奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS) 作:222+KKK
「マリアさんが、フィーネだなんて……」
響は呆然と呟く。
フィーネは、自分の前で塵となって消えた。その顔は、まるでいつもの了子さんみたいだった。
自分の胸の歌を信じてと言った彼女と戦うことなんて、もうないと思っていたのに。
響の心には色々な感情が渦巻く。しかし、状況はそんな響に関係なく進行していく。
突如として海面が盛り上がり、風鳴翼が躍り出る。
水上をまるでスケートリンクのように疾走りぬけ、マリアへと斬りかかる。
紙一重でマリアは躱し、上に飛んだ翼を見やる。
「甘く見ないでもらおうかッ!」
翼は手にもつその
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蒼 ノ 一 閃
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ノイズなら十把一絡げに蹴散らすその斬撃は、マリアがマントでその身を包み無力化する。
いくらシンフォギアといえども、アームドギアから放たれた技をたかがマントで凌ぐということは本来不可能。
にも関わらず起きてしまったその事実は、マリア・カデンツァヴナ・イヴが戦いにおいて一流の才を持つということ。そしてもう一つ。
(くっ、やはり適合系数が上がらない。これではギアの出力が……ッ!)
風鳴翼は一流の戦士にして人類を守る防人。彼女の放つ一撃が真なるそれであるならば、たとえ相手が一流の戦士だろうと容易に切り裂く。
しかし、それはあくまで翼が万全である場合。適合系数の低下している剣の刃は、名刀の冴えとは程遠い鈍らへと貶められていた。
「甘くなど、見ていない!」
それでも尚、風鳴翼はマリア・カデンツァヴナ・イヴにとって強敵だ。
だからこそマリアは翼が油断するだろうネフィリムを拾う瞬間を狙ったし、自身のマントによる戦闘時の優位性を考慮し海上での戦闘を行っている。
翼の切り払いをマントで往なし、そのまま強打により潜水艦に叩きつける。
翼と距離が離れた時を見計らい、ネフィリムのケージを上空に投げる。
ネフィリムのケージは高空に飛び、そのまま姿を消した。
それに翼が驚く暇もあればこそ、マリアは足場としていた槍より跳躍し、翼が体勢を立て直した潜水艦上に着地する。
水面に浮かぶ
「だからこうして、全力で戦っているッ!」
そう言い放ち、歌とともに斬りかかるマリアに、翼は動かない体を動かして戦い続ける。
翼の心に浮かぶのは、その槍の冴えと歌の鋭さ。なぜこのように歌える者が、戦わなければいけないのかという運命の残酷さ。
マリアを振り払おうとして放った逆羅刹すらも防がれ、先に受けた傷によって動きが鈍った瞬間を突かれ槍で吹き飛ばされた。
「あいつ、何を!?」
「最初に受けた傷が効いてるんだ!」
翼の吹き飛ばされる姿を陸から見ていたクリスと響は、最初に翼が槍を足に受けた事を思い出す。
このまま翼が負けることになればまずい。遠距離に優れるクリスはクロスボウ型のアームドギアを向ける。
それを見て、ウェル博士は笑みを浮かべる。まるでそれも自分の予定通りだと言わんばかりに。
時間通り、とウェル博士は言った。それは彼と彼女
F.I.S.の装者はマリアだけではない。
ウェル博士を拘束している響めがけて、幾つもの丸鋸が飛来する。
流石に博士を盾にするなんてことは響が思うはずもなく、博士から手を離し攻撃を回避する。
「ッどこから!?」
「これは、神獣鏡か。見つからないわけだ、よッ!」
彼女達の唐突な出現の理由を看破したティーネは、更に飛来する丸鋸からクロスボウを構えるクリスを守るように鎖を展開する。
高速回転する鎖は丸鋸を逸しはするが、やはり基礎強度が足りないのか容易に破壊される。
そしてこじ開けられた防御を突くのは、丸鋸を放った
「なんと、イガリマッ!」
調の切り開いた道を狙い、クリスに襲いかかる切歌。その手に握られる
接近戦の能力の低いクリスは瞬く間に劣勢に追い込まれていった。
一方の調は、脚部の
響は丸鋸を見据え、あえて回避を避け腰を落とす。オールマイティに対応できるように構えたその瞬間、拳で瞬く間に丸鋸を打ち払った。
──だが、それは調とて予期していたこと。響の足を止め、大技をぶつけるための時間稼ぎにすぎない。
その脚部から巨大な丸鋸を展開し、まるで車輪のように響へと向かう。その細い轍は、アスファルトを抵抗なく切断しながら迫ってくる。
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非常 Σ 式・禁月輪
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巨大な鋸が目前に迫るという現実離れした光景に、慌てて響はその場から離脱する。
その一瞬後、響のいた場所は大きく深い斬痕が残されていた。
「うん、これは……。クリス、援護するよ!」
ティーネはその二人の戦いを見て、より劣勢であろうクリスの援護にまわる。
切歌の大鎌がクリスの腹部を強打しようとした時、ティーネの放つ鎖が鎌を縛り動きを封じた。
イガリマは接近戦用の武装がメインのギア。その動きの初動さえ封じてしまえば、その力は大きく削がれる。
「ッ!?離す、デェスッ!」
「離すわけが、ないッ!」
鎌を振ることで振り払おうとする切歌だが、ティーネはその怪力で鎌の動きを押さえつける。
その隙に離脱したクリスは、クロスボウから放たれる光の矢で切歌を狙う。
「切ちゃん!」
その様子を見た調は、響との戦闘を中断し切歌の方へと意識を向ける。
ツインテールのような2つの髪飾りをそれぞれ展開し、その先端に巨大な鋸を生成する。
彼女は自身を回転させるように髪飾りを振り、その勢いのままに2枚の円盤を解き放った。
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γ 式・卍火車
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クリスが矢を放つと同時に、調の巨大鋸は切歌とクリスの間にまるで盾のように着弾する。
イチイバルの矢はその鋸によって切歌には命中せず、鋸を吹き飛ばすにとどまった。
「チィッ……!?」
クリスからの射線が途絶えた一瞬で、切歌は鎌の刃を新たに2本展開しその展開領域の鎖を出現と同時に切断、振り払う。
ティーネは自身の鎖が破壊されたことを感知するや否や新たに鎖を放つが、その展開は一手遅かった。
鋸が砕け、視界が開いたその瞬間には切歌がクリスの懐まで迫る。
クリスはとっさの攻撃を防ぐことが出来ず、その手に持っていたソロモンの杖を弾き飛ばされた。
「させない!」
「それはこちらも、同じこと」
新たに鎖を展開したティーネがソロモンの杖を捉えようとするも、同時に展開された丸鋸の雨に鎖がバラバラに破壊される。
距離が離れていた響が駆け出すも、既に側にいた切歌が跳躍し、宙にあったソロモンの杖を奪取した。
最初に響に突き飛ばされていたウェル博士、そして切歌と調が一箇所に集合する。
響は集中を切らさぬように神経を張り詰めさせながら、彼女達の博士と彼女達の会話を聞く。
見た限りだと、あまり仲が良さそうには見えない。どうやらウェル博士は、ティーネだけじゃなく切歌と調にも嫌われているらしい。
響の横にクリスも並び、
クリスはあまり大きな傷を負ってはいないが、そもそも適合系数が低いのに大技を放ったという時点で体に大きな負荷がかかっていた。
いざというときに戦力足りえず、またしてもソロモンの杖を手放してしまったクリスは己の無力さに内心で歯噛みしていた。
陸の戦いのその一方で、翼とマリアの戦いは徐々にその差が詰まっていた。
LiNKERで無理やり適合系数を上昇させたがゆえに時間が経つごとに力が落ちるマリア。
Anti_LiNKERで落ちていた適合系数が時間が経つごとに元に戻る翼。
真逆な立ち位置に立つ二振りの刃は、互いの状況を把握するが故にその現実を理解する。
しかし、それでもマリアは誇りを胸にその
歌姫として、己の実力のみで世界を勝ち抜いてきた程の歌声に、思わずという体で翼が叫ぶ。
「なぜだ、なぜ。そうやって歌えるというのに、貴様は戦うッ!? お前たちの目的は、一体何だ!?」
只のテロ組織なら、こういった問は行わない。風鳴翼は一振りの剣、自身の使命を果たす刃だ。
だが、マリア・カデンツァヴナ・イヴは間違いなく優れた戦士。その瞳は決意に満たされ、その歌からは彼女の信念が溢れる。
彼女は、ウェル博士のように濁りきった顔の人間ではない。ならば、世界に敵対するなどという大事をするには、それだけの理由があるはずだ。
そう思っての問いかけに、マリアは一度瞑目し、すぐに刮目する。
「正義では守れぬものを、守るためにだ」
その口から出た言葉は、彼女の決意を表している。
そこに欺瞞はない。彼女が決意に身を固めていることが、同じく信念で身を固める翼には理解できた。
「……それは、月の落下による被害から人を守るためだと、そう思っていいのか?」
だからこそ、こうして問いかける。彼女の心を、真意を知るために。
「──ッ! そうか、そちらにはティーネが居る。ならば、その事実も知っていて当然か。そうだ、月が落ちる事を知っても、政府は何もしない。秩序を守る輩は、自分たちの秩序さえ守れれば弱者がどうなってもいいと考えているッ! だから、私達は正義に救われぬ弱者を救うッ! そのための、力だッ!」
彼女がそう言った途端、空間から突如として突風が吹き荒れ、大型のティルトローター機が姿を表す。
ティーネの言う「神獣鏡」、その力の一端を引き出した超常のステルス性能。彼女達が何処からとも無く姿を見せた理由がそれだった。
マリア、切歌、調は跳躍して、機体から降りるワイヤーロープに掴まり機内に回収される。
それを翼と響は見ているだけだったが、クリスは違う。どんな理由があれ、ソロモンの杖を奪わせるわけには行かない。
己の罪の証を取り返すため、クリスはイチイバルをライフルに変化させようとするが、ティーネがそれを止めた。
「なんで止める!? 此処で落とせば終わりだろうが!」
クリスが思わずティーネの方を向いて暴言を吐く。
それに言葉で答えず、ティーネは機体を指さす。その機体は空間に溶けこむように姿を消し、二課の探査システムは愚か、クリスのスコープにも映らなくなる。
「神獣鏡は、光を操る聖遺物だ。それを上手く扱えば、ああやってあらゆる電磁波干渉すら無効化する。狙っても当たらないものを、やらせる必要はないでしょ?」
神獣鏡がどういった聖遺物なのかを仔細に知っているティーネの返答に、理解はしたが納得したくないという表情をクリスは浮かべた。
正論だとわかってはいるものの、結局ソロモンの杖を取り逃がしてしまったことには変わらない。
既に機体の消えた海上を見据えたクリスは、次こそは絶対に取り返すという決意を胸に刻み込んだ。
あの後、どうすればマリア達と通じ合えるかを悩んでいた装者たちは、潜水艦の中から出てきた弦十郎の言葉でとりあえず方向性を見出した。
いや、主に1人は言ってる内容を理解出来てないのかもしれないが、とりあえずやってみることを決めた。
ティーネは彼女達が立ち直るさまを見て、やはりいいものだなあなんてのんきなことを考えている。
と、響がふと思い出したかのようにティーネのもとに近づいてくる。
「? どうしたの、響」
「うん、そう言えばって思って! ティーネちゃん、秋桜祭に遊びに来てよ!」
「いいよ。で、何なんだいそれ」
秋桜祭、私立リディアン音楽院の学校祭である。
出店が出たり派手に飾り立てるところは普通の学校祭とほぼ同じだが、音楽院であるリディアン特有のイベントとして、歌の勝ち抜きステージが存在しているなどの特色もある。
「え、軽っ!?」
という事も知らずに適当に返事をするティーネに、思わず響がツッコミを入れる。
ティーネにとって、響は普通に信頼できる人間なので変なことには誘わないだろうと高をくくっている部分がある。
尤も、それ以上に完全な人心を作るにあたって多く経験をつもうと考えたゆえの結論だが。
その後、響の説明を受け改めて了承するティーネ。
様子を見ていた弦十郎からも許可が降り、晴れてティーネは秋桜祭へと行くこととなった。
「ねえ、ティーネちゃん。どうせだから先に服買おうよ服! いっつもその、えっと、合羽みたいなのじゃダメだと思うんだJK的には! あ、ついでに友達にも紹介したげなきゃ! それから~……」
「……え?」
心が発達していないティーネは、基本的に表現できる感情が少ない。
いつも顔が笑っているというだけで、なにも常に人生が楽しいとかそう思っているわけではない。
彼女の顔に明確に感情が出るのは、歌を聞く時とウェル博士の話題を聞いた時ぐらいのものだ。
そんな彼女だが、響のたたみ掛けるような発言に何か嫌な予感を感じていた。
彼女の肉体機能には、汗をかくという機能はない。だというのに、戦いのさなかに海水がはねたのか、額から水がまるで冷や汗のように顔の表面を伝っていった。