奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第17話 フロンティア

 エルキドゥはフロンティアに上陸後、その中枢部である動力部へと歩みを進めていた。

 

 エルキドゥが迷う素振りすら見せないのは、エルキドゥの持つ聖遺物クラックの力でフロンティアの構造を把握したからに他ならない。

 その後ろにはマリアの姿もあり、フロンティアの回廊にヒールの音を響かせる。

 

「あなたの聖遺物クラックでも起動に持ち込めないなんて、フロンティアには余程のエネルギーが必要のようね」

 

 エルキドゥによる起動が出来なかった聖遺物は今まで見たことがなかったため、マリアはそう言って驚き混じりに呟いた。

 その言葉にエルキドゥは肩を竦める。実際彼自身もフロンティアを自力で起動できるものと踏んでいたため、こうやって動力部に向かうことになるとは思ってもいなかったのだ。

 今のエルキドゥがフロンティアを起動させるには、完全聖遺物としての力をマリアの前で全開にする必要があった。マリアにバレても最早問題にならないかもしれないが、そこまでする必要もなかったエルキドゥはそのまま動力部へと向かっているのだ。

 

 やがて大きく開けた部屋へと二人が到着する。その部屋の中央には巨大な球体が鎮座しており、その周囲には鉱石の結晶のような構造物が存在している。

 コレこそがフロンティアの動力部。巨大遺跡たるフロンティアを動かす原動機である。

 その動力部を前に、エルキドゥは懐から厳重に保管されたネフィリムの心臓を取り出し、自身から出した鎖を接続した。

 当然ながら、ネフィリムは聖遺物であるエルキドゥのエネルギーを捕食する。しかし、互いに完全聖遺物であり、かつ心臓しか無いネフィリムと完全状態のエルキドゥのクラッキングではどちらが優位になるかはわかりきっていた。

 

「……おっと、流石に多少はエネルギーを吸われるね。でも、これでネフィリムも僕の支配下だ」

 

 聖遺物である自身のエネルギーが吸われるよりも早く、エルキドゥはネフィリムの機能を掌握する。そしてそのまま、エルキドゥはネフィリムの心臓をフロンティアの動力部に押し付け、ネフィリムの聖遺物の吸収機能及びエネルギー増殖炉の機能を励起させた。

 遺跡の動力部及び結晶構造体に光が入り、遺跡全体が明るく照らされる。フロンティアが正常に稼働し、エネルギー量を確認したエルキドゥは安堵の息を吐いた。

 

「よし、まだ完全な浮上ができるレベルじゃないけどまあいいや。あくまで用事があるのはデータバンクだし……と、そうだマリア」

 

「何? 私は何か手伝えるわけでもないし、そもそも今の貴女を手伝うつもりもないわ」

 

 何かを思い出したのか、エルキドゥが言葉を切りマリアに向き直る。それに対しマリアは、エルキドゥが何を要求するつもりだろうと、その要求を受け入れるつもりはないと突っぱねた。

 そんなマリアの取り付く島のない態度に苦笑するエルキドゥ。

 

「いや、今のところ別に何かを要求するつもりはないよ。それより、マリアも調べたいことがあるなら調べるといい。歌が必要になることがあるまでは用もないし、いい機会じゃないかな。ナスターシャを助ける手段とか調べてみたらどうだい?」

 

 そういってエルキドゥはフロンティアのコンソールの1つを指し示す。 今のマリアが何かをしようとしても、エルキドゥを邪魔することは出来ない。そして目的の邪魔でないのなら、エルキドゥはマリアが何をしようとも気にするつもりもなかった。

 

「……そう。ならお言葉に甘えさせてもらうわ、ティーネ」

 

 そしてマリアもそれがわかっているからこそ、ティーネの薦めを甘んじて受ける。もっとも、その表情には呆れの感情が色濃く浮かんでもいたが。警戒しなさすぎというべきか、この友人は必要なところ以外に無頓着な部分が結構見られるとマリアは思った。

 そんなマリアの感情もつゆ知らず、エルキドゥはひたすらにフロンティアに集積された情報を探す。彼の主目的である死者蘇生、それを成し遂げるための魂の転写技術を求め続けた。

 

 

 立花響が気絶から回復し司令室に到着した時、司令室には多くの人が集まり情報交換などに勤しんでいた。

 現在の二課仮設本部はかなりの部分が損壊している。小さな会議などを行う会議室なども破壊されたエリアであり、ある程度の広さの司令室で諸々の作業を行っているものが殆どだった。

 

「うっひゃぁ、みんな集まると広い司令室も狭く感じるなぁ。とと、師匠! 立花響、復活しました!」

 

「おお、響君か。一応肉体的な損傷は少ないが無いわけじゃないからな、あまりアクティブに動きすぎるなよ?」

 

 二課が改めてどれほど人がいたのかに驚いていた響は、弦十郎を見つけ復帰したことを伝える。弦十郎はそんな響に対し病み上がりであることを注意した。基本的に立花響という少女が向こう見ずであることには変わりない以上、周囲が注意しなければならないのである。

 

「あはは、いくら私でもギアもなしに無茶なんてよっぽどでもなきゃやんないですって」

 

 冗談とでも思ったのかそうやって笑う響の後ろには、心配そうに響を見つめる未来。未来としては響が無茶をするのはギアを纏う前からなので、結局心配である部分は変わらないらしい。

 その様子にため息をつく弦十郎。彼の心には一つの懸念があった。

 立花響という少女の根幹、原因はどうであれ人助けをしたいからするという衝動。未来の表情を見る限り、例えギアが無くとも無茶をすることには変わらなそうだ。

 もし、それが今でも変わらないというのなら。そんな思いを込めて弦十郎は響に問いかける。

 

「……ギア、か。なあ、響君。君は、ここで戦わないという選択肢もある。今までのようにノイズと戦うためのギアを失ったということは、逆に言えば戦場に出なくてはいけない、なんてこともないわけだ。だから、それを踏まえた上で聞こう。君はそれでも……」

 

 戦うのか、と言いかけたところで響が微笑む。その先は言わなくてもわかるというように、首を振った。

 

「はい。私は多分、誰かを助けるために自分の力が使えるのなら戦場に行きます。ギアがなくたって、できる事もあるって、今はそう信じてますから。──それに、私は戦いに行くんじゃありません。誰かを助ける、人助けに行くんです!」

 

 響は、笑顔で堂々と言い放つ。人助けをしたいという部分は変わっていないが、ギアがあろうとなかろうと歌があるという風に進歩したその考え方は、ある意味では今まで以上に難物となっている。

 やれやれ、と苦笑を浮かべる弦十郎。彼は自身のポケットから一つのペンダントを取り出し響に手渡した。

 赤い宝石のようなそれは、基底状態のシンフォギアのペンダント。響がそれを手にしたのは初めてだったので、思わずまじまじと見る。

 

「師匠、コレは……?」

 

 疑問に思った響の質問に、弦十郎は困ったような、しかし響をこれ以上ない程に信頼した笑顔を浮かべる。

 

「それは、ガングニールのシンフォギア。マリア君から押収したブツだな。今は本人も連れ去られているし、君が使ってもいいだろう……使えるのなら、だがな」

 

 一応口ではそう言うが、使えないなんて欠片ほども思っていないことが見て解る表情をしている。

 

「師匠……ッ! ありがとうございます!」

 

 そう言って響は、大切そうにガングニールのペンダントを両手で包み胸に当てる。今度こそ、大事なものを失わないように。

 

「ま、全部終わった後のガングニールの行く先はマリア君と協議して決めろよ? ……決戦の日も、そう遠くなさそうだからな」

 

 からかうようにそう告げた後、表情を引き締めた弦十郎はモニターに顔を向ける。

 響や未来もそれに釣られるように顔を向けると、そこには周囲の水を押し流し徐々に隆起していくフロンティアが映る。

 ただし、まだ浮遊するだけのエネルギーが不十分なのか、大地の頸木から解き放たれきっていない。その隙を狙っているのか、その周囲には米軍の艦艇が集結していた。

 

 

「上からの指示だと、ここを制圧しろって話だが……」

 

「おい、どんどん持ち上がってるぞ。俺達はいつの間にガリヴァー旅行記のラピュータ島に来ちまったんだ」

 

 米軍の艦艇、そのカタパルトから発艦した偵察機部隊は、フロンティアの上空を旋回していた。制圧すべき大地は自分たちの艦が赤子に見える程ですらなく、まさしく島そのものを相手にしているかのようだ。

 そんな陸塊が今まさに重力から解き放たれようとしているのだから、見ている側としては圧倒される他ない。

 基本的に整地された滑走路などのようなものはないため、着陸するならヘリの類のほうが有用だろう。そう報告しようとした矢先にそれは起こった。

 

 光が歪曲し、虹色のプリズムを空間に発生させる。その奇怪な現象にパイロットが何が起きたかを確認する前に、機体の主翼と尾翼が切り落とされた。

 

「ッ何が起きた! マズい、機体が墜落……?」

 

 だが、機体は墜落しない。失速はしているが、中空にとどまっている。 奇妙な浮遊感は、まるで急降下のようにGが無くなっているかのようだった。

 やがて機体は静止し、ゆっくりと地上に降ろされる。他の偵察機も同様に無力化され、パイロットたちはまるで白昼夢を見たかのように目を白黒させていた。

 一人のパイロットが、誰にともなく言葉を吐く。

 

「一体……何が……?」

 

「ああ、申し訳ないけどここは大切な場所なんだ。必要なことが済むまでは立ち入らないでくれるとありがたい」

 

 そのパイロットの独り言に、答える声が大地に響く。パイロットたちが声の聞こえた方を向くと、捻くれた螺旋のような剣を持つ一人の少女らしき人間の姿があった。その背中からは鎖が伸び、フロンティア内部へとつながっている。

 少女の顔を認識したパイロットの一人が、自身の記憶に一致した名前を叫ぶ。

 

「貴様、ティーネ・チェルクかッ!」

 

「さて、どうだろう。どちらにせよ、君たちには関係のない話だけれど」

 

 エルキドゥはそう言って鎖を振るう。不可思議な軌跡を描いた鎖は、パイロットの全員を拘束、そのまま締め上げて昏倒させた。

 昏倒させたパイロットたちを放置して、エルキドゥは島の端に立つ。軍艦は浮上しかけているフロンティアを砲撃しているが、目立った成果は見られない。

 その情景に嘆息するエルキドゥ。その手にある螺旋の剣が光り、周囲の景色を歪ませ虹色の光を放つ。

 

「とりあえず、砲座を全部切り落とそうか」

 

 そう言って、剣を器用に振るう。それと同時にその剣は艦砲までの空間を捩じ斬り、砲座を破壊する。捩じ斬られた空間はそこを通る光を歪ませ、プリズムによる虹を走らせる。

 やがて全ての砲座のみを沈黙させたエルキドゥは、昏倒させたパイロットたちを担いで空母の甲板へと飛翔する。乗組員達が迎撃するも、エルキドゥの外套が広がりその弾丸の全てを防ぐ。

 

 その空母の甲板上にパイロットたちを置いたエルキドゥは、銃を向ける空母の乗組員にまるで何でもない事のように告げる。

 

「さて、そろそろ離れたほうがいいよ? もうじきフロンティアは完全に浮遊する。僕は必要な情報は手に入れたからね、フロンティアの浮遊と同時に僕は世界に1つ宣言するから、それを聞いてから対応を決めるべきだと思うな」

 

 笑顔を浮かべたエルキドゥの言葉に、それでも歴戦の乗組員たちは言葉の意味に戸惑いながらも怯まず銃撃する。

 それを外套で防いだエルキドゥは、忠告はしたよ、とだけ呟き翼を広げフロンティアへと戻っていった。

 

 

 今回の米軍艦隊が無力化されるまでに所要した時間は10分程度。人を一人も殺さずに行われた離れ業に、二課のモニターを見ていた面々は戦慄していた。

 圧倒的なまでの戦闘技術と鎖の汎用性、新たに持ちだした謎の聖遺物と相手の手札には際限がない。どう対策を取るべきなのか、モニター前の職員たちは決めあぐねていた。

 そんな中、響はどことなく嬉しそうな表情を浮かべており、未来が思わず尋ねる。

 

「ねえ、響? どうしてそんな嬉しそうにしてるの?」

 

「うん、私の歌、届けられそうだったから! ティーネちゃん、誰も殺したりしなかった。誰かを殺したりするような願いのためにフロンティアに居るわけじゃないんだ! だったら、歌だって聞いてくれるって信じれる!」

 

「……響は相変わらず変わってるね。でも、それってすっごく響らしいよ」

 

 そうやって笑顔を浮かべる響。いつもどおりすぎる響に、未来は呆れ2割賞賛8割程度に褒める。

 

「ふ、立花らしい事こそある種の本懐というものだろう。芯鉄通った剣こそ名刀の冴えを見せるものだ」

 

「まぁーな。馬鹿は馬鹿らしく馬鹿なことしてりゃ、結果の方からついてくるさ」

 

 そんな二人の会話に、二人の言葉が挟まれる。

 響は聞き覚えのある言葉に喜びの表情を浮かべ、二人に駆け寄った。

 

「翼さん、クリスちゃん! 無事だったんだ、良かったぁ」

 

「へっ、アタシらがあんな簡単にやられるか……って、まあボロボロにされちまったのはそうだけどさ」

 

「心配をかけて済まないな、立花。挙句お前一人を戦場に立たせてしまったことの不明は、次の戦場にて晴らさせてもらうさ……っと、その胸のギアは……?」

 

 翼が、響の胸に煌めくギアのペンダントについて質問する。

 響は先程の弦十郎との会話について説明する。自分はきっと、人助けのためになら力がなくても戦場に立ってしまうこと。だからこそ、とマリアのギアを預けられたこと。

 全てを聴き終わった二人は、やはり立花響は立花響だという納得したという笑顔混じりの表情を浮かべる。

 

「ふむ、これもまた立花らしいということだな。さて、それで状況は……」

 

 と、翼が言葉を切りモニターを見やる。画面に映るフロンティアは、今まさに浮上を開始しようとしてる。

 その舳先に立つティーネは、不敵でも何でもない普段通りの笑顔を浮かべていた。

 やがてフロンティアが完全に海を離れ、浮遊を開始した。そしてそれを 待っていたかのように、ティーネは二課のモニターへと体の向きを変えた。

 

『さて、この放送を聞いている人へ。信じるかは自由だけど、これは冗談でもフィクションでもない。……完全にフロンティアが浮遊した今この時を以って、僕は世界に1つ宣誓しよう』

 

 その言葉は、世界中へと響き渡る。電波ジャック機能を搭載でもしていたのか、フロンティアに立つティーネの姿が全世界へと公開されている。

 大半の人間は、それをいたずらだと認識しただろう。しかし、世界の裏側を知っている人間ならばそれをいたずらだとは思わない。

 いたずらであろうとなかろうと、人々は何かが起きたのかとモニターを注視し、次の言葉を待った。

 

『僕の要求は1つ。シンフォギア装者をフロンティアに寄越してくれること、ただそれだけだ。期限は1週間……は短いかな、よし、2週間にしようか。期限を超えても誰も来なかった場合、僕は全世界に無差別にノイズをばら撒く。証拠は見せられないから、真実かどうかは君たちで判断してくれるといい』

 

 別に期限ギリギリでもいいから、朗報を待ってるよ。そう言って、電波ジャックが終了する。

 その様子は二課でもしっかりと映されており、全員が疑問符を浮かべる。二課はティーネの目的が人間の蘇生だからではないか、そう考えていた。だからこそ、そこに装者を求める意図がわからない。

 

「装者を……よこす?」

 

「……何でだッ!?」

 

 その要求の不可解さに、奏者たちも首を傾げていた。しかし、だからといって冗談だとは欠片ほども思っていない。ティーネの表情はいつもと変わらない笑顔だったが、だからこそ真実味があった。

 仮に言っていることが本当なら、自分たちがいかなければ世界中が災禍に見舞われるのだ。期限をわざわざ伸ばした辺り、来ないことを想定していない可能性もあるが、だからと見逃す訳にはいかない。

 

「ティーネちゃん……」

 

 すでに沈黙した全世界中継を前に、響のティーネを呼ぶ呟きが寂しく響いた。


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