奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第2話 歌を奏でるために

 惨劇の起きたライブ会場、その下層にある実験施設。

 

 ネフシュタンの暴走が引き起こした破壊により、研究者たちの大半は瓦礫に押し潰されている。

 強靭な肉体と精神を持つ風鳴弦十郎ですら、あまりのエネルギーによって気絶を余儀なくされている。

 

 それ故に、1基だけコンピュータがギリギリ稼働していることには誰も気づかない。

 そこに示されているエネルギー規模はネフシュタンのそれに比肩し、しかし全く異なるアウフヴァッヘン波形。

 

 同規模の完全聖遺物がそこにあった事を示すデータを表示していたコンピュータは、程なく新たな瓦礫に押し潰された。

 

 

 

 

 エルキドゥは、風鳴翼が天羽奏を抱きしめ涙を流している姿を目撃していた。

 未だ不定形なその肉体の、目だけを再構築して彼女たちの別離を認識する。

 

(……ダメだ)

 

 声を上げることで不用意に自分の存在が気づかれるとまずい事を本能的に察知していたエルキドゥは、声を上げずにその絶望を見やる。

 しかし、彼の胸の内に到来する感情は哀れな2人の絶望を打ち消したいという願いではなく、もっと単純なことであった。

 

(このままでは、天羽奏の歌を聞けなくなってしまう)

 

 自身を完全に起動させた魂からの歌。エルキドゥは、心から彼女の歌を聞いていたいと感じていた。

 

 嘗て自身に人の姿を、知恵を、感情を与えてくれた聖娼シャムハト。

 シャムハトの歌は自分にも伝えられ、エルキドゥは無機物との共振に歌を用いるようになる。

 歌は、聖遺物である彼にとって非常に重いものであり、あまりにも代えがたいものであった。

 

 天羽奏はシャムハトとは全く似ても似つかない。彼女の歌もまた然り。

 しかし、エルキドゥにとってそんなことは些細な事だった。

 

 ただ、歌を聞きたい。

 でも、もう聞くことは出来ない。

 

「知ってるか……翼……。思いっきり歌うとな、すっげぇ……腹、減るみたい、だ……ぞ……」

 

 天羽奏の体組織は、末端から風化を始めていく。

 聖遺物の力を全開に使用し、それを自身の肉体のみに負荷を掛けた代償。

 

 あるいは、天羽奏が先天的な適合者であれば。

 あるいは、天羽奏がアームドギアにのみその力を収束すればこのようなことは起きなかっただろう。

 

 今まさに起きようとする悲劇を目前に、エルキドゥは、その泥の肉体を会場と一体化させ始める。

 全身を音叉と変え、風を、大気を、無機物を操作する原初の機能。

 基礎設定が環境操作のための聖遺物であるエルキドゥがもつ共振能力。

 

 奏の風化した肉体が散る先を風を用いて制御し、羽のような形状のドームの屋根で絡めとる。

 その体の一欠片すら失わないように、優れた周囲との共振能力を遺憾なく発揮する。

 

 やがて。

 

 天羽奏の肉体は完全に風化し、風鳴翼の腕の中から完全に消失する。

 

「ッ奏ぇーーーーーーーーー!」

 

 風鳴翼が慟哭する。大切なモノを失った少女特有の声は、人のいないライブ会場に虚しく響いた。

 

 

 エルキドゥは、奏の遺体を回収し、自身の中で統合していく。それと並行して会場と一体化していた泥を回収し、1つの人型を構築する。

 風鳴翼にも、立花響にも見えない場所。ネフシュタンの暴走によって会場に空いた大穴の中に、その姿が表れる。

 

 その姿は、今まさしく散ったはずの天羽奏に相違ない。違う点といえば、その瞳が朱色ではなく若草色をしているという点のみ。

 その肉体も、その鎧も、手に握る(ガングニール)に至るまで。

 

 エルキドゥは"1度目"の時、自身と相対した最初の人間であるシャムハトの姿を模倣し、自身の肉体を構築した。

 泥に還り、今また再起動したエルキドゥは、"2度目"の彼にとって"最初"の人間である天羽奏の肉体を模倣した。

 

 

 これがエルキドゥのもつ特性の1つ。

 元来持たぬはずだった、カストディアンに与えられたものではない特性。

 人の魂を持って生まれてしまった不定形な泥は、自身の行動しやすい形質を突き詰める事を求めた。

 

 ただ戦うだけなら泥の肉体こそ不死不滅。しかし、腕も足も顔も体もないその泥は、彼の行動を大きく阻害してしまう。

 故に、周囲の獣を模倣し、弛まぬ金属骨を、靱やかな人工筋肉を構築  し、滑らかな擬似表皮を展開し、人であった残滓からか、頭部からグラスファイバーの毛髪を伸ばす。

 

 その結果、彼は世界に浸透する環境変動兵器から自然と調和する泥の野人へと退化した。

 

 魂を持つエルキドゥが手に入れた第3の特性、"模倣"の力は、取り込んだ天羽奏の肉体をほぼ完全に再現した。

 

 

(天羽奏の肉体はこれでいい。しかし、やはり機能が大幅に制限されてしまった)

 

 もちろん、これだけの力がなんの消費もなく使用できるわけではない。

 元来不定形、つまり形状や形質を固定するための機能がないエルキドゥがカタチを固定する。

 

 そのためには、本来の機能である"無機物との共振"と"聖遺物へのクラック"に回すエネルギーや演算野をカタチの固着に回す必要がある。

 ましてやこの肉体はただの模倣ではない。天羽奏の肉体そのものを使用した、いわば有機的な肉体である。

 無機物との共振作用は可能でも、有機体に対してはその力は働かない。

 つまり、自身の肉体だけとはいえ新しい"有機体制御"の機能を構築しなければならない。

 

 結果、惑星に直接作用するほどの能力は、精々自身の周囲1km程度に作用範囲が減衰し、その出力は大きく落ちる。

 

 

 更に、天羽奏と同じ容姿では当然目立つ。その見た目を変えないことには、現代社会ではとても活動できない。

 エルキドゥは自身の肉体をそこから更に変化させる。

 

 翼のように広がった豊かな朱い頭髪は、癖の無い長い直毛へと変わる。 その色は、瞳と同じ若草の色となっている。

 その豊かな体型は、少年と見紛うばかりのものとなる。

 全身をまとう鎧は白い貫頭衣のような布へと変化し、彼の身を覆う。

 

 新たに変化したその姿は、彼が先史文明期にもっとも良く利用していた姿によく似ている。

 シャムハトを模したその姿は、しかし嘗てと異なり、僅かながら女性としての姿を構築していた。

 

 

 新たな自身の姿を構築したエルキドゥは、その身を走らせ誰にも気配を悟らせぬようにその場を脱する。

 その心には、新たに芽生えた感情が渦巻いている。

 

(ワタシは生きている、この大地に足をおろし、風を切り世界を駆けている!)

 

 ライブ会場を脱し、街の中を駆けていく。

 街中の人々はノイズの出現に伴いシェルターへと入っており、監視カメラがこちらを見るだけである。

 しかし、無機物への共振機能をもつエルキドゥにとって自分が通る瞬間のみカメラの目を逸らすことは造作もなく。

 

 その姿を誰かに見られることもないままに、街の外れにある高台へと立つ。

 日がまさに没しようとしている。

 自身の生きていた時代とは何もかも違う、しかしその更に前の記憶では比較的馴染みのある光景。

 

 日没の美しさは何処にあっても変わらない。それを自覚した彼は歌を歌う。

 

 器物であるがゆえにフォニックゲインを作らない、がらんどうの歌。

 大地に微弱な共振運動を発生させる、大地を鳴動させるその唄は。

 

 彼が自身の再誕を祝う、バースデイソングだった。

 

 

 

 

「……よし、これで奏の肉体は大丈夫。次は唄を覚えないと」

 

 エルキドゥは、もう一度奏の歌を聞きたいと考えている。

 そのためには奏の肉体で奏の歌った歌を完全に模倣すればいいと考えていた。

 

 彼(肉体的には彼女)は、ひとしきり大地の唄を歌った後で丘を下り、ツヴァイウィングの歌を探しに行く。

 

 街にあるシェルターからはぞろぞろと人が出てきており、それぞれの家へと帰っていく。

 エルキドゥはその人混みに紛れ、ツヴァイウィングの歌を探す。

 さほど被害の出ていないこともあって店も開き始めている街中を歩き、街角にあるCDショップを見つけCDを購入する。

 支払いの硬貨は他人の持つ硬貨の見た目・組成を模倣したものであり、完全に同一な偽硬貨である。

 地味な完全犯罪を終え、試聴コーナーのプレーヤーの中身をすり替えその歌を聞く。

 

 結局のところ器物であるエルキドゥにとって、一度記録した内容を忘れることはない。

 再び街外れの丘へと戻ったエルキドゥは、その姿を再び天羽奏のそれに戻す。

 

 そして、彼の記録の中の歌を、彼の望んだ歌い手の肉体を用いて歌い上げる。

 

 抑揚、臨場感、ブレスのタイミングすら模倣したその歌は、間違いないく天羽奏の歌であった。

 少なくともこの歌をレコーディングしたCDを商品とすり替えても気付く人間はまずいないだろう、それほどの歌だった。

 

 しかし。

 

「……ッ違う! 違う違う違う!」

 

 エルキドゥは、天羽奏の声そのままに激昂し、天羽奏の肉体そのままに頭をかきむしる。

 事情を知らない人間が見れば、まるでアイドルがスランプに陥っているような光景。

 

 その瞳に激情と涙を浮かべ、彼はその姿を中性的なソレへと変化させる。

 

「どうして、どうして? 僕の歌はこれ以上ないくらいに再現したはずなのに……。なんで、こんなに違うんだ!」

 

 歌には固有波形が存在する。それは歌を歌う者によって異なり、聖遺物の起動には固有波形の一致する歌を歌える人間が必要となる。

 固有波形の決定要素には当然、その肉体なども大きく関係する。

 しかし、肉体が同じであれば起動するのかといえばそうでもない。感情が、魂がそれを起動するに当たって重要なのだ。

 

 例えば、天羽奏はそのノイズに対する執念からLiNKERを用いたとはいえガングニールを起動するに至った。

 本来とても起動に耐えうる適合系数を持たなかった彼女は、その精神から無理やり適合まで持っていくことに成功したのである。

 

 つまり──がらんどうの彼、ただ外面と知識を模倣するだけでしかない彼には天羽奏の歌を歌うことなどできるはずもなく。

 

 天羽奏の歌は、天羽奏でなければ歌えないということだ。

 

 

「──天羽奏は、死んだ。肉体は間違いなく崩壊した……。でも、だけど……」

 

 

 その肉体こそ回収することは出来たが、魂に関してエルキドゥは専門外である。

 天羽奏の魂が何処にあるのかなんて、彼にはとてもわからない。

 

 魂という要素がない、とは思わない。他ならぬ彼が、魂という要素の証拠にほかならないからだ。

 

 

「なら、きっとどこかにある。天羽奏は、その心は、きっと何処かで生きているに違いない」

 

 

 システム的な思考をするはずの聖遺物・エルキドゥは、ありえないことに、しかし自然とそう考えた。

 それが彼の前世の記憶に由来するのか、それともエルキドゥがそうであって欲しいと考えているのかまではわからない。

 だが、エルキドゥはとにかく「天羽奏の魂は存在している」と、そう結論づけたのだ。ならば、次はそれを調べる手段を知らなければならない。

 

「たしか、僕を作ったカストディアン達は魂に関わる技術も知っていたはずだ。なら、彼らの作った聖遺物を調べればそれを知ることも不可能ではないはず……」

 

 カストディアンの技術……異端技術(ブラックアート)を調べる必要がある。

 

「天羽奏は、あの時ガングニールを纏って戦っていた。風鳴翼は、天羽々斬を纏って戦っていた。そして、あの大穴にあった地下施設……」

 

 エルキドゥが肉体を再構築した時、その構築場所であるライブ会場の穴では、人が多く潰されていた。

 それに混じって端末も多く崩壊していたが、しかしデータまですべてが消えてるとは思えない。

 

 まずは、そこか。エルキドゥはそう目標を定め、一度は離れたライブ会場へと疾駆する。

 

 

(近づけない……っ!)

 

 が、付近に来た時点でライブ会場への潜入は断念することとなった。

 物々しい警備、特異災害対策起動部一課による現場の保存など。そこには多く人がいた。

 当然、それくらいならばエルキドゥは気づかれずに潜入を図ることはできる。失敗する確率こそ多少あるが、分の悪い賭けではない。

 

 その分の悪くない賭けのレートを一気に引き上げる存在がそこにいた。

 

「風鳴司令、大丈夫ですか!?」

 

「緒川か。いや、俺は問題ない。それよりも少しでも多く研究員たちを……」

 

 そこに居る二人の成人男性。いや正確に言えばそのうちの1人。

 もはやOTONAとでも表現するべき人間をはるかに超えた人間。

 

 風鳴弦十郎は、地下施設の崩壊に巻き込まれ瓦礫に潰されていたが直に復帰、現地で復興部隊の指揮を執っていた。

 

(アレは無理だ。交戦して負けるとは言わないけど、少なくとも気づかれずに潜入することは不可能って言っていい)

 

 現在の、シャムハト似の姿ではそこまで身体能力が出るわけではない。

 元来シャムハトは普通の女性。聖遺物として強化していてもそこには限界がある。

 

 彼は諦めも早く撤退し、次の手段を考え始める。

 ことここに至っては、もはやうろ覚えな前世の記憶に頼るしか無い。

 

(ええと、どうだったか……。たしか、このアニメは2期とか3期があって……)

 

 過去の記憶を辿る。うろ覚えで不正確な記憶をたどりながら、彼はデータを思い出したら今度こそ自身のメモリーに刻みつけておこうと心に誓った。

 

「!そうだ、確かアメリカにも似たような組織があった!」

 

 ピンときた。まさにそのような表現が似合うような動作とともに、彼はひとつの事実を思い出した。

 その組織の名前までは思い出せないが、そこまで思い出せればとにかく今は十分だと、彼は自身を鼓舞する。

 彼はアメリカへと向かうため、図書館で最寄りの空港を調べることにした。

 

 

 

 

 「米国連邦聖遺物研究機関(Federal Institutes of Sacrist)」通称「F.I.S.」ではその日、ある特殊なデータを確認した。

 強力な聖遺物の反応、アウフヴァッヘン波形の検出ににわかに色めきだつ。場所はバルベルデ北部。スラム街が形成されている地域である。

 

 すぐさま部隊を急行させると、そこには一人の少女が鎖の欠片をお守りのようにかかえて座り込んでいた。

 周囲には乱暴を働こうとしたであろう男たちが気を失って倒れている。少女はまるで怯えたかのような表情でそれを見ていた。

 

 そんな異常な状況で、F.I.S.の実働部隊の隊長は怯える少女を安心させるような笑顔で尋ねる。

 

「さあ、もう大丈夫だ。……これは、君がやったのかな?」

 

「ち、違います! 僕じゃ、僕じゃないんです!」

 

 震えた声で話す少女は、まるで少年のような口調でそれを否定する。

 その胸に抱える鎖の欠片は未だ強力なエネルギーを発しており、それが溢れればまた被害が出るだろう。それが異端技術(ブラックアート)の産物であることは一目見て明らかだった。

 

「いやいや、我々は君を罰したりはしないさ。ただ、事件の詳細を知りたいから君にはすこし取り調べに付き合ってもらいはするけどね。

 おっと、ずっと『君』でも問題かな? 名前、聞いてもいいかな?」

 

 異端技術(ブラックアート)を確認した隊長は偽りの笑顔を浮かべ、少女を優しく諭す。

 

「は、はい! ティーネ! ティーネ・チェルクです! ……ほ、本当に信じてくれるんですよね!」

 

 少女、ティーネ・チェルクと名乗った若草色の少女は、まるで安堵したかのような、隊長のそれより遥かに本物らしい偽りの笑顔をその顔に浮かべていた。

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