蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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おひさしぶりです。はるひよるです。

ようやく今回で二課vsF.I.S.にこぎ着けられました。そして戦闘描写の難しさに何度も挫けそうになりながら書き上げました。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


決意と覚悟

前回と同じ場所、同じ時刻に私達は立花達と対峙している。観戦ではあるが櫻井も一緒に来ている。今宵は曇りなく月が地上を照らしていた。冷たい風が吹き、向こうに見える奏の朱く柔らかな髪が揺れている。その隣にいる司令は腕を組み櫻井を恨めしそうに、そして呆れたような顔を向けていた。

 

「全く了子君の悪戯は度が過ぎているぞ。まあ、そのお蔭で気持ち悪いくらいに事が進んだのだが………。データを見た大臣が食べていた蕎麦をのどに詰まらせて大変だったんだぞ?」

 

櫻井の贈り物は各国政府の禁忌に触れる爆弾だったらしい。日本政府がシンフォギアを保有しているように各国もそういった隠したい事実が存在するのだろう。

 

「いい女には全てお見通しってね!」

 

そんな簡単に機密を盗み見る事ができるものなのか神楠に聞いてみる。フロンティアの技術力ならば現代の技術力では何も防げないらしい。いとも容易く各国の重要機密の詰まったデータベースへと到達出来るという。

 

そして、櫻井が世界へと要求したのはどこの国にも属さずに聖遺物や異端技術による災厄へと対抗する為の国連所属の特務機関として武装組織フィーネを認めさせる事であった。国境なく縦横無尽に世界を渡り、有事の際には超法規的に活動ができる組織だ。この要求について先日、極秘の国連総会が行われた。そこでは弱みを握られているとはいえ各国代表者達からの反発は強かったらしい。しかし、石田大臣が櫻井に代わって提示したある方法が状況を一変させた。武装組織フィーネは聖遺物を実用可能なエネルギーへと変える各国への技術提供を惜しまないというものであった。すると反発していた国々は次々に態度を翻すと、武装組織フィーネを国連所属の特務機関として承認するのであった。各国は聖遺物の利用方法を模索しており、今ここで他国、特に日本との差をつけられるわけにはいかなかった事も大きかったのだろう。総会後、石田大臣は疲れきった顔で金輪際彼女に振り回されるのは御免だと声を漏らしたらしい。櫻井に色々と押し付けられた所為だろう。

 

そんな国連所属の特務機関となった私達の初仕事が月の落下阻止である。しかしながら主要メンバーの変更はなくフロンティアへと外部から一人も立ち入らせずにいた。各国が牽制する中で、櫻井が視察などは計画の邪魔であるとはね除けたのだ。結果としては月の問題を解決した後に随時視察を受け入れる事となった。

 

そして現在その初仕事の最中であり、既に日本政府より二課の協力やその他諸々の許可は得た。前に流れた決闘と理由は全くの同じで、装者達の信頼関係を築く事が目的だ。今まで敵対関係であった者達が急に仲良く出来る筈も………立花は別として調と切歌は納得しておらず、まだ二課への敵意が見え隠れしていた。それもきっと立花達の想いが変えてくれるだろう。

 

「ところで私は司令や緒川さんと戦わなければならないのか?」

 

「応とも!何故ならば俺が闘いたいからだ!」

 

口角を上げながら首や指の関節を鳴らしている。その隣の緒川さんも笑顔だが司令に負けず劣らずの闘志を感じる。人間離れした身体能力の司令と忍者の緒川さんを同時に相手をするのは少々荷が重い。櫻井は戦闘に手を出す気は無く、少し離れた場所にイスを作り出し座り開始を待っている。神楠も参加せずにこの前に回収し損ねた土壌のエネルギーを吸収している。こちらは五人、二課は六人の数的不利ではあるが聖遺物を使用できる人数では優位に立っている。

 

「司令と緒川さん相手には得物を持たずに闘う。だがアイギスとその鎖と移動能力、それと多少の治癒能力は使用させてもらうぞ?」

 

「命のやり取りをしようってわけじゃないからな。戦闘続行不能になったら潔く退くという事で構わないな?」

 

全員が頷き、それぞれの得物を構える。セレナは祈るように腕を組んでいる。私はセレナへとガングニールを強く繋げた。

 

『ガングニールを借りますね?』

 

歌を歌いセレナは銀のギアから白金のギアへと変わり、手には黄金の杖を握る。神々しいその姿は何度見ても目を奪われそうになる。今回の立花達は二課のバックアップを受けられるようにしてある。立花達はこの場に新たに現れた三人目のガングニールの装者に目を丸くしていた。だが、雪音と奏は一層好戦的に口角を吊り上げてお互いに顔を見合わせている。

 

「だったらこっちも出し惜しみは無しだ!やるぞ奏!」

 

「おう!こっちも負けてないってところを見せないとな!」

 

『ケチケチしてないでたんまりとエネルギーを寄越せよ?本気の喧嘩がしたいからな!』

 

私はフロンティアからエネルギー供給を受けている。そして現在は私を介してセレナと奏に供給しており、二人へと強くエネルギーが流れているのを感じている。セレナの方が量は少ないが、最効率で聖遺物のエネルギーを増幅させているようだ。一方の奏と雪音もセレナには劣るものの中々にエネルギーを増幅させられていた。それにしても雪音までギアの二重展開とは予想外だ。

 

「セレナも本気で挑むとなると………司令と緒川さん、私達三人は彼女達から少し離れた方がいい。セレナの本気は常人には耐えられない。」

 

「なら問題ない。こちとら超常や異能と戦う為に鍛えに鍛えてある。いざって時に後悔だけはしたくないからな!」

 

「ギアを纏った方を相手取るのは少々骨が折れます。ですが簡単に勝てると思われるのは心外ですね。」

 

あの時の司令の拳の威力と緒川さんの戦闘力を思い返す。力任せの生半可な攻撃では倒せないだろうと容易に想像できてしまう。セレナは装者を狙うだろう。雪音は私を狙うとしても司令達への誤射誤爆に繋がる攻撃はしない筈だ。二人へと直接に矛先は向かないだろうが一応は気に留めておくか。

 

私はアイギスを纏い開始の合図を待つ。その中間地点に立つ神楠に合図をまかせてある。両陣営を隔てる不可視の障壁が取り払われることが開始の合図だ。現在両者から見えるのは神楠のみである。

 

「皆様準備はよろしいでしょうか?………それでは、開始です!」

 

不可視の障壁が淡く輝くと徐々に光の粒子となって消える。そして、目の前にはおびただしい量の銃弾やミサイルにレーザーの嵐が迫っていた。

 

「行くぞ、調に切歌!セレナは援護を!」

 

容赦の無い全力の攻撃にマリア達は臆する事なく飛び込む。その援護をセレナが請け負い私以外に盾を展開させて護っている。私はアイギスの障壁の頑丈さに物を言わせて空中を最短距離で立花達へと接近して反撃に出る。鎖を放射状に展開し続けて立花達を拘束しようと追尾させる。剣や拳で弾かれ避けられてしまう。そう簡単に捕まえられはしないが立花達を散り散りにする事に成功した。

 

目的を達したその時に凄まじい力で身体が引き寄せられる。向かう先には拳を構えた司令。私は鎖を解除して障壁を足場にする。そして思い切り踏み込みこちらも拳を構えて司令へと真っ向から勝負する。お互いに相手を睨む。先ずは小細工無しの真っ向勝負だと目が物語っていた。私はこの体勢で放てる最高の一撃を頬に入れて、そして同じく一撃をもらう。司令は踏ん張りが利く。私は拳を振り抜かれた勢いそのままに遠くに飛ばされる。口の中は血の味がする。蘇ってから血が出たのは初めてだろう。その味に生きている実感がほんの少しだけ湧く。落下する先に薄く気配を感じた私はそちらを見ずに鎖を放つ。

 

「見破られるとは………まだまだ修業が足りないという事ですね。」

 

エアキャリアに搭載されている神獣鏡のステルスに慣れていたから気付けたようなものだ。地面に着地するが緒川さんの超人度合いに驚いて動きを止めてはいけない。殴り飛ばした私を追って司令もこちらへと迫っている。前に緒川さん、後ろに司令と状況は不利だ。聖遺物による攻撃は使えない。ならばどちらかを手早く戦闘不能にしなければならない。アイギスの手甲だけを残して鎧を解除する。そして私は一瞬にして緒川さんの背後へと跳躍して捕縛しようと鎖を放つ。緒川さんはこちらを見る事なく前へ回避しつつ拳銃を発砲する。銃は通用しないと知っているだろうがあの影に撃ち込み縛る忍術をされるのは少々厄介だ。障壁を前面に展開して銃弾を防ぐが、新たに緒川さんは地面に何か手のひらサイズの黒い物を投げ捨て風呂敷に身を隠す。私は反射的にその物体を見てしまった。

 

次の瞬間には眩い閃光とともに生じる大音量。それを見ていたが為に視力を奪われて耳も聞こえない。これがスタングレネードという物だろうか。治癒の力によって自動的にダメージは回復している。だが普段よりもセレナが使用している分だけ効力が低下してしまっている。視覚と聴覚を奪われるが今は周囲を探らなければ。肌で感じる空気の流れや振動はマリア達や立花達が響かせている音楽である。私に届くまでに障害物があればその響きには歪みが生じてしまう。ここは荒れ野で障害物はほとんどない。その歪んだ振動を頼りに周囲を警戒すると音楽のする方向から一人の接近を捉える。もう一人は見つけられないが今は迫る人物を迎え撃つ。先程よりも神経を研ぎ澄ませて地を踏みつけた時の振動や風を感じ取る。視界は真っ白の中に動く黒い影を捉えられるまでに回復してきた。接触まで三、二、一、今だと拳を構えて繰り出そうとするが、何かに足を掴まれてしまう。目の前に迫った黒い影の繰り出す連続攻撃は容易く障壁を突き破り、手甲で守られている筈の腕にダメージが蓄積されていく。ようやく視界が戻ると疾風怒涛の攻撃をしている司令の後ろ十数メートルへと足を掴む人物を残して跳躍した。

 

「これが忍術………直前まで気付けなかった。」

 

まさか地中から接近してくるとは予想外過ぎる。忍者ならば誰しもがこのようなことを可能とするのだろうか。今度からは空、地上、地中を警戒しなければならない。地中から飛び出て地上に着地する緒川さんのスーツに汚れは見えない。しかし、呼吸はやや荒く息苦しそうだ。

 

「今回は中々の出来だったと自負していたのですが。………少し無理をし過ぎてしまったようです。後は司令と翼さん達に託しますね。」

 

神楠によって緒川さんのリタイアが皆に伝えられる。立っているのも辛そうだが最後まで見届けたいらしい。神楠と櫻井の隣に用意されたイスに座りながら治療を受けていた。

 

「無茶しやがって。だが、いい顔をしているじゃないか。さて、ここから先は俺も全力だ!」

 

司令の踏みつけた地面は砕け、地を滑るように速く真っ直ぐに距離を詰めて来る。私の中の闘争心が真っ向勝負を望む。先程は吹き飛ばされたが今度はそうはさせない。このまま迎え撃つのもいいが私も司令目掛けて駆け出す。お互い睨み合い衝突の瞬間まで手の内を明かさない為に一秒にも満たない我慢比べが続く。これ以上は待てない。私が仕掛けると同時に司令も攻撃へと移行する。今まで前進してきたエネルギーを右の拳に集束させる為に地面を踏みつけてストレートを放つ。だが司令は更に深く踏み込み攻撃を避けながら顎先を刈り取る鋭いアッパーカットを繰り出す。私は左の手甲と障壁でアッパーを防御するが勢いよく上空へと打ち上げられる。やはり地上だと司令の方が有利なのかもしれない。だが、ただで飛ばされる訳にはいかない。飛ばされる寸前に右の手甲から鎖を伸ばして司令の胴へと絡めた。ここから反撃とばかりに司令を鎖の一本釣りで上空へと引き上げる。空中ではなす術が無いだろう。だが司令は決して諦めた表情ではない。次の一手を考えているはずである。私は障壁を足場に身動きの取れない司令の背後へと攻撃を仕掛ける。司令はなんとか身をよじり躱し、腕や足で攻撃を逸らしている。だが私は直ぐさま障壁を足場に反転して襲い掛かる。十数回ほど衝突を繰り返し、あと少しで司令は地上に到達する。最後に大きな一撃を繰り出す為に上空へと跳躍し地上に向かう司令を追い抜く勢いで急降下する。障壁から障壁へと飛び移りあっという間に司令に追い付く。そして体をひねり右足へエネルギーを集束させて司令へと渾身の飛び蹴りを放つ。胴を捉える前に司令が私の足を叩き狙いが若干逸れる。逸れた蹴りは胴を掠めてそのまま地面へと衝突する。大きく地面を砕き抉り、その衝撃で司令は遠くまで吹き飛ばされていた。起上がると手足や胴を確認するように動かしている。

 

「うむ………、ちっとばかしダメージが大きいな。久々に暴れられたから満足だ。という訳でここからは俺も観戦する事にしよう。楽しかったぞ大和君!」

 

神楠により司令のリタイアが皆に伝えられる。司令は見た目には軽傷のようだが、櫻井と神楠は緒川さん以上に手厚く治療を施していた。

 

 

私は戦況を上空から確認する。壊れた塔の下、荒野は更に所々を抉られてくぼみ、マリア達と立花達は目紛しく地を駆けて激突していた。二重ギア展開のセレナと雪音はとりわけて熾烈な闘いを繰り広げている。マリアはやや風鳴に押され気味だが勝負はまだ拮抗している。立花は切歌の攻撃を捌きつつ反撃をしているが、調の放つ鋸を躱し砕きと忙しそうだ。ここで私が加勢して勝敗を決してしまうとお互いに認め合えないままとなるかもしれない。しばしの間は傍観するか。

 

『加勢しないのですか?こちらがやや劣勢ですよ。』

 

『そうだな。だが、今回の目的は勝つ事ではない。彼女達が分かり合う為には各々全力で剥き出しの本心をぶつけ合う事が必要だからな。』

 

特に調や切歌には立花達と仲良くして欲しい。この前の雪音の歌からは歌が大好きだという想いが強く伝わってきた。それは同じく歌が大好きな切歌や調にも伝わっているだろう。私達と立花達の目的は世界を救う事。共通の思いを持つ者同士で手と手を取り合えると信じている。

 

『想いをぶつけ合うですか………。いつか調ちゃん達ともこのような喧嘩をする時が来るのでしょうか。想像出来ませんね。』

 

神楠とは蘇った時に稽古をつけてもらって以来闘っているところを見た事は無い。普段のおっとりとした姿からは想像出来ないが、少なくとも聖遺物抜きの私よりは強い。ギアを纏った程度では勝てそうにない相手だ。それに今は聖遺物由来のエネルギーを吸収するのである。しかし、神楠の性格からすると怒るよりも悲しみ涙を流して喧嘩は起こらないだろう。

 

再び戦況を確認すると切歌は相当なダメージを抱えているようで動きが鈍くなっており、調も同様である。対する立花のダメージは軽微で俊敏な動きをしていた。調と切歌は雄叫びを上げて二人で立花へと突撃する。どうやら勝負に出たようだ。

 

「どうして酷い仕打ちをした世界を守ろうとするのッ!?どうして戦えるの!?」

 

それを立花は脚部パワージャッキを引き絞り構えて待つ。立花の戦う理由はきっと………。

 

「それは、私が助けたいから助けるんだ!一人でも多くの誰かを救えると、なんてことのない日常を守れると信じてなんだッ!」

 

立花は脚部のパワージャッキを解き放ち推進力へと変えて一瞬にして切歌と調の懐へ飛び込む。そして二人の胸部へと勢いの加わった掌打を叩き込む。二人は遠くへと飛ばされて受身も取れずに仰向けに倒れる。その側へと跳躍して状態をみると二人とも気を失っていた。

 

「大丈夫でしたか!?私気持ちが昂っちゃって少し強く打ち過ぎて、打ちどころとかがあの、その!」

 

「大丈夫だ。ただ気絶しているだけでちゃんと治る怪我だからな。」

 

立花は胸を撫で下ろし落ち着きを取り戻した。戦いの最中でも倒した相手の心配とは立花らしい行動だ。調と切歌を回収しに神楠が目の前に現れる。

 

「調ちゃんに切歌ちゃんもよく頑張りました。あとはゆっくりと休んでくださいね。お二人は引き続き頑張ってください。それは失礼します。」

 

神楠は調と切歌を重力制御により宙に浮かせて櫻井の待つ観戦席兼医務室へと帰った。はてさて残された私と立花は戦いを始める雰囲気ではない。取り敢えず立花へと向き直るが、立花と二人というのは初めてかもしれない。初めて見た時の印象はごく普通の少女だった。目の前の立花もそれとほとんど変わり無いが僅かに精悍さを感じる。私も立花も変わったのはあのライブ会場での出来事からだ。私は命を失ったがこうして二度目の生を歩んでいる。立花は凄惨な事件から生還するが居場所を失うも二課やリディアンに新たな居場所を見つけられた。私と立花はおおよそ平凡とは言い難い立ち位置になってから平凡な日常の良さが分かった。

 

「あの、大和さんにお礼が言いたくてずっと会えるのを待っていました!あの時は言いそびれてしまいましたが今、伝えたいんです。助けてくれてありがとうございました!本当に感謝してもしきれません。」

 

立花は言う。ずっとずっと、酷い仕打ちに耐える日々に何度も挫けそうになっていた。どうしてこんな事をするのって訴えても想いは届いていないし、誰も本当の私を見ていない。でも、そんな暗い日常は急に終わり、あったかい陽射しが教室に射し込んだのだと。

 

「その時に大和さんの存在を知りました。どんな辛い時もきっと誰かが手を差し伸べてくれる。そんな優しさはあるんだって私も誰かに知って欲しくて人助けをしてきました。必死に誰かが伸ばした手を私は出来る事なら全部掴み助けたいんです!だから、私の覚悟を見てください、大和さん!」

 

立花は構えて私を待っている。そう言われては私も応えない訳にはいかない。

 

「特に意識して助けたつもりは無いが、見て見ぬ振りが出来ない性分だからな。旧友にもよくお人好しが過ぎると言われたよ。」

 

私と立花はどこか似ているのかもしれない。そんな立花の覚悟を見せてもらうとしよう。手甲のみだったアイギスを再度展開して構える。その時、私の頭上にマリアが降ってきたので両腕で受け止め抱える。マリア自慢のマントが無残にも破られてしまっており、もう使い物にならいだろう。

 

「まさかマントが破られるなんて少し油断していた。ありがとう大和、私は大丈夫だから降ろしてくれない?」

 

マリアを吹き飛ばしたであろう風鳴は立花の隣へと降り立ち剣を二振り構える。マリアは槍を手に引き戻して風鳴へと突撃する。私もマリアを追って進もうとしたところで大きく後ろへ飛び退く。さっきまで立っていた場所に光の盾が現れて黒いレーザーが当たり爆発が起きる。

 

「こちらを見ずに避けるなんて人間業じゃねぇ!?だったらこれで!」

 

雪音は私を撃ち倒そうと開幕先制時の弾幕よりも苛烈に攻めてくる。やはり二重展開されたギアだと火力が頭一つ抜き出る。

 

『防ぎましょうか大和?』

 

『いや、大丈夫だ。セレナはマリアの援護を頼む。』

 

私はレーヴァテインの力を用いてソフトボール程度に圧縮した火炎球を空を埋め尽くす弾幕目掛けて発射。そして、弾幕との距離が近付いたその時に火炎球を大爆発させて弾幕に大きな風穴を開ける。その風穴の先に見える雪音の周囲を取り囲むように同サイズの火炎球を無数に配置する。私は右の手にレーヴァテインのエネルギーを集束しながら雪音へと駆ける。あの火炎球はせいぜい小規模な爆発しかしない見かけ通りの代物である。装者にダメージを与えられはしないがあの大爆発を見た後ならば抑止として機能する。しかし、雪音の表情に焦りは見えない。風鳴と立花はマリアとセレナとの戦闘から離脱は出来なさそうだ。雪音は回避または防御手段があるのだろう。回避なら跳躍して追撃でいい。絶対的防御ならば圧倒的攻撃により突き破る。私は火炎球を起爆し、地を蹴り雪音へと迫る。爆発の中心には人が入るには十分過ぎる大きさの黒い球体が存在した。大爆発を防ぐ防御力を有するであろうそれを集束したエネルギーと熱により揺らめく赤い拳で突く。多少の抵抗を感じたが黒い殻を突き破り右手が中に入り込む。

 

「なんだってんだよ、どうする奏!このままじゃ!?」

 

私が黒い球体内部へとエネルギーを解き放つ直前に球体は半分に分裂して突き破った片割れを自爆させて離脱した。私の放った赤いレーザーはフロンティアの展開する障壁に当たり徐々に減衰する。爆発を障壁で防ぎ、レーザーの反動が解けた私は痺れる右腕を確認する。エネルギーの制御に失敗し自傷してしまい、この戦いではもう放てないだろう。右手を慣らしながら雪音も加わったマリア達の戦場へと向かった。

 

そこでは雪音のクロスボウやハンドガン等による援護でマリアとセレナは劣勢。マリアはマントが使えず中々攻勢に移れないようだ。セレナは執拗にインファイトを仕掛ける立花との距離を離す事に忙しくてマリアのフォローが出来ない。そして、私の前にはギアが所々砕けながらも微塵も闘志が衰えていない奏が立ち塞がる。

 

「ここを通りたければあたしを倒してからにしろってな!」

 

奏はこちらからのエネルギー供給を拒み最低限の補給となっている。

 

「勿論、通らせてもらう。その前に今回の決闘で皆は分かり合えそうだろうか?」

 

奏は腕を組み少しだけ唸っていた。私は雪音と風鳴のひととなりをほとんど知らない。雪音は人を寄せ付けない雰囲気を出すが、本当は寂しくて強がっている一匹狼だろうか。風鳴も同様である。そうなると二人は意外と似た者同士なのかもしれない。

 

「きっと大丈夫だって。みんな響のお人好しに感化されてるからな!あとこの決闘が終わったらみんなでパーっと打ち上げでもしないか?あたしが腕によりをかけて料理を作るからさ。」

 

確かにそのような約束はしていたがこのタイミングで言うとは奏らしい。それに私も料理の腕が向上したところを披露したい。

 

「なら、久しぶりに一緒に作らないか?その方が間近で確認出来るからな。それでは始めようか!」

 

手始めに私は黒いハンドガンを二つ手元に出現させる。この拳銃はあの時の謎の襲撃者の物である。壊れてしまい本来の使用方法では使えないが問題は無い。聖遺物のエネルギーを放つイメージを拳銃と重ねれば扱い易くなるのではなかろうか。それぞれの手に炎と雷のエネルギーを集束させる。

 

「ぼさっと突っ立ってるのはただの的だ!」

 

奏は突っ立つ私へと黒い斬撃を三連飛ばす。迫る斬撃へと銃口を向けてこちらも赤い弾を三発撃つ。衝突した赤と黒は爆発を起こす。その間に私は地中へとある物を打ち込み地中に仕掛けを施す。それではこちらも攻めさせてもらおう。爆煙を突き切り大剣を携えた奏がすぐそこまで迫っている。白い弾を次々に撃つがことごとく回避されて距離が詰まる。奏が大剣を振り上げた瞬間に白い弾を放たずにそのままエネルギーを高める。すると、奏が躱した筈の白い弾が私の手元へと殺到する。奏は背後から撃ち抜こうと殺到する白い弾を大きく横へと回避したがそこは仕掛けを施した場所だ。

 

「それでは決めさせてもらうぞ奏!」

 

地中に仕掛けたアイギスの鎖で奏を拘束し、エネルギーを吸収していく。力の抜けていく身体を奏は意地でも膝をつかないように立っている。

 

「そうだな、あたし達が決めさせてもらう!」

 

奏達という事は………そうか!? マリア達の状況を確認するとマリアは風鳴の前に倒れ、セレナは立花に盾を砕き貫かれて強烈な一撃を受ける。そして、遠くまで吹き飛ばされて気を失い光となり私へと帰って来る。神楠によりマリアは運ばれて、残るは私と二課装者全員となった。

 

「あたし達とは言ったけれども、どうやら時間切れみたいだ。あとは任せたぞ。」

 

奏は最後まで膝を地につける事はなく光となって雪音の方へと戻る。私は立花達が来るのを待つ。そして到着した立花達のギアにはダメージが目立ち、マリア達との激闘を物語っていた。しかし、奏と同じくその瞳には強い闘志が燃え滾っていた。

 

「大和さん!私達の覚悟と想いを一撃に込めます!だから大和さんも全力で勝負してください!」

 

最後は最高の一撃で勝負を決めるというのか。ならば今の私の全力を尽くした一撃で勝負だ。

 

『起きているかセレナ?』

 

『すみません。私負けてしまいました。』

 

セレナは負けて悔しがっているらしい。だが、意識が覚醒しているのなら手伝ってもらえる。

 

『今回の目的は勝つ事では無いのだが、今は私も勝ちたくなった。だから立花達に勝つ為に力を貸して欲しい。アガートラームの絶唱を頼めるか?』

 

『はい、もちろんです。リベンジですね!私の想いを大和に託します。だから勝ってください!』

 

立花達は手を繋ぎ三人同時に絶唱を開始する。セレナも絶唱を始める。爆発的に上昇するアガートラームのエネルギーを銀の左腕へと形成し装着する。さらに私の所持する聖遺物のエネルギーを融合させると銀の輝きが格段に増す。一方の立花達は三人分の絶唱のエネルギーを立花の右手に集束させている。両腕の装甲を融合させて一つにし、立花は融合パーツを唸らし虹に輝くリングを伴った拳を構える。私も夜空の月よりも輝く銀の左腕を構えて対峙する。そして、私と立花は同時に駆け出した。

 

「S2CA・トライバーストッ!!」

 

立花達の覚悟と想いを束ねた右の一撃。守りたいものを守る為の拳。

 

「勝てッ!アガートラームッ!!」

 

私達の決意と想いを込めた左の一撃。守りたいものを守る為の拳。

 

虹色に輝く拳と銀に輝く拳が激突する。虹の竜巻の発生をアガートラームが打ち消す。私と立花の間に膨大な量のエネルギーがひしめき合いさらに肥大化する。勝負は拮抗するも超高エネルギーの衝突にアガートラームもガングニールもその負荷に耐え切れずに徐々に崩れ始める。私は歯を食いしばり、立花は雄叫びを上げて最後の一押しを競る。

 

「行け立花ッ!」

 

「押し込め!あと一押しだ!」

 

そして、勝敗が決したと同時に私と立花はエネルギーの奔流に飲み込まれた。咄嗟に私は力を使い果たして気を失った立花の手を掴む。こちらへと引き寄せて障壁を多重展開させて耐える。

 

『もう少し耐えてくださいね。ちょっと量が多いのですよ。』

 

破れては展開の繰り返しを続けていると、ようやくエネルギーの勢いは衰えて神楠が現れる。全身の赤いラインは輝いているが表情は何かを堪えて少し辛そうだ。

 

「ちょっと飲み過ぎて気持ち悪くて………。すみませんが少しだけ休憩しますので、あとの事は櫻井さんにお願いしました。それでは失礼します………。」

 

ゆっくりとフロンティアへ神楠は帰った。さて、今の私は立花を背後から支えている状態である。するとこちらへ雪音と風鳴が駆けて来る。

 

「無事か立花!」

 

「大丈夫か!」

 

「力を使い果たして気絶しているだけだ。ゆっくりと休めば問題無いだろう。それでは立花を頼む。」

 

ギアは解除されて私服姿の二人へと立花を任せる。ふと私はひび割れて所々砕けた銀の左腕を見る。まだ先程のダメージが残りあまり力が入らない。

 

「どうしたの?勝負も終わって弦十郎君達も引き上げるわよ。」

 

「いや、何でもない。それでは帰ろうか。」

 

私はアガートラームを解除してフロンティアへと帰るのだった。

 

 

フロンティアへ到着した私は近くにいた教授に切歌と調の居場所を教えてもらう。二人は治療を終えて自室に居るらしい。二人は部屋の中でお菓子を食べて寛いでいた。切歌に促され隣に座り一緒にお菓子を食べる。そして、調が淹れてくれた緑茶を飲む。そろそろ本題を切り出すか。

 

「それで調と切歌は戦ってみてわだかまりは解消されたか?」

 

調は湯呑みをゆっくりとテーブルの上に置き、切歌はお菓子を口に運ぶ手を止める。そして切歌は口一杯のお菓子を咀嚼している。

 

「真剣に戦って、向き合って立花 響が本当にどうしようもないくらいのお人好しだってわかったの。敵意剥き出しの相手にも手を差し伸べる………そんなのに勝てるわけないじゃない。だから私は彼女に直接謝りたい。」

 

この調は随分としおらしい。立花の想いは確かに伝わっていたようだ。そんな立花の全力の拳には敵わないのは道理か。

 

「あたしもあいつは大和みたいだなって思ったデス!なんだかなかよくできそうな気がしたのデスよ。」

 

これで二人とも二課と問題なく協力してくれそうだ。そういえば奏と打ち上げ、というよりも親睦会を企画していたな。

 

「調と切歌はもしも立花達との親睦会を開くなら参加して楽しめそうか?」

 

二人とも少しだけ首を傾げて考えている。マリアは仲良く出来るのならばしたそうである。セレナは全く敵意は無いから問題ない。ウェルも同じく問題無し。教授も別段悪く思って無いので大丈夫だろう。

 

「私は直接謝って、そして立花 響を知りたい。だから参加する。」

 

「あたしはみんなと美味しくご飯が食べられるならオールオッケー無問題デス!」

 

これでこちらは全員参加となるだろう。さて、奏の方はどうだろうか。夜も遅いから明日にでも聞いてみよう。

 

その後、親睦会の話題を調と切歌に次々と質問されてしまう。気付けば二人は眠り、夜更けだった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

色んな意味で長かったの一言に尽きます。

次回は親睦会のお話の予定です。
次回もよろしくお願いします。
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