奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第16話 願いに至る道

「……発見しました。『エルキドゥ』のシンフォギアの位置は東経135.72度、北緯21.37度付近の海上、F.I.S.より押収されたデータに記されている『フロンティア』近辺の座標となっています」

 

 修復中の二課仮設本部、ティーネによる破壊行動に巻き込まれなかった司令室では、大型モニターに現在の装者の位置を調べるための追跡地図が映し出されていた。

 あれから、二課では現場を離脱し飛翔する黄金帆船(ヴィマーナ)の追跡を試みていた。しかし、超音速かつ非慣性機動で飛翔するそれの追跡は困難を極めた。

 そこで、二課は途中からヴィマーナではなく乗っているティーネのシンフォギアの移動の痕跡の調査に切り替えた。あくまで発信記録を追跡するだけで良かったので、その逃走位置も戦いから3日ほどという短時間で割り出すことが出来たのだ。

 発見箇所を衛星カメラを用いて撮影・拡大表示すると、そこには確かに黄金の聖遺物が映っている。

 

「フロンティア……正式名称は『鳥之石楠船神』。フィーネ……了子くんがF.I.S.に残したデータには、カストディアンが作ったという星間航行船だとあったな」

 

「ええ、ですがなぜティーネさんがそれを求めるのか……。仮にF.I.S.と目的が同じであれば、そもそも僕達の側に付いていないでしょう。つまりF.I.S.のように月の落下による無辜の民の救済ではないか、若しくはそれよりも重要な目的があるということでしょうか?」

 

 弦十郎と緒川は、ティーネがなぜフロンティアを求めるのか、その目的を推測しようとしていた。

 

 フロンティアは空を飛ぶ巨大な聖遺物にして、カストディアンの残した遺跡。米国はそれを用いて地球外逃走を図り、F.I.S.は高官や富豪だけではなくできるだけ無辜の民を助けられる手段を望んだ。

 ティーネはそのどちらにも付かず、単独で犯行に及んだ。つまり、彼女の目的はそのニ者と異なっている可能性が高い。

だが、と弦十郎は頭を振る。

 

「情報が、足りんな……」

 

「ええ、我々も情報収集をしているのですが……。どう探っても2年前に米国に保護される以前の彼女の経歴が見つからないのが現状です。彼女に何があったのか、それがわからないことにはここまでの大規模犯行に及んだ理由を見つけるには……」

 

 弦十郎の言葉に、緒川も同意するように頷く。

 ティーネの目的が解かれば、次の行動も解るだろう。そう思って過去の情報を調べようとしたが、どう探っても見つからない。

 そもそも、ティーネの母親が中東方面の出だとF.I.S.に証言したらしいが、その割にティーネ・チェルクという名前に中東方面の命名規則が使われていない。

 米国政府はそれを父方から与えられた名前だと記録しているが、母方から一切影響のないというのも不自然でしか無い。

 そして、その父方の家もまた見つからない。2年前にバル・ベルデに滞在したことのある旅行者や現地民に、チェルクという名前は残っていないのである。

 これでは、その名前すらどこまで本当なのか怪しいとしか言えないのが現状である。

 

「そして、あの特徴的な見た目すら誰も知らなかった、というわけか……」

 

「ええ、バル・ベルデ北部の彼女がいたとされるスラム地域を虱潰しにあたっていますが、スラム街に来るまでの姿を見たことのある人間は今のところ……」

 

 ティーネは中性的な見た目だが、それが地味なのかというと決してそんなことはない。

 長く癖のない若草色の髪、貫頭衣のような民族的衣装、そしてどこか人間離れした美貌をもつ彼女はハッキリ言えば目立つ。とても目立つ。

 その特徴的な見目でありながら、誰もそれを知らないということは普通に考えればありえないというべきだろう。

 

「どうなってる……まるで2年前に急に現れたかのような……。2年前といえば、いや、しかし……」

 

「2年前、ライブ会場の惨劇ですか……。しかし、当日参加した観客の中にティーネさんの名前はありませんし、カメラにあんな特徴的な姿が映っていれば誰か気づいているのでは……」

 

「だが、探って見る価値はある。あの時起きた大規模な異端技術・ノイズ関連の事件はアレだけだからな、もしかしたら何か拾える可能性もあるだろう」

 

 弦十郎が2年前と聞いて思い浮かべるのは、ルナアタックの始まり、完全聖遺物「ネフシュタン」の暴走を引き起こしたライブ会場の惨劇だ。

 確かにその舞台は日本で、ティーネが見つかったのはアメリカ。関係ない可能性も十分にあるが、それでもただ四方八方に手を伸ばすよりは可能性があると弦十郎の勘が告げていた。

 と、その時司令室に通信が入る。通信元は集中治療室、同じく奇跡的に被害が起きなかったナスターシャの病室だ。

 

「意識が戻られましたか、ナスターシャ教授? 一体何故通信を……?」

 

『ええ、あなた達のお陰で、ある程度は持ち直しました。私が通信したのは、病室の外から漏れ聞こえた話題に情報を提供できるからです。……ティーネ・チェルクの目的、大雑把にではありますが予想ならば出来ます』

 

「ッ! それは本当ですか!? それを教えていただけると!?」

 

 ナスターシャの通信は、二課の司令室に驚きをもたらした。ティーネの目的を知るための情報を得られるとあって、弦十郎は食いついた。

 予想でしか無いとはいっても、ナスターシャはティーネと2年の間幾度も交流を繰り返してきた。二課での交流のほうが密度は大きいかもしれないが、見つかった当初のティーネの根本的な情報を知ることのできる可能性が見いだせたということだ。

 

『はい。ですが1つだけ。マリアと切歌、調は私が誑かしたようなものです。ですので、そちらに協力する代わりに、マリア達の罪を軽くして欲しいのです』

 

 ナスターシャは、二課にF.I.S.装者達の減刑を望む。ナスターシャは、ナスターシャ自身が望んたことにマリア達を手伝わせただけなのだと、そう思っている。

 だからこそ、子供達に与えられた罪は、本来母親が引っ被るべきなのだ。優しい子供達に非道な真似をさせた母親(マム)の、せめてもの贖罪として。

 その思いを受け取ったのか、弦十郎は神妙に頷く。

 

「……約束しましょう」

 

『……ありがとう。ティーネ・チェルクは、魂に関わる技術を望んでいます。フロンティアは莫大な情報を持つ異端技術の集積体。そこならば、魂の転写技術があると見込んでいる可能性があります。……彼女は、死者を蘇生したいと思っているようでした』

 

 その言葉を聞き、弦十郎も何故ティーネがああも話したがらないのかを理解した。

 二課の人間はよくも悪くも基本的に善人で、正義感と倫理観を持つ人間である。死者蘇生と聞けば、同情や共感を覚えることはあっても協力することはまず無いだろう。

 だから、ティーネは単独で行動した。協力を得られないとわかっているからこそ、早期にこちらが対応する力を削いだのだろう。

 

「──だとしても。死者の蘇生が実現されてしまえば、人の生命を軽くしてしまう。死してなおそれを取り戻せるなら、それは人から歩みを取り上げてしまう。……俺達は、君を止める事を諦めはしないぞ、ティーネ君」

 

『それが正しいことだと、私も思います。人は、犠牲を悼み、悲しみ、やり直したい思うでしょう。ですが、それだけを思っていては人は前に進めない。教訓を糧によりよい未来を導き出す事こそが、人間が前を向いて歩を進めるために重要なのですから』

 

 未だ動きを見せないヴィマーナを見ながら独白した弦十郎に、同意するかのようにナスターシャはそう答えた。

 

 

 立花響は、いつもの見慣れた医務室目が覚めた。肉体的なダメージはそこまででもなかったため比較的すぐに目を覚ますことが出来たのだ。

 

「響ッ! よかった、目が覚めたんだ……」

 

 見舞いに来ていた小日向未来が、響の手を握り込む。その手は震えていて、また未来を心配させてしまったと後悔する。

 

「うん、ごめんね未来。私、いっつも未来に迷惑ばっかりかけてる」

 

「ううん、いいの。響が無事だったから、それでいいの」

 

 響の謝罪に、そんなものはいらないと未来は首を振る。そうやって響の側にいてくれる未来は、響の心を優しく癒してくれる。

 ふと、響は自分の胸の傷を見る。2年前から胸にあったガングニールは、既にその全てを掻き消されていた。

 

「……私の歌、ティーネちゃんに届かなかったのかな……。だから、胸のガングニールも失って、私の胸から、歌が湧き上がらなくて……奏さんの歌も、無くしちゃって……」

 

 ガングニールがなくなれば、立花響は戦えない。去ってしまった友人に、歌を届けることが出来ない。その事実に、響は顔を曇らせた。

 そんな響の顔に、未来は少しだけ眉尻を上げ、響の顔を両手で挟み込む。

 

「そんなこと無い! 響は確かに戦う力を失ったかもしれないけど、でも……。それでも、響は歌を歌えるでしょ! 歌を失ってなんかないよ!」

 

 怒ったような表情で響を励ます未来。励ますというより叱ってるようなその語調に、響は目を見開く。

 いつかあったあの日、胸の歌を信じなさいと言った彼女は、ガングニールを信じろといったわけではない。

 ガングニールを纏えば、歌が流れ胸に歌詞が湧き上がる。でも、それはあくまで響の心から生まれた歌詞だ。ガングニールがなくなったからといって、歌がなくなるわけではない。心の歌とギアの歌の相関関係において、先にあるのは心の歌。それを証明したのもまた、彼女が記した櫻井理論である。

 

「……そっか、私、まだ歌えるのかな……。ううん、伝えるんだ。私の胸の歌を、今度こそティーネちゃんに届けてみせる!」

 

 胸の歌は、無くなるわけがない。響がその心に歌を持つ限り、その歌は世界に響き渡るのだと、響は気を持ち直す。

 その顔には凛々しく眩しい笑顔を浮かべ、響は未来に向き直る。

 

「ありがとう、未来! やっぱり未来はすごいね、私がそばに居て欲しい時にそばに居てくれて、私が欲しい時に欲しい言葉を言ってくれる!」

 

 そうやって、響は未来のことを陽だまりのようだと笑顔を深める。笑顔でやる気に満ちたその顔を見て、未来も笑顔を浮かべた。

 

(うん、やっぱり響には笑顔が似合ってる)

 

 小日向未来のことを陽だまりなのだと、彼女の親友は口癖のように言ってくれる。そんな立花響のことを、未来は太陽のようだと思っている。

 何時でも明るく、誰かを照らしてくれる。誰かを助け、笑顔を浮かべる友人は、小日向未来にとっての太陽なのだ。

 

「……よぉし、頑張るぞーッ!」

 

 そう言って、響は治療ベットから降り、その両足で立ち上がる。まだ多少ふらついているが、それでもしっかりとした足取りで司令室へと向かう。

 彼女の手はベッドから起きた時と変わらず、未来の手と繋がっていた。

 

 

 エルキドゥは、日本の南方、沖ノ鳥島近海にヴィマーナを浮かべていた。

 普段は中空に浮遊するそれは、エネルギーの蓄積をするために飛行機能をカットされ、太陽エネルギーを蓄積するために緑玉の翼を広げ波に揺られて漂っている。エルキドゥはまるで錨のように鎖を展開し海底と接続、大地とのエネルギーラインを確立する。

 その鎖は基底状態の神獣鏡のシンフォギアへと繋げられ、エネルギーを蓄積し続けていた。

 

 エルキドゥの特性である聖遺物クラックで使用できる神獣鏡の出力では、海底に眠るフロンティアの封印を解除できない。

 だからこそ、エルキドゥは莫大なエネルギーを注ぎ込み無理やり神獣鏡の出力を底上げするという手段に出ていた。

 

 マリアは既に目を覚まし、その様子を眺めている。友人に気絶させられ、目が覚めてみれば黄金の聖遺物の上で波に揺られている。

 独房にいたマリアは当然ガングニールのギアを持っておらず、此処からの脱出はどう考えても不可能。現状を打破するための手段はなく、マリアにできることは何もなかった。

 

「……ねえ、ティーネ。あなたの聖遺物クラックでフロンティアを開放できないの?」

 

 ふと疑問に思ったことをマリアが口にする。その言葉に、エルキドゥはマリアに向き直った。

 

「うん。最初はそうやろうと思ったんだけどね。この封印を解かないと、そもそも僕がフロンティアを認識できないんだ。封印を実行している聖遺物が何処にあるのか、それともフロンティア自身が封印しているのかはわからないけど、それがわからない以上神獣鏡に頼るしか無いみたいだ」

 

 まるで今も友であることを疑っていないかのように、いつもの態度で対応するティーネ。こうやって振舞っている間も、その笑顔も、マリアにとってはティーネであるようにしか見えない。

 だから、なぜティーネがここまでの行動を起こしたのかわからない。自身を脅迫し、昏倒させてまで連れてくる意味も意図も理解できない。

 

「……ティーネ。貴女は結局、何を望んでいるの?」

 

 自分が最早逃げ出せない以上、せめて少しでも情報を集めようと考えたマリアはそう問いかける。

 エルキドゥはどうしようか悩む素振りを見せる。やがて、話すことにしたらしくマリアに向き直った。

 

「ううん……。まあ、いいか。この状況じゃあ、マリアが逃げ出すことも通信することも出来ないだろうからね。ただ、1つ言っておこうかな。認めろとは言わないけど、どうか否定しないで欲しい。──僕の願いは、死んだ人間を生きかえらせること。今の僕にとって誰よりも鮮烈だったある人を復活させることこそ、僕の願いだ」

 

 その願いは、マリアの心を強く揺さぶる。

 死者の復活こそがエルキドゥの願いだという。わかりやすく単純な欲求だからこそ、マリアは心から共感できる。マリアもまた、心から大切に思える人を失ったからだ。

 

「──そう。否定する気はないわ、私だって同じような手段を持っていればそうしたかもしれないから」

 

 そして、だからこそそんな願いは認められないとも思う。死者は蘇らない、だからこそ自分は死んだ妹──セレナの遺志を継いで立ち上がったのだから。

 もしかすればこの思いは、自分の大切な人は蘇生しないのだから他の人も蘇ってはいけないという醜い感情なのかもしれない。だが、マリアはそれでもその願いを認められなかった。

 

 マリアの言外の思いを理解したのか、エルキドゥは判っていたように首をふる。

 

「知ってるさ。だからこそ、僕はこういった強硬手段に出たんだ。君たちとは違って、僕は未来を見てはいけないんだ。最初の目的を見失ってしまえば、それは僕の存在証明(アイデンティティ)の崩壊を招いてしまうからね」

 

「それはどういう──ッ!?」

 

 マリアが言葉を紡ぎきる前に、エルキドゥは鎖を回収する。ヴィマーナの動力部に火が灯り、翠色の光輝を全体に走らせる。

 エルキドゥは機体を上昇させ、波を被ることのない程の高さで静止させる。

 

「さて、準備は整った」

 

 エルキドゥは再び神獣鏡のシンフォギアを身にまとう。そのギアにはこれ以上ないほどにエネルギーが蓄積されており、今にも破裂しそうなほどに輝いている。

 照準を海中、F.I.S.が調べたフロンティアの座標へと向ける。脚部パーツから展開された鏡が、銀色の円環を構築する。その中心部には、エネルギーを転換した破魔の光が収束されていく。

 

 やがて十分に蓄積された閃光は、流星の如き尾を引いて放たれた。

 

 光の柱は海面を突き破り、接触した周囲の海水を蒸発させる。それでも尚勢いは落ちず、海底へと突き刺さる。

 瞬間、海底に展開されていた聖遺物の波動が打ち消される。その力は、大いなる遺跡を隠蔽するためのもの。封印が剥がされ、その遺跡は浮上を開始する。

 

「浮上しろ、フロンティア。神々(カストディアン)が星に降り立った鳥之石楠船神は、今この時から方舟(ma-gur)となるッ!」

 

 遺跡の上層構造物が、やがて海面を突き破る。隠蔽が解き放たれたそれは、まさしく先史文明でしか成し遂げられないような巨大な船のシルエットを見せる。

 その様子を、マリアはただ呆然と見ているほかなかった。そんなマリアを尻目に、海面上に露出した大地にヴィマーナを降ろす。

 

過去(目的)に拘るしかない僕は、この遺跡を以ってその過去の本懐を達成する、してみせるッ!」

 

 遺跡の大地に降り立ったエルキドゥは、その瞳に願い(プログラム)を輝かせた。

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