで来ると翼達が談笑して待っていた。クリスに気付いた響が大きく手を振っている。

 

「クリスちゃーん!私もうお腹が空いて倒れちゃいそうだよ!」

 

笑顔でクリスの作ったお弁当を待ってくれている響だがどこか違和感を感じる。樹の下に到着しシートを敷き皆で座るとクリスはクーラーバックからお弁当取り出して響の前に並べる。

 

「料理の練習をしてんだが他のやつの意見も聞きたくってな………。そこで料理の出来そうな小日向と美味いもん食ってそうなあんたと不味くても全部食べてくれそうなバカを呼んだんだ。………素直な感想が欲しい。」

 

翼は素直ではないクリスの本音を暴露する。

 

「雪音は立花を気遣っているのだ。最近の立花は元気が無いからな。」

 

小日向も頷いている。

 

「響はよく無理をして溜め込んでしまうんです。だからいつも私心配で堪らないんです。出来る事なら少しでもその辛さを和らげてあげたい。」

 

響は皆の温かい気持ちに目尻を拭う。

 

「私みんなに心配ばかりかけて………でもみんなが手を差しのべてくれるから私は前を向いて行ける。ありがとう、みんな。」

 

響の感涙にクリスも涙を流しながらも強がる。

 

「バッカ、おまえなに辛気臭い事言ってんだよ………。おまえは後輩であたしは先輩なんだ。それに仲間………だしもっと甘えればいいんだよ!わかったら泣くのやめろ………あたしまでもらい泣いちまう。」

 

涙を流す二人を小日向が響を、翼がクリスを落ち着くまで慰めていた。

泣き止んだ響と正気に戻り途端に慌てて翼から離れるクリス。

 

「辛気臭いのは無しだ!さっさとお昼にするぞ。ほら、食え!」

 

取り皿と割り箸を響達に押し付けて促す。クリスは取り箸を持ち響の皿に素早く盛る。弁当の中でも一際大きなおにぎりを盛る。

 

「おまえの大好きなご飯&ご飯の爆弾おにぎりだ!これで元気が出る筈だ。」

 

ご飯&ご飯の炭水化物おにぎりを響は大きく一口かじると満面の笑みを浮かべていた。

 

「白いご飯にソース味のお好み焼き………いや、これはモダン!?とっても美味しいよクリスちゃん!」

 

騒ぐ響に黙々と食べる翼に喜ばれて嬉しさを堪えるクリス。その光景を楽しそうに眺めてお弁当を食べる小日向達は皆笑顔だった。

 

お弁当を食べ終えて樹の下で風と陽の光を感じる。温かい飲み物を飲みながらくつろぐ。

 

「美味しかったぞ雪音に奏。今度は私も一緒に作ってもいいだろうか?斬るのは得意だから任せろ雪音。」

 

翼ならば飾り切りを難無くこなしそうだ。小日向も少し身を乗り出して立候補する。

 

「私もクリスと奏さんと一緒にお料理してみたいです!響もチャレンジしてみよう?」

 

小日向に見つめられて響は目を逸らしている。

 

「いや〜何と言いますかその………私は食べる専門でして………。」

 

小日向は残念そうに俯き加減だ。その様子を見た響は動揺して慌てている。

 

「そう………、それじゃあ私は響の健康に為に野菜をふんだんに使って作るから楽しみにしていてね?」

 

さらに慌てる響は必死に小日向に縋りつく。

 

「それだけは!炭水化物を取り上げる事だけはお許し下さい未来さん!手伝いますから何卒ご勘弁を!」

 

小日向も冗談でしているだけだろうが響に野菜を食べて欲しいのは本音だろう。事実先程野菜を一番食べていないのは明らかに響であり、一番多く弁当を食べていたのも響であったからだ。

 

「もう………、よく食べるのは別にいいの。でもね、響が野菜をあまり食べないから栄養が心配なの。だから自分で作れば多少は改善されるかもと思っただけなの。」

 

響は未来に抱きつき少し困った顔でそれを小日向は受け入れていた。

 

「相変わらず仲の良い事だ。少し羨んでしまう、そう思わないか雪音?」

 

クリスは二人の姿を見て顔を真っ赤にしている。

 

「真昼間からおまえらは本当に何してんだ!?少しは人目を気にしやがれ!」

 

その時に予鈴が鳴り樹の下で解散しそれぞれの教室へ戻る。

 

 

『誰かとご飯っていいもんだよな?』

 

クリスは人の少なくなった廊下を少しだけ早足で歩く。

 

「………うん。………あたし次にあの子達に誘われたら一緒に食べようと思う。だから明日もお弁当作るの奏に手伝って欲しい。」

 

消極的ではあるが積極性も見えてきてあたしはその成長が嬉しくて明日の朝がとても楽しみになる。

もう教室は直ぐそこだった。

 

『おう、任せとけ!』

 

扉を開ければ陽の光が教室へと射し込みとても眩しかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

奏サイドと言いつつのクリスのお話でした。
次回も二課のお話ですがF.I.S.組のアジトの捜査結果等になると思います。

次回もよろしくお願いします。
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