奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第10話 帰る場所/還らぬ心(1)

 秋桜祭当日。学園祭ということもあり、リディアン音楽院は多くの人で賑を見せていた。

 世界的トップアーティストを輩出したことでも有名なリディアン音楽院は、外部からの来場者も多く来ており、制服姿以外の老若男女の姿も多く見られる。

 

 そんななか、地面まで伸びてそうな若草色の直髪を風になびかせた1人の少女が、入り口付近で所在なさげに立っている。

 少女の顔は非常に美しく整っているが、なんとも言えない微妙な表情を浮かべている。

 その純粋な美を強調するかのような白いワンピースに白いハイヒールは、似合っているはずなのにとても動きづらそうにしていた。

 

「……、なんでこうなったんだろう」

 

 少女……ティーネ・チェルク(エルキドゥ)は、普段の貫頭衣姿ではなく、明らかに少女然とした格好で迎えを待っていた。

 エルキドゥは完全聖遺物であり、元来性別は存在しない。

 故に、どちらの性別の形態をとってもあまり気にすることはない。事実"1度目"、ギルガメッシュと行動を共にしていた時は今の姿に酷似した少年の姿を象っていた。

 今は少女の姿をとっているし、その性格も肉体に引かれるのか少女的になっている部分は確かにある。

 

 しかし、お洒落とかそういったことはまた別である。基本的に中性的な存在だが、原初の魂の性別は男性。

 ギア装者に男性がいないからこそ現在は少女の姿で誤魔化しているのであり、何も当人が少女趣味に目覚めたわけではないのだ。

 

 だからこその違和感であり、待っている間も結構な頻度で自分の格好を確認している。

 その姿が外出用の服装を確認している少女に見えるわけで、周りからの注目を集めている。

 

「やっほー! ティーネちゃん。ごめんね、待たせたでしょ?」

 

 そう言って学校の方から来たのは立花響、ティーネの服装を選んだ張本人の1人である。

 隣にはおとなしそうな少女がついてきている。限定的ながら二課の協力者として活動することもある少女、小日向未来だ。

 元陸上部なだけあり体力もそこそこあるのか、体力バカの響と一緒に走ってきてるにもかかわらずさして疲れてる様子はない。

 

「もう、響ったらはしゃぎ過ぎ! えっと、この子がティーネちゃん?」

 

「そうそう! 前に見せたでしょ、写真。選んだ服もちゃんと着てるみたいだけど……」

 

 ティーネの下にやってきた響は、そう言ってティーネの姿を見やる。

 響が選んだ服ではあるが、その服をティーネが試着することはなかった……というか、貫頭衣という明らかに目立つ格好のティーネを服屋に連れてくるわけにもいかず、友人たちに写真を見せてどんな服が似合うのか相談して選んだのだが。

 だから、響がその服をティーネが来ているのを見るのは初めてだった。

 

「うわ~、ティーネちゃんすっごい似合ってる! やぱり美少女は得だね~」

 

 率直な感想でティーネを褒める響。その感想に、訳もなく恥ずかしくなりなんとなく目線をそらすティーネ。

 自分に恥という感情があったことに内心驚きつつも、まあ似合うのも当然だろうと考えてもいた。

 

 ティーネの姿の元となった存在は、嘗て先史文明記の古代バビロニアで神に仕える聖娼の頂点に立つ美女シャムハトである。

 その美しさは純粋に完成されており、模倣したエルキドゥがその美しさを再現しきれてないにも関わらず大概の服装が似合うほどのものだった。

 だから、似合うなんて言われてもそれは自分にじゃない、シャムハトを褒めているようなものだ。

 

「ふ、ふぅん。まあいいからさ、いろいろ案内してよ」

 

 とは考えたもののしかしやはり何かむずがゆさに駆られるティーネ。

 響はその恥ずかしがるティーネを見て笑顔を浮かべる。

 

(ティーネちゃん、なんだか表情変わるようになってきたなあ)

 

 ティーネと初めて会った時、ティーネはいつも笑っていたがそれだけの印象があった。

 あまり表情を笑顔から変えることもなく、一種超然としているような在り方に響は、まるで彼女が人のふりをしているかのような漠然とした違和感を感じていた。

 が、会話を重ねるにつれてそういった面は減り、表情もかなり変化するようになっていた。

 

 笑顔を浮かべているのは変わらないが、笑顔でありながらかなりわかりやすい表情を浮かべる彼女に逆に驚いたものだ。

 今もその顔は笑っているが、眉尻は下がっているし頬は赤い。恥ずかしさが表情にしっかり出ている。

 

「うん、行こう! 楽しいとこいーっぱい案内してあげる!」

 

 そんなティーネの手を掴み駆け出す響。バランスを崩しそうになったティーネは、慌てて足を前に出しその後についていく。

 未来は慌てるティーネを引っ張る笑う響を見て、困ったかのような、しかし嬉しそうな笑みを浮かべる。

 

 響には笑顔が似合っている。そう思う未来にとって、一時でも不安を忘れ楽しんでいる響を見るだけで自分も元気になる気がしてくる。

 待ってよ響ー、と未来は笑いながら二人を追いかけていった。

 

 

 周る、廻る、目が回る。

 正直なところ、ティーネは響のバイタリティ……というより、女子高生のバイタリティをなめていた。

 

「じゃあ次はあっち行こう!」

 

「えー、さっきもビッキーが決めたじゃん! 次は私が決めるって~」

 

「にしても、よくそんなロングヘア絡んだりしないねー。服もめっちゃ似合ってるし、まるで『アニメ』のヒロインみたい」

 

「ティーネさんの綺麗さも、私達の服飾センスもナイスです!」

 

 途中で合流した響の友人たち、安藤創世、板場弓美、寺島詩織もまた活力あふれる少女たちであり、ティーネは彼女達に絶賛振り回されていた。

 完全聖遺物である自分が疲労するなんてありえないはずなのに、確実になにか、主に精神が消耗している。ティーネはそう感じていた。

 その精神が反映されているのか、心なしか体も重い。しかし、なんとなく心地いい気分がする。今までにない疲労感に見合う、確かな満足感。それもまた、ティーネが感じることの1つだった。

 

「もう、全員やり過ぎだよ? ティーネちゃん目を回してるじゃない。それに、3人ともそろそろでしょ?」

 

 いろいろ引っ張り回されたティーネをみて、流石にやり過ぎだと響らを窘める未来。序に、創世達に時間を知らせる。

 

「え、あっ! ほんとだ、サンキュー未来、助かったよ!」

 

「さすが小日向さん! 時間に気を配るその姿勢、ナイスです!」

 

「ぅあ~、忘れてたかったのに! ヒナ、どーして言っちゃうのさ……」

 

 その未来の言葉に、3人がそれぞれの対応を見せる。気合を入れる弓美に、未来の気遣い(?)を褒める詩織、目を背けてたかった嫌なことを嘆く創世。

 彼女達の反応と未来の言葉に、ティーネが首を傾げる。

 

「どうしたの、何か3人でやるの?」

 

 とりあえず何か知ってそうな響に、ティーネは疑問を投げかける。

その質問に、響は笑いながら説明する。

 

「うん、実はね……」

 

 

「さあ、勝ち抜きステージ! 次なるは……一年生トリオの挑戦者達!」

 

「優勝すれば、生徒会権限の範疇で望みが何でも1つ叶える事ができるのですが、彼女達は果たして、何を望むのか!?」

 

 壇上に立つ司会の少女は、そう言って同じく壇上へと姿を見せた3人の少女に問いかける。

 3人はそれぞれアニメや特撮のようなのコスプレをしており、ひとり除いて堂々とした立ち姿だ。

 

「勿論、アニソン同好会の設立です! 私の野望も伝説も、全てはそこから始まります!」

 

 その中の1人、中央に立つ板場弓美はそう宣言する。

 後ろに立つ詩織はその姿をマイペースに褒め、名前の割に常識人な創世はもはやままよとばかりに首を振る。

 

「おお、3人が歌ってるね。楽しそうで何よりだ」

 

 ティーネがアニソンを歌い始めた3人を見てそう評する。

 一緒に聞いている響と未来はアニソンというチョイスに苦笑いを浮かべている。

 そして案の定サビに入る前に鐘が鳴らされる。マイク持っていろいろ悪態をついている板場に、会場が笑いに包まれる。

 

「あはははは!」

 

「ははは、面白かったねー」

 

 響とティーネも案の定笑っている。ティーネは普通に歌と会話が面白いと思って笑っているので、ツボに入ったように笑う響とは微妙に笑う理由がちがうのだろうが。

 一頻り笑って、ティーネは一息ついて椅子の背に寄りかかる。

 

(やっぱり、心っていいなあ……)

 

 心から笑えたのは、否、笑いが浮かび上がるほどに心が発達したのはいつ以来か。遥か過去、先史文明期に友と世界を遊び倒した時位だろうか。

 あのカリスマある黄金の友とは異なる柔らかで暖かな友達によって、ティーネは嘗てとは異なる心、英雄ではなく、人としての情動に溢れた心を獲得しようとしていた。

 

「……?」

 

 ふと、最近度々感じる違和感を一際強く感じたティーネは自分の体を見る。

 普段の貫頭衣と違うくらいで、至って普通の自分(エルキドゥ)にすぎない。だというのに、まるで違うものを見ているかのような錯覚を感じる。

 

「……、疲れてるのかな、きっと」

 

 今日は色々大変だった。女子らしい服を着て来いといわれ、学園祭を引っ張りまわされ。

 だから、精神的に疲労しているのだろう。さっきも疲労を感じていたのだ、それがまだ続いているのだと、そこで思考を打ち切った。

 

「さて、次なる挑戦者の登場です!」

 

 司会の少女の声が聞こえ、顔をそちらに向ける。既に違和感は感じない。

 ステージの脇から、まるで押されてつんのめったかのようにして一人の少女が出てくる。

 特徴的な白い髪に、後髪の一部のみを伸ばしたツインテール。

 

「響、あれって!?」

 

「うっそぉ!?」

 

 その体躯は小さめで、厚底の可愛らしいブーツを履いている。

 しかし、その体躯に似合わず女性的なスタイルの少女は、恥ずかしそうに顔を俯けている。

 

「……雪音だ。私立リディアン音楽院、二回戦は雪音クリスだ」

 

 3人の隣に来た風鳴翼が、笑ってそう答える。

 二課の誇るシンフォギア「イチイバル」の装者「雪音クリス」は、リディアンの一員として、歌が嫌いという言葉を肯定できなくなった少女は、その壇上で歌を歌い始めた。

 

 

「すごいなあ。うん、本当にすごい綺麗な歌だよね」

 

 恥ずかしそうな歌い出しに始まるも、徐々にその歌声の調子を上げていく。

 その歌声を聞いて、ティーネが誰にともなくつぶやく。絶唱とは異なる、しかしティーネにとっては同レベルかそれ以上に心の、魂の篭った歌音。

 会場に響くその歌は、聞いている人達を心から感動させる。否、人ではないティーネもまた、その心を強く震わせる。

 

 クリスは、その歌を歌いながらも徐々に顔を綻ばせていく。

 昔は、自分の歌が嫌いだった。破壊しかできないと思っていた

 

 でも、今は違う。クリスは確かに歌が大好きで、それを受け入れてもいいのだと心からそう思えた。

 

 やがて歌いきったクリスが一礼をすると、会場中が拍手喝采に包まれる。

 ティーネもまた、横にいる響達と一緒に心から拍手をする。

 

 

「勝ち抜きステージ、新チャンピオン、誕生です!」

 

 その興奮冷めやらぬ中、司会の少女が審査の結果を確認し、会場中に聞こえるようにクリスの勝利を確定させる。

 結果を聞いたクリスは大きな驚きと、それに隠れそうな、だがしっかりとある喜びの表情を見せる。

 

「さあ、次なる挑戦者は!? 飛び入りも大歓迎ですよー!」

 

 その余韻に浸らせること無く、司会の少女はクリスの肩を抱けそうなほど距離に近付き、挑戦心の有無を周囲に問いかける。

 クリスは司会の少女の突然の接近に、今度は驚きと羞恥の混在した表情で僅かに体をすくませる。

 

「やるデス!」

 

 と、そこで1人の少女が声を上げる。立ち上がった少女……否、少女たちにスポットライトが当たり、その姿を鮮明に映し出す。

 ティーネにとっては2年前から知っていたその姿は、響達にとってはつい最近見覚えのあるもの。

 

「ッあいつら!?」

 

 クリスが驚くのも無理は無い。確かに公にはその姿が公開されていないとしても、彼女達はテロ組織として活動していた少女たちだ。

 まさか、正面から堂々学園祭に来るなんて思いもよらなかったのだ。

 

「チャンピオンに……」

 

「挑戦デース!」

 

 暁切歌と月読調は、一種敵地とすら言えるリディアン音楽院に、隠すことなど何も無いとばかりに姿を見せた。

 

 

 

 壇上ではクリスが切歌に啖呵を切っていた。切歌は切歌で何やらクリスを挑発しているのか、お互いに……主に、クリスが睨みつけている。

 

 その様子を見ていたティーネは、まさかの展開に驚いていた。

 そもそも彼女らの目的がわからなかった。なんでわざわざこんなところに来て、歌の勝負をしようとするのか。

 歌に余程の自信があって、歌唱力で勝利して装者の心を折るという作戦なのか。あまりにも突飛な思考すら飛び出る始末。

 しかし、ふと先の戦いを思い返して気づいた。

 

「……そうか、奴らは雪音の、いや私達装者のシンフォギアを狙っているのか」

 

 同じように気づいた翼が、切歌達の目的を把握する。

 ネフィリムを育てていたアジトは、早々に二課によって制圧されている。そこから押収された大量の聖遺物の欠片もまた然り。

 

「ネフィリムが聖遺物を吸収することで育つということは、ティーネによって伝えられている。察するに、奴らは聖遺物を分散して保存していなかったのだろう」

 

 だから、歌の勝負である。どうやら、流石に公衆の中で一戦やるつもりはなかったようだ。

 このステージに勝てば、生徒会権限で何でも一つ願いを叶えられる。歌に勝つことで、ペンダントを頂こうという腹なのだろう。

 

 そうやって考えている間にも、ステージでの状況は進行していたようだ。

 

「それでは歌っていただきましょう! えーっと……」

 

「月読調と……」

 

「暁切歌デス!」

 

「オッケー! 二人が歌う『ORBITAL BEAT』、もちろんツヴァイウィングのナンバーだ!」

 

 自己紹介を済ませた彼女達が歌う曲目を、司会の少女は宣言する。

 その曲名に反応したのは当然ツヴァイウィングの1人だった風鳴翼、そして。

 

「なんのつもりの当て擦りッ! 挑発のつもりかッ!」

 

「……ぇ? なんで……だって、それは!」

 

 ツヴァイウィングに、と言うより天羽奏に途轍もない思い入れのあるティーネが思わず声を漏らした。予想外からの反応に響や未来、そして翼までもが驚いた表情を見せる。

 

 ティーネの心中に、あの歌は奏(と翼)のものなのにという思いが募る。単純に考えれば、デュエットソングで自信のある歌を選んだんだろう。そう分かっていても、理不尽な怒りがティーネの奥底からこみ上げてくる。

 しかし、その怒りは長くは持たなかった。

 

 彼女達が歌い始める。シンフォギア装者なだけあり、その歌は正確で、何より魂が込められている。

 その歌に思い入れの深い翼やティーネも、思わず黙りこむ。

 

「翼さん……」

 

 やがて2人が歌い切ると同時に、響が心配そうな表情を翼に向ける。

その顔を見ずに、無意識になのか翼が心中をこぼした。

 

「……なぜ、歌を唄う者同士が戦わねばいけないのか……」

 

 彼女達は翼への当て擦りなどではなく、真に歌を唄っていた。

 歌声には、間違いなく歌への愛と誇り、情熱にあふれていた。

 

 そこまで歌と共にある少女たちと、同じく歌の中に生きる自分たちが戦わなければいけないのか。残酷な現実を前にした翼の声には、紛れも無い哀しみの感情が込められていた。

 

(すごい、彼女達は、奏の歌を唄っていた)

 

 一方ティーネは、翼と似た、しかし全く異なる感想を胸に抱く。

 ティーネにとって、歌とはただ歌うべき人が歌うからこそ価値があると考えている。だからこそ、自分が奏の歌を歌っても奏の歌に聞こえなかった、自分の歌には価値がなかったと考えていた。

 しかしどうだろう。切歌達の歌が、奏より歌が上手いかどうかは関係ない。彼女達は、彼女達自身で奏の歌を歌い上げた。

 人は、誰かの歌だって自分の歌として歌っていけるのだ。それはつまり。

 

(僕がやっていることは、もしかして違うんじゃないだろうか。奏を蘇生させるより、僕は奏の歌を後に継いでいくべきだったんじゃないだろうか)

 

 ティーネは、間違いなく人の心に手を伸ばしている。

 人だからこそ、価値を後世に引き継ぐと思えるのだ。過去を振り返るのではなく、未来に向けてその顔を向けて歩めるのだ。

 

 だから、(エルキドゥ)は此処で決断を下した。

 

(ッ!? ……あれ、なんだろう)

 

 一瞬だけティーネの感じた違和感。今までにないほど強力で、一瞬で消えたソレは今は毛ほども感じない。

 だというのに、体が体の気がしない。手を動かしてみても普通に動くし、顔を動かしても普通に視界が変化する。

 

 それでも、ティーネはその違和感を捨てられずにいた。それは、まるで決断的に在り方を間違えたかのような不安を心に宿すモノだった。

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