蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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いよいよGXです。はるひよるです。

GXを原作に沿って進めようとは考えていますが、どうなるのかは未定です。

最後まで読んでいただけると嬉しいです。


星と歌と識る想い
境と言葉と渡る世界


月が公転軌道へと戻った。訪れた束の間の平穏な世界。フロンティア計画はつつがなく終えられたのだ。だが、それと時を同じくして判明していた問題が残されている。身に余る大仕事から数日後、私達は二課を訪れていた。大きな会議室へと入ると司令と立花達が一様に沈黙する重い空気の中で待っていた。その中でも小日向と立花は不安を隠しきれていない。櫻井以外は皆着席する。櫻井は手元のタブレット型端末を操作して室内の大型モニターにガングニールに蝕まれた立花の現状を映し出す。

 

「先ずはじめに断言するけれど、響ちゃんは助かるわ。それも五体満足でね。」

 

暗い雰囲気が少し薄らいだ。険しい表情だった風鳴の眉間のしわも消えている。しかし、立花だけは変わらないままだ。

 

「だけどね、原因であるガングニールは響ちゃんから完全に失われる事になるの。つまり、響ちゃんは平穏な日常に戻るということになるわ。」

 

何かしら思うところはあるようで、誰も諸手を挙げてとはいかない。何かを堪えるように立花は静かに口を開く。

 

「………他に、ガングニールを失わないで済む方法はないんですか、了子さん。私はいろんなものを失いました。でも、それ以上にたくさんの大切なものを貰ったんです。」

 

タブレットをテーブルに置き、人差し指を下顎に当てる。

 

「響ちゃん。あなたはとっても歪よ。確かにたくさんのものを得られたのかもしれない。でもこのままだと、いつか取り返しのつかない程に深く傷ついてしまう。」

 

立花はガングニールによって、命、力、友、心、居場所などの多くを得ていた。私もこの力を失う事になれば執着してしまうだろう。依存する程に多くのものを得たのだから仕方ない。

 

「それでも………それでも私は失いたくないんです!」

 

立花は身を乗り出して大きく声を上げる。ガングニールという特異な力だけではなく、今まで築き上げたものまで失ってしまうのではないかという恐怖がその表情から読み取れる。

 

「執着はヒトを狂わせてしまう。それでも力を欲するのなら、これから響ちゃんにはある人と戦ってもらうわ。その勝負に勝てたのなら、再び装者として戦えるようにしてあげる。負けたのなら、今後一切ギアは纏わせないわ。」

 

私には立花の気持ちが分かり、櫻井の気持ちも分かる。失いたくないという想いと、傷ついて欲しくないという想い。この場に居る面々は黙って会話を見守る。全ては立花次第という事だ。

 

「………わかりました。私、戦います。それで、私は誰と戦えばいいんですか?」

 

櫻井はタブレットを懐に放り込む。常にフロンティアと繋がっている私と神楠、そして櫻井。櫻井はその繋がりを利用して端末を転送したのだ。

 

「それは、行けば分かるわよ。弦十郎君、訓練用のトコを借りられるかしら?」

 

司令は腕を組み何かを考えている様子。

 

「構わんが、でき得る限り壊さんでくれよ、了子君。昔からやり過ぎな君だ。言っても無駄だとは分かりたくはないが、分かってはいる。」

 

「何事も徹底的に探究するのが私なの。まあ、今回は大丈夫………とは言い切れないけれど。室内の壁を大和君とかに障壁を展開してもらえば大丈夫よ………たぶん。」

 

櫻井が断言できないのは、立花の抱える心の闇がどこまで大きく根深いのかが分からないからである。S2CA・トライバースト並みを立花一人では発揮できないだろうが、念の為にセレナにも協力してもらうとしよう。

 

『想定通りに進んでいるな。念の為にアガートラームとの二重障壁にするから、セレナにも協力してもらうぞ?』

 

『はい、わかりました。やっぱり響ちゃんはこの選択になりましたね。嬉しさ半分、悲しさ半分で複雑な心境です。私たちはその選択を尊重することしかできません。どうか、後悔することがないように祈るだけです。』

 

私が席を立つと沈黙していた面々も次々と立つ。そうして私達は訓練用の大きな空間へと向かうのだった。

 

目的の場所へと続く長い通路を調と切歌に挟まれて歩く。いつものような明るい表情には程遠い不安な表情だ。

 

「私もこのギアを失うと考えると、自分が自分でいられなくなるような気がして、怖い。」

 

「あたしたちは、長い時間ギアと過ごしてきたデス。だから、切っても切れない関係なんデスよ。」

 

普通を知らずにここまで来た切歌達にとって、ギアは身体の一部なのだろう。そして、立花と同様に精神面をも支えていたのではないか。仮にそれを失ったとしても、立ち上がれるようにしなければな。

 

「皆がついている。それに、切歌と調はもっと世界を見て聞いて感じて、沢山の事を知るんだ。それから、その力の意味と時間を掛けて向き合えばいいさ。それまで私達が守るからな。」

 

調と切歌は不安そうな表情を不満げに変える。頬を膨らませて眉を寄せる姿はいじらしい。

 

「私も切ちゃんも。」

 

「守られるだけは嫌なんデス。」

 

左手を調に、右手を切歌の手と繋がれる。

 

「半人前、それに届かない私達でも、切ちゃんとの二人ならみんなを少しくらい守ることがきっとできる。」

 

「だから、少しくらいはあたしと調にも守らせて欲しいなって。だめデスか、大和?」

 

守り守られてこその仲間なのかもしれない。それに、守りたいと言われて嬉しかったのだ。

 

「………それでは、今度からは調と切歌にも守ってもらうとしようか。だから、その時は頼んだぞ。」

 

「任せて、大和。」

 

「了解デース!」

 

私よりも小さく儚さすら感じる手からは、ぬくもりと二人の強い意志が伝わってくるのだった。

 

 

私と立花は訓練用の広い空間で二人ぼっち。私と立花以外はモニター室から見ている。

 

「さて、響ちゃんの戦うべき相手は、今に現れるわ。やっちゃって、大和君。」

 

私は最近馴染ませた新たな聖遺物である神獣鏡を励起させる。現れるのは銅鏡。魔を祓う力はアイギスの方が数段格上だが、それだと今回は適さない。手鏡サイズの銅鏡を姿見まで大きくして立花を映す。何が起こるのか不思議そうにしていた立花が何かに気づき身構える。鏡縁を掴み鏡面から鏡の中の立花が這い出てきたのだ。その立花は私に一礼してから本物の立花へと構える。途端に偽の立花は全身を黒く染めるが、暴走している訳では無くその場から動かない。

 

「相手は見ての通りよ。響ちゃんの傷つき肥大化した負の面。暴走状態を制御した理性ある獣といったところかしら。勝敗は、どちらかがこの戦いの放棄をさせたら勝ち。それじゃあ響ちゃん、ちゃんと向き合いなさいね。」

 

私は室内をアイギスとアガートラームの障壁でコーティングする。他ならぬ自分自身と対峙している立花は、怒りや悲しみの渦巻く暗い瞳にひどく動揺してしまっていた。

 

「構えてよ。あなたはいつだって自分のことは二の次で、自分で私を傷つけていた。死にたがりのあなたは、どれだけ私やみんなを傷つけるのかな!」

 

黒い立花はバーニアや脚部のジャッキで縦横無尽に室内を駆け回る。咆哮を上げ駆ける姿は獣そのものだ。立花はあらゆる角度から高速で襲い来る黒い影に防戦一方になってしまっている。徐々にひび割れ砕かれていくギアに、立花は痛みに耐えている。しかし、黒い立花の猛攻はさらに苛烈に立花を攻め立てる。

 

「そうやって必死に自分を守ってればいいんだ。諸刃の拳をぶつけるよりも痛くないから。分相応に縮こまっていればいい!」

 

黒い立花は右手の装甲を槍の穂先のように変形させて迫る。咄嗟に両腕の装甲で防御したが、大きく後ろへと突き飛ばされ、障壁に叩きつけられて倒れる。モニター室からは小日向の悲痛な叫びが聞こえてくる。その言葉に黒い立花は一瞬動きを止めたが、ゆっくりと倒れ伏した立花へと右手に槍を携え歩みを進める。

 

「痛くて立ち上がれないよね。もう、これ以上痛い思いをしないように止めを刺してあげる。分相応な理想を抱いて、平穏な日常で生きよう?」

 

振り下ろされる槍が立花へと激突する寸前。立花はその槍を両手で掴み受け止める。身体は淡く発光し、幽鬼のように掴んだ槍を離さないように立ち上がる。あれは、ガングニールが活性しているのか。そして、槍を離した立花は、拳を強く握り締めて黒い立花を見据えている。

 

「………ごめんね、いつも傷つけて。ありがとう、いつも泣いてくれて、怒ってくれて。でもね、私には分不相応だとしても、みんなを守りたい。ひとりじゃ無理でも、みんなと手を繋げたらきっと守れるって信じてる。だからあなたとも繋ぎたい!」

 

拳を解き差し出されたその右手に、黒い立花は力無く腕を垂らし立ちすくんでしまう。槍へと変形させた装甲も元に戻っていた。立花はその手をしっかりと握り繋いだ。

 

「命をもらい。理不尽から誰かを守り。歌でみんなと繋がれる。あなたは私だから知っている筈だよ。この拳も、命も、シンフォギアだってこと。」

 

少しの迷いも無い笑顔に、黒い立花も憑き物が落ちた晴れやかな表情を見せる。あれだけ渦巻いていた瞳は澄み切っていた。

 

「そうだね。困っている誰かを助けないと気が済まないお人好しがあなたで私だったんだ。じゃあ今、困っているあなたに私は手を差し伸べなくちゃね。それと、一つだけ約束して。辛い時、苦しい時には未来だけじゃなくて、もっと他の人にも頼ってみて欲しい。だって、みんなとっても頼りになる大切な仲間だからね。」

 

立花に優しく微笑みかけると、二人とも可笑しいのか楽しそうに笑い合う。

 

「そうだね。当たり前のことに今気付くなんてね。みんながいて、私を支えてくれている。だから、もう私たちは———」

 

———へいき、へっちゃらだよ。

 

そうして、黒い立花は負けを認めて私が出現させた神獣鏡の前に立つ。黒かった立花は、今や写し鏡のように立花と同じ顔で明るく笑っている。

 

「大和さん、ありがとうございました。ずっと手が震えてしまって私に悪役は出来ませんでした。………最後にお願いしたいことがあるのですが、聞いていただけますか?」

 

「私に出来得る限りならば。」

 

「大和さんらしいですね。」

 

そう笑う。そして、真剣な表情に変わった黒かった立花。

 

「私をお願いします。危なっかしくて放って置けないんです。大和さんにお願いするのには理由があって、それは私の憧れで理想だからです。命を奏さんに。正義を大和さんに。歌を奏さん、翼さん、マリアさんに。それでは、私をお願いしますね!」

 

そう言い残して鏡の中に去った。元々あの立花はこうなる事を望んでいたのだろう。

 

その後、立花を蝕むガングニールを取り除く日程等を相談して二課を去るのだった。

 

 

もう一人の立花との一件以来の今日。立花とウェル博士謹製のAnti_LiNKER風呂に浸かっている。ウェル博士曰く、櫻井が本気で手を貸してくれたおかげで、ここまであなたに優しく温かい物が出来たのだとか。このAnti_LiNKERには適合係数を低下させる効能があり、今回は聖遺物との繋がりを断った時のガングニールの活性を抑える目的で使用しているのだ。生体と聖遺物の融合を解いた時のショックは大きく、身の危険を感じたガングニールが活性するのだ。私は立花の中へと潜り、融合組織を巡って繋がりのラインを私へと変更する事を繰り返す。立花の聖遺物とのラインは切歌達よりも多く、例えるならば、広大な土地の山林の木々を一人で伐採するような感覚だ。とはいえ今回はガングニールなので、立花のラインへと私が出現させたガングニールを突き立てる事で作業が完了する。

 

そんな作業がひと月程もかかり、立花との水着を着用しての混浴にも慣れてしまった。

 

初めは立花が顔を赤くして、狼狽えながらの入浴となった。私はAnti_LiNKERに浸かる必要性が皆無だった。私の手だけを立花のどこかに触れさせればよかったからだ。

 

「私だけ見られるなんて、そんなの不公平ですよ。だから、大和さんも脱ぎましょう!?」

 

との抗議に、それもそうかもしれないと思い水着を着用して混浴することに。立花は脱いだ私の身体を興味津々に眺めてくる。ほとんど無意識だろうが繋いだ手が立花に強く握られる。この精神状態だと立花の精神へと潜っても作業が出来ない。ならば、気恥ずかしくはあるがこの状態に慣れてもらうのが一番だろう。

 

「そんなに気になるのなら触っても構わないぞ。どちらにせよ、この状態に慣れなければ作業に進めないからな。」

 

「いえ、その………すいません。師匠と一対一で戦える身体がどうしても気になって。でも、いいんですか?」

 

私は頷く。立花は遠慮がちに手を伸ばして腕に触れると、黄色い声を上げていた。気の済むまで好きにさせた後、手合わせの約束と、立花おすすめのお好み焼きを食べに行く約束をしてようやく落ち着いた。少し疲労を感じつつも立花の精神へと潜ぐるのだった。

 

そして、ひと月にしてようやく最後のガングニールのラインを変更し終えたのだ。その回収した物を極小の欠片へと戻して櫻井に託す。ギアのペンダント自体は用意してあり、そこへと欠片を組み込むだけである。鼻歌交じりに組み込むその様子を部屋の隅から眺めていると、あっという間に完成したようだ。

 

「私にかかればお茶の子さいさいってね。それじゃあ、届けに向かいましょうか。」

 

細いチェーンに通されたペンダントを指で回して玩びながら部屋を出る櫻井に続いて私も部屋を後にする。羽織る白衣の裾をなびかせて、櫻井はご機嫌に立花の居る場所へと闊歩する。

 

「それで、立花の適合はどの程度なんだ?」

 

「大和君が一つ一つを丁寧に処理してくれたおかげで、今の響ちゃんは聖遺物に適合し易くなってるの。ガングニールへの想い入れと、大和君が残した繋ぐ力で適合しないほうが難しいんじゃないかしらね。」

 

丁寧に処理した甲斐があるというものだ。しかし、僅かながらに繋ぐ力が立花と混じってしまった訳になる。櫻井は悪い影響はないと言っていたので、まあ大丈夫だろう。

 

「響ちゃん、入るわよ。」

 

そう言いながら入室する櫻井。はたして確認の意味はあるのだろうか。聞こえてくる立花の挨拶の調子はいたって普通である。問題はなさそうだ。

 

「はい、響ちゃんだけのFG式回天特機装束(シンフォギア)よ。とはいえ、ガングニールに違いはないのだけれどね。」

 

立花は手渡されたペンダントを大切そうに両手で受け取る。それを胸の前に置いてその存在を確かめるように目を閉じる。

 

———Balwisyall Nescell gungnir tron

 

胸の歌を信じ詠えば、淡い輝きに包まれ生まれる立花だけの正義の具現。白、黄、オレンジ、黒のカラーリングのギアに褪せは無い。さらに、瞳の輝きは纏うギアを凌駕していた。

 

「ありがとうございます。私、これからも胸の想いを伝えます。だって、その為に求めた力ですから………立花 響、精一杯頑張ります!」

 

誰かの為に一生懸命な姿は見ていて眩しく、その笑顔に勇気を分け与えられた気が確かにした。

 

 

 

立花がガングニールを再び手にしてから数日。自室にて神楠と茶を楽しんでいた時、テーブルの上に二通の手紙が降ってきた。突然の出来事に面食らう私だったが、神楠はテーブルの上に落ちる前に二通とも掴んだ。

 

「随分とまあ珍しい事ですね。今の時代に手紙が届くなんて。それにしても、封筒に大きく《てがみ》と書かれているなんて不思議です。取り敢えず、開封してみましょう。」

 

中身を取り出して神楠は目を通す。すると、神楠は手紙を涙で濡らす。何事かと私も手紙を読むと、誤字が目立つが内容は遺書のようであった。努めて明るく振る舞おうとしている事に心が痛くなる。そして、送り主の名は《きりか》というらしい。どことなく、言葉遣いが切歌に似ているが、これは一体どういう事なのだろうか。

 

「神楠、これは一体?」

 

「これは、無数に存在する世界の一つから届いた手紙です。人窮すれば天を呼ぶという言葉がありますが、実際に届くことは無いでしょう。しかし、こうして世界を越えて因果は交わり届きました。だから、私はこの方を助けたいのです。お願いできますか、大和?」

 

誰かが助けて欲しいと必死に手を伸ばしているのだ。ならば、助けないなんて選択肢はない。

 

「勿論だ。だが、どのように向かえば?」

 

「鳥之石楠船神としての力を使い、この手紙の因果を辿って行けばいいのです。丁度先日、エアキャリアの改修が終わったところですから、それに乗って向かいましょう。」

 

そして、マリア達を集めてこの事について説明する。切歌は顔を真っ赤にしながら行きたいと主張するが、次の年度にはリディアンへと入学する予定なのだ。勉強嫌いの調と切歌が授業を理解出来る水準まで教授達が教えてくれている。それでも、学力は危ういらしく今回の件に同行はできない。櫻井は以前私がかき集めた200近い聖遺物に興味津々でパスだそうだ。ウェル博士と教授は、我々の代表として忙しい身であるから不参加だ。

 

「並行世界だって?面白そうじゃないか。勿論、あたしも連れて行ってくれるだろ?」

 

事態の収束までここに住んでいる奏は乗り気だ。

 

「遠くに行きたいという願いが、こうも早くに叶うなんてね。私は行かなければならない運命なのかしら?」

 

マリアは願いが叶う事に喜ぶ。

 

「調ちゃんや切歌ちゃんには悪いですけれど、私も並行世界に興味があります。最近知った、アニメやマンガみたいです。」

 

神楠に頼みサブカルチャーを買って来てもらっているセレナは楽しそうにしている。

 

「それでは、皆様がこれから向かうはこの世界と似て非なる鏡写しの世界です。この手紙がどれ程の時を経てここへと到達したのか不明瞭なのですが、一刻も早くこの方を助けたいのです。準備が出来次第、出発しましょう!」

 

私、神楠、奏、マリア、セレナの計五名での世界を越えた人助けが決定した。各々準備をしてエアキャリアに乗り込む。私が用意したのは向こうでの活動資金くらいだ。操縦桿を握れるのはマリアか奏だ。暇を持て余した奏がマリアに操縦を教えてもらった為だ。

 

「それじゃあ、並行世界へ行くぞ。」

 

鳥之石楠船神の力を行使して上空に大きな時空の裂け目を作る。そこへ向けてエアキャリアは飛び立ち潜り抜ける。本来ならば、億劫な程の距離らしいのだが、鳥之石楠船神の力はそれを省けるということだ。

 

 

潜り抜けた先は何処かの上空。雄大な山々には雪が積もり、山肌は岩が剥き出しだ。特に、私達の背後にそびえる山は一際目を見張る大きさだった。その時鳴り響くアラートに緊張が走る。

 

「こっちに向かって何か突っ込んで来てるけど、どうする大和!?」

 

機体をフロンティアと同じ材料で改修したエアキャリアには私のステルスの力が行き届いており、周囲からは捕捉されない。ならば、故障でもして墜落しているのだろう。その時、よく知った彼女達の歌が聞こえ、段々と大きくなってくる。

 

「私があれをなんとか止めてみせる。奏達はあれを避けて上空で待っていてくれ。」

 

私はエアキャリアから飛び出て墜落するシャトルへと向かう。久し振りに仮面を装着してどう止めるのか考える。強引に止めればシャトルは耐え切れずに潰れてしまうだろう。ならば、シャトルを壊れないように掬えばいい。刻一刻と巨大な山へと迫るシャトルと、それに取りつきギアによる逆噴射で減衰しようとするこの世界の立花、風鳴、雪音の三名。このままでは山肌への激突の回避は不可能。そこで、私はシャトルの前方に丸々飲み込める大きさの裂け目を発生させて突っ込ませる。雪音と立花の絶叫が聞こえたが、今は気にしない。続いて空中に小さな裂け目を幾つも作り、そこを縫うように鎖を伸ばして網を作り出す。そして、それ目掛けて時空の裂け目の出口を開きシャトルを突っ込ませた。重力に逆らい、網を引き延ばしながら徐々に減衰するシャトル。遂に速度がゼロとなり落下する時、延びた鎖を新たに伸ばした鎖を用いて中程で束ねてシャトルを宙に吊り下げる形にする。そこからはシャトルを絡めた鎖を延ばし、クレーンのようにゆっくりと下ろすだけとなる。下ろす最中に立花は目を丸くして、風鳴は見定めるように、雪音は警戒するように睨んできた。

 

『それで、こちらでの接触はどの程度がいいんだ、神楠?』

 

『余計な混乱を招きかねませんので、並行世界という事は話さないのが賢明なのです。後は、同名の人物が存在するであろうマリア、奏、セレナちゃんは勿論ですね。大和と私はそもそも存在しないので、名前を知られても然程問題にはならないのですよ。』

 

それにしても、何故墜落するシャトルと立花達へ手紙は導いたのだろうか。ただ、送り主はこの世界の切歌で間違いはなさそうだ。立花達を助けて欲しいと願っていたからとも考えられるが、その理由はあのシャトルにありそうだ。

 

鎖を解除し、下ろしたシャトルに近付くと風鳴と雪音は警戒して得物を即座に構えられるようにしている。

 

「あの、助けていただきありがとうございました。それでその………あなたはどうして助けてくれたんですか?」

 

「必死に助かろうと伸ばした手を、見捨てられはしないからな。ところで、そのシャトルには何が積まれているんだ?」

 

透かさずに風鳴と雪音は得物を構える。

 

「素性も明かさぬ者に教えられる筈もなかろう。」

 

「どうしても知りたけりゃ、あたし達を踏み越えてまかり通るんだな!」

 

やはり教えてはくれないか。普通に考えれば、私はシャトルの中身を狙った謎の人物だ。教えて欲しいなど無理な相談だった。

 

「やめようよ。きっと話せば分かり合える!」

 

「戦場で莫迦なこと言ってねぇで、お前は乗員を避難させな。」

 

「相手の戦力は未知数。だが、防人として守るべきものを必ず守り通す。」

 

途轍もない大事に発展させてしまった自身の軽率な行為に後悔しつつ、どうしたものかと神楠に相談する。

 

『私の不用意な発言で一触即発になってしまった。シャトルの中身は気になるが、そちらに引き上げてもいいか?』

 

『どうしてそんな事になったのか気になるのですが………そうですね、帰って来てください。シャトルの中身についてはこのエアキャリアの機能で調べますので。』

 

警戒する二人の目の前から、私は一瞬にしてエアキャリア内に跳躍した。操縦桿を握りながら奏は笑いを堪えていた。

 

「こっちのみんなも相変わらずだな。そりゃそうか。ただ、ギアの解除具合からしても何度かXDしてるみたいだ。まあ、今はこれからの計画を練らないと、だな。さて、このヘリが置けるくらいの物件を探しに向かうだろ、大和?」

 

首都から外れた郊外へと向かうヘリの中で、もう一通届いていた《おきてがみ》を読む。全てを読み終えた私は静かに元通りに封筒へと戻して懐に隠した。内容はデスが飽和状態で、間違いなく切歌が書いたものであると確信できた。

 

 

様々な疑問を残しつつも並行世界での第一歩を踏み出した私達であった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

やっぱり神獣鏡は活用したかったので鏡の特性を活かしてみました。ゲスくないウェル博士のAnti_LiNKERも活用。終末の四騎士の性格と口調を確認しながら書き進めたいです。次回は未定です。

次回もよろしくお願いします。
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