留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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外伝1話「再・侵略の始まり」その4

「ねぇ、2人とも――」

 

 私は、立ち上がった愛美を制止した。

 様子のおかしい草津や杏城に、彼女は居てもたってもいられなくなったのだろう。

 しかしここでは何もできない。私は愛美を教室の外へ連れ出した。

 

「ニル!逢夜乃も草津もどうしちゃったの!?さっきからおかしいよ!」

 

 彼女は戸惑いを隠さなかった。あの二人が突然零洸のことをどうでも良くなったなど、愛美に受け入れられるはずがない。

 

「原因に心当たりがあります。すぐに対策を――」

「わっ」

 

 私の背に、歩いていたと思われる長瀬唯がぶつかってきた――スマートフォンを操作しながら。

 

「すみません」

 

 長瀬はぼそりと言って、私の横を抜けていこうとする。

 

「長瀬さん」

 

 私が彼女の肩を掴むと、その衝撃でスマートフォンが床に落ちる。私はそれを素早く拾い上げる。

 

「―――さい」

 

 私の手首を、長瀬は強く握った。

 

「返してくださいっ!!」

 

 今まで一度も見たことが無かった、彼女の激しい怒りだった。長瀬の細指が爪を立てて私の腕を離さない。

 

「スマホ返してくださいよ!!」

 

 やはり間違いない。草津や杏城だけでなく長瀬までをも狂わせている正体――それは彼女のスマートフォンに表示されている『ウルトラGO』というアプリだ。

 

「ゆ、唯!ちょっと落ち着きなって」

 

 間に入ろうとした愛美を、長瀬は思い切り突き飛ばした。

 

「邪魔しないでっ!早くスマホを――」

 

 私はすぐさま、長瀬の額に触れてエネルギーを流し込む。一瞬で気を失った彼女の身体を背負い、愛美と共に学園を抜け出した。まだホームルームが残っているが、そんなことを考慮している場合ではない。

 急ぎ私の自宅に向かい、私は長瀬をベッドに寝かせる。

 そして、彼女のスマートフォンを手に取った。

 

「何してるの?」

「私たちの周りの違和感の正体は、これです」

 

 すぐに『ウルトラGO』を起動した私は、その機能を調べる。

 

「長瀬さんだけではありません。杏城さんや草津、早坂君もこれをプレイしていました」

 

 最初の違和感は早坂から始まっていた。大事な姉の相談よりもゲームを優先するなど、彼に限ってありえなかったのだ。

 その時点で対策を講じていれば――いや、今できることに集中するのだ。

 

「すぐに解決法を見つけます」

 

 まずはアプリの機能自体を調べてみる。起動すると実在上の地図が表示され、スマートフォンが存在する地点を中心に数種類のアイコンが配置されている。怪獣を模したマークをタッチすると、それに応じた怪獣のプロフィールが現れた。恐らくアイコンの地点でプレイすることで怪獣を捕獲できるのだろう。

 メニューボタンをタッチすると、長瀬のアバターやレベル、プレイ時間が表示される。信じがたいことではあるが、既に数十時間プレイされていた。先週始めたと仮定しても、  

 1日の活動時間の大半をつぎ込んでいる計算だ。

 

「言葉にすると陳腐に聞こえますが、いわゆる“スマホ中毒”ですね」

「それだけで、あんなに変わっちゃうの?」

 

 先ほどの長瀬の豹変ぶりが思い出される。

 仲の良い先輩である愛美に暴力を振るうなど、長瀬が絶対にしないことだ。

 しかし実際に操作してみると、作りは単純ながらも没頭させる要素には恵まれているゲームと言える。収集癖をくすぐる仕様、現実世界との連動性、手軽さなど、私が流行らせようと考えて作ってもこうすると言える内容だ。

 

「ニルっ」

 

 特に感心すべきは怪獣の実在性とデフォルメだ。全く聞いたことのないキャラクターにはなかなか愛着が湧かないものだが、長く現実に存在していたキャラクターに対しては懐かしさや親しみを感じる。更に、現実には恐ろしい存在であるという事実がかえって“可愛さ”を強調し、それを自由自在に我が物とできる達成感をも与えてくれる。

 よくできている。それに怪獣それぞれの――

 

「ニル!!」

 

 スマートフォンを愛美に取り上げられた瞬間、私は我に返った。

 冷静に考えれば大した面白味など無いはずなのに、なぜ私は夢中になっていたのだろうか。

 愛美は恐ろしい何かを避けるように、そのスマートフォンを部屋の端に転がした。

 私は距離を置いた状態で、スマートフォンに意識を集中する。

 

「……そういうことか」

「何か分かったの?」

「マイナスエネルギーを感じます。つまり、これは人間の作ったアプリではありません」

「宇宙人……」

 

 愛美の眼に恐怖が浮かぶ

 

「……その可能性が高いです」

 

 私は机の引き出しから黒い布を取り出し、スマートフォンを包んだ。

 

「愛美さん、一度家に帰ってください」

 

 クローゼットにしまってあった拘束具を使って、長瀬の両手両足をベッドと繋げておいた。以前ゴーデス細胞に侵された長瀬に対処した際にも使った物だ。万が一普段以上の力で暴れても危害を加えることはできない。

 

「学園近くの森林に隠した私の宇宙船、場所は覚えていますね?」

「うん。ニルが書いてくれた地図、ちゃんと持ってるよ」

 

 非常事態が起きた際の、愛美をはじめ友人たちの避難場所としての宇宙船だ。

 

「私はそこに行きます。念のため零洸さん、もしくは雪宮さんをここに呼びます。24時間後に長瀬さんの意識は戻りますから、その時いつもの長瀬さんに戻っていれば拘束を解いてもらいます。もし狂暴化しても、零洸さんたちなら抑えられるでしょう」

「ニルはどうするつもりなの?」

「スマートフォンを調べます。マイナスエネルギーの正体さえわかれば、元凶を叩くことが出来ますから」

 

 私は愛美の返事を待たず、玄関のドアに手をかけた。

 

「……待って!!」

 

 だが彼女は、行こうとする私を抱きしめて離さなかった。

 この上なく力を込めているのだろう。それは力だけなら、私が簡単に振りほどける程度の力だ。

 しかし、私にはそれが出来なかった。

 

「私も行く」

「何を言っているのですか。危険なことに巻き込めません」

「そんなこと、分かってるよ」

 

 靴も履かずに玄関の床を踏み、彼女は私の前に立ち塞がった。

 

「今度は、一人では行かせない」

 

 半年前、彼女の制止を振り切って臨んだキングヤプールとの戦い。

 勝つことはできた。しかし私は長い間愛美のもとに帰らなかった。その選択は、彼女に後悔と罪悪感に満ちた日々を送らせることになってしまったのだ。

 

「一人で待つのは……もう嫌なの」

 

 彼女の懇願するような声色。

 

「一緒にいさせて」

 

 しかし決意に満ちた言葉だった。

 それが、私の選択を決定づけた。

 

「……行きましょう」

「うん!」

 

 私は彼女と共に、一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 宇宙船への道中、私は愛美を連れてきたことは正解だったと思い知った。

 長瀬のスマートフォンからマイナスエネルギーを感知したのだから、それが危険な代物であることは理解できる。

 しかし私は、もう一度『ウルトラGO』をプレイしたい欲求に駆られていた。それが手元にあることを実感する度に、呼ばれているような気になってくるのだ。

 

「ニル」

「……はい」

 

 そんな時、愛美が私の手を握った。

 熱い手だった。華奢な手ではあるが、その熱はしっかりと私に伝わってくる。すると不可解だが、ゲームへの欲求が消え失せ、それが下らないものだと再確認する余裕ができるのだ。

 必ず守ると大見得を切っておきながら、実は自分が守られていたのかもしれない。

 

「愛美さん、ありがとうございます。一緒にいてくれて」

「それは、こっちのセリフだよ」

 

 歩きながら、彼女の横顔を盗み見る。

 今が緊急事態であることは承知しているが、私は無性に彼女を抱きしめたくなった。

 愛おしいのだ。

 

「ん?」

「いえ、何でもありません」

 

 ことが片付いたら、その時にしよう。

 

「っ!」

「ニル?」

 

 突然立ち止まる私。

 それに戸惑い気味の愛美

 

『――誰か!誰か私の声を聞いてくれ!』

 

 声だ。

 どこからか、私を呼ぶような声がするのだ。

 

『私はここにいる!』

 

 おそらく愛美には聞こえていない。

 

『誰か!』

 

 声の出どころに目を向けると、現れたのは一軒の小さな中古品ショップだった。

 

「ニルどこ行くの?」

 

 薄暗い店内には、雑多な中古品が所狭しと陳列されている。私はそれらの間を抜けるように、奥へと進んでいく

声は更に大きくなった。

 そしてついに、私は声の主に出会うことになる。

 

「貴方ですか。私を呼んでいるのは」

 

 今では見かけない年代物のデスクトップ型中古PC。

 複数のパーツを寄せ集めて組まれた姿はいかにも“ジャンク”といった感じだ。

長い間誰にも触れられなかったからだろう、うっすらと埃を被っている。

 しかしブラウン管の画面が独特の音と共に光を放ち、それが機械として確かに生きていることの証となった。

 

『私はハイパーエージェント――グリッドマン!』

 

 画面上に現れた“戦士”。

 

『急いでくれ。この世界に危機が迫っている』

 

 私の生きる世界から“日常”というベールが剥がされた瞬間だったのかもしれない。

 グリッドマンとの出会いが狼煙のように、新たな戦いの始まりを告げた。

 

 

――中編につづく

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