蘇る彼と聖遺物   作:はるひよる

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フォニックゲイン休息充填完了しました、はるひよるです。

今回は海底施設へGO、海より迫る巨人です。

読んでいただけると嬉しいです。


深淵の英雄と守りたい場所と

湯沸室をお借りして人数分用意した緑茶を啜り心地よいひと息をつきます。新緑の若葉香る碧色をしたフロンティア産茶葉100%の逸品をマイカップで味わうとまた格別です。姉さん達の映る大きなモニターを眺めればクリスちゃんが先頭で竜宮の奥へと進んで行きます。

最初クリスちゃんは得体の知れない姉さんを連れて行くのに反対していたけれど、私が誠心誠意お願いをしたら顔を赤らめて渋々同行を許してくれてよかったです。断られたら対話フェイズB《ぶち抜けガングニール》へと移行せざるを得ませんでしたから。それとクリスちゃん説得の最中に姉さんの口元が緩んでいたのは何故でしょうか………。

 

「それでキャロルちゃんは何を求めて海底まで来たのでしょうか?」

 

「おそらくは世界解剖の為に欠けている部品の入手だと思われます。でもボクはシャトーの全容を把握してませんのでしらみつぶしにリストを見ることしかできません。」

 

そうなるとチフォージュシャトーは巨大なのでしょうか。名前からしても大きそうですからね。

モニターには目で追える限界の速度で下へと文字の羅列が流れています。一応機密だと思うのだけれど私は口堅いですから安心してください。その意を込めて司令さんに向けて微笑んでみると、難しい表情を浮かべてスクロールするリストへと視線を戻されました。確かにこの艦内に招かれるまで過激な方法でしたから。

銀の盾で造った海上の道を姉さんのバイクで駆り、潜水艦に追いつきます。水上をそのままでの疾走はまだ不可能です。そして私たち二人が潜航する甲板に我が物顔で居座りまして、ほとほと仕方なしといった具合でしたから。私はともかく姉さんのギアは了子さんにより多岐に渡る強化を施されXDに及ばずとも海中でのスムーズな活動を可能にしています。あのマントがちょっと羨ましくなってしまいます。

 

「止めてください。《ヤントラサルヴァスパ》………あらゆる機械を意のままに操ることのできるこれならば………狙いはこれに違いありません!」

 

モニターに映し出された物は黒と白の方形の板が束ねられた物で何かが書かれており、その書簡のような物がヤントラサルヴァスパらしいです。言葉の響きからしてインドゆかりの品かもしれませんね。そうでした、シアが竜宮には世界各地の異端技術(ブラックアート)が詰め込まれて封をされていると言ってました。扱いに困る物ばかりであるとも。

 

「ヤントラサルヴァスパの管理区域特定しました。装者達を誘導します。」

 

「至急だ。何としてもここでキャロルの野望を断つぞ!」

 

モニターの竜宮のマップには双方の位置が表示されます。あちらが闇雲に探しているのなら先に押さえられるでしょう。そうでなくとも急がなければいけません。着々と計画を遂行する錬金術陣営に先手を取られっぱなしでは阻止できませんから。後の先を取るのは難しいですがやるほかありません。

因みにですが、私がここに残っているのは切歌ちゃんと調ちゃんがミカと激闘を繰り広げたあの日の同時刻にこの艦が巨大なヒトガタに足止めを食ったからです。銀の盾の物理的な耐久値は決して低くはありませんが普通に展開すれば間違いなく破られるでしょう。

思い出すのは連発される猛々しい拳で薄氷のように容易く突き破り進撃してくる姿に英雄と鬼神を幻視しました。身体を途轍もない衝撃が突き抜けるガングニール怖いです。あれに比べれば大きいだけの拳なんて怖くありません。絶対の絶対に守ってみせます。だからそちらは任せましたよ、姉さんにクリスちゃんたち。緊迫する場の空気に私は自分の気持ちを少しでも和らげようと緑茶を啜ります。やはりこの色と爽やかな香りに心和みます。

 

「大丈夫だよ。」

 

真剣な眼差しで画面を見詰めるエルフナインちゃんの頭を撫でながら行方を見守りました。

 

 

 

———レイヴンサイド———

 

前を走るクリスの銀に輝く長い髪は動きに合わせて靡いている。深淵の竜宮などとお伽話の竜宮城を連想させるけれども煌びやかなところなんて全くと言っていい程にない。シェルター内部のように静寂が流れる日の下から隔絶された空間。こんな場所にひとり閉じ込められれば狂ってしまいそう。まだ白い家には人間が存在していたので多少はマシである。

 

「ヤツらはもうすぐそこだ。どんな裏ワザを使ったのか知らないがケリをつけてやる。おまえら気を抜くんじゃねぇぞ!」

 

「了解しました。」

 

「かしこまりデス!」

 

その範囲に私は———振り返れば期待の眼差しに晒されていた。私も何かしら言った方がいいの………?

 

「そうね、油断せずに行きましょう。」

 

無難なところに落ち着けたけれど何もおかしな反応はないようだし良かったようね。ならば前進あるのみ。セレナが観ているのだから無様な姿は見せられない。首から提げたこの烈槍に懸けてクリス達を守ってみせるから。

 

いくつもの区画を進むと黄色い人形を侍らせた金の髪の少女と遭遇した。キャロルが手に持つのは方形の板が重なった物で、十中八九目的の物だろう。

 

「遅かったな、既に目的は達したぞ。お前達はシラミでも潰してるのがお似合いだ!」

 

それでも終わった訳ではない。ここで逃がしてしまえば世界解剖に向けて一気に近付けてしまう。キャロルを捕らえるか、ヤントラサルヴァスパを奪還する、もしくは使用不能にまで破壊してしまうかだ。ただいずれも強力な戦闘力を有するレイアとその主たる錬金術を修めしキャロルが最大の障害となるだろう。それに赤い小瓶で転移されるのもたまったものじゃない。ならば攻めの一手で使用するいとまも与えない事だ。

キャロルによって私達の行く手を阻むアルカノイズが召喚される。私達はペンダントを掲げ歌った。

 

「オマエらはここで終いだ! ついて来い二人とも!」

 

まあそうなるわね。いくらクリスとの訓練経験があろうともこちらのクリスはそれを知らないのだ。慣れた組み合わせで戦う方が力を発揮できる。であれば私はソロで戦う感覚でいれば問題ない。時折援護があれば儲けものとでも思うとしましょう。

 

「参る!」

 

アルカノイズの群れへと突っ走りキャロルを目指して最短で一直線に猛進する。海底施設の耐久性が明らかでない以上は高出力のレーザーなどは控えるしかない。諸共に沈むなんて真っ平御免だ。順調に進む私の前に影が落ちてくる。

 

「ここから先には行かせん。」

 

「退かぬなら押し通るまで!」

 

レイアの胴へ槍を進む勢いのまま突き出す。躱すのなら槍で薙ぎ払い、受け止めようものなら挟み身動きを封じるまでだ。

だが気付けば宙を舞い後ろへと突き飛ばされてしまっていた。レイアの能力により足元から連続して突き出す金属の突起物に全身を強く打たれたのだ。だが危険を察知してマントで和らげたので軽傷で済んでいる。

着地点に待ち構えるアルカノイズはマントを竜巻に変え葬り去る。

 

「くらいやがれ!」

 

怒声とともに発射されたイチイバルによる巨大なミサイル攻撃。その狙いはキャロルただひとりか。

クリスは錬金術を行使させまいとガトリングを掃射すると調も空中へ飛び上がり小さな鋸の刃をキャロル目掛けて雨のように降らせた。

差し迫る危機に対してキャロルはドーム状に障壁を展開する事で手一杯のようだ。

それでも従者であるレイアがコインを巧みに操りガトリングや鋸の刃を相殺しつつ二発あるうちのミサイルを片方落とす事に成功した。

 

「ぐっ………こんな時に。」

 

何かしらの無理が祟ったのか痛みを堪えるように歯を食いしばり片膝をついたキャロルに慌てた様子のレイアが向かう。

その隙を逃さずクリスはハンドガンへと持ち替えて狙い撃ったのはキャロルが手中に収めていたヤントラサルヴァスパ。弾き飛ばされたそれを調の鋸の刃が真っ二つに切断した。

残すはキャロルの目前に迫った一発のミサイルだったがレイアによって軌道を逸らされ壁面に激突して爆発、爆煙を上げた事で二人の姿が隠れてしまった。

 

「やったデスか!?」

 

警戒を怠らず煙が晴れるのを待つと浮かぶシルエットは三つ。エルフナインの情報になかった秘蔵っ子でも満を持し出してきたのか。しかし、立ち上がる事も忘れたように両膝を折りお尻をつけて座り込むキャロルは呆気に取られた表情で目の前の人物を見上げている。

 

「アイツは!?」

 

見覚えのある白衣、それと同じ色の髪にある人物が思い浮かぶ。

 

「そんなのあり得ない!」

 

耳障りな笑い声をこぼしながら腰の横で右の拳を握り土気色を通り越した褐色異形の腕を伸ばして私達へと指を差す。

 

「どうしてオマエなんかがッ!?」

 

閉じられた瞳を大きく見開き大袈裟に息を吸い込むと特有の異様な雰囲気で嫌でも存在を知らしめる。

 

「戦場が呼ぶ。英雄を呼ぶ。騒乱の只中に行けと僕を呼ぶ。帰ってきたぞ、為政者ども! 跪け、愚民ども! 僕こそが唯一にして絶対真実の人、ドクターウェルッ!!!」

 

まるでアニメのような口上に頭は痛くなる。この痛々しい男がドクターの可能性の姿だなんて………どこか妙に納得してしまうけれど。突飛な彼の発言はひとまずその辺に放置して、やはり気になるのはあの左腕だ。LiNKERの技術と彼の狂気が融合した産物はネフィリムの力を宿しているらしい。そのように復元したフロンティア事変の資料に記載されていた。狂人であり常人の彼が聖遺物の力の一端を自在に行使できるのは偉業と呼ぶには異質だけれど相応しい。その末路が存在の抹消なのには同情の余地もないけれどね。

 

「久しぶりの再会ですが———おや、におうにおうぞ。どうして君らから僕の造ったLiNKERに酷似したにおいが………それに仮面のお前! どうして消滅した筈のフロンティアのにおいを醸しているんだ! さてはネコババしやがったなこんちくしょうめ!」

 

随分な言い草に呆れて言葉も出ない。元はといえば海底へ封印されていた危険物を強奪し、あまつさえネフィリムの餌として爆弾へと変えたのだから情状酌量の余地はない。これを神楠が聞いたのならば果たして彼は無事に生きて帰れるのかしらね。それと女性に対してにおうとか禁句でしょうが!?

 

「さあね。ただ事実を捻じ曲げるのだけはやめた方がいいとだけ忠告してあげる。」

 

凡庸でない彼でも神であり完全なるネフィリムに勝つ事は万に一つもない。今からでも辞世の句を書き遺しておく事ね。

 

「騒がしいぞ新参者が。遊びたいならよそでやれ。」

 

再びアルカノイズを喚び出し不機嫌に眉間へとしわを寄せる。そんなキャロルに対して彼は戯けた態度で見下ろす。

 

「新参とか古参とかそんな枠に英雄は収まらない。天上天下唯我独尊それが英雄だと心得るべし!」

 

「ではお前に何が出来る。英雄たる根拠を明示してみせろ、自称英雄殿?」

 

不敵に笑い挑発するキャロルに彼は左の白衣の袖を捲し上げて褐色の腕を晒す。

 

「この腕こそが僕にのみ備わった至高の頭脳に次ぐ英雄的要素の一つ、ネフィリムの腕。ありとあらゆる聖遺物の制御を可能にする堕ちた巨人の腕さ。」

 

「マスター、この男………。」

 

「分かっている。レイア、時間を稼げ。ドクターウェル、お前はオレについて来るがいい。」

 

ある意味最悪の出会いにどうしたものか。キャロルが彼を誘うのはあの腕の力が欲しいからだろう。まったく本当に間の悪い迷惑な男だ。

 

「絶対に逃がさねぇ………とっておきのをくれてやる!」

 

クリスは決着をつけるべく必殺の一撃を決めようとしてなのか先程より強力なミサイルを二発構える。

彼の存在が無遠慮に周囲の神経を逆撫で苛立たせるのは周知の事実だけれどその選択はいただけない。クリス以外は驚きの表情を浮かべているのだから。

 

「冷静になさいクリス、ここは海底の施設だ!」

 

「待つデスよ!」

 

「それでは施設が壊れてしまう。」

 

「———ッ!」

 

クリスは唇を噛み締めながらミサイルを引っ込めた。

そんな中、レイアはアルカノイズの間を縫うようにしてクリスに迫る。クリスは俊敏なレイアの動きを追ってガトリングを撃つがアルカノイズが蜂の巣になるばかり。赤い粒子が辺りを漂い視界が悪くなる一方だ。撹乱されっぱなしで怒りが頂点に達しそうになっているのか視野が狭まり周囲が見えていない。これでは近付くのも危険だ。

すでにレイアやキャロル達はどこかへと消えてしまっている。いい加減止めなければ。そんな時、クリスの銃口が意図せず調へと向けられそうになり

 

———私は槍を投擲する。

 

「———んな!?」

 

一条の槍がガトリングを砕き鋼鉄の床に突き刺さり、クリスはその衝撃でよろめきながら後退する。

 

「二度はない、落ち着けと言っている!」

 

そう言い放ち私は槍を引き抜き携えてクリスを見た。眉間に力が込められ険しくなる表情からは焦りの色が見えた気がする。

荒々しい動作で周囲を見回すクリスは撃つべき目標を見つけられずにいた。

 

「………逃げられたのか!」

 

赤い霧が晴れて隠されていた床の大きな穴があらわとなる。強い酸性に溶かされたみたいに断面は滑らかで下の階層まで開いている。余裕で人が通過できる大きさね。本来はこのままキャロルを追えばいいんだろうけれどその行方は知れず。それにこの問題を放置するのも得策ではない。クリスに対して愛されキャラのイメージを抱いていた私にとって悩みを解決してあげたいと思うのはごく自然な事だ。優秀なバックアップに捜査は任せてその間に私は時間を有効に活用しましょう。

 

オペレーターの指示に従い四人連れ立ち目指すのはこの区画の副管制室。ひとりで勝手に先へと進むクリスに私達は早足について行く。そんな怒っているとも取れる態度に後ろの二人は申し訳なさそうに暗い表情だ。すると切歌は顔を上げてクリスに駆け寄る。

 

「うまく動けなくてごめんなさいデス。でも次は協力してみんなですればきっと———。」

 

切歌は淀む空気に和を取り成そうと持ち前の明るさを発揮してみるが

 

———肩を小突かれた。

 

「必要ねぇ、あたしが決める。決めなきゃならねぇんだよ。」

 

手をとり合うべく差し出されたそれを、あくまで自身で成し遂げようと意志を曲げないクリスは拒絶する。

切歌はその事にショックを受けてしまい声も出せずに目の前の光景を茫然と眺めるしかない。誰しも自身の力で何かを掴み取らなければならない時がある。但しそれが大切である仲間を蔑ろにしてまで優先すべきなのか、私には理解し難い。どんな時もひとりじゃないのだと大切な人達に教えられた。逆もまた然り。

 

「感心できない。何を焦っているの?」

 

切歌とクリスの間に割って入り一歩詰め寄る。身長差から目元まで銀の髪に隠れて表情は窺い知れない。

 

「お前には関係ないだろ!」

 

切歌同様に私に対しても突き放そうと出してきたそれを肩で受け止める。響の拳に較べてなんと軽い事か。当然のごとく私は怯まずにクリスの懐へと更に一歩踏み込んだ。目を丸くして惚けた顔が目と鼻の先に。クリスが身構え息を呑むのを感じられる。なんだろうか、簡単に折れてしまいそう。だから私は傷付けないようにクリスを胸に抱き寄せた。

 

「無い事はない。だって私は君を、君達を大切に想っているのだから。」

 

この想いを言葉に紡ぎ温度でも伝えたい。私の知る雪音 クリスという少女は他者とのふれあいや馴れ合いに臆病だ。一方で喜怒哀楽の表現を惜しむ事はなく、誰かの感情に強く影響されてしまう感受性豊かな優しさを兼ね備えてもいる。そんな優しいクリスが仲間を大切に出来ていないなんて悲しいでしょう。私の腕に包まれているクリスからはラベンダーのような落ち着く香りがする。

 

「駄目だろうか?」

 

すると胸に顔を埋めつつクリスは抱えていたモノを吐露した。

 

「らしくしなきゃって………だってあたしは先輩なんだ。」

 

「そうね。なら焦っていたのはどうしてなの?」

 

クリスから寄り掛かる重みが少し増した。

 

「………頼りになるでっかい存在の先輩がいるんだ。あたしもそんな風になりたくて。でも空回っちまう。そしてとうとう後輩にも追い抜かれて、こんな先輩は情けないよな。何やってんだろう、あたしは。」

 

クリスは自分なりに理想の先輩に近付こうと努力をしたのだ。頼りになる先輩になろうともがく中で後輩である切歌と調に追い抜かれて自身に嫌気がさしたのだろう。

 

「わかるわ、その気持ち。………クリス、貴女の努力は嘘じゃない。無駄でもないの。その想いは二人にちゃんと伝わっている。だから貴女の背を見てついて行く。尊敬する大好きな先輩であるクリスのように恰好良くなろうってね。」

 

守るべきものに守られる辛さを二度と味わいたくない。まだ挽回は可能でしょう。頑張りなさい、と私はクリスの頭をゆっくり落ち着かせるように撫でる。

 

「こそばゆい感じ。あたしにゃもったいないくらいに出来た後輩だ。いつまでも手を繋がれるばかりじゃ胸張って先輩だなんて恥ずかしくて言えないよな。」

 

クリスは私から離れてずっと様子を窺っていた二人へと向き直る。

 

「いつもいつも迷惑ばかりかけていたあたしデスけど、そんなあたしにクリス先輩はちゃんと叱ってくれるんデス。その度にあたしのためだって優しい気持ちが伝わってるのデスよ。」

 

「ちょっぴり怖い、けれどそれ以上に嬉しいと思ってしまうの。あと、勉強を頑張ったご褒美に三人で外食することが楽しみで、先輩との大切な時間だったり。だからこれからも私と切ちゃんをよろしくお願いします。」

 

お互いに手を伸ばせば届く距離。先に手を伸ばしたのはクリスだった。自らの意思で後輩の手を取り繋ぐ光景に成長を感じて私は嬉しくなる。

 

「切歌に調、ついて来てくれるか?」

 

面食らったように目を大きく見開いた後に二人は顔を見合わせ口元を緩めて正面を向いた。私にも分かる。素直なクリスの破壊力はとんでもないから。

 

「あたぼうデスよ!」

 

「勿論です、クリス先輩。」

 

笑い合う三人の結束は強固になったでしょう。先輩後輩の信頼関係で結ばれたのだから今度こそ連係して動ける筈だ。

三人は手を繋いでいないが触れそうな程近くをともに走る。私はそのあとを軽くなった足取りでついて行った。

 

副管制室にてモニターに映る風鳴司令と話す三人。施設内部に配置される区画を切り離す為のシャッターのスイッチの確認しているようね。私はセレナが御守り代わりにと装飾したファンシーな通信機を取り出す。

 

「聞こえてるかしら。」

 

「はい、心配しなくても憶えましたよ?」

 

「OK、流石。マネージャーとしての経験が生きたようね。」

 

「伊達にマネージャーは務めてませんので———っと、どうやらあちらの居場所が判明したようです。任せましたよ、レイヴンさん。」

 

「任された。」

 

レイアとは幾度も槍を交えた。しかし決着はまだだ。いつも次回へと持ち越されて今に至る。部屋を後にした私達は再び誘導に従いキャロル達を追跡する。これ以上あちらの好き勝手にさせてなるものか。

 

意気込み走り数分、この複雑で迷宮のような構造の竜宮で一向に追いつく気配がない。こちらは最短ルートで追っている筈なのにどうして。まるでこちらの考えを読まれているかのような………真逆、仕込まれていたのか!? そうなれば私達が疑わしいと睨まれてしまう。

 

「そちらはどうなっている!」

 

「それが………霊体のようなキャロルちゃんがこちらに。ベースが同じだから上位である彼女に一方的に感覚器をジャックされていたみたいです。」

 

わざわざタネを明かしに来たですって………狙いは何だ。エルフナインは無自覚に間者としてキャロル陣営に情報を発信していた。こうしたという事は最早キャロルにエルフナインは必要ないという意志表示か。今頃、自責の念にかられているであろうエルフナインを断ずればS.O.N.G.内部に悪い影響が出かねない。

 

「でも大丈夫です。誰も悪いだなんて思ってません、だから大丈夫。」

 

キャロルの思惑通りには進まず、S.O.N.G.の面々はエルフナインを信じ続ける事を選んだようだ。より一層エルフナインがS.O.N.G.の皆との繋がりを強くした。フラスコの中とは違う。霊体キャロルはエルフナイン達の前から退散したようだ。再び私達は走り出す。

 

「悪趣味なヤツだ。けどな、こちとらそんな柔にできてないんだよ!」

 

S.O.N.G.には旧二課スタッフが多く揃っており、風鳴司令をはじめとするお人好しという表現が適当な温かい人達が多い。

古い歌のフレーズに、信じるとは信じ続けなければ信じるとは言わない、とある。エルフナインは本当の意味で信じられていたのだ。私にも信じる者は存在する。だから戦える。

 

「絶対にここで止める。」

 

「あたしたちの友情結束パワーでギャフンと言わせてやるデス!」

 

大切な仲間を所詮道具であると貶められた怒りと揺るぎなき信頼を胸に私達は前へと進んだ。

 

本日二度目の金の髪を視界に収めた。私達はギアを纏い加速する。振り返るキャロルに焦る様子はなく、当然の事だと言わんばかりに落ち着いていた。冷徹に撒かれ召喚されるアルカノイズどもに姿が隠れ消える。

 

「ふん………任せたぞ、レイア。」

 

「イエス、マスター。」

 

「次回もお楽しみに、さいならガキンチョども!」

 

今回もキャロルの手のひらの上だなんて冗談じゃない。いい加減にこちらが主導権を握りたい。足に力を込めて高く跳びアルカノイズどもの頭上を越える。

 

「背中は任せろ、行ってこい!」

 

クリスは自慢の殲滅力で派手にアルカノイズどもを次々と赤い粒子に還す。このフロアに赤い霧が立ちこめ始めている。キャロルは赤い小瓶を取り出していた。砲撃などはマントではたき落しキャロル目掛け槍を構えて強襲する。

 

「ここを通すと思うか。」

 

レイアによって巨大な金属塊がキャロルとの間にそびえ立ち私を阻む。その壁面を蹴り宙返りして着地する。

 

「かかったな!」

 

「お覚悟デス!」

 

レイア目掛けて猛進していた切歌が獄鎌を勢いに任せて振り下ろす。舌打ちをしつつ即座にトンファーを前面に出して受け止めるが私達の攻め手はここで終わりではない。

 

「ここで終わりにする、キャロルにドクター!」

 

調による小型の鋸の集中攻撃が豪雨のごとくキャロルと彼に襲いかかる。即応してキャロルはドーム状の障壁で防ぐのだがどうにも辛そうな表情を浮かべている。かなり追い詰められているという事かしら。調達のおかげで自由に動けた私は金属塊を迂回してキャロルまで数メートルの位置まで迫り槍を突き出す。穂先は障壁とせめぎ合う。

 

「もうよせ、壊す事は虚しい。その先に求めるモノがあったとしても大き過ぎる代償だ!」

 

「黙れ! オレは退かぬ。この手で奇跡を殺すまでは、そう誓ったのだッ!」

 

ドーム状の障壁が目映く明滅を開始した矢先に視界は白に塗りつぶされ身体の前面に強烈な衝撃を受けた。後方へと吹き飛ばされ壁に背を強かに打ちつけ肺の空気は吐き出される。私は受身も取れずに床へと前のめりに倒れ込んだ。聞こえるのはキャロルが乱れた呼吸を整えようとする音のみ。

 

「ああ、僕の目が!? やるなら先に言っておくれよ!」

 

「………黙ってついて来い、お前にしか出来ないことがある。」

 

赤い小瓶は割れキャロルと憤慨する彼は足元からの赤い光に照らされ消え去った。

槍を支えに立ち上がりこの場に残るレイアを睨み付けるが一切の反応を示さずマネキンのごとく佇んでいる。

 

「……さねぇ、お前だけは許さねぇぞ!」

 

傷付けられ倒れた二人をクリスは膝をつき両腕で抱きかかえ、怒りを声と視線にこめてぶつけている。

 

「だったらどうする。」

 

冷ややかな視線と言葉。クリスは小さく何かを呟き顔を上げた。

 

「こいつらを頼む。あたしに戦わせてくれ。」

 

「いや、二人でだ。その子たちを君が護ってあげて。背は任せる。———止めもな。」

 

槍を回転させて己を奮い立たせる。クリスは二人を護るように前に立ちペンダントへ手を掛ける。溢れてしまいそうな程に目へと涙を溜めて。

 

「あたしらしく先輩でいさせてくれる後輩がいる。心配してくれるやさしい人たちがいる。貰ったものはあったけえ絆で、いつかあたしも。だからこんなところで負けてやる訳にはいかねぇ———イグナイトモジュール 抜剣ッ!」

 

———ダインスレイフ

 

Project IGNITE、実際目の当たりにしてみると荒々しい感情が旋律に影響を及ぼしていると肌で感じられる。きっと誰しもが心の奥底に隠している激情。ヒトとなるか獣と堕ちるかの境界は信じるか信じないかだと思われる。念の為に例の準備をしましょうか。

 

「どうやら全力のようだな。では、こちらも本気で相手をしてやる!」

 

「そうね、いい加減に枕を高くして眠りたいもの!」

 

お互い一直線に駆け出しトンファーと槍が激突する。パワーは拮抗しているとは言い難く、蓄積されたダメージにより押され気味。しかし譲る訳にはいかぬのだ。

 

「化けて出てくるんじゃねぇぞ!」

 

数発のミサイルが発射され、私は押される力を利用してレイアを向いたまま後退する。

 

「その程度。」

 

レイアは私から離れないように追って来る。このままミサイルを爆発させようものなら私も被害を被るのだ。それは無いと見越しての行動だろう。けれどそれは的外れ。

 

「歯を食いしばれ!」

 

クリスの正確無比な狙撃でほぼ同時に撃ち抜かれるミサイル。私は背を護るようにマントを展開して、槍を突進時の構えで待つ。

 

「これに耐えられるかしら?」

 

爆発の衝撃を推進力として槍の突きを繰り出す。回避すら許さない神速の突き。それすら超人的な反応速度でトンファーを交差させて受けたレイア。構うものか、とそのまま前へ前へと突き進み徐々に壁際へと追い込む。

 

「大人しく倒されなさい。」

 

穂先を分解してレイアを拘束するための四本のアームへと変える。

 

「これではお断りだ。」

 

レイアは身代わりとしてトンファーを金属塊へと変化させアームに掴ませる。伸びきった腕を掴まれ斜め下へと引かれて転ばされた。天と地を幾度となく見て壁にぶつかりようやく止まる。槍は手を離れレイアの足元に転がっていた。

 

「結局その程度だと。大人しく見ていろ。」

 

「………貴女の負ける姿を、ね。」

 

フロンティアからも供給されるエネルギーを槍へと一点集束。槍としての形の保持は難しくなり、張りつめた弓の弦を爪弾くように暴発は回避出来ない。一度は夢を捨てると覚悟したからこそ可能としたアームドギアの運用法。エネルギーの消耗が激しいのが難点だろうか。

 

「後は頼んだ、クリス。」

 

フロア一帯が震える爆発にレイアは押し出された分を強制的に戻されていく。随分暴れたものね、ここが崩れるのも時間の問題かしら。振動は大きくなる一方だ。

 

「手向けだ、受け取れよ!」

 

巨大な黒いミサイルを乗りこなし、宙を紙くずのように舞うレイアの胴を捉えクリスは離脱してライフルに持ち替える。

 

「あばよ、地獄で懺悔しな!」

 

トリガーを弾く———飛び去るミサイルが撃ち抜かれ大爆発を起こした。

 

レイアを撃破した、と喜ぶいとまも無く施設の耐久性をとっくに超えていたらしく壁から海水が流れ込み始める。クリスが数発撃つと緊急時用シャッターが閉じられ、少しだが時間を稼げる。

 

「ん、さっさとずらかるぞ。」

 

手が差し伸べられる。

 

「そうね。」

 

手をとり立ち上がる。ここから潜航艇までは遠いが三人を海の藻屑の仲間入りになどさせはしない。私とクリスで一人ずつ担ぎ発着場へと走った。

 

 

 

———セレナサイド———

 

艦内にアラートがけたたましく鳴り、モニターには海中を進む巨大な人影が映し出された。当たって欲しくない予想が的中しましたか。

 

「あれはレイアの妹。キャロルはボク達をここで始末するつもりです!」

 

赤く腫らした瞼のエルフナインちゃんを撫でるのを止めて、私は背伸びをして息を吐く。姉さん達なら大丈夫、私は帰る場所を守護すると誓いました。

 

「風鳴司令、私が出ます。それと、クリスちゃん達の事を頼みました。」

 

「分かった、くれぐれも無茶はしないように。」

 

「ですね。ちゃんと帰りますから。」

 

部屋を出て通路を進む。フロンティアからの供給を強化して戦いに備えます。以前の妨害は甲板に取りついてうんともすんとも言わないただの足止め。しかし、エルフナインちゃんの始末するという言葉から、今回爆発物を積み込んでないとは断言できない。遠くへと引き離して倒す必要がありそうですね。

 

海中へと出た私はレイアの妹を見据える。深い海の底で不気味で巨大なヒトガタを目撃すれば恐ろしいです。海の怪異海坊主と遭遇した方の気持ちが少しだけ理解できた気がします。

甲板から離れて盾を足場に黄金の杖を掲げます。そこに込めるのはフロンティアに蓄えられた天叢雲剣の余剰エネルギー。これでしばらくは水を意のままに操ることが可能となりました。

私は水流で盾を押して真っ直ぐにレイアの妹へと進む。その攻撃範囲に踏み込みますと、巨大な拳が迫ってきます。しかし、その大きさが致命的な弱点であり水の抵抗に大きく速度と威力を減衰させられて、水を得た魚状態の私が攻撃をかい潜り懐へと飛び込むのは造作もありませんでした。杖を胴体へと突き付け巨大な躯体へと海面へ向かう水流で浮かび上がらせて、さらに間欠泉のように高く空へと打ち上げます。曙の光に飛沫が輝き、空へ飛ぶ黒く巨大な影がクジラだったなら素敵な情景だったでしょう。

 

「ここで終わりです。」

 

杖の先端に集束する高密度のエネルギーの球体は電気を帯びる。その球体へ飛んで、と念じれば二つに分かれ姿形はカラスへと変化します。二羽が進む先には空を堕ちる巨人。その巨体の前へと背後へまわり込み触れた瞬間、雷光は閃き空を白く染めました。つんざくような爆発音が轟き、かつてヒトガタだったモノは跡形も無く消え去りました。

残される漣。しかし、短いもので大海原の流れに飲まれて何事も無かったかのように平穏を取り戻します。

 

背後の着地音に振り返れば、槍を足場として佇む険しい表情の姉さんがいました。

 

「事態はあまりよろしくない。このままではキャロルの計画は………。」

 

「ええ。だからひとまず戦力を集結させた方がいいと思います。龍脈を利用するのなら必ずどこかに現れる筈ですから。」

 

「なら決戦の地は東京になりそうね。こちらも奏と合流しなければ。」

 

水平線の彼方にある東京を向き、必ず守ると固く誓いました。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

書いてみて気付くフロンティアのチート具合に改めて完全聖遺物は危険な代物だと再認識させられました。もしもフィーネがフロンティアの炉心をデュランダルにしていたらと考えると恐ろしいです。

次回、壊した親と娘、決戦 大都市東京の予定です。

次回もよろしくお願いします。
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