GXの筋道を手探りで進めている最中です。四騎士達を描く事に不安と期待が半々です。ぞなもしって何だと戸惑ったり………。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
私は英国首都の空を飛ぶ。それは、風鳴を尾行しているからだ。メトロミュージックのプロデューサーであるトニー・グレイザー氏によって、風鳴は英国を世界進出の足がかりにしたのである。今はその準備の真っ最中だ。そして、世界に羽撃くのは時間の問題である風鳴は、ひと月程先に開催予定のLIVE GenesiXへと出演予定だ。それは、ノイズなどの超常脅威による犠牲者の鎮魂、そして遺族の救済を目的としたチャリティライブイベント。そこには、救世の英雄へと祭り上げられたマリアも、勿論参加する。そのマリアと以前壇上でしのぎを削ったあの時のユニットをその場限りで再現するのだ。そのニュースは世界中を伝播し、大きな反響を呼んでいる。そして本日がライブに先駆けてリリース予定の楽曲のレコーディングなのだ。私は、ごく限られた関係者しか知り得ないレコーディングの日程を掴み、こうしてステルス状態で尾行している。
ほとんど車での移動の風鳴。それを上空から追うのだが、初めての英国の街並みに目移りしてしまうのを抑えるのは大変だ。異国の雰囲気を少し楽しんでいると、風鳴は停車した車から降り、しっくいで固め造られた建物へと消えた。その後を緒川さんが続き、しっかりと入り口を施錠する。ここに近付くにつれて視えていたが、既にこのスタジオ内に天羽々斬とアガートラームの微弱な反応がある。私が誰よりも先に聴くのは失礼だろう。レコーディングが終わるまで、ただひたすらに外で待つのであった。
月明かりの下、建物の上で寝転がっていた私はアガートラームの反応が動き始めたのを感知した。そうして建物から出たマリアを目視で確認し、走り去る車を追う。
車が到着したのは映画で観たことのあるような格式高いという言葉が合うホテル。その正面ではなく、人目に付かない裏の関係者口からマリアは警護の二人とともに入る。その周辺をホテルで待機していたのであろう男達が警戒してうろつく。私はアガートラームの反応が落ち着くまで待ち、ある場所へ留まったので向かう。カーテンによって光の遮られたホテル上層の一室の大きな窓。片手に神獣鏡を出現させて、その窓を強めに二度叩く。アガートラームの反応はその部屋から別の部屋へ移る。そして、カーテンが微かに揺れて黒いサングラスが見える。その瞬間に神獣鏡を輝かせ、サングラスの男を一時的に乗っ取り操る。今、男は夢でも見ている心地だろう。私は神獣鏡を覗く。そこには男の視界が映し出されている。男に窓を開けさせて乗り込み、もう一人の男をスタンガン程度の電撃で気絶させ、操っている男も同様に気絶させた。そこで周囲を見回す。どこかの王宮内を彷彿とさせる豪華さが眩しい部屋だ。さて、部屋全体を障壁で固めて誰も入退室出来なくし、ステルスを解除する。そして、マリアが居るであろう寝室へのドアを開けた。
「この曲者がッ!」
ドアを開けると、絶妙なタイミングで私の脳天目掛けて踵が落ちてくる。それを半身後退して回避するも、マリアの手刀が次々に迫る。私は大きく飛び退きながら神獣鏡のエネルギーで生成した深い紫の短刀でマリアの影を刺す。マリアは視線で射殺せる程に私を睨むも動けなくなる。これは緒川さんの影を射抜く技を私なりに再現したものだ。月の輝きを神獣鏡で、惑わす呪術で影を縫い動けなくする。
「これは翼の!? お前の目的は何だ!」
「君の所有物である壊れたアガートラーム。それを改修し、再び装者として戦えるようにする事だ。」
警戒を解かないも、私の言葉に眉が反応している。少しの興味は抱かせた筈だ。私は高そうなソファーに座りマリアの拘束を解く。向かいへと着席を促すと、隙を見せないように座る。マリアに敵意を込めた瞳で睨まれるのは、私の心を鋭い刃物で刺されるように痛い。
「フロンティア事変を収束させ、偽りの英雄へ仕立て上げられた歌姫。自由に羽撃く翼を奪われ、天に吊り上げられただけの現状に不満がない訳がない。」
「………馬鹿にしに来ただけなら帰ってくれないかしら。」
マリアの目には悔いや憤りなどの感情が渦巻いている。顔を知られても問題はないだろう。私は顔を晒し出して向き直る。私の突然の行動にマリアは、面立ちを記憶するように観察してくる。
「私は偽らない君の歌が好きだ。その為なら全てを尽くしたい。君の居場所はこんなカゴの中じゃなく、家族と呼べるあの子達の待つ場所だろう?」
しばし見詰め合う状況が続く。マリアの瞳を見ていると、あの日見た海の色を思い出す。海の青と空の青、その両方を兼ね備えた澄んだ瞳。カーテンの隙間からの光に色合いを変える。目を瞑り、根負けしたように大きく息を吐き、先に口を開いたのはマリアだった。
「貴方は不思議な人。少し灰色の黒い瞳はどこまでも澄んでいて、嘘は無いと信じてしまう。それに、妹の面影が視えるのは何故かしらね。」
私の見知った優しい表情に近付いた。そして、おもむろに首から提げている破損したペンダントを私へと差し出す。
「底抜けにお人好しのアイツにも重なって見える貴方に、私は預けてもいいと思えてしまった。だから、必ず私に直して返すと誓って。貴方、名前は?」
「葛城 大和だ。必ず君に返すと誓う。」
ペンダントを受け取りしっかりと掴む。託された事が嬉しくて、口角が上がってしまう。大切な思い出の結晶を壊れないように大事に懐にしまった。そろそろ、ここを出るか。ヴァジュラの波形を捉えた二課が風鳴を向かわせて、もうこのホテルの下層に到着しているようだ。窓へと向かい足をかける。
「あと、それまでの代わりの品といっては何だが、効力は間違いない物だ。」
鳥之石楠船神としての力を宿した緑の交通安全御守をテーブルの上に置く。
「交通安全………でも、御守りなのは何故?」
私は振り返らずに遠くの空へと狙いを定める。
「フロンティア。今度こそ、君が本当に望んだ未来へと進めれば………。それではまた。」
結界のように張った障壁を解く。同時に入り口の扉は大きく音を立てて開かれ、風鳴の駆ける足音が近付いて来た。そして、私は遠くの空に跳躍して帰る。心持ち急いだのは、マリアの笑顔を見たかったからなのかもしれない。
櫻井へとペンダントを預けて数日。神獣鏡による隠形にも慣れた私は、それを一定時間付与出来ないかと試行錯誤した末に行き着いた。神楠の身体に浮かび上がるラインからひらめいたそれは、刻印をタトゥーシールのように貼り付けるという簡単な物だ。その刻印自体は隠形で見えなくなるので問題もなく、それに込める力の量で時間も大まかに調節できる優れ物。欠点は、聖遺物としての格の低さ故に、格上の聖遺物のエネルギーによって効果が掻き乱され消えてしまう事だ。ギアを纏いバイザーで顔を隠せる奏はともかく、マリアとセレナは隠す必要がある。よって奏達は、櫻井に頼み製作してもらった目と鼻を隠せる仮面を携帯している。そんなある程度の自由を手に入れた奏達は、各々羽を伸ばして過ごしている。
「今日は付き合ってくれて嬉しいです。姉さんは私に対して過保護ですから。」
セレナは困ったようにはにかむ。日本有数のサブカルチャー基地をセレナと歩く。姉であるマリアと行けば、とは思う。だが、マリアにとってセレナは唯一無二の大切な妹であって、心配し過剰に干渉してしまうらしい。母親役も兼ねたマリアのそれを理解できなくもない。だが、セレナは若干疎ましく感じており、姉離れの時期なのだろう。
「まあ、それだけ愛されているんだ。マリアも失った時間を無意識に取り戻そうとしてしまうんだろう。」
「贅沢かもしれませんね。だったらもう少し、姉さんに甘えてもいいのかもしれないですね。」
そんな姉さんことマリアは奏と二人でカラオケに興じている。あまりにもついて行きたがるマリアを見兼ねた奏が半ば強引に連れ去ったのだ。それから特に連絡もないので楽しんでいるのだろう。雪音を可愛がる奏と意気投合しているのだから。
「私思ったんです。正体も明かさずに日夜人助けをする。その姿はこのマンガみたいだと。」
セレナは様々なマンガの積まれた中から、一際広いスペースを確保し置かれた物を一冊手に取る。《快傑☆うたずきん!》と銘打たれたそれのキャッチフレーズ、300万乙女のラブソングのインパクトは大きい。帯にはアニメ化決定とも。
「調べて判明したのですが、これはあの三名をモチーフに作られています。なら、私たちもこれに便乗して名乗ればいいのでは、と。」
確かにその方があちら側も処理しやすいだろう。得体の知れないモノよりも、立花達と一括して誤魔化せるのだから。こちらとしても、セレナ達の正体が露見しないので都合が良い。
「いいかもしれないな。帰ったらそう名乗るように決めようか。」
お昼も過ぎた頃、私達はファストフードで昼食を済ませる。マリアが栄養のバランスを気にするからか、セレナにとっては新鮮であり楽しそうに食べていた。調や切歌もこういった物を好むので、マリアが皆の栄養事情に頭を悩ますのは必然なのかもしれない。特に手を焼いていた偏食家のウェル博士と教授も、最近は改善されて野菜類を摂取している。野菜ケーキと豆腐ハンバーグ等がお気に入りらしい。
昼食後はセレナに同行して様々な店舗を巡り、特異な文化を楽しむ。セレナは行く先々でお目当の品を購入して、毎度嬉しそうに品を受け取っていた。そして、セレナの本日最後のお目当の店へと到着する。何を取り扱っているのか一目で理解できた。ウサギのキーホルダーが所狭しと陳列されていたのだから。店内は女性で占められ、少し居心地がよろしくない。一つ、目についたさくら色のウサギを手に取る。丸く大きな頭に茄子のような胴体。三頭身足らずで、腕と脚は同じ長さ。その腕より倍近く長く垂れた耳と、そのつけ根に赤いリボン。クランベリーのつぶらな瞳と、同じ色の鼻。への字に強く曲がった口。確かにすべてが相まって愛らしく仕上がっている。何となくであるが調に似ているかもしれない。それに、その色が故郷のある景色を想起させるからなのか、言い知れぬ親しみを覚えていた。
「大和はその子がお気に入りですか?」
セレナは色とりどりのウサギをカゴに入れていた。そんなに買うのかと尋ねたところ、皆に買うとのことで私の意見を聞きたかったそうだ。私がそれぞれに抱く色はそうだな。奏は朱、マリアは翡翠、調はこのさくら、切歌は黄緑、神楠は黒、ウェル博士は銀、櫻井は金、教授は藤。
「私が灰色で、セレナは白色だろうか。そして、残りにオレンジ、蒼、赤ということは立花達の分ということだな。」
「そうです。みんな喜んでくれるのかな?」
マリア達も大人組も喜ぶ姿が浮かぶのだから問題ない筈だ。分かり合えた者同士で共通の物があれば、目に見える形で繋がっているのだと再確認できる。指輪などのアクセサリーはその意味合いが強い。
「きっと喜んでくれるさ。私は大切にしたいと思っているからな。」
「ありがとう、大和。それではお会計を済ませますね。」
セレナは会計へと鼻歌交じりに向かう。私は混雑し始めた店内から先に出て入り口で待つ。夕陽が赤くて眩しい。そういえば、今日の夕食は神楠が作ると張り切っていたな。神楠なりにこの前の事を気にしているのだろう。私達を見送った時の表情は笑顔だったが、ほんのりと曇っていた。すぐにでも、そんなことを気にしていないと伝えねばな。そして、あらゆる感情を私達は受け止めてあげられるとも。
「お待たせしました。………浮かない顔をしてどうしましたか?」
「ここ最近の神楠の事を考えてしまってな。皆と距離を置こうとするきらいがあるだろう?」
あの一件で、近しい者を遠くに感じてしまっているのだと思われる。ヒトの形をして歩み寄るも、周囲との違いに気が付いてどうしようもなく苦しいのだろう。永く独りで居た弊害である。
「でも、私は神楠ちゃんの新しい一面が見られて嬉しかったです。神楠ちゃんとは気の置けない仲になりたいですから。きっとそれは姉さんたちも同じです。」
悩むのは自身がそう思い込んでいるだけであり、話してみれば呆気なく解決したりするのだ。今回は少し強引に聞かせたが。
『わざわざこのように聞かせなくてもよいのではないですか、大和? でも、ありがとうございます。それに今、一人でよかったです………涙は見せたくありませんから。帰ってきたら、笑顔で迎えられそうです。』
不意打ちでの解決に卑怯だと、嬉しそうな声音で反発される。私の頬は緩み、同様に神楠も笑っているのだろう。
『どうしても抑えきれない感情を一人で抱えずに、私が受け止め支える。あの時、一緒に居るくらいと言ったが、それ以上に笑顔でいて欲しいからな。神楠の手料理を楽しみに、今から帰る。』
『本当に、もう………。夕食、楽しみにしていてください。』
しばし休憩してから、私は晴れやかな気分でセレナと並び帰路に就く。足早になるのは、きっとこの気分のためだろう。人気の無い路地へ進入し、神楠が待つこの世界の拠点へと繋げて潜るのだった。
青い海を眺め、私達はエアキャリアで航行している。見渡す限りの水平線。窓から射す日のぬくもりを背に受けながらS.O.N.G.本部である潜水艦を追う。この世界に訪れ初めて立花達と接触した時、ギアに鎖の残滓を忍ばせてそれを頼りに捜したのだ。ギアの解除とともにプロテクターは再びエネルギーへと還元され衣服へと戻る。その過程で異物である鎖の残滓を繋げ馴染ませペンダント内の欠片と同化させた。それにより、その反応を辿れば居場所を把握でき、海にあるならば潜水艦という訳だ。
『そちらの状況は、神楠?』
今現在、神楠はマリアに化けて替わっている。
『特に変化なしです。ただ、警護されるのは何か………そう、身体がむず痒いのです。』
マリアのスケジュールは休みであり、神楠は人前に出ないので誰も違和感を覚えはしないだろう。そういえば、時差の関係で向こうは日も出ていない。取り敢えず、神楠にはゆっくりとしてもらうか。
この世界のマリア本人は私の隣で大人しく座っている。操縦はマリアが担当して接触を避けている。マリアとマリアでややこしい。アガートラームのマリアにはAを付けて区別するとしようか。そんなマリアAは口も開かずに、向かいに座り隠形を施してある奏とセレナを見透かすように見る。そして、小さく呟く。
「………可愛い。でも何故、こんなにも愛おしくなるのか。遠い昔に同じ感覚を私は———。」
姉としての超感覚なのか妹をあと一歩まで嗅ぎ分けてみせる。対面のセレナは隠形が見破られたとでも勘違いしたのか隣の奏や私を交互に見て助けを求める。
『慌てなくとも問題ない。格上の聖遺物に接触さえしなければ隠形は解除されない。』
『まあ、バレたらそのときゃそのときさ。遅かれ早かれ歌えば疑われるんだ。気楽に行こうぜ、な?』
落ち着きを取り戻したセレナと奏をマリアAは険しい表情で見詰める。だが、これ以上は何も得られずに潜水艦の真上に到達した。
「それでは先に行って繋いでくる。」
目を閉じ潜水艦内部の反応を探る。暗闇の中、よく知った小さな光の発生源へと手を伸ばしてそれを掴み取る。どうやら空気感が変わったな。目を開ければ、ここは潜水艦内部の何処かの部屋。最低限の生活家具が配置されており、ベッドに腰掛けた雪音と目が合った。驚愕の表情で固まる雪音。
「………今日はS.O.N.G.に、風鳴 弦十郎に用事があるんだ。ああ、君はそのままでいい。それではまた後ほどに。」
部屋を出て通路を歩き訓練シミュレータールームに向かう。神獣鏡によるステルス状態であり、すれ違う職員達は誰も気付けない。目的の扉を潜ったタイミングでようやっと艦内にアラートが鳴り響く。シミュレータールームは思った通り広いな。ここならあれを出しても問題ない。その前に集まってもらおうか。神獣鏡を基底状態へと戻して設置されているカメラを見詰める。向こうには突如として西洋甲冑の騎士が現れたように映っているのだろう。聖遺物の反応も一つこちらに向かって来るようだ。先にマリアAをこちらに呼び出そうか。空間を裂きエアキャリアへと繋げてマリアAを手招きで呼び寄せる。すると、先程見た雪音と同じような表情になるも、ゆっくりとこちら側に降り立つ。
「貴方達は本当に何者なの?それに、さっきの乗り物はエアキャリアにあまりにも似過ぎている。」
「すまない。言えない事が多い身だ。」
その時、扉が開かれて雪音と、その後に職員達と司令が続きなだれ込む。私達を取り囲むも、居る筈のないマリアAの姿に動揺が感染している。その証拠に構えた銃口が揺らいでいるのだ。しかし、司令が一歩前に踏み出すと頼もしい姿になのか、勇気付けられたかのように収まり強固にまとまる。
「大胆不敵にも敵地に乗り込んで来るとは、大した奴だ。それで、一体何が目的だ?」
ネクタイを弛めながら、後半に連れて語気を強めてくる。視界の隅では、雪音がクロスボウを引き絞り、いつでも発射可能な状態で警戒している。
「今日はS.O.N.G.と彼女達に贈り物をしにきた。外だとどうしても第三者に覗かれかねない。あと、これからそれを取り出すが下手に攻撃しないでくれると助かる。」
時空間を裂き、向こうの世界へと右手を突っ込む。そして、トレーラーに積む大きさのコンテナへと鎖を巻きつけて引っ張る。少し、足場が凹むがそのまま歩幅に合わせて引き摺り出す。周囲は初めて目撃したであろう奇妙な光景に絶句。コンテナの擦れる音だけが響く。そして、取り出したコンテナを開けば、ウェル博士が造り出したLiNKER関連一式のお披露目である。私はその中からマリアA専用のLiNKERを手に取り専用の注射器にセットしてマリアAに渡す。
「戦う覚悟があるのならば、打て。そして、銀の輝きを纏ってみせろ。」
目を閉じ首から提げた形見を強く握り締めて、首筋へと注射器をあてがいトリガーへと指をかける。そして、見開き不敵に笑ってみせたのだ。何も怖くなどない。そう言うかのように。トリガーを引き、容器を満たしていた液体が徐々に減少し無くなる。室内の人の密度に対して不釣り合いに静かな空間で、マリアAは聖詠を強くしなやかに紡いだ。銀の輝きが一帯を支配し、セレナとは違った左右非対称のギアを身に纏い降り立つ。左腕の防御が厚いのは、右の手で他者と繋がり、左の腕で守り通す。その想いの具現なのだろうか。
「応えてくれてありがとう、セレナ。だから、私は絶対にこの手で守ってみせる。もう大切なものを失いたくないから。」
マリアAは左手を固く握り締め、語りかける。今、何よりも眩い存在に誰も声をかけられずにいた。
そうして、本物だと証明した事により敵対するつもりはないと信用させて、司令と雪音、マリアAとともに別の部屋へと移動してイスに座っている。
「それで、君の目的は本当に彼女達へとLiNKER関連一式を与えるだけだったと?」
私は頷く。だがそれを雪音は胡散臭そうに顔を歪めて納得していない様子。司令もにわかには信じられないと思っているのだろう。誰だって突然見ず知らずの他人がホームラン級のお節介を焼いてきたならば、ありがたさよりも恐怖を感じる筈だ。今現在、S.O.N.G.職員がLiNKER関連一式を慌てて調べている。まあ、正常だな。
「そこは信じてもらうしかない。彼女達には平穏に暮らして欲しいと願っている。だが、特異な存在となった以上、その中での最善を選べるようにしたかった。無茶はさせたくないからな。」
「そんな聖人ぶってる奴を、二言返事で信じられっかよ。裏で何してるのか、わかんないったらありゃしねぇ。」
雪音は私の行動を厳しい目で監視している。私は頑丈な造りの手錠で拘束されている。だがしかし、先程コンテナを引っ張った怪力の持ち主なのだから、まあ当然だろう。実際、力を込めれば捻じ切るのも、高熱で溶かすのも容易だ。だがそのようなことをしてまで、私は雪音と戦いたいとは思わない。
「それで、謎と制約の多い貴方———葛城 大和だけれども、明かせる範囲で話してくれないかしら?」
並行世界と神、私と神楠以外の正体は話せない。さて、何を話そうか。そういえばほとんど初対面だな。人間誰しもわからないものには少なからず恐怖を抱く。ならば、ここはひとつ、自己紹介だろう。
「葛城 大和、17歳。誕生日は1月27日のA型。身長は約175cmで体重は64kg。趣味は洋菓子作りで、好きなものは茶と粉もの全般。最近興味があることは剣術だ。」
そう言い放つも皆目を丸くして、それ以上の反応が返ってこない。私が腕を組みしばらく。戸惑いからいち早く立ち直ったのは司令だった。
「君個人の人柄は伝わった。つまり、所属する組織等を教えるつもりはないという事だな?」
「そうだが、決して敵対するつもりは無い。それに、我々の有する異端技術は旧二課の、世界の先へと進んでいる。強過ぎる力は争いを呼ぶ。故に、これ以上の技術提供は無い。」
力を持つ者は、正しく力を行使しなければならない。その義務と責任があるのだ。きっとそれが人類の相互理解を妨げる呪いを解く鍵になると信じている。
「ああっ、もうわけわかんねぇ。突然現れてトンデモない物を手土産にして、挙げ句に自己紹介だと!? あの馬鹿よりもよっぽどネジのぶっ飛んだスクリューボールが!!」
雪音は顔を赤くして立ち上がり絶叫する。
「それで、解析はいつ終わる?」
今にも飛びかかって来そうな雪音を抑える司令は通信機を使い確認する。それによると明日には終わるらしく、私は用意された部屋で待つ事になった。
生活感の欠落した殺風景な一室に案内され、私は暇を持て余していた。上空で待機していたマリア達は帰らせたので本当に暇である。仕方ないので元の世界の自室から本を取り出して時間を潰す。すると、扉が開き食事を持った雪音が入室する。不機嫌を隠しもせずに眉を歪めていた。トレー自体はゆっくりとテーブルへ置いてくれるところに、雪音らしさを感じる。
「なんであたしがこんな………。ほら、いいからさっさと食ってんだ。」
私はお礼を述べてから箸を持ち食べ始める。雪音は部屋の入り口近くの壁にもたれて、こちらの様子をただ眺めていた。見られていると食べるのに躊躇いが生じる。私はその視線に耐え、食べ終わる頃合いに雪音は口を開いた。
「どうしてあそこまでして助けたんだ。無償とかそんな綺麗事、そう簡単にできるもんじゃないだろ?」
ここにきて初めて雪音の方から私へと一歩、心理的距離を詰めて来た。それに伴い、テーブルと入り口まで離れた雪音との距離も近付いた気がする。私と視線を交わらせたまま、答えを前のめりな姿勢で待つ。
「確かに金銭は求めないが、無償でもない。助けが必要だったのかもしれない。だが、助けると決めたのは自分自身。助けたいから助け、その笑顔が見たい。自己満足なんだ。」
結局、行き着く答えは自分自身の為である。
「そうか。なら良かったな。あいつ食事の時、嬉しそうに笑ってた。」
セレナの想いと力を継ぎ、調と切歌に会える事が嬉しいのだろう。その話だけで私は充分である。それに、嬉しそうな声音で雪音が語るのだ。ならば、私の行動はきっと間違っていなかったのだと自信が持てる。
まだ立花達は、あらゆる危難に折れぬ強さを得てはいない。しかし、そう簡単に折れはしないだろうと思えた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少し早くマリアさんにはS.O.N.G.へと編入していただきました。後は原作通りに英国で歌うのですが、四騎士と戦える戦力が多いので多少変わるかも?
次回は未定です。
次回もよろしくお願いします。