留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第1話「新たなる侵略の始まり」(前編)

 時を遡ること1週間。

 未明、日本国内某所にて。

 

「目標座標への次元転移、最終フェイズに以降。シークエンスの開始まで5秒……開始」

「目標座標に安定。次元転移完了っと。毎度毎度冷や冷やするぜ、ったくよぉ」

「姉さんの操舵が雑だから……」

「あぁ!? もういっぺん言ってみろ!!」

「いやーん、ねぇさん怒らないでぇ」

 

 2人の女性宇宙人が話しているさ中に、操作コンソールから通知音が響いた。宇宙船のハッチが開かれ、搭乗員の一人が船外に出たことを知らせていた。

 

「あらあら、相変わらずせっかちですねぇ、リンネお嬢様は」

「テメェが鈍間なんだよ」

「今日のねぇさんはいちいち怖いですぅ……」

「リンネ嬢ならこの次元の個体と融合次第“あれ”を探すだろうよ。アタシらは指示があるまで待機だ」

「はぁい。船の調整してますね」

「合図がありゃ……こいつで星でも宇宙警備隊でも、吹っ飛ばしてやるさ」

 

 姉の宇宙人がその手に握るのは、あるデバイスと付属のカードであった。

 そのカードの一枚一枚に記されているもの――それは“怪獣”の名前と恐ろしい形相の写真であった。

 

 

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   第1話『新たなる侵略の始まり』

 

              宇宙人 メフィラス 

                          登場

 

 

「ひとまず私の計画を説明しよう」

 

 宇宙人メフィラスを名乗る黒スーツの男は、無駄のない運びで再び日本酒を口に含んだ。

 

「私は“あるもの”をこの次元に持ち込んでいる。それはこの惑星の人間たちにとって有益だろう。私はそれを人間に提供し、上位存在としてこの惑星への居住を認めさせるつもりだ」

「それは結構ですが」

 

 私も彼に倣ってらっきょうをかじる。悪くない、いやなかなか美味である。

 

「ニル=レオルトン。君はどうやら人間として長期間滞在し、陰ながら他の宇宙人から地球を守っているようだな」

「ですから今回も同様、地球に混乱を招く宇宙人はこの手で抹殺するまでです」

「そう結論を逸るな。急がば回れ。私の好きな言葉です」

「続きを聞きましょう」

「私のもつ『ベーターシステム』は、地球人類の軍事力を飛躍的に向上させる。おそらく光の戦士ソルの守護も必要ないくらいに。最近彼女はあまり姿を見せないようだが」

 

 彼の言う通り。ここ1カ月、ソルはその姿を現していない。その“事情”は私も理解しているだが、同時に人間たちの間で『ソルが地球を去ったのでは?』という噂が流れていることも知っている。このメフィラスとやらは、その人間心理を巧妙に突くつもりだ。

 

「ベーターシステムの概要は?」

「人間の巨大化と強化。身体能力の如何にかかわらず、どんな個体も使用可能だ。システムの原理については、この次元の光の戦士が巨大化する原理に似ている。つまり戦闘力もそれ並みに強化できるはずだ」

「つまり貴方は人間に兵器を供与し、その代わり自分を支配者に戴けと要求するわけですね?」

「いかにも」

 

 大将がカウンター越しに、メフィラスのグラスにお代わりの酒を注いでいる。

 

「私は人間の経済や政治に口を挟む気は毛頭ない。人間にとっても悪くない話だと思うが」

「何故それを、私に話すのですか? 勝手に始めれば良いものを」

「君ほどの宇宙人なら、私の暗躍をすぐに察知するだろう。その時敵対するのは本意ではない。どうだろうメフィラス星人。いや、キミも私もメフィラス星人だ。別次元とは言え同種族。共に手を取って地球を支配しないか」

「……」

 

 私は二品目の出し巻き卵を咀嚼し、飲み込んだ。

 

「そのお話、お断りいたします」

「ほう。その理由は?」

「貴方の兵器は、あまりに強力すぎます」

「地球にとって福音となるだろう」

「いいえ。貴方は人間という生き物を分かっていない。人間は、あなたのようなマルチバースを行き交う者に比べれば、まだ幼年期のこどもなのです」

「結構じゃないか。幼年期から成長する時だ」

「それは性急というもの。貴方のベーターシステムは人間同士の争いを誘発する。この惑星は戦場になりますよ」

「ならば私が、それを治めよう」

「それがあなたの本音です。貴方は地球の混乱を鎮めることで、人間を心理的に屈服させ、支配するのです。兵器供与など建前にすぎません」

「本音と建前、君も好きそうな言葉だが」

「もう一度言います。地球に混乱を招く宇宙人はこの手で抹殺するまでです」

 

 私はウーロン茶のグラスを空にした。

 

「……私は一つ、誤解をしていたようだ」

 

 メフィラスも日本酒を一気にあおり、一息ついた。

 

「それほど地球が好きか、メフィラス星人ニル=レオルトン」

「……」

「私は同種だから分かる。君の好意は無駄になるだけだ」

「何が言いたいのですか」

「君や私のような宇宙人が地球の人間と馴れ合うことはできない。何故なら君のその好意は、飼い主が下等なペットに向ける感情と同じだからだ」

「貴方に感情の機微が理解できるとは思えませんが」

「我々と人間は、精神性も技術力もあまりに隔てられている。君も十分実感しているだろう」

「見解の相違ですね」

「まぁ良い。どの道私のベーターシステムは、君の可愛いペットを守ることになるだろう。静観することをお勧めする。大将、お勘定」

 

 メフィラスは私の分も含め、日本円をカウンターに置いて店を出て行った。

 

「……大将」

「はいよ」

「今の客、常連ですか?」

「1カ月前くらいからかねぇ。日本酒とらっきょうがお気に入りらしい」

「お金を返したいので、今度彼が来た時に連絡いただけますか?」

 

 私は複数ある番号の一つを残し、店を後にした。

 それから尾行に気を配りながら、迂回路を経て愛美の家にたどり着く。幸い尾行は無い。

 

「ただいま帰りました」

「おかえり~」

 愛美は水色の家着姿で、ベッドに寝ころんでいた。

 

「課題終わりましたか?」

「ニル待ってた。手伝って」

「良いですよ」

 

 数学の問題について愛美に教えている間、あのメフィラスのことを思案した。

 彼は「静観しろ」と言い残した。間違いなく何らかの行動に出る。その策については、大方は予想できる。

 問題なのは“対策”だ。次元を超えることのできるマルチバースの宇宙人は、地球をはるかに凌駕する技術を持っている。GUYSの兵器程度では、メフィラスのベーターシステムに対抗できない。

 しかし現在の地球で最も強い存在、光の戦士ソルは今――

 

「ニル?」

「……どうしました?」

「それこっちのセリフ」

 

 愛美は私の額をぽんぽんと軽く叩いた。そしてその大きな瞳で、私を覗き込んでいる。

 

「上の空じゃん」

「少し考え事を」

「深刻なやつ?」

「今はまだ、愛美さんにはお話しできません」

「……じゃあ、話せるようになったら話して」

「誓いましょう」

「ふふっ。相変わらず大げさな奴」

 

 その後課題を終えて、愛美は先にベッドに入った。

 

「少し出てきます。朝までには戻りますから」

「分かった。先に、寝てるね」

 

 愛美は眠そうに目を細め、やがて小さな寝息を立て始めた。

 買ったばかりのダブルベッドの半分が空いている。彼女はいつも、自分が先に寝る時でも私の分のスペースを作ってくれている。

 そんな些細なことに、私はきちんと満足感を得られているのだ。

 私は布団越しに彼女の肩に触れ、それから立ち上がった。

 

 

 

 終電に乗り込んで向かったのは、沙流市に隣接する氷山市。その山中に足を踏み入れて1時間ほど歩いた先が目的地である。

 一見するとただの山林だが、一本の松の木だけは人工物である。幹の一部を剥がすと、テンキー付きの銀色の機械が現れる。パスコードを打ち込み、さらにレーザーによる網膜チェックを受ける。最後に固有エネルギーチェック――高度な変装に対するセキュリティで、その個体独特の体内エネルギーを識別する――を通過する。

 すべての認証をクリアすると、足元の地面が二つに割れ、地中から別の機械が現れる。空間転送装置である。その上に立つと光に包まれ、瞬時のうちに別の場所に転送される。

 転送先は、無機質な金属壁に囲まれた部屋だった。小さな窓から広がるのは漆黒の星空――宇宙空間の遠景である。

 

「お久しぶりです。体調はいかがですか?」

「……見ての通りだよ」

 

 その弱弱しい声――零洸未来のか細い声は、金属の壁に反響することもなかった。

 彼女は細身の宇宙スーツに身を包み、壁と同じ素材で作られた椅子に座っている。戦士たる者の癖なのか、少しもリラックスしているようには見えない。

しかしその身体は、今にも消えそうな半透明になっていた。

 

「キミが来るなんて、緊急事態か?」

 

 伸ばしたまま手入れされていない前髪の間から、鋭い視線が向けられる。

 

「新たな侵略者が現れました。私やGUYSの戦力では対抗できないと判断し、貴女の助力を求めに」

「……キミは、私の身体のことを分かっているはずだ」

 

 零洸が水入りのボトルを掴む。

 しかしそのストロー部分に口をつける前に、ボトルが手をすり抜けて落ちていった。

 

「私は消えようとしている。もはや戦うことなんて出来ないんだ」

 

 多次元世界『マルチバース』が生み出した“ある偶然”が、零洸の存在を危うくしている。これを解決するまでは、彼女は本来の力を発揮できない。つまり地球は、侵略者に対して深い脆弱性を得てしまったのだ。

 

「レオルトン。私はもう地球に還れない」

「いえ、出来ますよ」

 

 しかしたった一つだけ、彼女を元に戻す方法がある。

 

「この次元に居る“もう一人の貴女”を殺すのです」

「何度も言ったが、そんなこと出来るはずが――」

「あら、丁度いいタイミングで来たわね。メフィラス」

 

 私と同様に、転移装置によって現れた女。

 彼女は銀色の長髪をかき上げ、わざとらしいため息をついていた。

 

「そろそろ決着付けちゃわない?」

 

 その女、百夜過去は口の端を歪ませながら零洸に近づき、その顎を指で掴む。

 

「さぁ、もう一人の私(未来ちゃん)。存在を懸けて殺し合いをしようじゃないの」

 

 偶然、いや必然だったのか。かつて別次元に存在していた“同一の存在”――その表裏に立つ零洸未来と百夜過去の視線が、一つに交わっていた。

 

 

――後編に続く

 


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