留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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グリッドマン外伝、最終話です。



外伝最終話「誰もがヒーロー」前編

 

 ニル=レオルトンの作戦が始まったのと同時刻。

 巨大戦艦『カーンスクアッド』に大きな動きがあった。

 かの戦艦が収容している兵器『サテライトレーザー』全機が、突如大気圏上で展開される。折り畳まれた状態で戦艦から出現したそれは、太陽光を出力に変えるパネルの翼を広げ、地上のターゲットを焼き尽くす光を放つ砲頭を地上に向けた。

 既に充填されていたエネルギーが光の矢となって放たれる。地球の空に浮かぶ雲を突き抜け、その矢は地上のどこかを焼き払った。

 本来は宇宙から地球を守るためにGUYSスペーシーの怪獣要撃衛星を発展させた兵器である。それが今や地球を脅かす存在となっているのだ。

 その光景を、地球軌道上に浮かぶ『宇宙ステーションV3』から目にしていたGUYSスペーシー司令官の歴戦の勘が、今こそ出陣の時だと告げていた。『サテライトレーザー』全てがチャージ状態に入った今こそが、反撃の時のはずだった。しかしオンライン環境下の全てを監視するUNIONシステムに監視された状態で、GUYSスペーシーの戦力は何の準備もできていない。その事実に彼はただ、歯がゆさを感じるばかりだった。

 

『司令。GUYS・JAPANの星川です』

 

 突然の緊急入電。彼はオペレーターのマイクを自ら掴んだ。

 

「サテライトレーザーを封じたのは、まさか君の作戦か!」

『私のコントロール下ではありません。しかし、信用できる人物の作戦だと考えます。AI『アレクシス』は彼の作戦に気を取られているはず。今こそGUYS全戦力でカーンスクアッドを叩く時です』

「5分だ!5分で出撃させる」

『お願いします。これが……恐らくラストチャンスです』

 

 これを反撃の好機と感じていたのは、彼だけではなかった。

 この時の『カーンスクアッド』の動きを見て部屋を飛び出したハルザキカナタ隊員もその勘を頼りに、GUYSが残すわずかの『メシア』のコックピットに飛び乗った。

 

「おいハルザキ!何やってんだ!」

「班長!今こそ出撃の――」

『GUYSスペーシー全体に告ぐ。今すぐ出撃し、カーンスクアッドとその保有戦力の撃墜を開始せよ!』

「ね?」

「分かったよ!5分で出すぞ!」

「5分!?そんな早く行けるんですか?」

「準備を怠らないのが整備班の仕事だろ?」

「ありがたい。お願いします!!」

 

 5分どころかたったの3分で、ハルザキの『メシア』は宇宙に飛び出した。

 それにわずかに遅れ、数機の『スペースウィンガー』などの戦闘機が宇宙を駆ける。

 

「行くぞみんな!機械に遅れは取るな!地球を解放するぞ!」

 

 宇宙で始まった激戦。

 しかし、その行く末を決めるのは地球の少年少女であることに、今はまだ誰も気づいていない。

 

 

 

 

   外伝最終話「誰もがヒーロー」

 

         電光超人 グリッドマン

         魔王カーンデジファー

         グローザ星系人 グロルーラ

 

                       登場

 

 

 

 

『戦闘コードを打ち込んでくれ!アクセスコードは――』

 

 愛美は、ジャンクのキーボードに触れていた。

 今までの戦い、この役目はいつも愛美のものだった。

 現実世界――早坂家の一室に残る彼女には、直接ニルやグリッドマンのためにできることは無い。

 だからせめて――そんな気持ちでいつも愛美は7文字のアルファベッドを入力していた。

 

「お願い。ニルとグリッドマンに、力を――」

 

 いつもよりも願いを込めて、彼女は打ち込む。

 ――GRIDMAN

 その時、ジャンクの画面が光を放ち、見たことの無い文字列が現れる。

 

「これは……」

 

 ――Special Signature to Save a Soul

 

「これって、もしかして――」

「出てきたぞ、愛美。あれが『アレクシス』だ!」

 

 後ろからの草津の声に、愛美の意識は画面上の戦闘に向けられた。

 

「行ってくる」

 

 同時に、部屋に残っていた雪宮が部屋を飛び出す。彼女にはグリッドマンが決着をつけるまで、ジャンクと愛美たちを守る役目があった。

 

「俺たちはこっちに集中しよう。ホーク1号を出す!」

 

 草津がジャンクを操作して、ニルと共に作成した線という補助プログラムを発信する。

 だがアレクシスの戦闘力はグリッドマンを翻弄していた。

 

「まずいな……予想以上の相手だぞ、アレクシス」

 

 草津が別のプログラムを使おうとした時、部屋の外からばたばたという足音が響いた。

 

「はぁ……はぁ……間に合った」

 

 勢いよく開かれた扉の先には、あのフジドウヨシオが立っていた。

 アプリ事件の真相をニルから聞き及んでいた草津は、咄嗟に彼の胸ぐらを掴んだ。

 

「貴様!一体どの面下げてこの場に来た!」

「ま、待ってくれ!僕は、その……グリッドマンを助けに来たんだ!」

 

 ヨシオの手から落ちたスマートフォンの画面が光り、そこから何者かの呼び声が聞こえてくる。

 

「待って草津!この声!」

 

 愛美が拾い上げたヨシオのスマートフォンに映るのは、彼女に届いた謎のメールに現れた無精ひげの男だった。

 

『お、お前が早馴愛美か』

「サムライ・キャリバーさんでしょ!?」

『そ、そうだ』

「キャリバーさんがあいつの携帯にいるってことは……」

『フジドウヨシオをここに連れてきたのは、俺だ。か、彼はもうこちらの仲間だ。信用していい』

 

 草津は鼻息を荒くしながら、ヨシオを離した。ヨシオはすぐにポケットから、一枚のフロッピーディスクを取り出した。

 

「これ、使ってくれ」

「何だこれは?」

「グリッドマンを助けるプログラムだ。名前はダイナドラゴン」

 

 血走った目で、ヨシオは草津をまっすぐに見つめた。

 

『か、改心したヨシオが作ったんだ。アレクシスと互角に戦うために、必要になるはずだ』

 

 キャリバーの説明に草津は小さく頷き、もう一度ヨシオに視線を向ける。

 

「その……迷惑をかけてしまって、本当にごめんなさい!」

 

 ヨシオは思い切り頭を下げた。

 

「ニル=レオルトンと、キャリバーたちに言われて気づいたんだ。僕は多くの人を傷つけてしまったんだって。だからこれは、せめてもの償いなんだ……」

 

 ヨシオの充血した眼は、ダイナドラゴンを何日も徹夜して作成した証だった。そんなことを知る由もない草津だったが、彼は一言「分かった」と返してディスクを受け取る。

 だが草津はディスクをジャンクに挿入しただけで、ヨシオをキーボードと画面の前に座らせた。

 

「フジドウ、グリッドマンに届けてやってくれ。お前のプログラムだからな」

「あ、ありがとう!」

 

 ヨシオはダイナドラゴンのプログラムを起動させ、グリッドマンに送信した。そして現れた赤い機械の恐竜に、草津は目を輝かせた。

 

「おぉ!良いセンスじゃないか!とにかく強そうだ!」

 

 先程の警戒心はどこへやら、草津は思い切りヨシオの肩に手を回した。

 

「僕の好きな物って……考えてみたら恐竜くらいだったから」

「いいではないか!俺も好きだぞ!なぁ愛美!格好良いよな!」

「別にどうでもいいわ……」

 

 そう言いながら、愛美は少しだけ笑った。

 

「男子って、ホントばかみたい」

 

 そう言ってから彼女の目線は画面に戻る。

 ダイナドラゴンの登場で、窮地を逃れたグリッドマン。

 だがその激戦は、ここからが新たなラウンドの始まりであった。

 

「Special Signature――」

 

 愛美は、最初に見たあの文字列を口に出す。

 その言葉の意味を、まだ彼女は気づいてはいない。

 

 

 

 

 

 闇のオーラに包まれ、アレクシスを超えるマイナスエネルギーを纏うカーンデジファー。厄介な相手であることは明白だった。

 

『ヨシオ!貴様……使えんばかりか、わしに盾突く気か!』

『だ、黙れ!僕は……もうお前の言いなりになんてならない!』

 

 一度は悪の道に堕ちたヨシオの力強い声だった。

 だがカーンデジファーは意にも介さず『下らん』と一蹴するだけだった。

 

『お前になんて負けない!ダイナドラゴン!』

 

 ダイナドラゴンが、現れたばかりのカーンデジファーに向けて炎を吐き出す。

 

『この程度……ぬるいわ!!』

 

 マントで受け止められた炎は、一瞬でかき消される。

 

『そ、そんな……』

『貴様のような出来損ないが作ったものなど、相手にならんわ』

 

 カーンデジファーの赤い眼の輝きが、怪しく増していく。

 そして奴は黒いマントの内側から、緩やかに反り返った剣を取り出した。

 

『わしがこやつらの相手をする。アレクシスよ、その間に奴らの居場所を燃やしてしまえ!』

 

 ダイナドラゴンの発した火炎は、普通の怪獣になら致命的なダメージを与えられただろう。しかしその強大な攻撃を片手でいなすとは、カーンデジファーの戦闘力は未知数と言える。更にアレクシスと組まれてしまえば撃退は困難だろう。

 

『グリッドマン、覚悟しろ!』

 

 カーンデジファーがこちらにゆっくりと歩を進める。その剣の鋭い切っ先が向けられた。

 こちらも、ただ待つわけにはいかない。

 

『グリッドォォ、ビーム!!』

 

 グリッドマンは必殺技をぶつける。

 

『ぐっ……』

 

 カーンデジファーは銀色の刃でビームを受け止める。奴の身体は少しずつ後方に押しやられていく。

 

『……効かぬ!!』

 

 しかしあと一歩の所でカーンデジファーが刃を振り切り、跳ね返された黄金の光線はグリッドマンの胸に突き刺さった。

 火花を放ちながらグリッドマンの身体は吹き飛ばされ、後方の建造物に背中から倒れ込んだ。グリッドマンの胸と額のランプが点滅を繰り返す。

 

『これで止めだ』

 

 カーンデジファーが悠然と歩を進め、再び私たちの前に立つ。その背後にはアレクシスも控えている。

 カーンデジファーの剣が振り上げられ、斬撃がグリッドマンと私を――

 

『――まだだ!』

 

 諦めかけた私に、グリッドマンの声が届いた。

 

『ハァッ!』

 

 グリッドマンは、振り下ろされた刃を両手で挟み、頭上ぎりぎりで受け止めたのだ。

 

『私たちは……負けない!そうだろう、ニル!』

『小癪な!やれ、アレクシス!』

 

 カーンデジファーの後ろに控えるアレクシスが動き出す。

 だがその時、聞き覚えのある声がコンピューターワールドに響き渡った。

 

『その通りだ、グリッドマン。まだ君は負けていない』

 

 それは藤堂タケシの声だった。

 彼の声と共に、航空機のエンジン音が轟く。青い戦闘機が我々の上空を駆け、旋回しながら機関砲による射撃を放つ。弾丸は、カーンデジファーに加勢しようとしていたアレクシスの足を止めた。足元を脅かされたアレクシスはジャンプして距離を取るが、そこに複数のミサイル攻撃と砲撃が襲い掛かる。

 

『俺たちも混ぜろよっ!』

 

 二本のドリルを装備した戦車が現れ、その後ろからは2門の大砲を持つ戦車が続く。

 

『グリッドマン、ニル。僕たちも共に戦う』

 

 そして最後にやって来たのは“青いグリッドマン”としか言いようのない戦士だった。彼の手には黄金の刃を持つ、巨大な剣が握られている。

 

『タケシ――いや、グリッドマンシグマ!来てくれたのか』

 

 カーンデジファーの刃をなおも受け止めたまま、グリッドマンが青い戦士の名を呼ぶ。

 

『雑魚が何匹集まろうと、無駄だ!』

 

 カーンデジファーが更に力を込めてくる。しかし刃は寸分も動かない。

 

『な、なに……!?』

『私たちは、お前を倒す!』

 

 グリッドマンが渾身の力で剣を振り払い、そこに強烈な手刀を叩きこむ。刃が砕け散ってよろめくカーンデジファーに、グリッドマンの回し蹴りが炸裂した。

 

『今こそ全員の力を合わせる時だ!』

『グリッドマン、行くぞ』

 

 グリッドマンとグリッドマンシグマが頷き合い、高く飛ぶ。

 

『さぁ“新世紀中学生“たち。合体だ』

 

 タケシの合図で、3機の補助兵器が変形を始める。

 

『タケシ!君に我々の力を託す』

『負けんじゃねぇぞ!』

『早く済ませて休もう』

『た、頼んだぞ、タケシ』

 

 3機がそれぞれ、グリッドマンシグマの腕、胴体、足となり、最後に黄金の剣がその手に握られる。

 

『超合体超人!フルパワーグリッドマンシグマ!』

 

 我々よりも一回りも大きい鋼鉄の戦士が大地を揺らした。

 巨体だけではない。彼らの内から湧き上がる力は、先ほどのカーンデジファーのマイナスエネルギーに匹敵するほどだ。

 

『アレクシス!シグマはわしが引き受ける。貴様はグリッドマンを葬るがいい……』

 

 アレクシスは砲撃やミサイル攻撃で傷ついた身体を再生させる。そして彼は再び万全の態勢で私たちの前に立ちはだかった。

 

『先ほどの続きと行こうか』

『アレクシス。お前を無力化し、システムを奪還する!』

『今の君が?力不足だと思うけどねぇ』

『私一人ではない。ヨシオ、力を貸してくれ!』

『準備はできてる!ダイナドラゴン、合体だ!』

 

 ヨシオの呼びかけに応え、ダイナドラゴンの姿が変形し始めた。

 

『竜帝合体!』

 

 グリッドマンの両腕、両足に変形したダイナドラゴンの一部が装着される。そして残った頭部から胴体にかけてを包むように、パーツが合体する。

 

『合体竜帝!キンググリッドマン!!!』

 

 アレクシスを優に上回る巨体を誇るキンググリッドマン。

 グリッドマンと一体化している私にも伝わってくる、その灼熱の闘志。

 まるで炎と同化したように、私も全身に熱気を纏っているようだった。これまでグリッドマン単独の時には考えられないぐらいの力がみなぎって来るのだ。

 

『見かけ倒しか、試してあげよう!』

 

 それでもアレクシスは怯むどころか、余裕綽々といった様子で接近してくる。

 次の瞬間、キンググリッドマンの胸を切り裂こうとしたビームソードが、キンググリッドマンの全身から放たれる熱気に触れただけで消滅した。

 

『ハァァァ!!』

 

 キンググリッドマンのパンチが、武器を失ったアレクシスを直撃した。奴の全身にひびが入り、空中でばらばらに砕け散った。

 

『たった一発で私を倒すなんて、なかなか強くなったようだね』

 

 更に上方、アレクシスが再生して姿を現す。

 

『しかし、限りある命の君では、無限の命を持つ私には勝てないよ』

 

 そう言って奴は、ゆっくりと右腕を挙げた。

 

『試しに……ほうら』

 

 何が起こるかと警戒するが、アレクシスが攻撃を仕掛けてくる様子は無い。

 つまり――

 

「グリッドマン、恐らく今――」

『レオルトン!!』

 

 草津からの知らせは、サテライトレーザーが早坂家に向けて発射されたことを告げていた。ジャンクを失えば消滅してしまう我々の、最大の弱点を突かれているのだ。

 

『おんぼろPCが一つ壊れるだけで、君の命は失われてしまうんだ。儚いよねぇ』

『アレクシス!君は元来、地球を守るために生み出された存在のはず。何故カーンデジファーに従い、地球を脅かす!』

『地球を守る?おかしなことを言うねぇ』

 

 アレクシスが、今度は両腕を高く挙げる。そこに強大なエネルギーが球体となって現れた。

 

『この永遠の命を使って、愚かな人間を永遠に支配し続ける……その方がずっと楽しいじゃないか』

『そんなことはさせない!』

 

 キンググリッドマンが右腕を後ろに引いた構えを取る。その腕には稲妻の形を取ったエネルギーが込められている。

 

『はははは!!力比べだ、グリッドマン!』

 

 アレクシスが、エネルギー球体をこちらに向かって投げ放つ。

 

『キンググリッドォォォ、ビーム!!!』

 

 キンググリッドマンが突きだした右腕から放たれる黄金の光線。

 両者の渾身の一撃が激突する。

 拮抗したかに見えたが、キンググリッドビームがアレクシスの力を上回った。アレクシスは大爆発と共に消し炭のようになって破壊された。

 

『今度こそ、やったか?』

 

 現実世界から見守るヨシオが軽くため息をつく。

 これまでのグリッドビームを優に上回るパワーだ。倒せない道理はないはずだが――

 

『今のは……だいぶ聞いたよ、グリッドマン!』

 

 しかし勝利にはまだ届かない。

 不敵な笑い声と共に、アレクシスの銀色の体躯がまたしても現れた。顔の電飾がこちらをあざ笑うように口元を点滅させている。

 やはり奴は何度でも再生されてしまうのだ。

 

『悲しいねぇ。限りある命というのは』

 

 グリッドマンの胸元のランプが再び点滅する。

 

『グリッドマン!時間が無い!!ジャンクが、燃えてしまう!』

 

 草津の声だ。恐らくキンググリッドマンの高出力にジャンクが耐え切れなくなっているのだ。

 このまま戦えば、アレクシスの無限再生の前にこちらが自滅してしまう。

 アレクシスを無力化する手立ては、

 奴の無限再生を止める手立ては――

 

「――グリッドマン。私に考えがあります」

 

 私は、再度攻撃を仕掛けようとするグリッドマンを制止した。

 

『……君を信じるぞ、ニル』

 

 攻撃の構えを取ったまま動きを止めるキンググリッドマン。彼は私の声を聞き入れてくれた。

 キンググリッドマンの竜帝合体が解除され、ダイナドラゴンと分離した。

 

『おいグリッドマン!何でダイナドラゴンを……』

『レオルトン!何をしてるんだ!』

 

 ヨシオと草津が現実世界から叫ぶ。

 それを聞いたアレクシスは、声高らかに嘲笑している。

 

『もう終わりにしよう、お客様』

 

 アレクシスが先ほどと同じように、上空に浮遊した状態でエネルギーを貯めている。

『グリッドマン。私は気づきました。貴方の力の本質に――』

 

 私たちの会話など気にも留めず、アレクシスが動く。

 

『では、いつか来る終わりを、今ここで君にあげよう。グリッドマン』

 

 先ほどよりもさらに強力なエネルギー球体がこちらに向かってくる。

 

『ニル!!』

 

 愛美の声だった。

 

『私見たの!グリッドマンの力って――』

「ええ、私も見ました」

 

 本当に彼女と話しているのか、私の想像にすぎないのか。

 たった一瞬のはずなのに、その刹那はとても長く感じられる。

 

「皆さんのおかげです。皆さんがジャンクを見つけてくれて、グリッドマンを最適化してくれたおかげで、答えを見つけられたんです」

 

 グリッドマン同盟――幼稚な名称だが、その絆は何よりも強固だ。彼らが居てくれたから、私とグリッドマンは戦うことが出来た。

 そんな彼らの顔が私の脳裏に浮かんでいく。

 皆ばらばらの場所に立つが、その声は一つだった。

 

『必ず帰ってきて、ニル!!』

 

 愛美と、そして皆の声と同時に、アレクシスの攻撃が私たちを襲う――

 

「――大丈夫」

 

 自分らしくない、穏やかな声だった。

 だが不思議と、この窮地でも私には“希望”があった。

 

「私は、私たちは、必ず勝ちます」

 

 グリッドマンの力を、私は信じる。

 球体に飲み込まれかけた、その瞬間――グリッドマンの胸から桃色の光線が放たれた。

 

『グリッドォォ、フィクサービーム!!』

 

 それはきらきらと煌めく、温かな光だった。

 フィクサービームは、アレクシスの攻撃を“力”で打ち破ったのではない。まるで分解していくように打ち消していった。

 そしてその光線を受けたアレクシスから、今までに無い苦しみの叫び声が上がった。

 

「グリッドマン、やはり貴方の真の力は“倒す力”ではない」

『な、なんだ……フィクサービームだとぉ!?』

 

 もがき苦しむアレクシス。

 それは悪に染まった彼が、元の健全なプログラムに変わっていく姿なのだ。

 

「この世界を修復し“救う力”こそ、アレクシスを打ち破る力です」

 

 ここに来る途中、初めて目にしたあの文字列――“4つのS”に込められた意味。

 それこそ、グリッドマンを象徴する言葉だったのだ。

 

『アレクシス!君の魂を修復し、救ってみせる!!』

『や、やめろぉぉ!!私はまだ、この地球を支配して――』

 

 マイナスエネルギーを纏うアレクシスの身体は光に包まれた。

 そして小さくなっていく光の中から現れたのは、先ほどまでのアレクシスではない。

 形はまるで、ソルたちのような光の戦士だった。これこそが真のアレクシスの姿なのだろう。人型にほんのりと輝く光の身体は、まさに人間を守るに相応しいではないか。

 

「グリッドマン。このままUNIONシステム全体を修復しましょう」

『任せてくれ』

 

 彼はフィクサービームを上空に向けた。

 光線は無数に分かれ、それぞれが流れ星のように地面に降り注いでいく。地面に落ちた光はコンピューターワールド一帯に広がっていった。その光に触れた全ての場所が元の形に姿を変え、薄暗かったこの世界が徐々に光を取り戻していった。

 

『ば、馬鹿な……!!わしの世界が、わしのUNIONシステムが!!』

 

 フルパワーグリッドマンシグマと戦っていたカーンデジファーが悔しげに叫んだ。

 

『こうなれば、お前たちだけでもわしの手で――』

 

 だが苦し紛れにシグマに振り上げた奴の腕は、背後に立ったアレクシスに掴まれる。

 

『敵性プログラムを排除します』

 

 アレクシスの身体が紐状の白い光に変わり、カーンデジファーの両手両足の自由を奪った。

 

『な、何をするのだ!』

 

 アレクシスはUNIONシステムの根幹であり、システム自体を守護する管理者である。本来の力を取り戻した彼ならば、システムに侵入したカーンデジファーを退けることができるはずだ

 やがてカーンデジファーは縛られたまま地面に吸い込まれていく。

 

『おのれぇぇ!!!グリッドマン!いつか貴様を……必ず倒してやるわぁぁ!!』

 

 捨て台詞と共に、魔王カーンデジファーは完全に姿を消した。

 フィクサービームの力で正常化されたこの世界からは、マイナスエネルギーも完全に消失している。

 コンピューターワールドでの戦いは、我々の勝利で終わったのだ。

 そして残るは――

 

『ニル!急ぎ戻ろう!』

 

 現実世界の戦いに、私は戻らねばならないのだ。

 

 

―――最終話後編へ続く




次回でグリッドマン外伝は完結です。
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