奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第3話 天の鎖(2)

「ふーん、別な施設の装者、デスか……。調はどう思うデス?」

 

「……その人も私達と同じ、孤児みたいだから。仲良くできればいいと思う」

 

「うん、そうデスね!」

 

 F.I.S.のレセプターチルドレン、終末の巫女フィーネと成り得る器として集められた2人、暁切歌と月読調は廊下を歩きながら話しこんでいた。

 今話題となっているのは、極秘に通達された新たな装者とコミュニケーションをとってほしいということであった。

 

「しっかし、急な話デスねー。そりゃあ、つい最近見つかったーって話デスけど。しかも極秘って……」

 

「上の人達は、フィーネに知られたくないのかな……」

 

「理由は解りません。ですが、フィーネに知られたくないということだけは確かなのでしょう」

 

 二人の会話に、新たな1人の声が混じる。その声を聞き、切歌と調の二人の顔に笑顔が浮かぶ。

 

「マム! マムはなにか知ってるデスか?」

 

 マムと呼ばれた女性、ナスターシャはF.I.S.においてシンフォギア、聖遺物への造詣が特に深い人物の1人である。

 そして、真っ当な人間性を持ち、少女たちに母のように接するためとても慕われていた。

 ナスターシャは、切歌の質問を受け首を横にふる。

 

「いいえ、知りません。ただ、その聖遺物が特殊であり、ともすれば戦略レベルで扱えるという話だけは聞いています」

 

 ナスターシャはその知識の豊富さから、今回の件について立ち会うこととなり、多少の事前情報を伝えられている。

 むしろナスターシャがそれくらいしか教えられていないほど、この案件の秘密性は高いと言えた。

 

「ふぅん。どんな人なんだろうね、切ちゃん」

 

「さあ……とと、着いたデスね」

 

 やがて3人は聖遺物の実験場、その監視室へと辿り着く。4年前にある大きな事故を引き起こしたその部屋は、今はすっかり修復されている。

 扉が自動で開き、その中には既に2人分の人影があった。

 

「マリア!」

 

「それに……ええと、その人が例の装者デスか?」

 

 調と切歌が声を上げ2人に駆け寄る。

 そこにいたのは身長も高く女性らしいスタイルの桃色の髪の女性と、若草色の長い直毛の中性的な少女だった。

 長身の女性──マリア・カデンツァヴナ・イヴは、笑みを浮かべて二人の声に返事をする。

 

「ええ、私は少し早めに来てたから、彼女と話をしていたの。ティーネ、彼女達ががここの私以外の装者の……」

 

「暁切歌と!」

「月読調……です」

 

 マリアの紹介に合わせ、切歌と調が挨拶をする。

 

 切歌と調はマリアを慕っている。

 この施設において、レセプターチルドレンの扱いはあまり良いとはいえない。

 

 だからこそ対等に話してくれるマムや、同じレセプターチルドレンとして優しく守ってくれるマリアは慕われるのである。

 

 そして、レセプターチルドレンであるマリアと仲良く話ができているティーネが一定の好印象を抱かれるのにはそれで十分だった。

 ティーネ・チェルクはその顔に微笑みを浮かべ、2人に挨拶を返す。

 

「はじめまして、僕はティーネ、ティーネ・チェルクです。南部の方の施設で装者をやっています」

 

 そうして、胸のペンダントを見せる。

 切歌と調も自分たちのペンダントを見せ、装者であることをティーネに伝える。

 そのまま4人で和気藹々と話していたところで、扉の方から声が掛かる。

 

「ところで、ティーネ・チェルクさん。あなたが此処に来た要件をお話いただけますか?」

 

 少女たちのコミュニケーションを邪魔しないように扉の側で立っていたナスターシャは、一向に要件が進みそうに無いので会話を中断させる。

 その声を聞いて思い出したかのような表情をしたティーネは、3人に向き直った。

 

「ああ、ええとね。僕が扱うシンフォギアの特性の調査のために、君たちと一緒にちょっとした実験をしたらどうかってことなんだ」

 

「実験? ……その特性は、何か他のシンフォギアに関わることなのかしら?」

 

 ティーネの言葉に、マリアが聞き返す。マリアが思い返すのは、妹セレナの纏う銀の腕(アガートラーム)

 エネルギーベクトルを操作するシンフォギアは、セレナの生命を代償とした絶唱により暴走する聖遺物「ネフィリム」を基底状態へと戻すほどの力を持っていた。

 今いるこの実験室で行われたそのことを、思い出し、マリアの表情は自然ときついものへと変わる。

 しかし、その次に聞いたことは更におどろくべきことだった。

 

「うん、そうだよ。僕のシンフォギア「エルキドゥ」は、聖遺物を封じ、操作する聖遺物なんだ」

 

 でも、それがどこまで有効に働くかがわからなくてねー、と呑気そうにいうティーネに対し、マリアは思わず黙り込んだ。

 聖遺物を封じ、操作する聖遺物。彼女の言が正しければ、それさえあればネフィリムを押さえ込めたのかもしれないのだ。

 そうすれば、妹セレナは死なずに……。

 

「? どうしたんだい、マリア」

 

「……ッ! いえ、なんでもないわ。ごめんなさい、急に黙りこんじゃって」

 

 つい感情が表に出そうになったが、しかしよく考えればティーネはその事情を知らない。

 マリアは心を落ち着け、安心させるように笑顔を浮かべる。

 その顔をみて、調と切歌はマリアを心配そうに見つめ、ナスターシャは痛ましいものを見るかのような表情を浮かべる。

 

 で、事情を知らないティーネはそこら辺の機微に気づかず、そのまま話を続ける。

 

「ええと、僕の聖遺物『エルキドゥ』は鎖の聖遺物でね。メソポタミア、シュメールの神話に出てくる天の牡牛を縛る鎖だって言われてる。研究者の人たちが言うには、牡牛も実は聖遺物で、それに干渉することで牡牛を封じたんじゃないかって。で、それを確認するのが今回僕がここに来た理由なんだ。協力してもらっても……いい? ね?」

 

 小首をかしげて、ちょっと困ったかのような表情を浮かべるティーネ。

 その顔を見て、なんとなく毒気を抜かれたマリアは力を抜いて、ちゃんとした微笑みを浮かべる。

 

「ええ、私は構わないわ。マム、いいかしら?」

 

「構いません、というより上層部からの命令ですし、危険な内容ではないので私に逆らう理由はありません。……切歌、調。あなた達も手伝いなさい」

 

 ナスターシャはマリアの確認を許諾し、切歌と調にも伝える。

 

「了解デース!」

 

「うん、わかったマム。それじゃ、いこう? ティーネ」

 

 そう言って、監視室を出て下の実験場へと向かう。

 それをマリアが追い、ティーネが更にその後を追う。

 全員が出たあとで、最後にナスターシャが監視室をロックし端末に向き合う。

 

 

『それでは、まずはじめに起動していない聖遺物に対する干渉実験を行います』

 

 装者4人が揃った実験場。そこにはいくつかの聖遺物がおいてある台が用意されている。

 

 ナスターシャの言葉に合わせ、台の1つが稼働。ティーネの前に鏡の欠片が置かれた。

 

 ティーネはシンフォギアを起動し、自身の鎖を聖遺物「神獣鏡」の欠片と接触させる。

 それと同時に、ティーネはシンフォギアに搭載されているクラック能力を起動する。

 

 瞬間、「神獣鏡」から輝きが放たれる。そのアウフヴァッヘン波形はエルキドゥのシンフォギアによって制御され、その出力や指向性を完全に操作されていた。

 聖遺物由来の力を無力化する「神獣鏡」は、しかし励起前から接してコントロールしているエルキドゥに影響を及ぼせない。

 

 その輝きを、マリア、切歌、調の3人は驚いて見ていた。

 

「ほ、本当に起動させたデス……」

 

『ええ、しかし……』

 

 程なくして、ティーネはエルキドゥの接続を解除する。それと同時に「神獣鏡」のエネルギー放出も停止する。

 

『やはり、エネルギー増幅率がシンフォギアのように歌を用いたものに比べ低いですね。適合系数次第で欠片だろうと増幅できるシンフォギアと違い、エルキドゥによるクラッキングは欠片相応分のエネルギーしか使用できない……』

 

 ナスターシャは、エルキドゥの機能、その限界に予想をつける。

 歌には、感情を乗せることができる。聖遺物の起動・出力には歌が非常に重要なファクターを占めており、その歌に乗せる感情もまた重要な要素なのだ。

 愛や怒りなどといった感情が強くなるごとに、聖遺物はより強く反応する。これが歌による起動が不安定であることの証拠であり、また限界を超えた出力を出せる理由でもある。

 しかし、エルキドゥはあくまで聖遺物としての機能で支配している。

 装者の感情によって変化するのはエルキドゥの支配能力・干渉能力の強さであって、干渉先の聖遺物を限界を超えて稼働させられる訳ではない。

その結果が、これに如実に現れているということだろう。

 尤も、従来の機械的な増幅に比べれば遥かに効率がよく、また安定性は確保できているため優れた成果を上げていることは確認できる。

 

『……では、次にシンフォギアについてです。起動していないシンフォギアと起動したシンフォギア、両者について試してみてください』

 

 そう言うと、マリアがガングニールのシンフォギアのペンダントをティーネに手渡す。

 ティーネはエルキドゥをペンダントに接続し、支配機能を起動する。

 その瞬間、ティーネの全身が新たな装甲に覆われ、その手に槍を現出させた。

 

「他人のシンフォギアを纏うこともできるの!?」

 

 マリアの驚きの声は、切歌や調も驚いたことである。

 ナスターシャはシンフォギアが聖遺物を増幅して鎧にしているものである事を知っているため、特に驚く様子はない。

 ティーネもまた、驚きはない。そもそもエルキドゥのシンフォギアを纏うために同じこと(クラッキング展開)をやっている以上、驚く要素がないのは当然である。

 

『これで最後です。起動したシンフォギアに対してクラッキングを試みて下さい』

 

 そこで、マリアが台上に合ったLiNKERを手に取り、自身に注入する。

 この当時のLiNKERはまだ危険な薬物であるため、必要最小限しか注入していないにも関わらずその表情を苦しそうに歪める。

 これには人の魂を表に出しているティーネも鎮痛そうな表情を浮かべ、様子を眺める。

 

「──ッ、Granzizel bilfen gungnir zizzl(溢れはじめる秘めた熱情)!」

 

 聖詠とともに、その身にシンフォギアを纏う。

 その装備には黒い部分が多く見られ、特に大きな黒いマントを纏う姿は白い貫頭衣を纏うティーネとは対照的な見た目だった。

 

「……待たせたわね、お願い」

 

 ギアの展開を終えたマリアが、ティーネへと呼びかける。

 ティーネは鎖をマリアのギアの胸パーツ、シンフォギアシステムの展開の起点へと接続する。

 

 しかし。

 

「……ぐッ、ァあッ!」

 

 ティーネは叫び声を上げ、接続を解除する。その額にある血管は破れ、そこから血を流している。

 

「ティーネ!?」

 

「だ、大丈夫デスか!? 医療班呼ぶデスか!?」

 

 それを見た調と切歌が慌てて側へと近寄る。しかしティーネは首を振り、何事も無かったかのように立ち上がった。

 その額は未だ破れているが、とりあえずとギアを変形させた包帯で縛る。

 

「何が起きたの!?」

 

 展開を解除したマリアが、落ち着いたティーネへと話を聞く。

 ティーネが呼吸を整え、話し始めようとしたところで、

 

『今のは……クラッキング能力が弾かれたことによるバックファイアですね』

 

 というナスターシャの声が響く。

 それに合わせて、ティーネが口を開いた。

 

「うん、ナスターシャさんの言うとおりみたいだ。僕のギア『エルキドゥ』が聖遺物にクラッキングする時、対象聖遺物に対応する特定振幅の波長を用いて対象に干渉する。使っててわかったけど、これは歌というより聖遺物ごとに適合する特定音階の音叉を創りあげるようなものみたいなんだ。だから、既に歌を使って起動している聖遺物に使っても歌と干渉して弾かれちゃった……んだと、思う?」

 

 これは実際、ティーネ……「エルキドゥ」にとってもはじめての経験だった。

 そもそも、過去にこの能力を使用したのは黄金の王との決闘や自身の後継機たる環境変動兵器「グガランナ」と戦った時である。

 バビロニアの宝物庫から飛び出してくる聖遺物も天牛グガランナも、規模の違いこそあれど既に励起した完全聖遺物。

 歌とは違い、一定の波長のみを放ち続けるため干渉は比較的容易だった。

 

 しかし、シンフォギアシステムは起動させる波長そのものが感情によって多少変動する歌である。

 そのため、その微細な変動に対応することが出来ずに干渉が弾かれ、接続部から直接マリアのシンフォギアのエネルギーを受け止めてしまいバックファイアが発生していた。

 つまり、エルキドゥは完全聖遺物や励起していないシンフォギアになら干渉可能だが、装者が身にまとうシンフォギアに対してのみ干渉機能が使用できないということになる。

 

「まあ、バックファイアだって大したことはなくてよかった。実験に付き合ってくれてありがとう。それじゃあ、ね」

 

 笑顔を浮かべ、装者3人とナスターシャにお礼と別れを述べる。

 今回の実験で、ティーネの施設から求められた必要なデータはすべて得られた。

 これ以上突き合わせる必要はないし、これ以上会う必要もない。

 だというのに。

 

「ええー、もう帰るデスか? どうせならもっとお話とかするデス!」

 

「えっ?」

 

 切歌に引き止められる。確かに仮に会おうと思っても、めったに会えることではない。この機会に話をいっぱいしようと考えることもあるかもしれない。

 しかし、それでわざわざ引き止めるほどだろうか?

 そりゃあ、先ほどの歓談で多少なりとも仲良くなった気はするが。人の魂を表面化したのが最近なため、いまいち自信が持てない。

 これが昔色々やらかした"1度目"の自分だったら、人の魂の割合が大きかった自分ならここで引き止められる理由が解るのだろうか?

 疑問は浮かび上がるが、しかし年下の少女の誘いを無碍にするのも悪いため笑顔を向けて色んな話をする。

 

 いまどんな生活をしているのか。どのように扱われているのか。親しい人は居るのか等々……。

 他愛のない雑談だが、その雑談をしていくと、徐々に人に近づいていくようなそんな気がしてくる。

 そういえば、とふと思いだす。

 

(そうか、僕がそもそも人間性を取り戻すきっかけになったのって……)

 

 ティーネは、シャムハトとの会話を思い出す。

 人の世界の他愛のない話、王様が如何に名君なのかという話。彼女との話は内容は普通だったが、言葉を交わすだけで、彼の心は人間の魂を取り戻していった。

 彼女がいたから、会話があったから、人から転生した聖遺物は人に戻ることができたのだ。

 

 切歌たちとの会話のなかで、遠く昔のことを思い出し自然に笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「ティーネ、またね」

 

「また会うデース!」

 

「ええ、そうね。また会いましょう、ティーネ」

 

 装者3人から掛けられる、再開を希望する言葉。

 ティーネは、エルキドゥの持つ人の精神は。その言葉を受け、嬉しく思う。

 彼女たちは間違いなくいい人達だ。お世辞にもいいとは言えない環境で、それでもこうやって温かい言葉を掛けてくれる。

 

「うん、またね。……絶対に、また会おうね?」

 

 それがなんだかとても嬉しくて、ティーネはその顔に紛れも無い本心からの笑顔を浮かべた。


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