奏でられる大地讃頌(シンフォギア×fate クロスSS)   作:222+KKK

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第4話 Synchrogazer

 ティーネは、あの後もたまに(施設の人間の監視下の下ではあるが)F.I.S.の奏者たちと交流を持った。

 

 新しく出来た優しい友人との交流は、エルキドゥの表層にティーネという人の魂を徐々に定着化させていく。

 思えば真っ当に人と話すこと自体先史文明期以来であるティーネは思ったよりも会話に飢えていたようだ。

 

「ふんふん、なるほど。マリアはやっぱり優しいんだね。それってさ、調や切歌を守ってあげているんだよね?」

 

「ちょ、ちょっと! もう、いいでしょ別に!」

 

 二桁を超えたか超えないかくらいの歓談の時。ふふふ、と思わず笑い声をもらすティーネをみて、マリアは顔を赤くして憤慨してみせる。

 どう見ても恥ずかしさをごまかしているだけのその姿をみて、より笑みを深くするティーネ。

 

 ティーネは、なんとなくマリアとよく会話するようになっていた。

 もともとティーネのモデルは成人女性のシャムハトであり、彼女をより若くしたような姿である。

 そのため、切歌や調よりも見た目や背丈はマリアに近く、必然彼女と目線を合わせることが多い。

 

 また、切歌と調はお互いがとても仲がいいためよく会話をしている。

 あまり邪魔をするのも悪いと思い、ティーネはマリアを会話相手に選ぶことが多いのだ。

 

「えー、何々、なんの話デスかー」

 

「2人とも仲いいね。切ちゃん、私達ももっと頑張ろう」

 

 そこに、切歌と調が乱入してくる。自分たちの名前が出たことで気になったようだ。

 

「ちょっと、いいの! 気にしないで! というか、調は何に対抗してるのよ……」

 

 調の珍奇な台詞に対応しながら、マリアはため息を吐く。

 と、くすくす笑っていたティーネがふと真顔になり、何かを思い出したような表情をする。

 

「……あー、そういえば。ねえ、みんなは僕が誰に遭わないようにされているのか、知ってる?」

 

 僕はどうやら、誰かがいないタイミングだけこっちに来れるらしくてさ。

 そういって、ティーネは疑問を投げかける。もしかして知っていれば、ということである。

 

 実際、ティーネにフィーネのことは伝えられていない。

 不要な知識を知る必要はないというティーネの所属施設側の意向により、ろくに教えられていないのである。

 

 が、それを伝えられていないのはティーネのみである。フィーネのレセプターチルドレンであるマリアたちには、そのことは当然伝えられている。

 

「誰か、デスか……」

 

「それって……」

 

 知っている、知っているが伝えるべきか悩み口篭る切歌と調の2人。

 マリアもまた、言うべきかどうか悩んでいた。彼女たちにはどれほどその機密が重要なのかの判断がついておらず、言うことで問題が起きることを危惧していたのだ。

 が、その状況を覆したのは彼女たちではなかった。

 

「……あなたが遭わないようにされているのは、フィーネと名乗っている女性です」

 

「マム!? そのことを伝えて大丈夫なの!?」

 

「問題はないでしょう。ティーネに知られて困るような内容ではないのですから」

 

 ナスターシャの発言に、マリアが驚いた声を上げる。

 ティーネはというと、その名前を聞いてもピンと来ないのか首を傾げている。

 

(フィーネ……フィーネ……だめだ、やっぱりわからない)

 

 そもそもフィーネが生きていたのは、カストディアンがルル・アメルときっちり言語を分化するその区切りである。それ以前、カストディアンとルル・アメルがある程度接触する機会のあるような時代にいたエルキドゥは、フィーネより以前に活動していた聖遺物なのだ。聞き覚えがあるわけがない。

 

「フィーネは、終末の名を持つ先史文明期の巫女。リインカーネーションと呼ばれる特殊な技術を用いて現代に至るまで転生を繰り返す彼女は、我々に先史文明期の聖遺物に関する智慧を与えた存在です」

 

「先史文明期から? 転生って、どうやって!?」

 

 ティーネは転生という単語に対し、強い反応を見せる。

 転生と言ってティーネが想起したのは、当然ながら自分のこと。

 ある日突然死んだと思ったら泥人形(エルキドゥ)に転生した。その理由は全くわからないし、人の魂が入っていることにカストディアンが気づいたのは彼を大地に落としてからだ。

 

 それを考えれば、リインカーネーションがどういう技術なのかは知らないが、カストディアンでも再現しようと思えばできる技術のはずだ。つまり、異端技術(ブラックアート)の結晶たる彼にも実現できる可能性がある。

 その技術を理解することができれば、彼は天羽奏の蘇生という目標にグンと近付く。

 そう感じ、ティーネはいつもは見せないほどの積極性でナスターシャに詰め寄る。

 

「ねえ、ナスターシャさん。リインカーネーションって、どういう原理なのか知ってるなら聞かせてよ」

 

 にわかに雰囲気を変えたティーネに、ナスターシャは驚きを見せる。

 そもそもティーネは、あまり雰囲気を変えない人間だった。いつも透き通るような微笑を浮かべ、大抵のことに対してマイペースな反応を見せる。

 勿論、趣味嗜好が普通の人間から逸脱している部分はあまりない。マイペースではあるが、反応の方向は他の子と大して変わらないのだ。

 そういう意味では、ティーネという人間は「よく喋りいつも笑っている」という属性を除けば調が一番近いといえる。

 

 調が感情を露わにするのは、マリアやナスターシャ、そして切歌のことか、弱い立場の人が虐げられる時である。

 どちらも調にとって大切なことであり、それが傷つけられる、それを守る場合に調は強い感情を示す。

 当然だが、人は自身にとって大切なことに対して感情が表れるのだ。つまり、ティーネにとってリインカーネーションはなにか大切なことに関わっているということである。

 

「……いいでしょう。詳しい原理は私にも理解は及びません。フィーネは超常の智慧を持つ者です。私のような只人の知らぬ何かを知っているのでしょう」

 

「いいから……早く!」

 

 その上で、と前置きしようとしたところで、ティーネが更に詰め寄る。その顔には強い渇望の笑みが浮かんでおり、獣が餌を前に押し留められている姿を幻視する。

 

「ちょ、ちょっとティーネ! どうしたのよ、いつものあなたと全然違うわよ!」

 

 マリアが慌ててティーネの肩を掴み、ティーネの暴走を止めようとする。

 しかしティーネは、マリアの腕力も体重も在って無いかのように、一切障害がないかのように歩みを進めていく。

 それに驚いた調と切歌も慌てて加勢するが状況は変わらず、ティーネはナスターシャへと近付く。

 

「ねえ、教えてよナスターシャ(・・・・・・)。僕は、それが、知りたいんだ!」

 

 ついにはナスターシャと額が触れ合いそうな距離にまで詰め寄るティーネ。

 ナスターシャは多少目を見開いたが、直に目を閉じ、口を開く。

 

「落ち着きなさい、ティーネ。それに3人も。私がどこまで知っているかの前提を知らずに聞いて落胆されても困るから、前提を説明したまでのこと。そう慌てる必要は無いでしょう」

 

「……、そうだね。ごめんなさい、ナスターシャさん。それに皆も……」

 

 冷静な表情で諭るナスターシャに、同じように冷静になるティーネ。

 そもそも今知ったところで、此処を破壊して脱走する訳にはいかないのだ。そんなことをすれば、せっかく友になった3人やナスターシャに多大な迷惑を掛けてしまう。それはあまりに非効率だ、とどこか冷静な器物であるエルキドゥが告げる。

 ティーネが落ち着いたところで、ようやくマリア達は手を離す。ティーネの細い体の何処にこれだけのパワーがあるのか、マリアは怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「リインカーネーションとは、フィーネが魂を輪廻させるために編み出した技術です。フィーネは何らかの目的をもって、自身の血族の遺伝子構造に刻印を残しています。その目的が果たされるまで、フィーネは死しても刻印を持つものに魂を転生させると聞いています。ここにいるマリア達レセプターチルドレンは、フィーネの刻印があるとされているもの。彼女たちは、フィーネの転生のための器として集められているのです」

 

 その言葉に、思わずティーネは3人を見る。マリア、調、切歌の誰の顔を見ても、それをあまり良いとは思っていない、むしろ怯えているかのような表情を浮かべる。

 

「……そして、フィーネが転生する条件は、刻印を持つものがフォニックゲインに触れる時となります。それまでは、普通の人間としての生を送っていた魂も、フィーネによって塗りつぶされるのです」

 

 そう冷静に言うナスターシャの顔には、言葉とは裏腹に苦渋の表情が浮かんでいる。

 人間らしいナスターシャもまた、今生きている人間をほぼ殺すと言えるリインカーネーションに好感情を抱いていないらしい。

 

「その、魂の刻印の仕方とかってあるのかな?」

 

「そこまでは解りません。そもそもフィーネがそれを実行したのは数千年前です。遺伝子の伝播を考えれば、現存人類の大半が見えないだけで刻印を持っている可能性すらあります。今更改めて刻印することはないでしょう」

 

 ティーネの質問を切って捨てるナスターシャ。

 今までの質問やティーネの来歴、異様な食付きから、ふとナスターシャはティーネが何に拘っているのかを思いつく。

 

「もしかして、あなたは死者を蘇らせたいとでも考えているのですか?」

 

 ティーネは、その来歴でバルベルデの内戦で家族や、そこで出来たという友人を失っていることが語られている。もしかしたら、彼女は彼らを蘇生させたいと考えているのかもしれないとナスターシャは推測した。

 

「…………」

 

 ナスターシャの質問に、ティーネは無言で答える。

 実際のところナスターシャが考えている死者蘇生の理由はティーネのそれとだいぶ違う。しかし、死者蘇生を願っていることは事実なのでティーネは何も答えない。

 

「……どうであれ、あなたがその手段を知ろうと思ったなら、フィーネと問答を重ねるしかありません。遭遇できる時間には来れないのですから、諦めたほうが懸命ですよ」

 

 ティーネに現実を告げるナスターシャ。痛いところを突かれ、ティーネは押し黙る。

 これもまたナスターシャの知らないところだが、ティーネは完全聖遺物そのもの。接触せず、かつアウフヴァッヘン波形を抑えている現在ならともかく、さすがに彼女と接触するのはまずい。

 

 ティーネの生きていた時代において、ルル・アメルでありながら超絶的な強さを持つ存在は幾らでもいたのである。

 今で言う英雄が、先史時代には世界を見渡せば跳梁跋扈していたと言っても過言ではない。

 フィーネはその時代に巫女をしていたという。どのような目的で現代まで転生を続けるのかは知らないが、智慧や転生以外にも何らかの手段で自身と戦闘できる能力があるかも知れない。

 相手が戦闘系の存在なら、ティーネはそこまで警戒はしない。戦闘において自分に勝てるのは結局、同格の友くらいだろうと純粋に信じているからである。

 しかし、エルキドゥは聖遺物である。フィーネのような聖遺物の知識豊富な相手と戦闘してどうなるかはわからない。

 警戒はするに越したことはない、そう結論付けたティーネはナスターシャにいつもの微笑みを見せる。

 

「……わかった。ありがとう、ナスターシャさん」

 

 とにかく、魂を人に刻むことは可能であるということがわかっただけでも収穫だ。

 あとはどうにかしてそれの技術を得られれば、完全な天羽奏の肉体に天羽奏の魂を刻むことで復活を望めるだろう。

 とりあえずの展望が開けたところで、ティーネはひとまず満足する。

 

 と、そこでナスターシャの端末が音を奏でる。

 まだコミュニケーションタイムの終了時間ではない。怪訝に思いながらも、ナスターシャが端末のスイッチを押し会話を始める。

 

「いったいどうしたのですか……!? なんですって……? 分かりました、こちらでも確認します」

 

 ナスターシャが端末の電源を切ると、脇目もふらずに部屋を後にする。

 さすがに立会人がいない場所に集まっていると拙いため、4人は慌ててナスターシャの後を追う。

 いつも集まる実験室から、それを監視するモニタールームへと集まる4人。

 

 先に到着していたナスターシャがモニターの電源を入れたのか、大きなモニターには映像が映し出されている。

 普段は全員のギアの様子や適合系数などを見るためのモニターは、今は全く別の場所を映し出していた。

 そこには荒れ果てた山に、破壊された巨大な構造物。

 真上から撮影したかのようなそれは、どうやら高倍率の衛星カメラから撮影しているようだ。

 そして、そこには幾人かの人影が見える。遠距離からだとわかりづらいが、黄金の鎧をまとう女性と、横たわる制服を着た少女。

 構造物の破壊された頂部に倒れる少女は、死んでいてもおかしくないほどの怪我を負っている。

 

『耳障りな……。何が聞こえている……?』

 

 そこに、質の悪いマイク音声が響く。遠くの集音マイクを使用しているのか雑音が多く、彼女たちの動作からワンテンポ以上遅れて届く。

 

『何だ、これは? どこから聞こえてくる……この不快な、歌……! 歌、だと?』

 

 その声を聞いて、ティーネ以外の全員が驚いた顔を浮かべる。

何度も聞いたこの声は、ヒビ割れた音声でも間違いなく特定できる。

 

「フィーネ……?」

 

 誰が呟いたかその言葉に、ティーネは画面を見直す。

 黄金の鎧を纏った女性が、先ほど話題に出ていたフィーネらしい。

 

『……聞こえる、皆の声が……。……よかった、私を支えてくれている皆は、いつだって側に……』

 

 フィーネとは別の声。この声質からすると、どうやら下に倒れている少女のものらしい。

 

『皆が歌ってるんだ……だから……』

 

 か細い声に、炎のような熱さが響く。

 

『まだ歌える……』

 

『頑張れる……!』

 

『戦えるッ!!!』

 

 モニターの中央に光が灯る。少女の肉体は光の環によって囲まれ、まるで倒れていた事実がなかったかのように立ち上がる。

 雑音だらけのマイクのはずなのに、彼女たちの声ははっきりと響く。

 

『まだ戦えるだと……? 何を支えに立ち上がる? 何を握って力と変える? 鳴り渡る不快な歌の仕業か?』

 

『そうだ……お前が纏っているものは何だ? 心は確かに折り砕いたはず……』

 

『なのに、何を纏っているッ!? それは私が作ったモノか? お前がまとうそれは一体何だッ!? ──何なのだッ!?』

 

 刹那、モニターに閃光が走る。三本の光の柱が衛星にまで届き、一瞬でそのレンズを光で焼く。

 何も見えないモニターの中で、それでも声が、太陽の昇る空に響き渡る。

 

『シ・ン・フォ・ギィィッ――ヴウゥワアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!』

 

 その咆哮のような声を最後に、マイクから音声が切断される。

 エネルギーの奔流に、小さな集音マイクはとても耐え切ることは出来なかったようだ。

 

 今の映像は、F.I.S.に所属している彼女たちを沈黙させるのに十分だった。

 同じシンフォギアを纏っているとは思えないほどに、心に、光にあふれていた彼女たちを見てしまえばそうなるのも無理はなかった。

 

 しかし1人だけ、ティーネはその声に憧憬を抱く。

 あの姿は、彼女が望む「天羽奏」と同類だ。間違いなく、どうしようもなく魂を揺さぶる唄の音を奏でた彼女と同じ。

 あんな唄を歌いたい、あの歌をずっと聞いていたい。人の心を失ったはずのティーネの願いに、僅かに胸のシンフォギアが輝いた。

 

 

 

 

 

 ライブ会場の惨劇から2年、世界を揺るがす大災害「ルナアタック」は未然に防がれる。

 表に出てこない世界では「ルナアタック」を狙った今代の巫女フィーネの消滅と、それを成し遂げた英雄たる装者達の名が知られるようになった。

 

 そして、そこから発生する新たなる災厄。ティーネやマリア達にも、選択の時が迫っていった。

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