奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第10話 帰る場所/還らぬ心(2)

「決闘……だと?」

 

 あの後、歌うだけ歌った切歌と調は、何らかの理由あってか結局クリスのペンダントを奪うことなく会場から離脱した。

 装者達は逃げる彼女達を捕らえようとしたが、学校の人々を狙うと言われてしまえば手をだすことなんて出来ない。

 そこで、切歌と調から提案されたのが「決闘」の申し出である。

 

「はい。察するに、向こうも後がない……ネフィリムを成長させるためには、我々のシンフォギアがどうしても必要なのでしょう」

 

 弦十郎の問に翼が答える。

 ネフィリムは聖遺物を食らう聖遺物。聖遺物を取り込み、さらなる出力を発揮する自律型の完全聖遺物である。

 しかし、少なくとも二課が最後に確認した浜崎病院の制圧戦では、未だ出力は低くティーネ曰く発展途上の段階でしかなかった。

 

「なるほど、確かに彼らがネフィリムを用いて何らかのアクションを起こすというのなら、それは完全体のネフィリムを用いるものでなければおかしい……。とすれば、二課のシンフォギアを奪えなければ、自分たちのギアを与えるほかない……それは避けたいということですね」

 

 翼の言葉に、緒川が納得したように頷く。F.I.S.の装者は3人のみ。貴重な戦力だ、手放す訳にはいかないだろう。

 だからといって無理に奪うにも、あの場では2対4。ただでさえ適合系数が二課装者達に比べて低いというのに、数も倍ではとても勝てたものではない。歌で勝負を挑んだのもそういった理由だろう。

 結局、戦闘になれば被害がどうであれ勝てないのは切歌たちなのだ。であれば、せめて数の不利を埋めるために決闘を申し込むということもするだろう……テロ組織らしからぬものではあるが。

 

「まあ、どうあれ向こうから決闘の日時場所は伝えるってんだ。こっちは黙って白手袋(ガントレット)投げられるまで待ちゃいいのさ」

 

「……そうだな。それに向こうは期限を切っているつもりだろうが、先にこちらから見つけてしまえはどちらにせよ同じことだ」

 

 クリスがややこしくなる前に話を切る。

 結局そうするのが最善だと考えた弦十郎は、方針の内容を彼女の意見に付け加えるだけに留めた。

 

「う、う~ん。とりあえず相手の出方を見るッ! てやつですね師匠!」

 

 響がわかってるのかわからないのか微妙な例えを持ち出す。

 大体合っているが色々足りてない発言に弦十郎は微妙な笑顔を浮かべた。

 

「…………」

 

 そして、その場にいた全員が今まで黙っている1人の人間を見る。

 彼女──ティーネ・チェルクは、心此処に在らずといった茫洋とした表情で響の横に突っ立っている。

 明らかに方針会議に集中してる様子ではない。ルナアタック以前の響のほうがマシなレベルの棒立ちだ。

 

「……ティーネちゃん?」

 

「…………」

 

 話に集中していないせいで誰かに声を掛けられることは数あれど、声をかける側になるのは滅多に無い響がティーネに声をかける。

 その呼びかけにも答えず、ぼんやりした表情を変化させない。

 

「起きろ、このバカ!」

 

 思わずクリスが怒鳴って頭をひっぱたく。

 流石に頭を叩かれれば気づかないなんてことはなく。

 普段ならそれなりに力を入れて叩いても微動だにしないはずのティーネは、思い切りバランスを崩して我に返ったようにクリスの方を向く。

 

「……!? え、な、何? 急にどうしたの?」

 

 本人にとっては急な出来事に慌てるティーネ。明らかに話を聞いていないと主張するその態度に、あまり気の長くないクリスの顔が怒りに染まる。

 

「お前なあ、元お仲間の話なんだろ!? それをお花畑で聞き逃すって、お前はバカの中のバカなのかッ!?」

 

 怒鳴るクリスに、驚きで怯え竦んだような表情をするティーネ。

 

「……うん、ごめん」

 

 その言葉を聞いて自分が悪かったことを自覚したティーネは、反論すること無く頭を下げる。

 とりあえず反省した様子を見て溜飲を下げたクリスは、ティーネに今までの内容を説明した。

 その方針に異議も問題も感じなかったティーネは了解し、自分の部屋に戻っていく。

 

 

 

「……で、ありゃ一体何だ? 何がどうなってああなったんだティーネ君は?」

 

「それが、皆目検討がつかないといいますか……」

 

 普段はマイペースで余裕を崩すことのあまりないティーネの散々な様子に、弦十郎が原因のその場に居たであろう残った装者たちに問いかける。

 響が代表して答えるが、残りの二人もそれに同意するかのような表情しか浮かべていない。

 

「何か理由があるとすれば、ティーネがF.I.S.装者達の歌を聞いたことくらいでしょうか」

 

「つっても、戦場で嫌ってほど聞いてるだろ? あいつらの歌、何か今回だけおかしいってのか?」

 

 あたしはそう思わなかったけどなぁ、と言ってクリスは頭を掻いた。なんともむず痒い、ハッキリとしない状態に苛ついているようだ。

 翼だって、響だってそんなことは思っていない。彼女らの歌は戦場同様その心に、力に溢れていた。今回だけ違うとすれば、精々曲目程度だ。

 

「……曲目? そういえば私が初めて彼女と出会い、共に戦ったあのライブ。その時、ティーネが私の歌を懐かしむような事を言っていました。今回あの装者達が私と奏の歌を歌ったことが、どういった理由かはともかく彼女の琴線に触れたということかもしれません」

 

「ふぅん。だとすると熱烈大ファンなんじゃないか、アンタのさ? だから別な奴が歌って頭真っ白になったとか?」

 

 翼が挙げた理由と思われる内容に、クリスがからかい半分推理半分で茶化す。

 それに翼が怒鳴ろうとするが、しかし一理あるのかも知れないと思案する。

 今回の事でティーネが何がしか反応する理由としては、ないわけではないのかもしれない。というより、それ以上の理由に繋がる手掛かりが無いというのが正しいが。

 

「おいおい、真面目に取るのかよ……。ったく、調子狂う……ッ!?」

 

 悩みこむ翼を前に肩透かしされたようなクリスは、唐突になり始めたアラームに反応しモニターを見やる。

 そこにはノイズの反応が大々的に示されており、しかしすぐに消滅した。こんなことができるのは当然ソロモンの杖だけであり、F.I.S.だけだ。

 とすれば、これは彼女達の仕業以外にありえないということ。

 

「古風な真似を……決闘の合図の狼煙とはッ!」

 

 二課でしか知れぬ方法で場所を知らせるそのやり口に、翼が声を上げる。

 その間にも位置を調べていた藤尭が、発見した座標に驚愕する。

 

「位置特定ッ! ……此処はッ!? 東京番外地、特別指定封鎖区域……ッ!」

 

 その場所に、装者3人も驚きを隠せない。そこは、彼女達にも二課にとっても因縁浅からぬ場所。

 

「カ・ディンギル跡地だとォッ!?」

 

 今はルナアタックと呼ばれているあの戦い。櫻井了子……フィーネと戦ったあの場所。

 そこで同じ名を名乗る相手と相見える。それは、残酷な運命を予兆させるに足りるだけの知らせだった。

 

 

「決着を求めるのに、お誂え向きの舞台というわけか……」

 

「へぇ、僕は此処に来るのは初めてだなあ。あ、でも映像でなら見たことあるよ!」

 

 折れたカ・ディンギルが見える丘を歩いて行く4人。

 あのあと、部屋にいたティーネと合流した3人は、F.I.S.に指定された決闘の場所へと向かっていた。

 ティーネは今は多少持ち直している……ようなフリをしていることが丸わかりなカラ元気な態度をとっている。

 あまりにもいつものティーネらしく無く、不安な部分もないわけではない。しかし、仮にF.I.S.と戦うなら多少でも前線で持ちこたえられる人員が居るに越したことはない。

 マリア、切歌は前衛型、調がオールマイティやや前衛寄りであることを考えれば、後衛特化のクリスと前衛3人で揃えられる二課が有利なのは言うまでもない。

 それにそもそもティーネがいやいや来ているわけではなく、一応自分から合流してきたのである。簡易的なスキャンでも体の調子は極めて平常通りだったため、出撃は許可されたのである。ただし、肉体に何か異変があればすぐ戻るようにとも言われているが。

 

(よし、体は動く。違和感なんて、無いはずだ。大丈夫、誰が相手になっても役割はこなして……?)

 

 ティーネは自身が不調になっている気がする(・・・・)だけで、それ以上の問題は無いとそう思っていた。

 だから、出撃しても問題はない。切歌だろうがマリアだろうが、抑えてみせる……と、そう意気込んだ矢先。

 登り切ったその場所に、装者は誰一人としていない。居るのは1人の男だけ。

 

「……ウェルキンゲトリクス、またお前か」

 

「やれやれ、相変わらず……というか、前より感情が出ていますねえ? 何か面白いことでもあったんですかぁ?」

 

 苛ついた表情を見せるティーネを盛大に煽るウェル。

 思わず怒鳴り返そうとしたティーネを抑え、翼がウェルに問いかける。さらにクリスも、切歌と調、そしてマリアの不在について言及した。

 

「どうした、貴様1人か? ならばこちらとしても色々と手間も省けるのだがな」

 

「っていうか、あいつらはどうした? 決闘って言ったのはあいつらだろうが!」

 

「彼女達は謹慎中です。全く、崇高なる使命を果たすべきだというのに、子供の遊び感覚で色々やられてはたまりませんからねえ」

 

 2人の言葉に、大仰に身を竦ませるウェル。その表情に、崇高なる使命を帯びている様子は欠片ほども見当たらない。

 ティーネは心を落ち着けてウェルを睨む。腹立たしいそのニヤケ顔を見なければいけないのは業腹だが、しかしこれはいいチャンスでもあった。

 

「……それで? わざわざ装者4人の前に、たった1人? お笑いだね、此処でその崇高なる使命とやらを全うせずに捕まりなよ」

 

 ウェルに対してのみの毒舌に、ウェルは三日月のように口を歪ませる。

 瞬間、ウェルの手元にあったソロモンの杖が瞬き、大量のノイズが出現した。

 

「さて、そううまく行きますかねぇ?」

 

 そう言うと、ノイズの半数、飛行タイプの機動力に優れるノイズが街へと向かおうとする。

 

「クソッ、ちょっせえ真似をッ!」

 

 ギアを展開しながらそのノイズたちを睨むクリス。見れば残りの装者もギアを纏って戦っている。

 手持ちの武器をすぐにガトリングへと変化させ、街へ向かおうノイズをどんどん撃ち落としていく。

 それを尻目に残りの3人は、地上に出現したノイズを殲滅していく。

 

「どうした、こんなもんでアタシらを……ッ!?」

 

 そういうクリスの足元が大きく隆起し、まるで大地が破裂したかのようにして、黒い生物のようなモノが出現する。

 クリスは地面が割れるときの衝撃に巻き込まれ、空へと打ち上げられる。そしてすぐに落下を始め、衝撃を殺すことも出来ず背中を強打、そのまま意識を失った。

 

「これは……ネフィリムッ! よもやこれ程までに肥大化しているとは!」

 

 そのネフィリムの以前とはかけ離れた姿に驚きを隠せない翼。

 大地を割って出現したネフィリムは、明らかに以前に比べ巨大化していた。以前より成長を続けていたようで、大型犬ほどだったそれは今や人を遥かに超える巨体となっていた。

 

「これ程までに? いえいえ、まだまだ遠いんですよ僕らの理想には。ですので、皆さんを叩き潰して、そのギアを頂かせてもらいますよ?」

 

 ウェルがそう言うと同時に、ネフィリムは倒れたクリスの下へと歩を進める。

 

「翼、クリスを! 僕が空中のノイズを倒す!」

 

「っ、承知した!」

 

 倒れたクリスを守るため、戦端を切り上げ一気にクリスの下へ駆ける翼。ティーネは背中に巨大なウィングを展開し、空へと舞い上がる。

 空中で大量の鎖を展開したティーネは、クリスのお陰でかなり数の減っている飛行型ノイズの群れをまるで鎖で逃げ道を塞ぐかのようにして取り囲む。

 そのまま、翼を維持できるギリギリのラインまで鎖を広げ、一気に収縮させる。

 

 大量に展開された鎖は、網どころか壁のようにノイズに迫り、逃げる隙を与えない。

 中にいたノイズ達は鎖で作った領域に呑まれ、一気に押し潰された。

 

「よし、あとは地上を……ッ!」

 

 ティーネが地上を見れば、翼とクリスがノイズの粘液によって動きを封じられている。

 その2人をカバーするように、響が1人でネフィリムと戦っていた。

 

 

「ッ、ティーネちゃん?」

 

 地上でネフィリムと正面から戦っていた響の援護するかのように、空中から剣が降り注ぐ。

 光の剣ではなく、実体を持つ剣の弾幕。これを展開するのは響の知るかぎり一人しかいなかった。

 

「まさか2人が動きを止められるとはね。加勢するよ響!」

 

「うん、ありがとうティーネちゃん!」

 

 ティーネは地上に降り、ネフィリムと戦う響の援護に回る。

 ネフィリム相手には厳しい制約があるティーネだが、戦力にならないわけではない。ウェルの召喚するノイズ達を、響の手を煩わせない内に破壊するだけでも大分響の負担を減らしていた。

 だから、響は歌声を響かせる。どんな時でも1人じゃない、皆で戦っているというその思いが、響の鼓動を高鳴らせる。

 戦場でついた勢いをなくさない内に、ネフィリムを殴り飛ばそうとした響の耳に、ノイズを呼び出しながらのウェルの言葉が届いた。

 

「ルナアタックの英雄よ、確かにすさまじい力だ。そうやって君は、我々の使命を止めようとする! 無辜の民が月の落下で滅ぶのを、その拳で助長する訳だァ!」

 

「ッ!?」

 

 その言葉は、そこまで響が揺さぶられる言葉ではなかった。ちょっと動揺して、それだけだ。

 だから、戦場でその少しの動揺がどれほど拙いことになるのかを響は理解することになった。

 

 すこし詰まったその拳を、ウェルの言葉を振り切るように響は前へと伸ばす。

 

 

 

その瞬間をティーネは見過ごすはずがなかった。彼女の肉体能力は優れている。普通の人類ではとても成し得ない優れた視力と情報解析能力は、響の行動の危険性を把握する。

 だから、ティーネは鎖で響を引き寄せようとした。あのままでは、響が危険な目にあってしまう。

 鎖が間に合う可能性は五分と五分。だが、間に合わせてみせる。大切な友を守るために、人の心(ティーネ・チェルク)は奮起した。

 

 「エルキドゥ」のシンフォギアは、鎖を展開しない。展開しないはずがない。聖遺物の自分の指示を、聖遺物で動くシンフォギアに過不足無く伝えているはずなのだ。

 しかし、現実に鎖は展開されず、「自分(エルキドゥ)」はシンフォギアに指示を伝えず。

 

 響の伸ばした腕が、ネフィリムの口に綺麗に収まる。

 

 鋭い牙が多く生えるその顎を、ネフィリムは理性なき獣のように躊躇いなく閉じる。

 

「……ぇ?」

 

 自分の腕に、牙が食い込んでいる。

 響はその現状を認識したが、しかしあまりに現実から離れたその状況に精神が対応できていない。

 

 後ろで援護していたティーネは、その状況を絶望的な表情で見つめている。

 

 あまりの状況に動きを止めてしまっている2人の「人間」を前に、ネフィリムは口にした「餌」を、猛獣のように一気に引きちぎった。

 

「立花ァァアアアアアッ!」

 

 翼の絶叫が響く。赤い血が、まるで噴水のように溢れ、やがて止まる。

 響は自身の左腕のその断面を、血が出ないようにというより痛いところを抑えるという本能のまま残った右手で塞ぐ。

 

「あ、ああ……」

 

 腕を失ったというその現実を理解し、直視したくないというように首を振る。

 そこで視界に入ったネフィリムが、自身の腕を咀嚼し飲み込んだ姿を見て。

 

「ぅぁああああアアァァーーー……ッ!!」

 

 立花響は絶叫を上げ、崩れ落ちた。


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