奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第20話 天の歌

「────────ッ!」

 

 原初の咆哮が、フロンティア全体と共鳴する。

 大地そのものが唄うかのようなそれは、意思の介在しない音叉の共鳴に過ぎない。しかし、あまりに巨大にすぎるその唄を前に、装者たちはその歌を掻き消されそうになっていた。

 

「クソッ! シンフォギアの力じゃあまるで歯が立たねえッ!」

 

 エルキドゥの巨体にめがけ、大量のミサイルを発射したクリスが叫ぶ。

 今まで幾度と無く放ったそれは、エルキドゥの全身を構成する頑強な肉体の、その毛髪を焦がす事すら適わない。

 そして、相手が咆哮を一つするだけでその暴風は周囲を薙ぎ払い、フロンティアの大地は装者たちを吹き飛ばすように大隆起を起こす。

 

「──扱えるエネルギーの規模が違いすぎる。その差をどうにかしなくては、歌は愚か刃を届けることすら能わんぞッ!」

 

 隆起攻撃を跳躍で回避した翼が戦況を端的に纏める。エルキドゥとの戦闘において何よりも問題となっていたのは、その戦力格差に他ならない。

強力な聖遺物であるネフィリムの心臓を取り込んだエルキドゥは、そのエネルギーを無限に保てる。元々環境そのものを操作する聖遺物として、エネルギー転用能力を基礎に作られたエルキドゥは、無限の炉心を得た今ほぼ無敵とすら言える力を保持していた。

 その格差をどうにか埋めなければ、まず正面から対峙することすら不可能。現状はいわば、"赤い竜"となったフィーネ相手に通常のシンフォギアだけで立ち向かうようなモノ。理性がないからこその単調な攻めのお陰で今は凌ぐこと事態はできているが、一切の傷を与えられないのでは意味が無い。

 しかし、誰の助けも得られないこの限界状況の中でそう簡単に手段が見いだせるわけもない。

 

 エルキドゥの豪腕をギリギリで回避した切歌が、自棄になったように叫ぶ。

 

「だからって、どうしろって言うデスかッ! 絶唱したところで、今のティーネを相手にしても無駄になっちゃうデスよッ!」

 

 絶唱はシンフォギアの扱える最大規模の攻撃手段だが、その反動は大きい諸刃の剣。

 更に言えば、所詮欠片程度の聖遺物のエネルギーを増幅する技でしかない。通常時に比べれば遥かに強力だが、現在対峙しているエルキドゥのような強力な完全聖遺物を停止させることは不可能である。

 

「絶唱……ッ! そうだ、絶唱! S2CAで皆の絶唱を束ねればッ!」

 

 その切歌の言葉に、響が一案を思いつく。

 S2CAは絶唱のエネルギーを束ね増幅することで、奇跡の一撃を必然と変える力。

 装者の数が多ければ多いほど、その力は増す。5人の装者が居る現状ならば、それによるダメージも期待は持てるだろう。

 しかし、それはひとつの欠点を孕んでいる。

 

「ダメだ、それでは立花の負担が大きすぎるッ! お前は既に融合症例ではないのだぞッ!」

 

 S2CAは、そのエネルギーを取りまとめる立花響に大きな負担がかかる。 聖遺物からのバックファイアを殆ど押さえ込める融合症例の時点でも、その負荷は響が思わず声を上げるほどだった。人数も増えた今それをやってしまえば、生命にすら関わるだろう。

 

「畜生ッ! エクスドライブが使えれば……ッ!」

 

 クリスが悔しそうに吐き捨てる。エクスドライブは、大量のフォニックゲインを用いて起動するシンフォギアの限定解除モードだが、人がいない現状ではフォニックゲインの量もたかが知れている。

 かつてエクスドライブを実現した時も、3人の装者に対して装者候補に成り得たリディアンの生徒十人以上分の斉唱によるフォニックゲインで限定解除できたのだ。如何に装者といえども、5人では数が少なすぎてどうしようもない。

 ああでもないこうでもないと、攻撃の回避に徹した装者達の通信しながらの作戦会議の中、調は人知れずマリアと通信していた。

 

「……。──だからお願いね、マリア」

 

「調? どうしたデスか?」

 

 切歌の言葉に、調は何でもないと首を横に振る。調が通信を切った頃には既に作戦方針は決まっており、取りまとめた翼の言葉に装者たちは耳を傾けた。

 

「取り敢えず、一点に攻撃を集中させるぞッ! 今できる事は、あの堤に一穴空けられるか試すより他にはない!」

 

「それっきゃねえか──おい馬鹿、肉弾のみのお前は最後だからなッ! まずは、あたしからだッ!」

 

 破壊範囲が大きく、且つ遠距離が得意な自分が先鋒を取るべきだ。そう考えたクリスは自身の背部から巨大なミサイルを展開する。人が乗ることすら可能な程の大きさのミサイルは、そのノズルから噴射を開始する。

 

「チャチがダメなら、こいつでッ!」

 

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       M E G A  D E T H  F U G A

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////

 

 放たれた巨大ミサイルは、エルキドゥの装甲の如き皮膚を貫かんと迫る。己を砕かんと迫る巨大な弾体を、エルキドゥはその腕で叩き落とした。

 エルキドゥの視界が爆炎に染まる。炎と煙の中にあっても一切の支障なく行動するエルキドゥは、残る一本を迎撃しようと辺りを見回す。

 

「────────」

 

 しかし、その周囲は爆炎に飲まれ確認できない。エルキドゥが無機物との共振機能を用いて周囲を探知するより早く、上空から飛来したミサイルがその頭部を直撃した。

 

「ばぁか、何処見てやがんだよッ! 目ン玉無くして前も見えねえのかッ!」

 

 その更に上空で、先ほどのミサイルに乗って上空へと移動していたクリスが叫ぶ。その背中には新たに2本のミサイルが装填されており、今にも発射されようとしている。

 

「とっとと起きろティーネッ! 起床のベル、もってけダブルだッ!」

 

 ミサイルが直撃した僅かな隙を突くその発射は、間違いなく雪音クリスの射手としての才覚が優れていることを示す。

 エルキドゥは追加のミサイルを防ぐことが出来ず、そのままさらなる爆炎の衝撃をその頭部で受けた。

 

「行くデスよ、調ッ!」

 

「うん、行こう切ちゃんッ!」

 

 大きく体勢を崩したエルキドゥのその頭部に、切歌は鎖を射出し角に絡める。その鎖を動索とするのは、ギロチンのようなイガリマの刃。

その刃の上に切歌と調は飛び乗り、調はシュルシャガナの髪飾りから巨大な丸鋸を同時に四枚展開する。

 

「ぶち斬ってその見えない目を覚まさせてやるデスッ! 私と調のッ!」

 

二重奏(デュエット)でッ!」

 

//////////////////////////////////////////////////////////////////

 

         断 殺 ・ 邪刃ウォttKKK

 

        裏 γ 式 ・ 滅 多 卍 切

 

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 切歌の腰部アーマーのブースターが起動し、断頭台の刃がその巨大な頭に迫る。シュルシャガナを展開した調もその刃と同調し、加速する。

 そして直撃する寸前に調はその運動量のまま鋸をパージし、2人でイガリマから離脱する。

 女神ザババの剣ニ振りの連撃はエルキドゥの頭部にさらなる衝撃を与え、その巨体を地面へと押し倒す。

 

「いい仕事だ、2人共。行くぞ、立花ッ!」

 

「はい、翼さんッ!」

 

 そして、倒れたエルキドゥの頭部に最後の追撃を与えるために、翼と響は高く空へと舞い上がる。

 翼のアームドギアである刀が両刃となり、その大きさを著しく巨大化させる。まるで龍の鱗の様なそれは、昇り龍とは逆に地上へと切っ先を向ける。

 狙う先はエルキドゥの頭部、未だに残っているイガリマの刃。

 

「弓と刃の雨垂を以って、その一点穿ってみせる。防人の剣と歌、その寝ぼけ頭にしかと刻めッ!」

 

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            天 ノ 逆 鱗

 

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 翼と響、2人分のスラスターの推力は通常の逆鱗より尚早く、尚鋭い剣となる。天から下る流星はその勢いを保ったまま、エルキドゥの頭部にあるイガリマの刃の峰に切っ先を合わせた。

 今までにない程の爆音が轟き、エルキドゥの頭部にイガリマを食い込ませる。その剣の柄から翼は飛びのき、残る響は拳を高く振りかざした。

 

「これ、でぇえええッ!」

 

 響の腕部ユニットが変形し、大型スラスターを展開する。そのユニット内部ではギアが高速で回転し、拳の安定性・貫通力を高めていく。

 今出せる限りの全霊を込めた響のその拳は、天ノ逆鱗の柄を打ちエルキドゥに全エネルギーを伝える。

 地面に倒れたエルキドゥの頭部が大地にめり込み、その周囲を大きく陥没させ、クレータを作り上げる。

 

 響は拳撃の反動で大きく飛び上がり着地する。既に攻撃を終えていた装者たちが響の下に集まる。

 今出来る限り、最高の連撃だった。それを自覚しているからこそ、彼女達はエルキドゥを注意深く観察する。

 

 そして。

 

「……そんな、馬鹿な」

 

「──あんだけやってこんな結果たあ、情けなくって泣けてくるッ!」

 

 翼の言葉と、クリスの罵倒。

 装者達の目の前で、エルキドゥはふたたび立ち上がる。イガリマを押し込まれてついた額の傷は深いものの、それも直に修復されていく。

 ここまでやっても尚、到底及ばない程の莫大なエネルギー量。ネフィリムとエルキドゥという2つの聖遺物の融合体は、通常のシンフォギアの力を遥かに凌駕していた。

 

「───────」

 

 エルキドゥの咆哮が轟く。周囲の大地をその身に纏い、その(かたち)を雄牛と化す。

 装者たちが迎撃姿勢をとる間も無く、大地の巨牛はフロンティアを疾駆する。

 

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            Gu - Gal - An - Na

 

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 嘗て彼が戦った天の牡牛を模したそれは、ただ単純に突進するだけの技。一切の特殊力場もなく音を凌駕するその突進は、物理法則に則り衝撃波の嵐を巻き起こす。

 頑強なエルキドゥの体表、及びそれを覆う大地の外殻はその影響を受け付けないが、その周囲はそうはいかない。

 その蹄、その双角は、かつて街1つを滅ぼした嵐のように装者たちを蹂躙した。

 

 

 

「やはり、ただのギアで勝てる相手ではない……どうにか、どうにか彼女達が勝つための力を……ッ!」

 

 時間を少し遡り、フロンティア内部では戦場の不利さを悟ったマリアがエルキドゥを抑えこむための手段を探していた。

 メインのモニタールームと呼ぶべき場所で、球形の端末を前に情報の収集とエネルギーの計算を行っていく。

 やがてそれらの作業も終わり、マリアが出せた結論は一つだった。

 

「──絶唱を束ねたところで、相手に撃ち負けてしまったらそこで全てが終わり。やはり、出力的に必要なのはエクスドライブしかない。……だけど、そのためのフォニックゲインをどうやって集めればいいの……?」

 

 そこから先が、思いつかない。こんな時にマリアがよく頼るのは、異端技術の知識の豊富なナスターシャ。しかし、彼女はその病状が悪化し、重体でとても話を聞ける状態にはない。

 どうすればいい、自分は何をすればいいのだろうか。マリアは自問自答を繰り返し、思考の坩堝に嵌っていく。

 

 だから、戦っているはずの月読調からの唐突な通信が入った時には飛び上がるほどに驚いた。

 

『……ねえ、マリア。聞こえる?』

 

「──ッ調!? どうしたの、戦闘は大丈夫なのッ!?」

 

『落ち着いて。今は戦いながらこっそり通信してるの。マリアにだけ聞こえるようにしてって』

 

「そ、そう。それで、何かわかったことでもあったの?」

 

 まるで誰かにそう指示されたかのような調の言葉に首を傾げつつも、マリアはその先を促す。

 

『うん。あのね、マリア。私の中にいる「フィーネ」からの伝言。「フォニックゲインは、歌や思いが届けば、フロンティアはそれを収束することが出来る。世界中皆が歌を歌えば、世界中からフォニックゲインが溢れてくる」だって』

 

 その言葉に、マリアは顔を蒼白にする。フィーネは、その魂を刻印した相手を塗りつぶして自身と変える。仮にフィーネの魂が調にあるのだとすれば調が調でなくなってしまう可能性すらあるのだ。

 

「調、あなたまさかフィーネに……ッ!」

 

 そのマリアの言葉に、調は言葉で否定する。その言葉には、いつも通り自分たちを心配してくれるマリアを案ずる響きがある。

 

『ううん、大丈夫。もう出る気は無かったみたいだけど、応援みたいなものだって。──仮初でも、自分の名前を名乗ったのだからシャキッとしなさい、だって』

 

 フィーネからの伝言といって調が伝えた内容に、マリアは面食らった。 マリアは、フィーネが基本的に自分たちの事を実験動物くらいにしか思ってなかったと記憶していたため、まさかそのフィーネが自分を激励するような台詞を言ったというのは青天の霹靂だった。

 

「──まあ、取り敢えず大丈夫なのね。……いいわ、私が世界中からフォニックゲインを集めてみせる。私の歌で、世界を今度こそ救ってみせるッ!」

 

 気を取り直し、改めて自分の使命を胸に刻まんとするマリア。調はそんなマリアの言葉に、優しく声を重ねる。

 

『……そんなに気負わなくても大丈夫だよ、マリア。マリアはマリアらしくすれば、きっとそれだけで皆歌ってくれる』

 

 その言葉に、マリアは思わず目を見開いた。

 調のその言葉は、間違いなく本音だとマリアは断言できる。ずっと一緒にいたのだ、わからないわけがない。だからこそ、調のその言葉()信じてもいいと思った。

 しかしマリアは、本当に世界がマリアらしい歌についてきてくれるのか悩んだ。今までついてきていたのは、偶像として偽った自分にではないかと考えてしまっていた。

 自分だけでは答えがだせなかったマリアは、判断材料が欲しくてつい調に問いかける。

 

「それは、どうしてそう思うの? 私は、偽りの自分で人を導いてきた。演じた姿で歌った歌で、人に呼びかけてきた。そんな私が、今更自分らしく歌を歌ったところで……」

 

『──だって、マリアは優しいから。まるでお母さんみたいだもん、みんな一緒に歌ってくれる』

 

 その答えは単純で、だからこそこれ以上なく調にとっての真実だった。

 清々しいまでの言い切りように、マリアはいつの間にかこわばっていた肩の力を抜く。

 

「……そう。なら、調を信じて、今まで信じてこなかった分、皆を、世界を信じてみましょうか。──でも調、お母さんみたい、はないでしょう?」

 

『そんなことないよ。優しくて、いっつも守ってくれたんだもん。──だからお願いね、マリア』

 

「ええ。皆に、そして貴女の中のフィーネにもよろしく伝えて頂戴」

 

 そう言って、通信を切る。マリアの浮かべた表情には、不安や迷いといったものは一切映しだされていなかった。

 

 

 

 その大地は、海水を湛えた水たまりも、ネフィリムによって育まれた草木も無い。天牛によってただ踏み砕かれ荒れ果てた荒野となっていた。

 

(強い……ッ! コレが、完全聖遺物『エルキドゥ』ッ! やはり、完全聖遺物には勝てないというのか……)

 

 天牛の蹂躙によって、大地に身を横たえる装者たち。翼は地につけた頭を動かし、ゆっくりと大地の外殻を解くエルキドゥの姿を見ていた。

 

「翼さんッ! 逃げてッ!」

 

 響の悲痛な叫びが翼の耳に届く。

 エルキドゥの姿が再び巨大な人型となり、翼の下へと近づいてくる。心は全くと言っていいほど折られていないが、それでも肉体が動くかどうかは別の話。

 

「動け、うごけよッ! 何であたしの身体は動かないんだッ!」

 

 クリスが涙を零し必死に立ち上がろうとする。しかし、その意志に反して足は動かず、涙まじりの声が虚しく空に散る。

 圧倒的な頑健さを誇ったエルキドゥの巨大な腕が、倒れ伏した翼の身体に伸びる。

 

(……最早コレまでか。せめて、友だったお前に手を汚させまいと、そう願ったが……届かず、終い……?)

 

「───────────?」

 

 と、翼の身体に触れる直前で、エルキドゥの腕が止まる。倒れた装者たちは、不思議と身体が軽くなったのか上体を起こして周囲を見渡す。

 辺りに漂うのは、何処と無く黄色く輝く光の粒子。人の心に触れているかのようなその灯火は、フロンティアから、そして何よりエルキドゥの肉体から放出されていた。

 想定していない事態に、エルキドゥは行動を中断し周囲を見回し原因を探す。

 

「これは────歌、デスか?」

 

 声が聞こえるわけではない。音が鳴り響く訳でもない。歌の調も聞こえない。

 それでも、奏者たちにはエルキドゥから湧き上がるそれが歌であると直感的に察していた。

 

 皮肉にも、エルキドゥが近づいたからこそその歌が装者たちに届いたのだといえる。

 エルキドゥが取り込んだものは、フロンティアを動かす動力部。フロンティアの心臓であるそれは、フォニックゲインをフロンティア全体に循環させる。

 だから、フロンティアが束ねたフォニックゲインがその心臓を通るのは必然であり──人々の歌を届けるのもまた、当然だった。

 

 

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴは歌う。責任感に駆られたものでもなく、誰かに命じられたからでもなく。

 フロンティアのモニタールームの光景は、一度エルキドゥが使用した世界への電波ジャックを用いて世界中へと放送されていた。

 否、モニタールームだけではない。フロンティア外部での大規模な戦闘の映像もまた同時に流されている。今、少女たちの歌に血が流れているということを世界に伝えるために。

 

 マリアはマリア自身の意思と心を刃に変え、空から世界へと歌い掛けた。

 

(私は、私らしくすればいい。優柔不断で、引っ込み思案な私だけど、それでも──私は、歌える)

 

 長く歌っているためか、その額には汗が浮かぶ。それでも尚疲れを見せず、自分が自分らしくあるようにと歌を歌い続けた。

 その偽らざる歌には、正しく心が宿っている。マリアは、ふと自分がアイドルをやっていた時も人はついてきてくれていたことを思い出す。

 

(ああ、あの時私は偽ってはいなかった。例え視野が狭まっていたとしても、あの時の私は掛け値なしに自分の思いを届けようとしていた)

 

 だから、きっと自分は人々に支持された。ファンに共感してもらえた。言葉すら通じぬはずの、世界で尚歌うことが出来た。

 歌は心を届けるものだとマリアはハッキリと理解した。だからこそマリアは歌い、縛らず偽らず、掛け値なしの本当の心をぶつけていった。

 表示されているモニターを見れば、十二分な量のフォニックゲインが溜まっていることが判る。世界の人々の歌が、フォニックゲインを通してフロンティアに広がっていく。

 

「これで、私がやるべきことは終わりね……」

 

 その光景を見たマリアは、そうやって一息つく。

 そして、少し身体を休めたマリアは、より強い意志を瞳に表す。その表情には、一切の邪念のない、しかし不敵な笑みを浮かべる。

 

「だから、これからは私がやりたいことをするわ。きっと、それが何よりも大事だから。……そうよね、調、切歌、マム」

 

 いまのマリアがやりたいことは1つ。友を助け、友を連れ戻す。優しく、そして愛に溢れたマリアは、それをやって当然と本心から言い切れた。

 何にも縛られず、何にも囚われないその一言を呟いたマリアは、まるでその言葉に反応するかのような幻聴のような声を聞いた気がした。

 

『うん。頑張って、マリア姉さん。マリア姉さんなら皆を守ってくれるって、私は今も信じてる』

 

「──ッ。ええ、そうねセレナ。貴女が信じてくれるなら、私は奇跡だって起こしてみせる」

 

 そう誰にともなく呟いたマリアは、友の下へと駆け出した。

 

 

 

「そっか、歌が聞こえるんだ。皆が、歌ってくれてるんだ……! ──だったらッ! S2CA、フォニックゲインを、力に変えてッ!」

 

 その歌を装者たちで共に抱くため、響はそのギアの力で調律を開始する。

 人の意志の総体たる人類の祈りの歌は、装者達の心と身体を強く後押しする。シンフォギアが、それに内蔵された聖遺物が装者たちに力を与える。

 フォニックゲインの高鳴りは、装者達が再び空へと向かう力を与えんと天空の大地に響き渡る。

 

(……でも、この歌は私だけじゃ……ッ!)

 

 装者達の持つギアに、歌の力が浸透する。封印を解き放つその輝きはしかし、ギアに絶唱を超える負荷を掛けていた。

 その莫大なエネルギーの奔流は、歌を聞いた全ての人類が捧げたもの。 星に住む人という人が歌う、70億の絶唱。

 だからこそ、そのエネルギーを調律する響はその歌が重く感じられる。

 

 立花響は、英雄ではない。一人で何でもなんて出来ないと知っているから、他者と手を繋ぎ、関わりを求める。一人では出来ないと知っているから、彼女は他の誰かを信じられるし、顔も知らぬ誰かの為に手を伸ばせる。

 

"────Seilien coffin airget-lamh tron(望み掴んだ力と誇り咲く笑顔)"

 

 だから、立花響はマリアが来てくれると信じていたし、その銀の腕(アガートラーム)に手を伸ばせた。

 一人では出来なくとも、二人なら、皆となら。立花響は誰かを守るために戦えるのだと、その願いを歌に込めた。

 

 

 

 フォニックゲインの光が、まるで星そのものが歌うかのようにその場を満たす。

 

「───────────」

 

 エルキドゥは、その光景に見入っていた。今や理性を持たぬ聖遺物でありながら、否、聖遺物だからこそ。

 その歌の輝きに圧倒され、その歌を求めて手を伸ばす。この一時に限り、エルキドゥは主目的すら見失っていた。

 

 そして、その手が光に触れようとした時。

 

「───────────ッ!」

 

 突如として、エルキドゥの巨体が吹き飛ばされる。フロンティアの艦上構造物に叩きつけられ、大地に伏せる。

 すぐに立ち上がったエルキドゥは、その輝きを仰ぎ見た。

 

「ティーネ、お前がいまどう思っているかは私達にはわからない。否、そもそも何かを思っているのかもわからない」

 

「……だけど、少なくとも私達は、ティーネを連れ戻したいと願ってる」

 

 青と桜色の輝きがその姿を見せる。輝く翼を持ったその姿は、天を征く御使を彷彿とさせる。

 大地に根ざすエルキドゥには、例え大地そのものを浮遊させても届きえない中空に、彼女達はその身を舞わせる。

 

「だから、お前が眠ってるってんなら起こしてやる。例え人格が滅んだとか言ってても、無理矢理にでもな!」

 

「私がやったことは、取り返しがつかないことデス。だから、絶対、取り返しをつけてみせるデス!」

 

 赤と翠の翼の煌きが、エルキドゥの本能を強く揺るがす。

 まるで、茫洋とした魂しかなかった自分が、人になること願った美しい歌を聞いたかのように。

 

「自分らしくあることが大切なのだと、皆が私に教えてくれた。だから、貴女も自分らしくあったほうがいい。……そのためにも──」

 

「──絶対に、絶対ッ! 自分(ティーネちゃん)を取り戻させて見せるッ!」

 

 銀と金の腕は、理性なきプログラムに手を伸ばす。エクスドライブの輝きは、完全聖遺物であるエルキドゥに勝るとも劣らず。

 

 プログラムに従うエルキドゥは、今は目覚めぬ天羽奏、その魂を得るために今一度咆哮する。無機物と共鳴するその咆哮は、原初の星に轟く大地の唄。

 天使の如き少女たちは、友を助けるためにその咆哮を正面から受け止める。人の祈りを束ねるその歌は、惑星に響く(ソラ)の音楽。

 

 ──世界中が歌う中で、大事な友とも一緒に歌を歌うために。空にある大地の上で、天を舞う装者たちは、今再び地に根ざす泥の人型(エルキドゥ)と対峙した。

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