人間には不便な習慣が沢山あるが、その中でも特筆すべきは「衣替え」だろう。地球は四季が存在するため、恒温動物である人間は衣服を季節によって変えることで自らの体温を一定に維持しようとする。これは宇宙規模の常識からすれば極めて異質で劣った特徴である。
とはいえ私も、学園に転入した際には着ていなかった冬服に、先週から袖を通している。動きにくい分防御力が上れば良いのに、と無駄なことを考えてしまった。
ピンポーン
こんな朝から何者だ?
「どなたでしょうか?」
『郵便でーす』
インターフォン越しに伝わる声は隣人の長瀬のものだ。ドアを開けると、満面の笑みで彼女は立っていた。少し冷える時期だというのに、長瀬は寒さなど微塵も感じさせない陽気さを放っていた。
「朝から元気なのは何よりです。何か御用ですか?」
「だから、郵便って言いましたよ?」
「はぁ」
「実は、学校に行こうと思って家を出たら、そこで変な男の人に会って」
「変な男?」
「うん。真っ黒のコートを着てた人が、ニル先輩のお部屋探してたみたいだったから」
「それで、部屋の事は話したんですか?」
「ううん。渡したいものがあったみたいだったから、預かってきちゃった」
「それで郵便というわけですか。わざわざありがとうございます」
「いえす! これ、まさか恋人からのお手紙かな? きゃーっ!亅
「長瀬さん、早く行かないと遅刻しますよ」
「そんな時間!? 急がないとー!」
「行ってらっしゃい」
長瀬は全速力で去っていった。
時間にはだいぶ余裕はあるが、詮索はごめんだ。
それにしても、私に手紙とはどういうことだろう?
郵便を利用せずに渡しに来るとは、怪しいな。
親愛なるニル・レオルトン様。
お手紙は届いたでしょうか?
この度は折り入ってお願いがありまして、ご連絡させていただいた所存です。
ですが手紙でお伝えできるほど簡単な内容ではなく、まずは挨拶ということにさせていただきました。
お伝えする内容につきましては、本日午後8時に沙流駅4番線ホームにいらして下さればお話します。
身勝手なお願いだと存じますが、何卒よろしくお願いいたします。
ガッツ星人
「なるほど」
怪しいと思ったら、異星人からの招待状であったか。
しかしこれは問題だ。どうやら私の居場所も正体もばれているらしい。
一体どうやって私の正体に気付いたのだろうか。これは看過できない問題ではあるが、今すべきことはその原因を探ることではない。
まずは目の前の敵――ガッツ星人を処理することが最優先である。
第4話「悪魔の招待状」
分身宇宙人 ガッツ星人
鉄壁怪獣 ディフェード
巨大雷獣 ガルガイオン
登場
午後7時58分。
沙流駅4番線のホームは、おそらく帰宅中であろう人々で混雑していた。電車のベル、ブレーキ音、人々の声。様々な雑音が建物を埋め尽くしている中、私はホームのベンチに座っている。
そして今、時計は午後8時を告げた。
『時間通りだな』
直接頭に伝わってくる声ーーテレパシーだった。
私も同様に、相手の頭に言葉を送る。
『何の用ですか?』
『まぁ待て。改めて自己紹介といこう。私はガッツ星人。いかなる戦いに負けた事の無い無敵のガッツ星人。お前はメフィラス星人だな?』
『やはり私のことは調査済みというわけですか。どういうつもりです?わざわざ自分から名乗ってくるなんて』
ガッツ星人といえば、宇宙でもそこそこ名の知れた宇宙人。幾多の戦いの場に姿を表す彼らに関するデータは豊富だ。それを承知で名乗っているというのか。
『こちらに戦闘の意志はない。それを伝えたいだけだ』
『私とて貴方と戦うつもりは毛頭ありません。ただし――』
『侵略活動の邪魔はさせない、そうだろう?』
『察しが良くて助かります』
『そこでだ。私から一つ、提案がある。我々にとっての“共通の敵”を倒すため、協力しようじゃないか』
『共に光の戦士の倒そうと?』
『流石、最高の知能を持つと言われる宇宙人。私の考えなどお見通しか』
『貴方からの要求は何です? ガッツ星人』
『明日、私は一匹の怪獣を地球に解き放つ。その際、光の戦士は何らかのアクションを取るはずだ。その隙に奴の正体を突き止めて欲しい』
『それは無謀というものです。仮に光の戦士が従来の戦士たちのように人間に扮しているとしても、一体どれだけの人間がこの星にいると思っているのですか』
『そんなことは百も承知だ。しかし、これまでのソルの出現パターンを解析すると、この周辺に潜んでいる可能性が高いのだよ。それに残念だが、私には君のように器用に人に化ける術はない。より近くで探索できるのはお前だけだろう?』
『……いいでしょう』
どの道、私の拠点や正体を握られている以上は断ることは出来ない。私が奴の意にそぐわない行動をとれば、すぐに私の情報をGUYS等に伝えるに違いないし、何かしらの手で私に危害を加えるだろう。ここは大人しく要求を飲むのが得策だ。
『光の戦士抹殺……我々の利害は一致しているのだからな』
そうだ、抹殺まではな。
それが終わったら、ガッツ星人…次に消えるのはお前だ。
『しかし不思議ですね。たとえ私が奴の正体を知ったとしても、貴方に話す保証はないかもしれませんよ』
『見くびるなよ、メフィラス。お前は必ず話す。それがお前にとって一番の得になるのだ』
『貴方が私よりも“戦力”を持っているから、ですか?』
『その通りだ。戦いでは、私が上だ』
『大した自信ですね。しかし取引相手が強気なのは良いことです』
『私も、お前が評判通り頭の回る奴で安心したよ。それじゃあ今日はお開きといこう。さらばだメフィラス』
ガッツ星人からの交信は途切れた。
「そこの君」
交信が途絶えた瞬間、背後から女性の声がした。私は慎重に振り返った。
背の高い、ロングヘアの女性だった。藍色の髪をコートの下に隠しており、まるで人目を忍んでいるようだった。
「あまり驚かないで。少し話を聞きたくて」
ここまで近くでなければ気配に気付けなかった。この女は只者ではない。しかしガッツ星人との会話はテレパシーで行われた。彼女が特別な宇宙人でない限り、それを知ることは出来ない。どうして私に近づいてきた?
「私はホシナセイコ。探偵をしている者です」
「探偵さんがどのような御用件で?」
「さっき、黒いロングコートを着た人を見かけなかった?」
「いえ、おそらく見かけませんでした」
「そう。協力ありがとう。それじゃ」
人当たりの良い微笑みを浮かべ、女は私の前から去って行った。
まさか、既にガッツ星人の潜入は既に疑われているのか?
だとすれば、さっきの女はガッツ星人を追っている者。地球を宇宙人の手から防衛するGUYS隊員である可能性が高い。これは尚早に、ガッツ星人との協力関係を終わらせる必要があるな。
私はホシナセイコが歩いていった反対の方向に向かった。まっすぐには帰宅せず、尾行が付いていないか確かめながら回り道をするのだ。
その間、私はソルの正体について考えていた。
手がかりは2つ。
第一に、ソルの潜伏場所がこの周辺地域だという、ガッツ星人の言葉。奴を全面的に信用することはできないが、ガッツ星人がここに潜む私を協力者に選んだことから、決してでたらめではないのだろう。
そして第二に、先月の出来事。ぺダン星人に襲われかけた私や早馴を助けた“女子制服姿”の何者か。
ソルは…沙流学園に潜んでいるのだろうか。
―――その2へつづく