蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

34 / 50
少しずつ書き進めているはるひよるです。

今回は戦闘回にする筈がいつの間にかこんな事になるなんて………。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


想いと歌と

時刻は午前0時、夜空には叢雲とその奥から月が覗く。月明かりに照らされる彼女達と男二人を私達は上空のフロンティアから姿を捉えていた。崩れた塔の下へと向かうのは私と装者四名、そして神楠の六人だ。ギアを纏う彼女達と巫女姿の神楠とともに降りる為にモード鳥之石楠船神となる。これから向かう戦場に偽る仮面は要らないと顔を晒す。私達を見送る為に並ぶ教授とウェル博士。櫻井の姿が見えないが、それは彼女にカ・ディンギルでの戦闘の余波が周囲に及ばないように結界で閉じてもらう為である。そして、彼女達装者を外部から観測出来なくする為でもある。

 

「向こうも結界に気付いたようだ。もうすぐ予定時刻となる。………皆、準備はいいか?」

 

皆を見回すと全員が頷き、その目は力強く輝いて見えた。

 

「皆さん、僕達は応援しか出来ませんが彼女達へと想いを全力でぶつけてください。そうすればきっと僕達は分かり合える筈ですから。」

 

「その為には傷つく事を恐れないで、相手へと胸の想いを届けなさい。私達からは以上です。それではいってらっしゃい。」

 

皆は瞳を閉じて胸の想いを再度確認する。すると、櫻井が私達の目の前に現れる。どうやらひと段落ついたようだ。

 

「間に合ったわね!私からはただ一言だけ………その胸の歌を信じなさい。それじゃ、いってらっしゃい!」

 

そう言い終えると私の方を向いて念話をしてきた。

 

『もしかしなくとも途中から参加しちゃうけどいいわよね?』

 

『構わないが、一緒に行かないのか?』

 

櫻井はバツが悪そうに困った表情になる。

 

『少しだけ心の準備の時間が欲しいの………。それに弦十郎君達を驚かせられそうじゃない?』

 

彼女は二課との繋がりが深い。だから色々と心の準備が必要なのだろう。おちゃらけた雰囲気の櫻井も実のところは純情な女性である。これからも少しずつマリア達との交流を深めればきっといい方向へと変われるだろう。

 

『では、櫻井のタイミングで来るといい。』

 

私達は教授達に向き直り行ってきますと告げる。教授達に見送られる中、皆で手を繋ぎカ・ディンギル跡へと跳躍した。

 

 

立花達の十数メートル先に跳躍した私達に彼女達も気付く。先のルナアタックにより荒野となったここは薄く雲が掛かった月明かりだけでも十分に顔の判別が出来る。しかし、久しぶりの奏の顔は俯き長い髪に隠れて窺い知ることはできない。

 

「二課にハッキングを仕掛けてメッセージだけ残して去るとは随分と舐められたものだ。さらにその送り主がフィーネを名乗っているとは、流石の俺も少々怒りの感情が込み上げているぞ!」

 

彼女達もフィーネに対しては色々と思うところがあるのだろう。崩れ去る櫻井を複雑に感情が入り乱れた暗い表情で見ていた事からもそうだろう。

 

「F.I.S.とはフィーネにより発足した聖遺物研究機関だ。そして、マリア達はレセプターチルドレンとして集められた次代のフィーネの器であった。私達がフィーネと名乗るのには十分だろう?」

 

マリア達がフィーネの器と知らなかったようで彼女達は驚いている。風鳴は今にも抜刀し斬り掛かって来てもおかしくない剣幕で叫ぶ。

 

「ならばお前たちの目的は何だ?亡霊の意志を継ぐ者ならば世界の救済など矛盾している!」

 

「………確かに過去の亡霊ならば矛盾している。だが、立花達に未来を託された彼女ならば何も矛盾はしない。我々フィーネは月の落下を阻止する為に立花達の協力を得に来た。」

 

緒川は私の言葉の意味を捉えたようだ。

 

「まるであなた達は転生した彼女の事を知っているような口振りですね。………本当に彼女があなた方の背後に存在するのでしょうか?」

 

すると今まで静かであった奏がゆっくりと顔を上げて私を鋭い視線で射抜く。私は一歩ずつ前へと出る。

 

「少しだけマリア達はそのままでいてくれ。」

 

マリア達と立花達の中間まで進み、奏と目を合わせお互いに決して逸らさない。私は奏を裏切った負い目から中々声を出せずにいた。肝心な時に私は何をしているのだろう。奏も一歩ずつこちらへと向かって来る。

 

「………大和………。」

 

どのような感情が込められているのかわからない。しかし、久しぶりの奏からの呼び掛けに嬉しくなる。もう少しで手の届きそうな距離で向かい合う。

 

「………奏、すまなかった。」

 

私は何とか謝罪の言葉を絞り出せたが、奏は拳を握り締めて再び俯き肩を震わせていた。そして一歩、また一歩と近付き握り締めた震える拳を振り上げる。私はただそれを受け入れようと何もせずに待つ。しかし、拳は振り下ろされる事なく解かれて、私を確かめるように手に触れられる。

 

「………何故だろうな。大和と再会できた喜びに怒りが吹っ飛ん仕舞いやがった。それに大和があたしの為に無理をした結果だって分かってる。だからさ………謝らないでくれよな?」

 

奏の手と同様に私の心はあたたかなもので満たされていく。

 

「………ありがとう、奏。」

 

自然とそう声が出た。

 

「おう!………でも、ずっとあたしは大和の帰りを待ってたんだ。なら他にも言うべきことがあるだろ?」

 

長い間待たせてしまったが、ようやく私は家族である奏の下へと帰ったのだ。ならば言うべき言葉は一つだろう。

 

「ただいま、奏。」

 

「おかえり、大和!」

 

互いに微笑み合い私の心のわだかまりも解消されていた。

 

しばらくの間、そうしていると上空から彼女が飛び降りて来た。

 

「みなさんお久しぶり!武装組織フィーネの裏ボス担当であり、櫻井理論の提唱者でもある天才考古学者の櫻井 了子よ!」

 

櫻井は重力制御により地上へと軽やかに私の側へと降り立つ。身に纏う鎧は緋色を基調としている。それはかつて融合し身に纏ったネフシュタンの鎧を彷彿とさせるフォルムをしていた。

 

二課の面々は先程から驚愕の連続なのだろう。突如現れた元凶とも言うべき彼女の復活に状況を飲み込めずにいた。

 

「まだ………お前はッ!!」

 

しかし、奏だけは憎むべき敵を目の当たりにし、怒りを露わにして徐々に身体を黒く染め上げる。髪は逆立ち蛇のようにうねり、手足の先は鋭く尖り、黒く塗りつぶされた顔の瞳は真っ赤に染まる。

 

「自分を見失うな、奏!」

 

立花達もこの事態に急いで奏へと駆け出す。

 

「しっかりしやがれ奏!もう次から次へと忙しねぇぞ全く!」

 

私は唸りを上げる奏を羽交い締めにして目を閉じると繋がりを再構築する。奏の精神から負の感情が私を氾濫した川のように飲み込もうする。その時、邪悪を察知したアイギスが濁流を輝きながら防ぎ止めていると、徐々に黒く濁ったエネルギーが白く浄化されていく。

 

『もう少し耐えてください。私もお手伝いします。』

 

神楠の気配が私の中へ現れると、荒れ狂う流れへと降り立ち急速にエネルギーを吸収し始める。装束の上からでも判る程に全身を巡るラインが赤く輝いている。少し余裕の出た私は片目を開き外の様子を窺う。すると、二課の中でも一早く駆けつけた風鳴の剣と櫻井の張った赤い障壁が激突していた。

 

「奏を如何するつもりだ、櫻井女史!」

 

「別に奏ちゃんを傷付けたりしないから安心なさい。今は暴走状態を抑え込んでいるところよ………っと、もう終わりそうね。」

 

羽交い締めにしている奏は元の朱く柔らかな髪へと戻り気を失っていた。奏の心臓部分へと神楠は手を当てていた。依代となる天叢雲剣の欠片はイメージとしては心臓部に存在するのだ。私は奏を優しく腕に抱きかかえ目を覚ますのを待つ。

 

「そのうちに起きるだろう。バイタルサインも問題無い筈だ。だから安心するといい、風鳴。」

 

風鳴は奏の安らいだ無防備な顔を見て納刀する。いつの間にか私と奏をマリア達と立花達が囲んでいた。その中でも大人である司令と緒川が出てくる。

 

「奏さんを救っていただきありがとうございます。ですが、どうして彼女が蘇っているのですか?」

 

「レセプターチルドレンである調の内部に潜んでいたところを引き剥がしてゴーレムに融合させたのだ。」

 

その場の皆が櫻井へと注目する。櫻井は少し俯きながらも口を開く。

 

「………響ちゃんに託された後、私は調ちゃんへと転生したの。そして、目醒めたのだけれども調ちゃんを塗りつぶす事は出来ないじゃない?だからずーっと表に出ないようにしてたのに大和君が引っぺがしに来たのよ。そこで、私は彼と契約を交わして今の状態になったの。」

 

「今更あんたが蘇っていいひと気取りかよ!あたしは今、最高にムカついてんだ!」

 

雪音は櫻井を睨んでいるが、当の本人はそれを受け止めている。

 

「そうね。今更長い間悪者だった私がと、そう思ってる。………クリス、あなたは人を信じなさい。仲間を信じなさい。何よりも自分の事を信じ、そして赦しなさい。そうすれば夢を叶えられる筈。」

 

櫻井は雪音の目を真っ直ぐに見詰めながら優しく微笑む。

 

「何で今更………そんな事を言うんだよ!お前の事に整理がつきかけていたのに!」

 

雪音は涙を堪え切れずに泣いている。それを櫻井はただ黙って見ている。それは雪音にはもう支えてくれる大切な仲間がいるからだろう。立花と風鳴が雪音の側で支えていた。

 

「久しぶり………でいいんだな了子君。何故、君達がこのような事をしたのか、その理由を教えてくれ。」

 

「そうね。先ず第一に月の落下の阻止の為に響ちゃん達の協力が必要だから。次にお互いの連繋が必要だから一度本気でぶつかり合えばいいじゃないのという事。最後に最も重要なのだけれど、響ちゃんの命を守る為よ。」

 

司令も心当たりがあるようで先程よりも真剣な顔つきになる。少し離れたところで雪音を慰める立花達を横目に懐から黒いチップを取り出し司令へと差し出す。

 

「これは響ちゃんの融合進度の予測と私達のフロンティア計画そのものが詰まってあるわ。今日はもう戦えないでしょうからまた呼び出すまでに協力するかしないかの返事を考えておいてちょうだいね。それじゃあね!」

 

櫻井はチップを司令へと押し付けてフロンティアへと帰った。私はセレナへと念話で今日は解散だと告げ、神楠とともにマリア達をフロンティアへと帰還させた。残った私は抱えた奏を見てみると、どうやら既に起きていたらしい。

 

「………変わったな、了子さん。自分勝手だったのにクリスにまともな事を言うなんてな。あたしは皆神山の事件から依然として変われていない。そりゃまあ、多少は憎しみ以外でも戦ってきたけどさ。一人生き残ったあたしがこの憎しみを忘れたら死んだ家族を忘れてしまうみたいで怖いんだ。」

 

遠くの月を眺めながら弱気な表情を浮かべている。皆に力と安心感を与えてくれる顔が奏には似合う。私も奏と同じ方を向く。月とは不和や死の象徴であるという。奏が死んだ家族を想い、いつまでも縛られている事を奏の家族は望んではいないだろう。

 

「勝手に居なくなった私が言えた義理ではないが、私は奏の事を家族のように想っている。もしも私が奏の家族で死亡したとする。少なくとも私は奏がその復讐や憎しみなどの悲しい感情で生きる事を望みはしないな。ただ忘れずに憶えてくれていればいい。そして奏には幸せになって欲しいと、そう願うだろう。」

 

「………私もさ、そう願うと思う。大和はあたしが死んじまったら悲しんで、そして怒ってくれるのか?」

 

視線を月から私へと変えて言葉を待っている。揺れる瞳は容姿よりもどこか幼く感じさせた。

 

「勿論だ。家族のように想っていると言っただろう?………取り敢えずもう降ろしてもいいか?」

 

「ん?ああ、つい心地が良かったから忘れてた。それじゃ………よっと!」

 

腕に抱く奏を降ろすと大きく伸びをしていた。その時に見えた横顔に曇り無く、私は奏と同様に口元が緩んでいた。

 

何かを二人で話しあう司令と緒川や雪音を慰める立花や風鳴を横目に見て、私は奏へとまた今度と告げる。奏もまた今度と返してくれた。そうして私はフロンティアへと帰還するのだった。

 

 

帰還したフロンティアの大地ではマリア達が持て余した熱を発散する為に四人で模擬戦闘を行っていた。戦況はセレナが有利に進んでいるようで、マリアと調と切歌の三人掛かりで圧倒的な防御力を誇るセレナへと挑んでいた。

 

櫻井の一件で中断していたセレナの特訓では至近距離での戦闘を挑む相手に対しての立ち回りを鍛えただけであった。しかし現在はフロンティアのエネルギーは常に爆発的に増加しており、聖遺物の力を存分に発揮させられるのである。とはいうもののフロンティアへとダメージが及ばない程度に出力は抑えてある。私は戦いを同じく観戦している神楠の隣へと立つ。

 

「教授達はまた研究に向かっています。あと、櫻井さんの予想では一週間は色々と二課が大変そうだとの事でした。」

 

一週間の猶予という事か。ならばマリア達の望みを少しでも叶えられるのではないか。マリア達の戦闘を観ながらそのような事を考えていた。ふと私は隣の神楠を見て、神楠は何かしたい事があるのか気になり尋ねた。

 

「そうですね………あ、祭りに行ってみたいです!皆で賑やかな場所で楽しみたいです。」

 

「祭りか………蘇ってからは行っていないな。候補に入れておくから楽しみにしといてくれ。」

 

少女ように純真な笑顔を見せられたなら、その期待に応えなければな。とはいうものの、祭りに行けるのだろうか。日本国内では二課とおそらくは米国に追われる身の私達である。二課は動かないとして米国はテロ紛いを………一般人は巻き込まないとは思うのだが。悩む私は櫻井へと繋ぐ。

 

『今、時間はあるか?相談事がある。』

 

『………どうしたの?時間はあるから直接そっちに向かうから待っててちょうだい。』

 

直後に現れた櫻井に相談すると、懐からタブレット端末を取り出して何かを探している。待つ事数分で櫻井はある画面をこちらへと示してくる。そこには、秋桜祭と大きく銘打たれたリディアン音楽院のHPが映し出されていた。

 

「上空から監視するから安心して楽しんでらっしゃい。二課へと連行される事も無いから大丈夫よ!時には戦って分かり合う事も重要だけれども、やっぱりこういった事でも分かり合うことが出来ると思ってるの。」

 

お互いの普段の姿を見せる事でどこか分かり合える事があるかもしれない。櫻井へと礼を言うと、どういたしましてと去り際に言いながらフロンティア内へと消えた。私は神楠とマリア達の模擬戦闘が終わるのを待った。

 

 

模擬戦闘でのダメージのチェックを終えたマリア達へとしてみたい事を順番に聞く。

 

「いろんな場所へ行ってみたい。」

 

「お腹いっぱいにいろんな食べ物を制覇するんデス!」

 

この二人は観光地へと旅行すれば叶えられそうだ。仕事に忙殺されていた私は旅行をした事がない。だが、聖遺物の欠片を集めた時に世界を巡った旅行のような経験はしている。それに、フロンティアがあれば世界各地を転々と旅行出来るが不法入国者となってしまう。取り敢えずは日本国内の観光地の制覇からとしよう。

 

「私?そう………まあ、無難にショッピングしたい。流石にずっとここに居るというのは皆も疲れてしまう。ただ有名人であるから変装しなきゃだけれどもね。」

 

「………姉さんには内緒でしたが、実は私も人前で歌ってみたかったです。姉さんのように輝けるかわからない。だけど、私も精一杯輝いてみたいです!」

 

マリアの要望は彼女に頑張って変装してもらうことにしよう。だが、マリアは何を着ても様になり目立ちそうではある。セレナの要望は丁度いいステージがある。近々リディアンで開催される秋桜祭に一般参加も歓迎と書かれたのど自慢のような催しがあった筈だ。セレナがどのような歌を歌うのか今から楽しみである。

 

 

 

快晴の空の下、装者四名と神楠と私はリディアンの秋桜祭に来ていた。マリアはキャップにサングラスと顔を隠してはいるのだが、スタイルの良さも相まって近寄り難い雰囲気を醸し出していた。こちらとしては好都合である。調と切歌は食べ物の模擬店を見つけては次々に買い込んでいた。特に切歌は意気込んでいる。そんな二人を神楠が保護者のようについて行く。

 

「学院内のうまいもんMAPを制覇する事を強いられているんデス!」

 

二人が楽しそうで何よりである。マリアとセレナとともに三人で切歌達がくれた食べ物をつまみながら学院内を巡ったが立花達と巡り合わせが悪いのか見かけない。

 

「これが学校………私達とは無縁の場所。だけど、ここの人達は凄く楽しそうで私も通ってみたい。」

 

「あたしも調と学校に行ってみたいデス!きっと毎日がハッピーになるデスよ!」

 

二人は学院内の生徒を見て自身が着ている姿でも想像しているのだろうか。

 

「調に切歌もここは勉強をしに来る場所なの。勉強を頑張った人だけがこんな風に楽しめる。二人は勉強を頑張れるのかしら?」

 

二人の表情は絶望に染まり大きく肩を落とす。勉強嫌いな二人に根気よく教えている教授の苦労が偲ばれる。因みにセレナも二人と同じく教授に教えてもらっているが高等教育レベルは終えたらしい。

 

「私も手伝ってあげるから勉強を頑張ろう?」

 

セレナは落ち込む二人を励ましていた。その後に皆で喫茶の模擬店で一息ついていた。物珍しいのか神楠は次々にデザートを注文して頬張り幸せそうにしている。ネフィリムを身体へとして以来、神楠の食欲が増したようである。一人でケーキなどを十皿食べた後に思い出したかのように顔を赤くしていた。

 

喫茶を出た私達は学院内を目的もなく歩いていた。すると放送が流れる。ホールで勝ち抜きステージが催されるとの事だった。

 

「姉さん、私のステージを観ていてくれますか?姉さんには敵わないと思うけれど、私なりに輝いてみたい!」

 

マリアは驚くも本心を曝け出したセレナへと嬉しそうに口元を綻ばせている。

 

「大切な妹の晴れの舞台を見逃すものか。セレナの想いを皆に歌で伝えればいい。」

 

「あたしも調と一緒に歌うのデスよ!歌が好きだって気持ちはセレナにも負けないんデス!」

 

「折角だから歌ってみたい歌がある。観ていてみんな。私達が優勝してみせる!」

 

私達は意気込む三人とともに会場へと向かう。マリアはセレナの知られざる想いを知り、嬉しさを堪え切れないのかご機嫌な鼻歌を歌っている。そして、私が用意していたビデオカメラが動くかの確認をしている。ふと私は神楠の歌うところを見た事も聞いた事もない事に気付く。隣を歩く神楠は先を歩くセレナ達を微笑ましそうに見ている。

 

「歌わない私が言うのもなんだが、神楠は歌わないのか?」

 

すると神楠はこちらを向くが、残念そうに目を伏せる。

 

「その、別段下手では無いと思うのですが、知っている歌が古過ぎて今の方々には受けが宜しく無いでしょうし………。」

 

確かに神楠が生きた時代の歌を歌われても困惑させるだけだろう。神楠に何かないのかと記憶を探ってもらったところ、なにやら思い当たったようである。

 

「十年程前ですかね………頻繁に聞こえてきた歌なら覚えています。気になったのでモニターを覗くと刀を持った女性が歌う斬新な歌でした。」

 

成る程、あの歌か。確かにあの歌は今の日本でも皆が知る歌である。さして音楽に興味の無かった私でさえもCDを買ってしまった。

 

「それじゃあ神楠もエントリーしようか。曲は伝えておくから思いっきり歌うといい。楽しみにしている。」

 

緊張してか少し赤くなった神楠とともに会場へと到着した。ホールは沢山の人で埋め尽くされ始めている。マリアは最前列を取られてなるものかとあっという間に人と人の間を潜り抜ける。そして、最前列を六人分確保して堂々と足を組み座り、皆を手招きしている。あからさまに目立つマリアへと蒼い髪が近付いて行く。私達が到着した時には風鳴が複雑な表情を浮かべつつもマリアの隣へと腰掛けていた。

 

「司令からは手出し無用との事だ。だが、いつあの時の様にならないとも限らない。故に直ぐに手の届くこの距離で監視させてもらう。」

 

滲み出る剣幕に少し尻込みしてしまう調と切歌を庇うようにセレナが間に入る。

 

「そのような事は絶対にしません。ですからもう少し感情を抑えてくれませんか?」

 

両者は目を逸らさずに睨み合う。するとマリアはおもむろにギアのペンダントを外し風鳴へと押し付ける。

 

「これでどう?これで足りないなら調と切歌の分も預ける。セレナはそっちの天羽 奏と同じでギアは渡せない。………今日は大切な妹の最初のステージ。だからお願い、水を差す真似だけはしないで。」

 

マリアの切実な願いに風鳴はペンダントを押し返す。

 

「そちらの想いは伝わった。済まなかった。………ここで君の初のステージを観させてもらうが構わないか?」

 

セレナは快く了承する。切歌と調は少しばかり苛立っていたがセレナが落ち着かせて大人しく座っている。そして、会場が薄暗くなると司会進行役が現れて大会のルールを説明する。勝ち抜きステージというその名の通りで得点の高い者が残り続ける大会である。

 

 

大会も中盤を過ぎて、出番が近くなっていた四人は舞台裏へと消えていた。そろそろ調と切歌の出番だろうか。すると、舞台へと見知った銀髪の少女が現れる。

 

「どうして雪音が………。そういえば雪音が級友に追われているのを見かけたな。」

 

どうやら友達に推薦されたようである。雪音は口を固く閉ざしてやや俯いている。曲が始まるが歌い始めない。会場がざわめく中で舞台袖を何度か振り返りようやく意を決したのか歌い始める。ざわめいていた会場が瞬時に静かになり雪音の歌声に観客達は聴き惚れている。ステージ上で楽しそうに身体を揺らし屈託のない笑顔を振りまく雪音はただただ綺麗であった。

 

曲が終わると観客は皆が拍手して歓声を上げる。雪音は照れ臭そうに、しかし嬉しさが込み上げてどうしても笑みを隠せずにいるようであった。勿論、新チャンピオンとなり次なる挑戦者を待つ事になった。

 

舞台へと元気よく切歌が現れ、その後を自分のペースで調が舞台中央へと進む。そして二人はポーズを決めると曲が流れ始める。ツヴァイウィングの曲であり、私が最期に聞いた曲でもある。調と切歌は互いを乱すことなく絶妙にシンクロさせた見事なデュオを披露する。先程の雪音によって会場が盛り上がった余韻の中、更に会場がボルテージを上昇させる。雪音は比較的しっとりとした曲であった事もあり、盛り上がりやすいこの曲で一気に過熱したのだろう。会場は最高潮のままフィニッシュし、歓声が湧き上がる。そして、得点がなんと雪音と同点となりルールによって二組の暫定チャンピオンという事になった。ステージ上ではお互いに歌が好きだと伝わったのかそこまで険悪な雰囲気では無かった。

 

司会によると残すところあと二組だそうで、セレナと神楠が出ていない事から次はどちらかという事になる。現れたのは和装の黒髪美人へと変貌した神楠であった。その一挙手一投足に皆が注目する。ステージ中央で一礼してマイクを握る。そして、あの名曲が流れ始めると身体を軽く揺らしながら歌い出す。力強くも女性らしくしなやかな声で歌い上げる神楠に風鳴も惹きつけられているのか目を逸らさずにいた。そして、歌が終わるがしばらくの間静まり返る会場。私が拍手をすると徐々に増えて、今日一番の歓声が上がる。得点はまたもや同点で暫定チャンピオンが三組となってしまった。神楠は今更ながら恥ずかしさが込み上げたのか切歌と調の後ろで小さくなっていた。

 

『神楠の歌は綺麗で力強くて本当によかった。またいつか聴きたいのだが構わないか?』

 

切歌と調の間から顔を覗かせて僅かに首を縦に振っている。そしてまた二人の後ろへと隠れてしまった。

 

さて、最後はセレナなのだが会場の雰囲気としてはどうしても期待してしまうだろう。それがプレッシャーとならなければいいのだが。隣に座るマリアは黙々とビデオカメラを構えてセレナを待っている。司会がセレナを呼ぶとゆっくりとステージ中央へと歩みを進める。中央に立ち会場を見渡すセレナは最後にこちらへと向く。マリアは深く頷きセレナをカメラで撮影する。

 

『その想いをありのままに歌えばいい。』

 

セレナは軽く微笑み前へと向き直ると曲が流れ始める。その歌は突然交通事故で天国へと旅立った少女を想い、遺された家族がその少女の視点で書いた詩だった。優しかった少女が家族を心配する内容が続く。そして最後にそれぞれが少女へと別れを告げて大切な想い出を忘れずに前を向いて生きる、そんな詩であった。セレナの少女のように澄んだ声と込められた想いが相まって、会場の至るところからすすり泣きが聞こえてくる。途中から撮影どころではなくなったマリアに代わって私が撮影をしていた。マリアの向こうの風鳴も静かに頬を濡らしていた。歌い終わるが泣いている観客も多く、拍手も先程までよりも少なかった。

 

全ての参加者が歌い終わりセレナの得点が発表される。優勝はセレナを含めた四組となったが賞品である生徒会権限で一つだけお願いを叶える権利は雪音が貰った。

 

「そちらの想いは確かに理解した。………私は歌を愛する者に悪い者はいないと信じたい。」

 

そう言い残し目の前から去って行った。一方の雪音も歌によって想いを理解したようで少しばかり態度が軟化した気がする。

 

「次は戦場で白黒ハッキリさせてやるから全力で来やがれ!」

 

「望むところデェス!」

 

「勝つのは私達。」

 

雪音も背を向けて会場を去って行く。最後に少し見えた横顔には笑顔が滲み出ていた。そういえば立花はどこだろうか。二人が奏と一緒でないなら立花が一緒の可能性が高い。奏の反応を探るとこの会場内に居るようだが………。人が少なくなるとあっさりと立花が見つかった。寄り添う黒髪の少女に慰められていた。

 

「………帰ろうか。」

 

下手に触れると脆く崩れ去りそうで私達は二人を置いて会場を去る。そして、そのままフロンティアへと帰るのだった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

戦闘回ではなく歌合戦回となりました。
次回こそは戦闘回の予定です。

次回もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。