留学生は侵略者!? メフィラス星人現る!   作:あじめし

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第6話「ソル捕獲作戦」(後編)

 教室内では、生徒たちの顔に戸惑いの色が浮かんでいた。

 

「おい、あれって冗談だよな?」

「……ぶっちゃけ、やばいよね」

 

 ソルは敗れた。そして囚われの身となり、ガッツと共に姿を消した。

 奴がこうも上手くやってのけるとは思わなかった。ガッツ星人もなかなか優秀な宇宙人だということだな。

 戦闘終了後、従来通りスマートフォンの画面を確認した。私は納得のいく情報を確認した後、教室の天井を見上げた。

 さて、私自身もソルの正体について考えなければならない。この前私たちを救った『女子制服姿』の何者か。

 私の近くで怪しい者……まずは、先日の怪獣騒ぎで学園を抜け出した雪宮悠氷。彼女は人間にしては鋭そうだった。

 そしてもう1人は、このクラスの委員長である零洸未来。彼女は学園に来ないことが多い。しかも、ぺダン星人襲来の際は、あまり姿を見せなかった。

 まだこの2人に絞るのは早計だろうが、取りあえず雪宮の所在だけでも――

 

「ソル、また嘘を――」

 

 隣に立っていた早馴が、何かを呟いた後――

 

 ガタンッ!

 

 ゆらりとバランスを崩し、机に倒れ込んだ早馴。それを目にした杏城の叫び声が、教室に響いた。

 

「愛美さん!?大丈夫ですの!?」

 

 杏城がすぐに駆け寄り、彼女を抱き起す。

 

「私が保健室に連れて行きます。案内してもらえますか?」

 

 私は早馴を送り届けたついでに学園を抜け出すため、自ら面倒な役目を買って出た。

 

「レオルトンさん! 分かりましたわ。こっちです」

 

 私は倒れた早馴を腕で抱え、杏城に後に付いて行った。

 

「愛美さん、どうしたのでしょう…」

「ソルの敗北がショックだったのでしょうか」

「そうですね――って、そんなことあります!?」

 

 流石に子どもではないのだから、彼女の言う通りだろう。

 しかし漠然とした違和感があった。

 先ほどの言葉ーー“嘘”とはどういう意味なのか。

 もしかすると、早馴とソルの間には何か関係があるのかもしれない。今時の若い娘が光の戦士の敗北で落胆するとは思えない。何度となく怪獣や宇宙人の手から守られてきた人間たちには、それぐらいしか危機感が無いのである。

 もし早馴がソルの正体を知っていて、その敗北が強烈なショックになり得る人物と言えば、早馴の仲の良い何者か――例えば零洸がソルなのだろうか?

 いや、それは早合点すぎる。そもそも女学生がソルだとは考えにくいのだ。私がソルならば、怪獣や宇宙人と接触の機会が多いGUYSに紛れるか、常に姿をくらましておくかのどちらかを選ぶだろう。

 

「んぅ……あれ?」

「早馴さん、起きましたか!?」

 

 私に抱きかかえられている早馴の顔を覗き込み、杏城が安堵の声を上げた。

 

「う、うん……って、えぇ!?」

「どうかしました?」

「ど、どうしたもこうしたもないわよっ! なんで私、アンタに抱っこされてるのよ!」

 

 早馴が突然暴れ出す。私は彼女を落とさないように、しっかりと抱きかかえた。

 

「暴れないでください」

「きゃっ! ちょっと、お尻触らないでよっ!」

「いや、早馴さんが暴れるから」

「いいから降ろしてくれれば――」

 

 とうとう私は、バランスを崩してしまった。

 

「きゃぁっ!!」

 

 足を滑らせた私が下敷きになり、早馴が私の上に倒れた。早馴がかろうじて両手を付いたものの、鼻と鼻が触れる距離で顔を合わせており、私の右膝の上に早馴がまたがる形となっている。

 

「え、えと……あの」

「顔が近いですね」

「う、うるさい! そ、それより逢夜乃。私、なんだか動けなくなっちゃったんだけど…」

「愛美さん、腰が抜けたんじゃ……とにかく、もう一度レオルトンさんが抱っこして…」

「そうですね」

 

 私が立ち上がろうとすると、早馴が変な声を出した。

 

「ちょっ……待って。あんまり動かないでよ!」

「いえ、このまま倒れていたら動けません」

 

 私は右腕と右足に力を入れた。何やら右膝にやわらかい感触がある。なるほど、早馴の股に当たっているのか。

 

「んぅっ。だ、だからぁ……足、動かなさないでってば……! 逢夜乃、早く動かして」

「は、はい!」 

 

 杏城は急いで早馴を抱き起した。ふらふらしてはいるが、早馴はきちんと自分で立てている。大事ではなかったようだ。

 

「ニルのバカヘンタイ……」

「すみません」

「それより愛美さん、体調はどうですの?」

 

 杏城が早馴の額に手を当てているが、早馴は大丈夫と言って笑っていた。私たちは保健室に行くのをやめた。杏城が教室に戻ろうと急かすので、雪宮探しは後にすることにした。

 

「私、トイレ。先に戻ってて」

 

 早馴は途中で私たちと別れ、結局私は杏城の監視つきで教室に戻った。

 それからの時間は、人間たちにとっては『悪夢』と比喩すべきかもしれない。

 

『12ジカンダ。アト12ジカンゴ、ソルノコウカイショケイヲシッコウスル!』

 

 私が教室に戻った頃、再びガッツ星人が出現し、十字架に架けられたソルの立体映像を映して“死刑執行”の宣言をした。

 それからはどのテレビチャンネルもガッツ星人のニュースで持ちきりになり、学園職員の緊急会議によって授業は完全自習となった。

 そんな世間の大騒ぎとは裏腹に、学生どもは至って冷静、いや無関心だった。あまりにも平和ボケしたその姿に、私は思わず呆気に取られてしまった。

 

「レオルトン、そういえば愛美はどこへ行った?」

 

 この非常事態を真剣に捉えているのか、草津は人一倍の冷静さを見せながらやって来た。

 

「随分前、トイレに行くと言って別れましたが」

 

 早馴について話していることを聞きつけてか、彼女は私と草津の所へやって来た。

 

「私とレオルトンさんが戻ってきて、もう30分は経っていますわね……」

「なるほど。それはおそらく便意を――」

「ストーップ!! それ以上は禁句ですわ!」

 

 杏城に口を塞がれ、私は黙らざるを得なかった。突然の行動に、正直驚かされた。

 

「デリカシーだぞ、レオルトン」

 

 なるほど、勉強になった。

 

「すみません。しかし妙ですね。もう戻ってきてもいいはずですが」

「わたくしも心配になって、さっき電話してみましたの。でも出なくて……」

「この状況です。一人にしておくのは危険な気がしますが」

「よし、探しに行くぞ!!」

 

 草津が立ち上がる。

 

「ま、まぁ、こんな事情なら自習中に教室を出ても……かまいませんわよね。ええ、そうですわ」

「行くぞ、お前たち!」

 

 私たち3人は手分けして、早馴の捜索を始めた。さすがにあの状況では断れない。杏城は1階、草津は2階と3階、私は4階と屋上を探すことになった。私は手始めに、屋上へ向かった。

 

「早馴さん――」

 

 屋上へ通じる扉を開けた瞬間に目に入ったのは、フェンスに寄りかかり視線を落とす早馴の姿だった。

 

「何をしているんですか?」

「別に。アンタに関係ないじゃん」

 

 早馴はいつもよりも機嫌が悪そうに、私を見た。

 

「そうですね。でも、心配しましたよ」

「なんで」

「トイレに行ったきり30分戻ってこないとなれば、相当な便意を――」

「違うからっ! そんなんじゃないからっ!」

 

 早馴は顔を真っ赤にして私に近づき、私の両頬を軽くつねった。

 

「先ほど杏城さんにも怒られました」

「デリカシーってものが無いわけ?」

「あの草津にも叱られました。流石にもう反省しています」

「あっそ。はぁ……なーんか、こんなバカな会話してたらすっきりしてきちゃった」

 

 彼女は大きなため息をつき、空を見上げた。

 

「悩み事、ですか?」

「ううん。ただね、頭がごちゃごちゃになったっていうか」

「ごちゃごちゃ?」

「……私ね、ソルが戦っているのを見ると、たまにキツい頭痛がするの。小さい頃、ソルに会った時に何かあったみたいで」

「ソルに、会った?」

「詳しいことは覚えてないよ。でも、ソルが目の前に立ってる姿が、頭から離れないの」

 

 見つけた。ソルの正体への糸口を。

 

「何か話したんですか?」

「さぁ。でも一つだけ覚えてることがあって――」

 

 その時の表情――といっても一瞬ではあったが、彼女が平時見せたことの無いものだった。

 

「すごく、嫌な感じがしたの」

 

 憎しみの込められた目だった。

 

「すみません、デリケートな話題に立ち入ってしまって」

「別にいいよ。何も覚えてないんだし」

 

 早馴は苦笑いを見せて、いつもの様子に戻った。

 

「だからね、ソルを見ると、その嫌な感じばっかり思い出す。彼女は人間にとっての救世主で、恩人で、応援すべき相手。なのに……」

 

 早馴は、寂しそうに笑った。

 

「私にとっては、そんな簡単な相手じゃないみたい」

 

 早馴愛美と、光の戦士ソルの関係は、私が考えているよりも深いものだったらしい。だとすれば、やはり彼女の近い所にソルがいるのか?

 

「話は終わり。気分悪くしたならごめん」

「いえ…」

 

 これ以上は聞けない。プライバシーに立ち入るのは段階を踏むことが重要である。これこそデリカシーというものだ。

 

「なんか、アンタにはつい何でも話しちゃいそう」

「そうなのですか?」

「うん。ソルのこと、逢夜乃にも未来にも話してないし」

「意外でした」

「だよねぇ。って、何ニヤニヤしてるの?」

「ニヤニヤはしていませんが、嬉しいんです。普段避けられると思っていましたが、早馴さんが自分から話をしてくれましたから」

「べ、別に避けてなんてないよ」

「そうなんですか。てっきり私は、転校初日から恨まれているものと」

「え、何を!?」

「私の面倒見をさせられているみたいで」

「そんなに嫌そうに見えた?」

「ええ」

「ご、ごめん」

「そんな謝らないでください。こちらこそすみません」

 

 私は深々と頭を下げた。その途端、彼女の笑い声が上から聞こえた。

 

「どうかしました?」

「ごめんごめん。だっていちいち大袈裟なんだもん」

 

 彼女は目元を指で拭いながら言った

 

「そんなに嫌じゃなかったよ? ちょっとめんどくさかったけど」

「それは良かった」

「全然嫌いじゃないよ、アンタのこと」

 

 そう言った後、彼女は少し顔を赤らめて伏し目がちになった。

 

「今日も保健室に連れて行こうとしてくれて、ありがとう。なんか、ニルには色々助けられちゃってるね」

 

 早馴は照れ臭そうにはにかんだ。

 

「いえいえ。どういたしまして」

「あ、てか呼び方」

 

 彼女は口を手で押さえた。

 

「名前で呼んでくれましたね、私のこと」

「わ、悪い?」

「いえ。嬉しいです」

「じゃあ、次からそうするかな……ニル」

 

 普段の彼女から私に向けられたことの無い、真っ直ぐな笑顔だった。

 それは少し前までの、風に吹かれそうな儚さに満ちた表情とは、全く違っていた。

 やはり人間とは面白い。

 様々な感情を、ごった煮にしながら考え、行動している。

 その複雑さこそが“人間らしさ”と呼ばれるものなのかもしれない。

 

 

―――第7話に続く

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