蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

32 / 50
GX11話にテンションが上がり一気に書き上げたはるひよるです。

この物語だと三期は無いと思う今日この頃です。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


元凶と彼女と

日本を中心に世界各地を転々と跳び集めた聖遺物の欠片およそ百個を回収し終えた。事前に集めていた聖遺物の倉庫兼私の寝室に歩いて向かう。

 

「お帰りなさい大和、凄い数の欠片ですね。私の教えた回収方法が役に立ったようですね。」

 

「ああ、事前に融合済みの聖遺物を倉庫に設置してそこへと繋げて渡す。よく考えれば出来ると言われて気付いた。おかげで捗った、ありがとう神楠。」

 

「いえいえ、その力の扱いに関して大和にはまだ負けませんよ?」

 

胸を反らせて得意げな神楠は小さな身体を大きく見せようとしている子供にしか見えず微笑ましかった。永い間生きている筈だが幼い容姿に引っ張られているのか容姿相応な態度が目立つ。そして、何故か私をじっくりと眺めている。

 

「………そろそろ、大和の魂と身体を完全に融合させましょうか。位階も十分ですしフロンティアが完全稼動した時に枷を全て解放しますね。あ、私は新しい身体の目処が立ってますから大丈夫です。」

 

「それは、かつての現御神(あきつみかみ)の様な事か?」

 

「そうなりますね。身体は神で精神的には人間の側面が強く在りますからね。因みに人の姿をした神の私も現御神と言えます。」

 

私は神のような人のような者になるみたいだが精神が人間なら良しとする。

 

「それに大和はもうその力で大きな対象を跳躍させられますからあのアジトや他に用意した建物もこのフロンティアに設置出来ます。フロンティアは広大ですしあの車でも持って来た方がいいかもしれませんね。」

 

「あのアジト以外から持って来るようにする。私がいないと移動が大変だからな。そろそろ眠る、おやすみ神楠。」

 

「はい、おやすみなさい。」

 

聖遺物の置かれる部屋へ再び向かい到着した。私は聖遺物との繋がりを作り寝袋に潜り眠る。意識の海の底へ沈むと無数の聖遺物との繋がりは星が煌めく夜空の様で美しかった。

 

 

 

深く眠る私を呼ぶ声が聞こえる。この元気な声は切歌だろう。意識を浮上させて目覚めると顔を覗き込む切歌と目が合う。

 

「起きるデス大和!朝はマムに止められたデスがお昼は一緒に食べるデス!」

 

どうやらあれから十時間程経ったようだ。これだけ眠れば聖遺物へとエネルギーを緩やかに供給して満たす事が出来る。そして、その自然充填されたエネルギーを鎖に溜めてネフィリムに与える。ついでに自身のエネルギーも与え眠り回復するという事の繰り返しだ。

 

「おはよう切歌、それに調。昨日はよく眠れたか?」

 

「おはようデス!昨日は知らない間にベッドでグッスリ眠れたデス。」

 

「おはよう大和。私も昨日の夜はよく憶えていない。でも、朝は気持ち良く起きれた。」

 

起き上がり服装を変えて二人の隣へ立ちセレナへと呼び掛ける。

 

『起きているかセレナ?』

 

『おはよう大和、起きたのですね。お昼の準備は整っていますから待ってますね。』

 

『今からそちらに跳躍するから少し視界を覗くぞ?』

 

『大丈夫です、いつでもどうぞ。』

 

準備は整い二人とともに跳躍する。ヘリの外にテーブルとイスを設置して私達三人以外は席に着いていた。

 

「おはよう。聖遺物はおよそ二百でエネルギーも溜まっている。この後にネフィリムにエネルギーを食べさせるがいいかウェル博士?」

 

「ええ、おはようございます。大和さんが与えるなら危険も無いでしょう。一気に与えるともっと寄越せと暴れかねませんので徐々にですね。教授もこれで問題は無いですか?」

 

「おはようございます。そうですね、そのペースですと予定通りに進めそうです。それとですが、どうしても負けたくないとマリア達が意気込んでいます。ですのでマリア達に訓練をお願い出来ますか?勿論、あまりエネルギーを消費されては困りますので戦い方の指導になりますが。」

 

戦い方の指導が出来るだろうか。その時思った事を指摘すればいいのか?そういえば神楠に初めてあの時指導を受けた。なら、後で聞きに行くとしよう。

 

セレナ達によりテーブルへ昼食のパスタにサラダとスープが並べられる。セレナ達も席に着き皆で合掌して食べ始める。

 

「私達を鍛えて欲しい。あの時はセレナの盾で何とか戦えたが無ければ劣勢だ。それではセレナの負担が大き過ぎる。」

 

「姉さん………。大和、私もみんなを守れるように戦いたいです。私からもお願いします。」

 

切歌も何か言うが口に物を含みながらであった為聞き取ることが出来ない。

 

「あたしも守りたいものがあるんデス!だから、お願いするデス!………そう言っている。私にも守りたいものがある。だからお願い、私も鍛えて欲しい。」

 

切歌は首を縦に振りようやく口の物を飲み込み終える。

 

「そうデス!あたしの代わりにありがとデス調。」

 

「切ちゃん、お行儀が悪いから食べてから喋ろう?あと口のまわりがソースで汚れている。」

 

口周りを調は拭ってあげると切歌は少し照れていた。

 

「それでは食べ終えたらあの辺りに集まってくれ。」

 

広大なフロンティアの何も無い荒野を指差す。四人は頷き食事は再開された。食後にネフィリムへエネルギーを与えた。

 

 

食後に指定した場所へと四人は集合している。ここに来るまでに一度モニターで神楠と相談したところ特殊なゴーレムを使えばいいと教えられた。ゴーレムはフロンティアの端末で主である私や神楠の意のままに出来る。操れば強さもそこそこになるらしく訓練にも使える。ゴーレムの山を築いたのはもう随分前の事に感じた。

 

「これから順番にゴーレムの相手をしてもらう。だが、聖遺物のエネルギーをあまり使用出来ないので主に近接戦闘になる。決戦では誰に誰を当てるのか決めているのか?」

 

「私が風鳴 翼、調が立花 響、切歌が雪音 クリス、セレナが天羽 奏にした。あくまでこちらの決めた事であって二課側がどう当ててくるのか分からないけれど。」

 

「なら、余る私はそれ以外を引き受ける。特に風鳴 弦十郎と緒川 慎次を警戒しないとな。」

 

「そちらは任せた。そろそろ訓練を始めよう大和。一番槍は私が務めさせてもらう。」

 

 

三人に応援されたマリアは荒野を進み一人立つ。私はフロンティアの格納庫に眠る緋色のゴーレムを一体出現させる。その姿を私へと変化させ、手には緋色の刀を携えて佇む。

 

「大和とはこれで二度目だ。あの時は冷静さを欠いていたが今回はそうはいかない!尚更のこと闘志が漲る!」

 

ギアを纏い槍を構え対峙する。その瞳は相手を怯えさせるには充分事足りる程に威圧している。

 

頭の中でゴーレムと繋げ感覚を掴み刀の切先をマリアへ向ける。遠くでこちらを観戦する自身と三人が見える。

 

「それでは始めるぞマリア。この訓練でこちらは近接戦闘のみで戦う。マリアは好きに力を使って構わない。勝敗を決する攻撃を入れれば勝ちだ。油断すると少々痛い目をみる。だから気を引き締めて掛かって来い!」

 

「推して参る!」

 

槍を握り襲い来るマリアを静かに待つ。先ずはリーチの長いマントを操りこちらに隙を作ろうと攻撃して来る。マントを左右に回避しながら刀で弾き返す。背を向けて誘うとマリアは握る槍へと風を纏わせてこちらへと鋭く突きを放つ。それを左へと倒れながら回避し、その流れでマリアの槍を握る右手を狙い刀を振るう。だが、マントがそれを阻みつつその間にこちらへ身体を向け槍で薙ぎ払う。私は大きく飛び退くがマントが伸びこちらへと襲い来る。

 

「どうした、大和の力はその程度ではないだろう!」

 

マントを躱し刀を強く握り締めてマリアへと駆ける。

 

「それではこちらから攻めさせてもらう。」

 

マリアまでの距離約10mを三歩で刀の間合いまで踏み込み地を滑るように胴へと突きを繰り出す。マリアは想定外の速さに反応が遅れるも左脇腹を掠める程度にとどめたが右脇腹に強烈な衝撃を受けて高く蹴り飛ばされ宙を舞う。体勢を立て直そうとするマリアへと高く速く跳び首へ刀を当てる。自らの敗北を認め落下するマリア。刀を消して体勢の崩れたマリアを先に地に立ち受け止める。

 

「今ので一回だ。刀の攻撃を見過ぎて左足での攻撃に全く気付けなかったようだな。戦闘中は一点を見ず全体を見通せ。そして何より自分の得意な間合いで立ち回る事が重要だ。」

 

大きく吹き飛ばしたが手加減はしてあるのでギアを纏うマリアに怪我はない。マリアをゆっくりと下ろし立たせる。

 

「想定外の事に動揺してしまうのが私の悪い癖という事か。次こそ一本を決めて受け止めてあげるから覚悟する事だ!」

 

次も負ける訳にはいかないなどと思いながらマリアと二人で皆の方へと並び向かった。

 

 

自らの姿を鏡以外で見ることなど滅多に無く不思議な気持ちになる。ゴーレムの視界だけに絞っていたものを本体のみに戻す。

 

「対大和一戦目は私の完敗だ。油断していると訳も分からずに空を飛ばされるから気を付けろ。」

 

研ぎ澄まされた突きを避けたマリアが凄いのであって近接戦闘を主軸とする切歌は反応出来るのかさえもあやしい。そして、奏達も完璧に反応出来る者はいないだろう。この速さを見極められれば優位に立ち回れる筈だ。

 

「次は誰が戦うのか決まっているか?」

 

マリア以外の手がほぼ同時に挙がる。どうやら戦闘に見入り決めていないようである。そんな中でも一番に挙げたのはいつも皆を持ち前の明るさで照らす切歌だった。

 

「槍でダメなら鎌があるデス!マリアのカタキを取ってみせるデス。」

 

「なら先程と同じでいいか?」

 

胸を反らせ私を指差しデスと了承する切歌はギアを纏う。すると、いち早く戦いたいのか遠くまで飛びこちらを手を振り呼ぶ。私はゴーレムへと再び視界や感覚を繋げると切歌の下まで地を蹴り大きく跳ぶ。着地し切歌と刀を片手に対峙する。

 

「その脚力で蹴られればさっきみたいにお空の旅へと行かされるのにも納得デス。さあ、行くデスよ大和!」

 

刀のみの私に刃を左右にそれぞれ一本ずつ飛ばしその後を追いこちらへと向かって来る。回転し左右から刈りに来る刃を数歩後退し躱す。

 

「待ってましたデェス!」

 

後退する私を狙い両の上腕部に装着されているバーニア兼アンカーから鎖のような物が伸び射出される。鎖に絡まれるのはまずいと刀を投げ鎖を絡ませ落とす。その間にバーニアを使用し急襲する切歌は鎌を振り上げて間合いに入り斜めに大きく振り下ろす。半歩退いて躱すと地面に鎌が突き刺さる。だが切歌は突進の勢いのまま強引に地面を抉り縦に一回転してもう一度鎌で切り掛かる。

 

「いい動きだが、もう少しだったな!」

 

一歩踏み込み切歌の持つ鎌の長柄と握る右手を掴み回転する勢いのまま地面へと振り抜く。鎌を強く握り締めたそのままの体勢で背中を強く地面へと叩きつけられて空気を吐き出す。最後に手を引いたので怪我はない筈だ。衝撃で手離した鎌を突き付けると両の手足を投げ出して負けを認めこちらの顔を悔しそうに見上げる。鎌を地に置き切歌に手を貸して立ち上がらせる。

 

「やっぱり大和は強いなぁ………。あたしもそれくらい強くなればみんなを守れるんデスか?」

 

切歌は埃を払いながら真っ直ぐにこちらを見詰めて答えを待つ。

 

「戦うだけが強さでは無いと思う。私は確かに腕っ節は強いが精神面ではそれ程切歌達と大差無いと思う。弱い自分自身を自覚してなお、私が戦えるのは切歌達が支えてくれているからだ。誰かを信じる事は守る事と同じだと思う。」

 

目を大きく見開き少しの間硬直していたが気を持ち直して表情は澄み切った今日の青空の様だった。

 

「そっか、あたしもちゃんと守れていたんデスね。………何だか胸のモヤモヤが無くなって身体が軽くなったみたいデス!次こそは大和にひと泡吹かせるデス!」

 

戦闘訓練前よりも元気になった切歌はマリア達の方へと軽やかに駆けて行った。

 

 

歩きマリア達へと到着する私に調がギアを纏い近付いてくる。

 

「私も守れていて嬉しい。でも、もっと強くなりたい。どんな訓練をすればいいの?」

 

調のギアは高機動性能と遠近戦える汎用性の高い鋸がある。近距離での戦闘は可能だが近接戦闘は非常に苦手だろう。二課装者は雪音以外近接戦闘を得意としていると思われる。インファイターに対して優位に立ち回るには相手の届かない範囲からの一方的な攻撃だ。そして、隙を突き強烈な攻撃で仕留めるのが理想的だ。

 

「マリア達と変わらないが調は相手との距離を勝負を決めに行く時以外は絶対に近付けさせず近付かないように心掛けてみてくれ。こちらは無手で戦う。攻撃される時は危険な距離って事だ。」

 

「わかった。気を付けて戦ってみる。そして、切ちゃんとマリアの仇をとるんだ。」

 

本日三度目となる訓練だが初のアウトレンジ戦法を使う相手だ。更に高機動性能と長いリーチのノコギリアームまで揃えている。ただ、突破力としてはアガートラームのセレナを除き最下位だ。先程までとは違い三倍近く離れた位置から開始する。

 

「それでは始めようか。ギアの特性を生かして強烈な一撃を入れてみせろ!」

 

両者同時に動き出す。調へと駆けるが調は地を滑走しこちらから距離を空け、ツインテールのようなパーツから鋸の刃を飛ばしてくる。刃を避けながら後を追うが走るだけでは距離が中々縮まらない。ならばと少し出力を上げて地を駆け徐々に距離を詰めていく。

 

「速い、だけどこれなら………どう!」

 

再び鋸を飛ばすが今度は前面に満遍なく展開させて面で攻めてくる。無手で迎撃する為に地面を踏み込み岩を宙に浮かせて拳で砕き鋸の刃を飛礫で打ち砕く。砕かれた飛礫と鋸がぶつかり合い破片で前面が埋め尽くされる。周囲を探ると左右から大きな二枚の鋸の刃が挟み込むように襲い来る。更に背後には大きな鋸の輪の内に乗りタイヤのように高速で回転させ滑走し調が迫る。

 

「これで決めてみせる!」

 

私は左右の鋸は無視して背後の調へと向かい鋸の刃を躱し調へと拳を叩き込もうとした。

 

「なッ!?」

 

しかし、バリアに阻まれ攻撃が当てられず大きく仰け反り左右から迫る鋸に伐られ吹き飛ばされるが受け身を取りすぐに立ち上がる。

 

「いい攻撃だった。調はその調子でみんなを守ってくれ。それではマリア達の所まで帰ろうか。ところでシュルシャガナにはバリアを張る機能があるのか?」

 

調は首を横に振り首を傾げる。

 

「………鋸を盾に使う事はあってもバリアは張れない。バリアを張れるのはセレナと大和だけだと思う。」

 

心当たりの無い調と違い私はアレを何処かで見た気がする。二課にはバリアを張れる者はいない筈。とすれば残るはカ・ディンギルで戦い破ったフィーネしかない。歩きながらフィーネに関して思い出そうとする。

 

「調は自分の中に自分じゃない誰かを感じたりはしないか?」

 

「たぶん無いと思う。大和はあるの?」

 

「そうだな、セレナや神楠に奏もあるな。もう慣れたものだ。」

 

そういえばフィーネが崩れ去った直後に何処かへと繋がりを辿ったのを見た。あれがリインカーネイションだったのだろうか。櫻井 了子を塗り潰し再誕していたらしい。ならば調が塗り潰されないのは立花のおかげなのかもしれない。

 

「気になる事があるから訓練を中止して教授とウェル博士の所に一緒に向かうぞ。」

 

私はゴーレムを格納庫へ戻しリンクを切る。ゴーレムが消えた事で私は注目される。

 

「調の事で気になる事がある。だからすまないが今日の訓練は中止だ。メディカルチェックを終えたら皆に話がある。」

 

「調は大丈夫なの?」

 

「大丈夫デスよね大和?」

 

「大和………どうなのですか?」

 

まだなんとも言えない状況だが、私の見立てではフィーネは既に再誕している。だが、以前とは違い表に出てこないのには理由がある筈だ。

 

「単刀直入に言うと調にフィーネが再誕している可能性がある。これから教授とウェル博士、それに神楠と話し合い対処する。大丈夫、何たって神様がついている。調は必ず守ってみせる。」

 

ギアを解除した調と合流したが知らせないまま五人でヘリへと向かった。やけに皆が引っ付いてくる事に調も何かを感じているようだった。

 

 

ヘリに到着しメディカルチェックを済ませた三人は教授とウェル博士とともにヘリから降りて来る。先に降りた私は神楠の為にフロンティア内部の小型モニターを用意して映し出し皆が屋外のテーブルに揃った。

 

「調にも知ってもらいます。今代のフィーネの器は調である可能性が高いです。安心なさい、私達が何とかして見せますから。」

 

「私がフィーネだって本当なのマム?さっきの大和の質問はそういう事だったのね………。」

 

不安そうに何かを探し求め震える手を切歌とセレナが包み込み繋ぎ安心させる。

 

「今迄は目醒め次第その者は塗り潰されてきたが今回は塗り潰しを実行していない。」

 

ウェル博士は何か思い当たったようである。

 

「先代の彼女と面識はありますが今の調さんにはその影すら感じられない。そんな彼女を引き離したいなら大和さんの力で別の物に繋げればいいのではないでしょうか?可能ですか神楠さん?」

 

「可能ですね。大和さんの記憶を見た限りでは人類をどうこうしようとはしないでしょう。調ちゃんに刻まれた刻印を剥がしてフロンティアのゴーレムにでも移しましょう。その依代には調ちゃんの髪の毛数本を使います。」

 

助かると聞いた皆が喜び調も死の恐怖から解放されて目に涙を浮かべる。自分が消える恐怖とは月の欠片を砕き力を使い果たした時と以前の葛城 大和の死んだ時くらいでしか味わった事がない。ただ無念だった。

 

「それで神楠、その方法は調の奥に潜む彼女に会ってゴーレムへと誘導すればいいのか?」

 

「そうなりますね。誘導する場所は調ちゃんの髪の毛です。そして、私がフィーネの刻印を髪の毛数本に刻みゴーレムに設置して大和が融合させれば終わりです。その後はフィーネさんとのお話ですね。」

 

 

早速私達はフィーネを引き剥がす事を実行する。調をイスに座らせて目を瞑りリラックスしてもらう。私は目的の場所である調の頭に手を置き髪に触れる。隣では用意したゴーレムの傍らに神楠が立ちこちらを見守る。

 

「大和の手は温かくて落ち着く。フィーネの事をお願い。」

 

「任せろ、それでは行くぞ。」

 

調の中へと深く潜る。調の世界は殆どが白で塗り潰されている。奥へ進むにつれてマリア達との想い出に溢れている。更に深く潜ると海のような暗い場所に辿り着いた。その海の流れに身をまかせ漂う衣を纏った女性を見つける。顔を判別出来る距離まで近付くとあちらも気付いたようで目を開ける。

 

「こんな所まで来るなんて物好きな人ね、葛城 大和。私を始末しに来たのかしら?」

 

彼女からは狂気を感じない。ただそこに存在するだけだった。

 

「いや、ただ調と引き離して塗り潰させないだけだ。それに月の落下を阻止する事を手伝ってもらいたい。」

 

そう言われたフィーネはあまりの可笑しさに呆れながらも声を上げて笑う。

 

「可笑しなものだ。落とした張本人に何を頼んでいるのだお前は。ただ………あの時の私なら落下する事に大喜びしただろう。」

 

最期に見せたあの優しい表情へと変わる。

 

「だが、櫻井 了子へと転生してからあの子達………いいえ、櫻井 了子自身やお人好しの弦十郎君にもきっと変えられたのだ。そして、そんな変えられて弱くなった私を更に変えようと馬鹿な奴が手を差し伸べる。」

 

「月を腕っ節と気持ちで落とした奴が何を言う。お前こそが大馬鹿者だろう。」

 

「成る程、確かにそうだ。何故だろう、あれだけ恋い焦がれた悲願が成就しそうであるのに嬉しくないのだ。」

 

「ならばそれが今の本心なのだろう。」

 

「………そうか、もう私の永き恋は終わったのか。想い出として大切に仕舞われたのか。もう私には生き存える意味など………。」

 

そう言いつつ彼女の頬を止めどなく涙が流れる。

 

「お前は先のルナアタックでも多くの罪を犯した。そんなお前を信じ未来を託した立花達がいる。それすら反故にするのなら私はお前を許せない。………人が涙を流すのはいつだって誰かと繋がることを求めるからだ。今一度己の本心を見つめ直してみろ。そこに何が見える?」

 

涙を流す瞼を閉じて己を振り返る。長い沈黙の果てに静かに目を開く彼女の表情は晴れやかだった。

 

「参ったわね………貴方の所為で気付いてしまったじゃない。櫻井 了子に転生した事が運の尽きね。何がいい女はいい恋をしているだってのよ。結局攻略出来ずに秘めたまま死んで馬鹿みたい。」

 

一呼吸置いて大きな声で宣言する。

 

「亡霊は今滅んだ!私の罪は消える事は無く贖わなければならない。それでも櫻井 了子として最初で最後の恋へ挑む事だけはどうか許して欲しい!」

 

叫ぶ想いは世界に響き渡る。

 

「ならば手を取れ。現世に連れ出して未来永劫監視をしよう。彼女達との約束を違わぬように生きて罰を受けろ。」

 

差し伸べた手を取り海面から抜け出し立ち上がる。

 

「人と人とが分かり合えると伝え続ける事が贖い。何処かの場所、いつかの時代、何度だって伝えられる。これが罰だとは甘いものだ。それに付き合うお前は甘さが爆発しているぞ。」

 

「自覚はしているが最早改善の余地はない。決まったのならここから脱出する。待たせている者がいるからな。」

 

彼女の手を引いて目的地を目指し飛ぶ。それ程時間も掛からず到着し神楠へと呼びかける。

 

『目的は達した。次の行動に移ってくれ。』

 

『わかりました。それではじっとしていてくださいね。』

 

白の世界が一瞬で海の中に変わる。彼女が漂う海こそが刻印だったのか。

 

「それで私に具体的に何をして欲しいのだ?」

 

「二課とこちらの協力を取り付けるのを手伝って欲しい。お前ならば二課について明るいだろう?」

 

彼女は呆れ顔になり肩を竦める。

 

「お前は本当の馬鹿だ。裏切り者を橋渡し役にするなど何を考えている。だが、私の使命は人と人とが分かり合えると伝える事。ならば、見事繋げてみせよう。」

 

私の二課の知り合いは奏くらいなものだ。後は殴り合ったり助けたりと殆ど知らない。

 

『もうゴーレムに依代を設置し終えましたので融合をお願いします。』

 

どうやらこの世界ともお別れみたいだ。彼女に別れを告げて現世に戻り調から手を離してゴーレムに触れる。ゴーレム内部に設置された依代とゴーレムを繋げて融合させると赤く発光し先程見た彼女の姿に変わっていく。光が落ち着くと異国の装束のブロンドの腰まで届く髪にアメジストの瞳の女性が姿を現わす。

 

「どこか違和感はないか?」

 

身体を探るようにしばらく目を瞑り調べ終えたのか目を開ける。

 

「身体に問題は無いが………彼女達がお前の仲間か。やはりあのお菓子博士もいるのだな。」

 

本物のフィーネを目の当たりにし動けないマリア達だが、教授は臆する事なくフィーネへと声をかける。

 

「貴女がフィーネで間違い無いですか?」

 

「そうだった者だ。もう転生機能を失った亡霊の残りかすのようなものだがな。そこの大和と契約して協力する事になった。今までの悪行を無くしはしない。だが、人の強さを伝える為に人類に居なくなってもらっては困るのだ。」

 

「では、櫻井 了子と呼ばせてもらいます。私達の計画については知っていますか?」

 

「全てあの少女の中から聞いていた。世界を繋げ人類を救った結果、再び不和の象徴を蘇らせるなど皮肉なものだ。そんな人類だからこそ私が伝えないとな。」

 

そこへウェル博士も加わる。

 

「お久しぶりですね櫻井さん。あとお菓子博士ではなくウェル博士とお呼び下さい。また会えるとは思ってなかったですよ。色々あって大和さん達と行動しています。」

 

櫻井はウェル博士を見定めるように見詰める。

 

「随分と清く正しくなったな。あいつのおかげだろうがな。そして、そこの小さいのが鳥之石楠船神だな?」

 

小さいの言葉に少し涙を目に溜めながらも返事をする。

 

「そうですが今は神楠と名乗っています。本当はもっと大きいのです。それはともかく協力してくれるのですね?これからよろしくお願いします。」

 

握手を求めて伸ばされた手を中々握らないでいると悲しそうにする神楠に面倒になったのか少々乱暴に握る。破顔する神楠を直視しないように顔を背けて凌いでいた。

 

大人三名と神様で会話が進んで行く。私はマリア達へと向かい硬直している皆に声を掛けて起こす。

 

「これで調は調のまま過ごせる。彼女が世界を滅ぼすような事をしないと私が保証する。色々彼女に対して思うところもあるだろうが私が頼み協力してもらっている。だから協力して欲しい。」

 

レセプターチルドレンを主導したのは彼女である。苛酷な環境で管理されシンフォギアへの適合実験を施されるなど非人道的な日常を余儀無くされたのだ。そんな中だからこそ彼女達はお互いに支え合って生きてきた。セレナを亡くし精神的に辛く苦しんでいたマリアをあの海で初めて見た時に酷く脆く感じた。その元凶を仲間だと受け入れる事は難しいだろう。

 

「私は彼女を許せない。だけれども切歌や調に出会えた事には感謝してあげる。」

 

眉間にしわを寄せながらマリアは怒りを隠さずに言い放つ。

 

「あたしや調は物心つく前に連れてこられて普通がよく分からないデスが痛い事やセレナの事は許せないデス!でも今はこうしてあたしは幸せを感じてるデスから過去についてとやかくは言わないデス!」

 

「私もみんなが幸せならいい。でも、みんなを傷付けるなら容赦はしない。」

 

そんな中でも一番の被害者のセレナは黙って皆の言葉に耳を傾けていた。そして、皆がセレナに注目して待つ。

 

「そうだね、過去に囚われて憎しみで生きても辛く苦しいだけだもの。大切なのはこれからも笑って暮らせるように行動する事だと思う。そうだよね、マリア姉さん?」

 

マリアは大きく溜息を吐き肩の力を抜く。

 

「………分かってる。当の本人がいいと言っているのだからもういいわ。これからの彼女を見て判断する。これでいいかしらセレナ?」

 

セレナは笑みを浮かべて頷く。そんなマリアも少し口角が上がっていた。どうやらいきなり拒絶されることは無さそうだ。櫻井の高慢な態度が原因で揉め事が起きなければいいのだが。監視すると言った手前目を離せない。

 

こちらは櫻井に接する態度が纏まったがあちらはどうなのだろうかと見る。いつの間にか聖遺物について話し込んでいた。どうやらあちらは問題無さそうだ。

 

 

こうして武装組織フィーネに元フィーネの櫻井が加入したのだった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

フィーネではない了子だ。愛に生きた彼女なら新たな愛に向かって走れると思った次第です。次回はフロンティアが完全稼動の予定です。

次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。