蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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シンフォギアGX最終回とても良かったです。

今回は櫻井女史とフロンティア完全稼動のお話です。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


蘇る新天地と彼女と

櫻井が加入して数日経った。

 

その数日の内に彼女も色々と変わりつつあった。先ずはあの開放的な恰好がマリア達によって変えられ以前の白衣姿に落ち着いた。以前とは違い眼鏡は無く髪は自然に垂らしたままである。当人は不服を漏らすも渋々要求をのんだようだ。

 

 

装者組の中でも特にセレナは櫻井に関わろうと暇を見つけてはコミュニケーションの機を狙っている。

 

「私、早く了子さんと仲良くなりたいです!」

 

私もだが不和を嫌うセレナらしい一面だ。そんな櫻井にご執心の妹に、マリアが悔しそうで寂しそうなのは火を見るより明らかだった。だからと言って神楠が堪らず私の下へ逃げ出す程に構うのは如何なものだろうか。

 

セレナがそのような調子だからか調と切歌も徐々に櫻井の近くに居るのを見かける。

 

「色々な事を教えてくれる。だから、嫌いじゃない。」

 

「難しい事はよく分からないデスけど、調が楽しそうデスからあたしも楽しいデス!」

 

そんな調達を相変わらずマリアは遠目に見ていた。そんなマリアも昨日からセレナに付き添うようにして櫻井と接触している。数回程二人は何か言葉を交わすと少しばかり認め合ったのだろうか、セレナが居なくとも話す仲になっていた。

 

 

一方の大人組は三人でよく話し合っていた。ウェル博士と意気投合してLiNKERや聖遺物との融合について、教授とは聖遺物の事について語り合っていた。昨夜にそんな彼女から話したい事があると呼び出された。月明かりの下、ヘリ近くのイスにテーブルを挟み向かい合い座る。

 

「お前………いえ、大和君には奏ちゃんの事について話しておかなきゃと思ってね。」

 

櫻井は私達を夜空から見下す欠けた月を神妙な面持ちで見上げた。

 

 

5年程前、皆神山の発掘チームをノイズに襲撃させてその混乱に乗じて神獣鏡を手に入れる事に成功した。これは月を落とした後、解放された人類を束ねる為の新天地の獲得に必要だった。その新天地こそがフロンティアであった。

 

皆神山の発掘チームは壊滅するが唯一の生き残りが二課に保護される。それが後にガングニール装者となる奏だった。力を寄越せと喚く奏を見て程の良い実験体にしようと二課に引き込む。これには政府上層部へと聖遺物の有用性を示し、より多くの予算を引っ張る目的があった。何より後の計画に必要な人体と聖遺物の研究にもなる。そして、LiNKERを精製し奏に投与する。痛みに悶え苦しむ少女の悲鳴が研究室に響いた。

 

そんな事を繰り返したある日、ついに狂ったのか奏は自ら手当たり次第にLiNKERを投与する。その結果、夥しい量の血液を吐きながら倒れ伏す。その姿に誰もが少女は死んだと諦めた。その時、少女は幽鬼のように壁を這い立ち上がると聖詠を紡ぎガングニールに適合したのである。

 

それから奏は翼と共に成長しツヴァイウィングとして活動も始めた。正規適合者と違いLiNKER頼りの奏はバックファイアに悩まされた。LiNKERの改良を進める中で遂にネフシュタンの鎧を起動させ奪う機会が訪れた。

 

以前から裏でフィーネとして米国と通じてイチイバルや少し前に装者候補の雪音を誘拐していたのだ。そして、フィーネ側からはガングニールの欠片やLiNKERなども向こうへと流し、米国からはソロモンの杖を借り受けた。レセプターチルドレンを集めさせ保険を用意したがそれらの中に聖遺物との適合者が現れたのは嬉しい誤算だった。

 

ライブ当日に向けてLiNKERの投与を奏は控える事となる。LiNKERにはどうしても強い肉体的負荷を伴う。最高のパフォーマンスをする為には邪魔だったのだ。当時、ツヴァイウィングの名は日本中に轟き起動実験を兼ねたライブも超満員だった。観客とツヴァイウィングにより起動実験は成功するが装置の設定に細工をして過剰にエネルギーを供給するようにしていた。そして、暴走するタイミングにて会場にノイズを召喚し両方を混乱に巻き込む。混乱に乗じてネフシュタンの鎧の強奪に成功した。

 

 

「カ・ディンギルの下で再開した時に暴露して怒らせたの。すると、響ちゃん同様に黒く染まり暴走を始めたのだけれど、不思議なことに理性がちゃんと残っていたの。私は身体を貫かれ大剣で斬り刻まれ殴られ吹き飛ばされちゃったけどね。」

 

元々戦闘時には苛烈になる奏であるが、暴走とするにはあまりにも理性的に動けていたらしい。そして、徐々に黒が消え去り元に戻った頃に私達が合流したそうだ。

 

そこでふと自身に違和感を感じた。櫻井の話を冷静に聞けている自身に頭では異常を理解出来ても怒りなどの感情が湧かない。神に近付いた事による影響で死生観が変質したのだろうか。その思考は櫻井の声に中断させられた。

 

「私の所為で人生を狂わされた筈のセレナちゃん達の姿勢が、醜悪だった私に諦めず手を差し伸べてくれた響ちゃんと被るの。本当に………放って置けない子。」

 

「放って置けないとはどういう意味だ?」

 

櫻井は慈しむ様な表情を真面目な顔に変えると、ここ数日の間に何をしていたのかを話し始める。

 

「私の予想が正しければそう遠くない時期に胸のガングニールに殺される。ウェルや教授、それに神楠ちゃんともその事について話し合ってみたの。」

 

装者の中でもイレギュラーの融合症例である立花はギアを纏う度に聖遺物との融合を促進させているらしい。そして、纏う以上に危険なのが暴走状態だ。ならば、奏との違いは何だろうか。

 

「奏ちゃんへの負担を大和君もある程度肩代わりしていた。そして、繋がりを持つアイギスが負の感情である破壊衝動を浄化して純粋な戦闘力に変えていたと考えられるの。響ちゃんは一人で耐えなきゃいけないから暴走してしまうわけね。」

 

「では融合の問題を解決しなければ立花は………。」

 

「そこで、ネフシュタンと身体を融合させた後の私のプランを使う事にしたの。」

 

その方法とはエアキャリアに搭載されてステルス機能を発揮している聖遺物神獣鏡(シェンショウジン)の魔を祓う特性を利用するのである。鏡の聖遺物である神獣鏡の力を十分に引き出せば聖遺物由来の物を分解し消滅させる光を発せられる。その光を機器に組み込み融合組織へと外部から照射し消滅させるのだ。

 

「本来はこの方法で進行を遅らせてゆっくりと研究するつもりだったんだけどね。でも、響ちゃんがギアを喪失すれば当然計画の最終段階に移れなくなるの。」

 

融合症例であるが故に三人分の絶唱に耐えられるのである。それ以前に立花はガングニールとの融合が無くなれば聖遺物に適合しない限り二度と装者には戻れない。非日常を身をもって経験し過ぎた立花は今更に日常へと戻れるのだろうか。

 

「つまり、立花には融合状態のままの命懸けで計画に挑んでもらわなければならないと?」

 

「………そうなるわ。全人類のフォニックゲインを束ねて五体満足で生きられる可能性は今のところはっきりとは判らない。それがたとえギアの限定解除であるXDモードだとしてもね。ただ、百パーセント安全ではない事は確実。でもそれを百パーセントに近付けるのが私達バックアップ組の仕事よね!」

 

櫻井は任せろと笑顔で片目を閉じてウィンクをしてみせ、安心しなさいと言う。

 

「それに奏ちゃんと大和君の負担を肩代わりする事と、聖遺物の活性化による破壊衝動を抑えた現象が響ちゃんとも可能になればきっと大丈夫!」

 

つまりは立花の肩代わりした極大な負荷を私が幾分か肩代わりする。更にアイギスの効果を発揮し立花のガングニールの破壊衝動を抑制すれば融合の進行を遅らせられる。月を公転軌道へと戻した後、立花のガングニールを身体から祓い取るという事である。

 

「立花か………。思えば一方的だが二年程様子を見てきたが、まさか彼女が命を懸けて戦うなど未来とはままならないものだ。立花の事を任せたぞ、櫻井。」

 

「任されたわよ。私はこの後も研究があるからこの辺で! それじゃ、おやすみなさいね。」

 

櫻井はフロンティアの大地へと沈み消える。フロンティアの端末である櫻井に船内で行けない場所は無い。私や神楠に次いでフロンティアへの高い権限を与えてあるからでもある。眠らなくてもいい身体を得た櫻井は嬉々として聖遺物の研究を行っている。ウェル博士もそれに付き合ってか目の下に隈ができていた。

 

しばらく夜空の月を見上げた後に最後となる聖遺物達との就寝へと向かうのだった。

 

 

翌日の朝に目覚めた私は動物園で観た成体のゾウと見違うまで大きく育ち皮膚は白くなり溶岩のような線が走るネフィリムの檻の前に立っていた。常に飢餓衝動に従う自律型聖遺物であるネフィリムは餌の時間だと騒ぐ。私は大人しくさせる為にエネルギーを供給すると赤い葉脈のような物が強く明滅している。これはエネルギーを増幅させている時の反応である。このネフィリムとも今日が最後であり何故だか少し寂しい気がした。

 

餌を与えた後に私はヘリに向かい集合して皆で朝食を済ませると、皆でフロンティアの心臓部へと向かった。

 

「いよいよデスね。フロンティアが稼働してくれればヘリ生活ともおさらばデス!」

 

「昨日にお部屋のお掃除も済ませたから、お日様にお布団をふかふかにしてもらわなきゃ。」

 

先頭を歩く切歌と調はこれからの生活に期待を膨らませていた。私も聖遺物に囲まれる中での寝袋生活とはさよならだ。そんな二人の後ろをセレナとマリアは歩いている。

 

「それにしてもあの巨体をどうフロンティアに組み込むのか気になる。大方は大和が繋げるのだろうがな。」

 

「了子さんにドクター、マムに神楠ちゃんとスペシャリストが勢揃いですから何事もなく終われそうで私は安心です。………いざとなれば私がまた抑えますので大丈夫です。」

 

セレナはネフィリムの暴走を命懸けで抑えて死んだ過去を持つ。数日前に再開した訓練の後に聞いた話ではネフィリムは大きさは同じくらいであり、真っ白であったそうだ。類稀な装者の絶唱であり、エネルギーベクトル操作によってネフィリムは基底に戻った。だが、幼い身体は負荷に耐えられず血を流し、崩れる実験場の瓦礫と炎により命を落とした。しかし、今のセレナならば私が負荷を肩代わりし、身体も聖遺物との適合率が高い事から生命の危険はないだろう。

 

『私達がそんな事はさせはしない。だから安心しろ。』

 

私達は誰の犠牲も望んでなどいない。セレナや立花のように誰かへと手を差し伸べる者には自己犠牲の気がある。

 

「またセレナはそうして一人で抱えようとする。でもね、妹を甘えさせれない姉のままではいたくない。だから少しずつでいいから私に甘えなさい。そして、自分を大切にしなさい。」

 

「………そうだったね姉さん。残された人達の悲しみを見てきたから分かってる。もう、みんなを残して私は居なくなったりしないから。」

 

『大和も頼りにしていますから、少しずつ甘えさせて下さいね?』

 

こちらを振り返ったセレナへとアイコンタクトをとり意思を伝えると微笑みを返してくれた。この先に少しでも事態が落ち着いたなら、セレナ達の望みを叶えてあげたい。失った子供時代を少しでも取り戻せるものなら何とかしてあげたい。

 

「そんな悲しそうな顔をしてどうかしたのですか?」

 

私の隣を歩く神楠の目に少しかかる切り揃った黒髪から黒い瞳がこちらを心配そうに覗いていた。何でもないと笑ってみせたが納得出来ないらしい。

 

「………この先、マリア達が幸せな日常を歩めるのか不安になってな。特にマリアは観客の前で歌え無くなるのだと思うと………。」

 

「そういう事でしたか。マリア達の事なら私達大人に任せて下さい。他の三人とも考えている最中なのですが、櫻井さんが任せてとウィンクしていたので何やら策があるそうです。」

 

私達の中でもそういった駆け引きが出来るのは櫻井くらいだろう。そういえば櫻井の日本での扱いはどうなっているのだろうか。死亡よりも行方不明にされていそうではある。私達の少し後ろを歩く三人を見ると何かを真剣に話しているようであった。

 

 

私達が大きな扉の前に到着すると神楠は扉の近くに寄る。すると扉は存在を消失させ、その奥には大きな空洞が存在し底は暗くて見えない。その中央には表面にラインの走る巨大な球体が鎮座していた。そこへと伸びる空洞に対して細い道を皆で進み球体の周囲の広い足場まで到達する。

 

「それでは大和はネフィリムを召喚してこの球体へと繋げてください。私は船内へと戻り内側から船の機能の復旧作業に取り掛かります。」

 

神楠が光となり内部へと消えたのを見届けた私はネフィリムをこの場へと喚ぶ。檻に入れられたネフィリムが現れ、私はモードアイギスとなりネフィリムを鎖で拘束し侵蝕されぬように魔を祓う力で鈍らせる。大人しくなったネフィリムを拘束する鎖から更に鎖を延ばして巨大な球体と幾つも繋げる。すると次の瞬間には空間が大きく震えて部屋全体が脈打ち始めるとネフィリムが徐々に球体へと吸収されて球体のラインが強く輝きを放つ。

 

「遂に動き始めます。これが完全聖遺物の起動ですか………なんと強大なエネルギーでしょうか。」

 

皆が膨大なエネルギーに気圧される中でも教授は貴重な事を見逃すまいと光を睨みつけていた。光と震えが増幅されるに連れて私の奥底から力が溢れてくる。今までは私のエネルギーを消費していたものが、私に使い切れぬ程のエネルギーを供給するのである。ほんの10分程度の出来事であったが長く感じた。そして、光は徐々に落ち着き私達の前に光が集合し大人の神楠が現れた。

 

「お待たせしました。たった今、鳥之石楠船神は完全に稼動しました。これより海上から離脱し航空巡航へと移行させますので揺れに注意してください。」

 

皆で近くに寄り合い備えていると幾つかの地鳴りが聞こえてくる。神楠によると海底へと打ち込んでいたアンカーを切り離した衝撃らしい。そして、一際大きな地鳴りが起こり私達は浮遊感にみまわれるも耐え凌ぐと静かになる。

 

「終わったデス?本当にでっかいお船が空を飛んでいるデスか?」

 

「皆さん気になるでしょうし実際にその目で確かめてみますか?」

 

稼動した船内を見る為に歩いてヘリを目指す。通路は明るくなり歩き易く、来た時よりも短い時間で空の下へと出られた。荒野だった大地には草木が生え、湧泉が出来て動植物の暮らせる環境へと変貌していた。

 

「とてもつい最近まで海の底にあった場所だとは思えない。それに湧き出るこれは………冷たい。セレナも触ってみるか?」

 

装者四人は澄み切った湧き水に触れてその冷たさに驚いていた。一方の教授達は急に生えてきた草木を観察している。隣の神楠に未だ低いが木だとわかる植物は何だと尋ねるとクスノキとの事だった。神楠の名前の由来となった物だと知ると成長が楽しみに思えた。

 

少し道草を食ってしまったが私達はヘリに到着した。そして、少し先の崖から下を覗くと確かに海面が遠くに見えた。この高度だと航空機との衝突が心配であるがオートで回避するらしい。フロンティアを包む障壁によりレーダーなどに捕捉される事は無いのだ。無関係な航空機が偶然衝突する事故の心配は無くてよかった。

 

私と神楠以外はヘリへと搭乗し終えた。ヘリを新しく造った格納スペースへと移動させる為だ。何故神楠と残るのかというと、それは神楠が希望したからである。二人きりで話したい事があるらしく、船内の案内は櫻井に任せた。

 

 

ヘリがフロンティア内陸方向へと飛び去る。少し緑化した野でお互いに手を伸ばせば届く距離に立つ。話しというのは枷を外す事だろう。

 

「その………枷自体は簡単に外せるのですが、方法がその………。」

 

神楠は耳まで赤くし顔を俯かせて口ごもる。そんなにも恥ずかしい方法を取らないといけないのだろうか。私が誰かの内部へと干渉する際は身体的接触を必要とする事からそういった行為に抵抗感があるのかもしれない。

 

「同性同士ではなく、異性同士では抵抗を感じるのだろう?それ以外の方法はないのか?」

 

赤くした顔を縦へと勢いよく振りゆっくりとこちらの顔を前髪の隙間から見上げている。どうやら意を決したようで一歩、また一歩とゆっくりと近寄って来る。少し手を伸ばせば頭に手を置ける距離で神楠は私の目を見詰めてくる。

 

「………恥ずかしいので目を瞑ってください。」

 

言われるがままに目を閉じ枷を外すのを待つ。すると、ゆっくりと胸に軽くやわらかな衝撃が来て背中にあたたかさを感じる。爽やかな香りと自分以外の鼓動を身近に感じ、全身があたたかな温もりに包まれるかのようで心地良い。そして、身体の奥底にあるリミッターを解かれたのだろう。力が全身を駆け巡り身体の隅々まで不思議な高揚感に充ちている。そして、ゆっくりと温もりが身体から離れていく。

 

「………以上で終了です。現在皆さんは居住区画ですので向かいましょうか。」

 

足早に去ろうと沈み始める神楠を追いかけて私も居住区画へと跳躍するのであった。

 

居住区画では各々が私物を自室に運び、部屋を好みに飾っているところだった。マリアはセレナと、切歌は調と同じ部屋に住むらしい。飾るといっても私物の少ないマリア達の為に好みの家具などを揃えてあげたいものだ。

 

「それでは神楠はどこに住むんだ?」

 

腕が触れ合いそうな距離で歩くキツネの面を被っている神楠に尋ねる。顔を見られたくないと両手で覆い隠しながら歩くので面を貸したのだ。

 

「………大和のお側に。一人は寂しいのです。」

 

消え入るような声で呟くように言ったその時、神楠の背後から腕が伸びて持ち上げられている。

 

「私も丁度同居人を探していたのよ!一緒に住みましょうね、神楠ちゃん?」

 

背後から現れた櫻井に神楠はされるがままに連れ去られていく。ふとこちらを振り返る櫻井は少しいたずらな笑みを浮かべている。

 

「愛に生きるこの私が神楠ちゃんを素敵な女性にしてみせるわ!それじゃ〜ね大和君!」

 

残された私は自室を選び室内の簡単な確認を終える。何かが物足りなく、頭に浮かぶのは畳の温もりであった。まさか畳が恋しくなるとは………い草のクッションでも買いに行こうか。

 

その後、各々の部屋を訪ねて居住区画に幾つかある休憩所へと集めた。大人達と一緒にいた神楠はまだキツネの面を被ったままであった。

 

「フロンティアも稼働し、残すは二課との協力を取り付けるだけだ。そこで二課に直接メッセージを送りたいのだが………櫻井、任せられるか?」

 

「私に任せなさい!何たって二課の技術面を造ったのは私よ。その程度は朝飯前なんだから。」

 

櫻井に二課へと送るメッセージを託した。早速送ろうと櫻井はフロンティア内部のどこかのコンソールへと向かったようだ。

 

「ようやく防人と本気で戦える。偽らない私の想いと彼女の想いのどちらが強いのか決着させる!」

 

「私は彼女を確かめたい。その為にも全身全霊で伐り刻むの。」

 

「あたしもみんなの居る世界を守るんデス!だから、分からず屋には思いっ切りぶつけるデスよ!」

 

マリア達は再戦に熱く燃えているが、セレナは心配そうにマリア達を見ている。そんなセレナを見ていると目が合う。

 

『やっぱり姉さん達が傷付くのは心が痛いです。もう少し穏便に済まないのですか?』

 

『時には想いをぶつけてみなければ分かり合えない事もある。出来れば穏便に済ませたいのには同意するがな。』

 

装者達が明日の戦いに意気込む中で教授とウェル博士は皆の前に出る。その表情は真剣であり、皆が二人に注目する。

 

「マリア達には今まで苦労をかけました。………常々に私は優しいあなた達を過酷な事へと巻き込んでしまった事を申し訳なく思っていました。」

 

車椅子に座りながら最大限に頭を下げる。落ちないようにウェル博士はサポートしている。マリア達が何か喋る前に教授は顔を上げると再び四名を見回す。

 

「傷つく事を恐れないで。世界を敵に回すと決めたあの日、狼狽えるあなた達へと贈った言葉でした。優しいあなた達を穢れた道へと進ませる為の言葉でした。ですが今は違います。傷つく事を恐れないで、胸の想いを伝えなさい。傷つく事を恐れては、分かり合うことは出来ないのですから。」

 

マリア達はその言葉に目を逸らさずに確りと心に受け止めている。暫しの間、皆は沈黙していたがマリアが口を開く。

 

「しかと受け取ったわマム。偽らない私で彼女達と向き合う。そして、必ず分かり合ってみせる!」

 

調と切歌も同調して拳を掲げて更に意気込んでいる。

 

「真の強さとは傷つく事を恐れずに向き合う勇気なのですね。私も本当の気持ちで戦います!」

 

セレナも拳を掲げて装者四人が一つとなる。私はそれを見ている教授達に近付くと二人はこちらを振り返る。

 

「決闘場所にカ・ディンギル跡にと言われた通りにしたがその訳は?」

 

「その事ですが、あそこは人が住めなくなる程の高エネルギーで汚染されています。そのエネルギーを神楠さんに回収していただきます。」

 

ウェル博士が神楠に視線を向けると神楠はキツネの面を外して目を閉じる。すると、神楠の表皮へネフィリムと同じ赤いラインが流れる。開かれた両眼の瞳は赤く染まるが、ラインは赤く明滅していなかった。

 

「ネフィリムを取り込み新たな身体としました。大和の鎖よりも広範囲かつ強力に吸収出来ます。エネルギー汚染が解消されれば動植物の住める場所に戻る筈です。」

 

フロンティアで戦い、万が一にも墜とされる訳にはいかない。ならば、周囲の被害もなく戦えるひらけた場所はカ・ディンギル跡という訳だ。

 

「私達は戦闘は出来ません。ですので大和さん、あの子達の事をよろしく頼みましたよ。」

 

「こちらこそ教授達を頼りにしている。マリア達の事は任せておけ。」

 

教授は満足気に頷きウェル博士も同様であった。そして神楠は目を合わせるのを避けるが私の隣に寄り添うように立つ。

 

そして、櫻井が戻り揃った私達はフロンティアを操縦してカ・ディンギル跡へ向けて進ませるのであった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

久々に過去の物を見返しながら書いていますがどこか違っていないか不安です。
次回は二課vsF.I.S.になる予定です。

次回もよろしくお願いします。
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